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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
13/22

殺人の正しい順番

 明智は第二の殺人事件の現場を、舐めるように見た。俺も現場を見たが、現場から手掛かりを見つけ出すのは鑑識課の奴らであって俺ではない。

「神田警部」

「ん?」

「わかってきましたよ。この殺人事件の全貌(ぜんぼう)が」

「マジ!?」

「はい」

 二つの殺人事件のトリックが見破れた、ということだろうか。

「何がわかったんだよ」

「この事件は複雑に入り組んでいますが、たった今本筋がわかりました。巨匠の言葉を借りるなら、綛糸(かせいと)を解きほぐして無色の中から殺人という緋色の糸を一筋発見したというわけですよ」

「全然わからないんだが?」

「簡単に言うと、この二件の殺人事件の──」

 15の夜が鳴り響いた。俺はスマートフォンの画面を確認し、部下からだとわかってから電話に応じた。

「何だ?」

「け、警部! わかりました!」

「何がだよ?」

「怪老人の落とした紙切れに付着していた指紋の持ち主です!」

「本当か!」

「はい。アミノ酸の量から男だとわかってから、照合していったようです」

 よくやった、鑑識。

「指紋の持ち主は誰だ?」

「二葉村在住の東郷(とうごう)烏丸(からすまる)

「二葉村にいるのか?」

「二葉村と言っても、もっと山奥の方です」

「そいつが真犯人か」

「かもしれないです」

 部下に車を準備させて、その車で東郷とやらの元へ向かった。明智と二人で行ったのだが、明智はずっと上の空だった。助手席の窓の外にある空を、脱力したように眺めていた。

「疲れたのか?」

「考えごとをしていただけです。東郷さん、という人が犯人なわけがないと思うのです」

「行ってみなきゃわからないだろ」

「まあ、そうなのですが」

 明智は文句を並べながらも、仕方なく着いてきた感じだった。俺も言われてみれば、犯人としてはあり得ないのではないのかと考え始めていた。

 二葉村の山には木が()(しげ)っていて、道はあまり舗装(ほそう)されてなかったから車がガタゴト揺れた。

 小さな山の頂上付近に、木造建築の年季の入った家が建てられていた。話しによると、東郷というのは白髪で毛むくじゃらの老人らしい。顎髭はふくらんでいて、風呂には入らないから髪が固くなっているそうだ。まさに『仙人(せんにん)』という見た目をしている。

 仙人の家に近づいてきたから、ここら辺で車を降りた。

「私も歩かないといけませんか?」

「東郷が待ってんだろ」

「東郷さんに、行くって伝えているんですか?」

「伝えてはない」

「なら、待ってませんよ」

「指紋が二葉家で付着していた理由を尋ねないことには、何も始まらないぞ」

「ですから、犯人は──」

 明智の表情は(けわ)しくなった。俺も顔を強張(こわば)らせた。仙人の住んでいる家から、死臭がしてきた。

「死体の臭いだ」

「警部、心してください」

「わかってる」

 刑事をやっていたら、ある程度は死体には見慣れてくる。けど、死臭だけは慣れる気がしない。強烈な汚臭だ。

 明智は率先して、家に押し入った。俺も明智の後を追って、鼻を()まみながら家の中に入った。予想通り内観も汚く、家の中央には遺体が置かれていた。

「警部。殺人ですよ、これは。しかも腐敗からして今日殺された遺体ではないですね」

「じゃあ、三件の連続殺人事件だったってことか」

「そういうことです。しかも、東郷さんが殺された理由は」明智は遺体の手の先を指差した。「これです」

 仙人の右手は、切断されていた。切断された右手を使って、犯人は指紋を残していたのだ。

「随分(むご)いな」

「これはさすがに......やり過ぎです」

「鑑識を呼ぶ。待ってろ」

 道が舗装されておらず、幅も狭かったからそれなりの人数が集まるのにかなり時間を要していた。鑑識の調べによると、仙人は一郎太が殺される以前にはすでに亡くなっていたことがわかった。つまり、この仙人こと東郷が第一の被害者であった。

 他に東郷の遺体からわかったのは、一度地中に埋められていたのに掘り起こされて、東郷の住んでいた家に遺体が戻されたことだ。犯人はなぜこんなことをしたのか。鑑識の見解によると、右手を切断するため、だそうだ。しかし、遺体は袋に入れてから地中に埋められたため、埋められる時に右手が切断されていたかどうかはわからなかった。もし袋に包まれて埋められてなかったら、土に含まれるバクテリアとかで判断出来るとのこと。意味がわからない。語感が似ているインテリアなら、ギリギリ理解出来る。

 明智が次に取りかかったのは、第二の殺人事件(正確には第三の殺人事件)で殺された慶二郎が飲んでいたペットボトルにどうやって毒を混入させたかである。

「ペットボトルが開栓していないのに、毒を混入させるなんて無理だろ」

「私も無理だとは思いますが、この世界は別にファンタジーではないんです。論理的に説明は出来るのですよ」

「論理的に、ね。難しいもんは難しい。そもそも、一郎太の体内に入った毒の混入ルートもわかってないのに、それを飛ばして良いのか?」

「警部はテストの問題を作るときはどうしますか?」

「テスト? そうだな......嫌がらせで全問難しくする」

「そういうことではないです。難易度の低い問題と難易度の高い問題をどのように配置しますか?」

「最初は簡単な問題にして、最後の方に難しい問題にする」

「それです。ペットボトルに毒を混入させる方法を解く方が、はるかに楽なんです」

「そういうことか」

 俺は納得して、煙草を一本口にくわえて着火した。

 明智の言うところの''巨匠''はシャーロック・ホームズ。明智が言っていたのは、ホームズが『緋色の研究』で言っていた名言のことです。

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