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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
11/22

悪夢、再び

 爆竹の勢いが弱まった時には怪老人は煙のように姿を消していた。

「神田警部、やられましたね」

「明智、これでわかった。真犯人は容疑者の誰かだ」

「ええ。私も粗方見当が付きました」

「何の見当だ? まさか真犯人か!?」

「怪老人の正体です」

「本当か! 誰なんだ?」

 明智から推理を聞かされて、俺は納得した。

 すぐにでも怪老人を捕まえに行きたかったが、そういうわけにもいかない。なぜかと言うと、爆竹を片付けたりしなくてはいけないからだ。手分けしてやっても数時間は掛かった。そうしたらまた日をまたいだので、朝までは持ち越しとなってしまった。

 その日もまた、寝るに寝れなかった。怪老人の正体を知ったことで、無駄な邪推ばかりしてしまうのだ。

 明智はまだ真犯人の目星は付いていないと言っていた。手掛かりが少なすぎる。それに、まだ害者への毒の混入経路もわかっていない。そもそも、この殺人事件の肝は毒の混入経路なのだ。そこがわかればいいんだが、邸宅の隅から隅まで探しても毒の反応はない。鑑識では今でも引き続いて、毒を検出するために二葉家中を犬のように嗅ぎ回っていた。

 今怪しいと思う人物は冬真、坂上、怪老人の三人くらいだろうか。ただ、個人的には冬真が一番怪しい。ベットに潜り込みながら、考えを巡らせた。けど、俺の小さい脳で考えられるのは誰が怪しいかって程度だ。結論を出すには至らない。高校に補欠入学だった俺の限界ということだ。と、ここまで考えていた時、扉がノックされた。

「神田警部! 明智です」

「どうした、明智」

「殺人事件について、話しませんか?」

「入れ」

 明智が部屋に入ってきたから、俺はベットから起き上がった。「犯人でもわかったか?」

「違います。再度犯人が誰なのか、話しましょう」

「犯人が誰かって? 冬真とか怪しいし、坂上は動機もある」

「それについて、警部は途中で取り調べをやめましたよね?」

「部下に任せた」

「次郎太さん、三郎太さん、四迷さん、五太郎さん、三上さん、他使用人達は取り調べで一郎太さんを殺す動機があったとわかった人はいますか?」

「取り調べの結果は部下から聞いてメモってたんだ」俺は手帳を取り出して、パラパラとめくった。「四迷、五太郎には動機があった。と言っても、事件前日にマナーで喧嘩をした程度だった」

「四迷さんと五太郎さんは中学生なので、殺人をする度胸はないとは思うんですがね......」

「わからないぞ。推理小説なら、そういう奴ほど犯人として適任だからな」

「私達が生きている世界は推理小説ではなく現実です。だから私は推理小説やミステリードラマが嫌いなんです」

「何で?」

「推理小説では、怪しくない人ほど犯人の可能性が高いものですから。ドラマに関しては論外ですよ。配役から犯人を推理出来てしまうからです」

「言えてるな」

「だから私は、実際に起こった事件が好物なんですよ。配役や推理小説だから、という理由が意味を持ちませんのでね」

「その方が犯人を捕まえるためには苦労するけどな」

「苦労して事件を解決した方が気持ちが良いです」

「そうか? 最近は刑事に飽き飽きしてきた。ノンキャリアでここまで登り詰めたのなら上等ってもんだ」

「神田警部が刑事を辞めてしまったら、私が難事件に関わることが出来なくなるじゃないですか」

「知ったことか。そろそろ退職でも──」

「もし刑事を辞めるなら、今まで私が解いてきた事件分を返却してもらわないといけませんよ?」

 確か、明智には百近い難事件を解いてもらってきた。返却するのは大変だな。

「わかった。刑事はまだ続けるから......」

「それよりも私は、第二の殺人事件を疑っているのです」

「は? どーゆーこと?」

「犯人はまた、人を殺すかもしれないとは思いませんか? もし思わないなら、刑事としては失格じゃないですか?」

「何で二人目を殺す必要があるんだよ?」

「何となくです。探偵の勘という奴でしょう」

「あれ? 明智の第六感って優れてるっけ? いつも的外れな第六感だった気がする」

「今回の第六感は、正確に(まと)()ると思いますよ」

「もし明智の第六感が的を射ても、褒められないな。第二の殺人が起きないことを願う。......なんなら、第二の殺人を食い止めてみるか?」

「どうやるのですか?」

「警備の強化しかないだろ」

 こんなくだらない会話の中であった第二の殺人の話しは、当たっていた。俺達は翌日に驚愕した。田沼慶二郎が、第二の殺人事件の被害者となってしまった。

 そんなことはつゆ知らず、俺と明智は恐怖を紛らわすために話し合い続けた。朝まで話して(のど)がカラカラに(かわ)くと、二人は水を欲して一階にある洗面所を目指して歩き始めた。

 四階の一室で会話をしていたから、当然まずは階段まで行かなくてはいけない。その階段を下っていって、三階で物音がしていた。耳を澄ませば、どの部屋からの物音かはわかる。

 俺は声を潜めた。「なあ、明智」

「何です?」

「あの部屋、怪しくないか?」

「物音がしていた部屋のことですか?」

「そう」

「覗くだけ覗きますか?」

「そうしよう」

 三階の物音がしたと思われる部屋の前に立った。ノックをしても返事がないのでノブを動かそうとしたが、鍵が掛けられている。返事の無さに悪寒(おかん)がして、無理矢理扉を蹴破った。

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