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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
14/22

正体

 灰と化して短くなった煙草を地面に捨てた。

 俺は今、二葉家の庭で明智と二人で慶二郎の飲んでいた天然水の入ったペットボトルにどうやって毒を混入させたのか話し合っている最中だ。

「警部。煙草のポイ捨てはやめてください」

「おお、ちょっとした癖でな」

「どうやったら、開栓していないペットボトルに毒を混入させることが出来るのでしょう」

「ペットボトルをすり抜ける毒でもあったんだよ」

「真面目にお願いします」

「真面目に? 俺が一番苦手とすることだぜ」

「何かアイディアはないんですか?」

「俺はお前の助手じゃねぇぞ。そんなすぐに推理出来るわけが......推理出来た!」

 明智は心底驚いた顔をしていた。

「何が推理出来たんですか?」

「ほら、何かさ、ペットボトルのキャップに粉末が入ってて、振ることによって粉末が水と混ざるって商品がなかったっけ?」

「ありますよ」

「そんなペットボトルだったら、開栓しなくても毒が混入可能なんじゃないか?」

「あのペットボトルは、そういう構造ではなかったです。それに、根本的な解決じゃないですよ、それ」

「そうだよな~」

「これだから、警部には推理が出来るはずがないんです」

「推理が不向きなのは事実だけど、はっきり言われると刺さる......。あ、慶二郎がペットボトルの開栓を誰かに頼んだとかは考えられないか?」

「慶二郎さんはそれなりに力があります。どこまでご都合主義な推理なんですか」

「つっても難しいよ」

 早い段階で推理に限界を感じた俺は、脱落した。椅子に座って悠々とお茶をすすったりしていた。その間にも、明智は推理をしていたようだが無駄だ。ペットボトルをすり抜ける毒なんて存在しない。いくら科学技術が進歩しても、すり抜けられるなら世の中の変態親父共は大喜びだぞ。

「なかなか理詰めで浮かび上がってきません」

「だろうな。いくら考えても無駄だ、無駄」

「どうします? これから」

「どうするったって、もう残された道はたった一つしかないはずだぜ」

「怪老人ですか?」

「怪老人なら、犯人を知っているはずだ。お前が推理した、怪老人の正体が正しければの話しだが」

「私は推理ミスはしないように心がけています」

「そいつは良かったな。車に乗れ。行くぞ、怪老人の元へ」

 新たな手掛かりは発見出来ず、今ある手掛かりからも犯人を推理することは不可能だった。ということで、最後の希望である怪老人に会いに行くことになった。

「それにしても、まさか怪老人が夢野だとはな」

「ええ、怪老人が夢野さんで、まず間違いはありません」

 夢野八策。二葉家の塀を壊した野郎だ。取り調べを受けた恨み、とかの動機で怪老人をやったのだろうか。

 ともかく、夢野の家の近くに車を停車させてから、軽薄(けいはく)な笑みを浮かべてその表情を持続させた。こういう顔は気味悪がられるから、舐められなくてすむ。

「警部、気味が悪いです。バカに見えるのでやめてください」

 いや、舐められることもあるらしい。表情を元に戻した。

「行こう、夢野八策の家に!」

「インターホンは私が押してもいいですか?」

「いいぞ。じゃんじゃん押してくれ」

「はい」

 それは、文字通りだった。じゃんじゃん、つまり何度もインターホンをプッシュし続けた。扉が開き、夢野は俺の姿を見ると身を引っ込めて鍵を掛けた。

「以前取り調べた時に、夢野さんに何かしました?」

「なっ! 俺が悪いことをした前提にするな。やましいことをしたから身を引っ込めたんだ」

 明智は俺と似たようなやり方をした。大声で、夢野の名前とかなんとかを言った。前回同様、夢野は家から出てきた。

「よお、また会ったな夢野」

「荒業の刑事さんですか」

「おい、お前が老人に化けていたんだな?」

「まあ、そうです」

「かなり二葉家の造りを熟知した上での犯行だったよな?」

「はい」

「誰と繫がっている?」

「さあ、わかりません」

「誰と仲間だ?」

「わからないんです」

 俺は夢野の服を(つか)んだ。「舐めてんじゃねえぞ。言えと言われたら、言うんだ。包み隠さず、全てを吐き出せ」

「それ、脅迫なんじゃ」

「知ったことか。お前が犯罪者には変わりない」

「本当に誰かわからないんです!」

「どういうことだ?」

 俺が掴んでいた手を離すと、夢野は服の皺の部分をはたいてから話し始めた。「塀を壊した日の夜に、白髪のカツラとか付け髭が届きました。それに同封して、こういう手紙が入っていたんです」

 夢野が懐から取り出した手紙を受け取ると、開いてみた。

「『同封した変装セットで老人になりすまし、夜間に二葉家に侵入して捕まえられて取り調べされた恨みを晴らそうじゃないか。また、同封した袋に入れてある紙切れを二葉家の中で落としてくれ。くれぐれも、指紋は付けないでくれ。

 二葉家の正確な見取り図も入っている。(はげ)みたまえ。』

 これが手紙か」

「はい。同封された紙切れに『一郎太は死んだ』と書かれていました。私は、恨みを晴らすためだけで、ほとんど何も知らないんです」

 手紙はワープロ文字だから、筆跡は調べられない。付着した指紋も調べてはみるが、期待はしないほうがいい。

「よくわかりました。一応話しを聞くので、署まで行ってください。すぐに部下がここに来るので、そいつの車の後部座席に乗ればいいです」

 俺は手紙の他、二葉家の見取り図と変装するための道具一式を回収した。

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