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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
10/22

悪戯

 取り調べは、部下に丸投げした。というのも、坂上の表情の変化が大きすぎた。これは怪しいから、坂上が一郎太を殺したかどうか調べる。動機は、一郎太の不倫が考えられる。そのため、一郎太が『非通知』の名前で登録していた電話番号から割り出した人物の元を訪ねに行くために車に乗った。俺は運転席、明智は助手席だ。

「取り調べを部下の人に任せて良いんですか?」

「あの部下は信用出来るんだ。あとで取り調べ内容を聞けばいいだけだ」

「これから向かうのは一郎太さんの不倫相手の家ですよね?」

「そうだ」

「名前は何ですか?」

検見川(けみがわ)京香(きょうか)という名前だ。二葉村とはちょっと離れてる」

「その検見川さんは、自分が不倫相手だって知っていたのでしょうか?」

「知っていたらしい」

「不倫だとわかっていたんですか!?」

「そうなんだ」

「酷いですよ」

 法定速度超過で検見川の家に早く着いた。マンションの208号室だから......あの部屋か。部屋番号を機械に入力して、ボタンを押した。

「はい。どちら様ですか?」

「県警一課の神田と申します」

「警察? 何か用ですか?」

「一郎太さんが殺害されたのですが、その件で来ました」

「一郎太さんが!? な、中にどうぞ」

 自動ドアが開き、208号室まで一直線で向かった。玄関扉は開いていて、検見川が立っていた。中に入り、靴を脱いで上がった。

「一郎太さんが殺害された、とはどういうことですか?」

「犯人はまだ捜査中ですが、毒を盛られたんです」

 すると、検見川は爪を噛んだ。「絶対にあいつよ。あいつが殺したんだわ」

「あいつ、とは誰のことですか?」

「坂上よ」

「坂上美海さんですね?」

「はい」

「坂上さんが殺した、という根拠はありますか?」

「あの人、私達が不倫していることを知っているような感じだと以前一郎太さんが言ってたの」

「そうでしたか」

「何? あなたたちも坂上を疑っているの?」

「はい。物理的にも彼女は殺害可能なんですよ」

「絶対に坂上よ」

 検見川は、坂上が犯人だ、と連呼した。でも、毒を簡単に入手出来るだろうか。

 あ、次郎太の飼っているクールって蛇は毒を持ってなかったぞ。

「捜査の参考にします。ありがとうございました」

 家を出て車に乗った明智は、眉間に(しわ)を寄せていた。

「どうした? そんな怖い顔をして」

「犯人を推理しているのですが、うまく推理が進まないんです。いろいろな人が怪しくて」

「皆が皆、怪しいから難事件なんだよ。また事件を解決して、俺を昇進させてくれよ」

「私は神田警部のために事件を解決したいわけではないのですが?」

「結局は俺が昇進するような仕組みになっている」

「まあ、そうですね」

 俺も、全員が怪しすぎて推理のしようがなかった。どこからどうやって推理すればいいのか、さっぱりわからない。怪老人の正体も未だ不明だし、難しいやら何やら......。

「なあ、明智」

「何ですか?」

「怪老人を捕まえるってのはどうだ?」

「怪老人を捕まえると言っても、方法は何ですか?」

「警察力を駆使して、多数の刑事を各部屋に忍ばせておくんだ。まんまと怪老人が来たなら、そこで一斉に取り押さえる」

「良いですね。老人を捕まえることさえ叶えば、犯人の手掛かりにはなるはずです」

「怪老人は、今日の夜にでもまた現れる可能性があるだろ?」

「そうですね。確率はかなり高いでしょう」

「そこを一気に叩こう」

 唯一有力な手掛かりになり得る怪老人を捕まえる計画は、着々と進んだ。今回の殺人事件を担当していた刑事には収まらず、殺人事件を担当していなかった刑事までもが総動員されて怪老人を捕らえるために殺気立った。

 俺は四階の隅の部屋に配置され、明智とともに怪老人を待った。太陽は沈み、世界は黒一色と化した。

 怪老人を捕まえれば、たとえ怪老人自体が犯人でなくても犯人と接点は必ずあるはずだ。身軽だったあの老人も、この人数の刑事からは逃げ切ることは容易ではない。これならば、もう怪老人は捕まえたようなものだと過信した瞬間だった。

 隠れていた部屋の扉の前で足音がしたので、怪老人だろうと思って姿勢を整えた。明智は呼吸を荒くした。そして、扉をそろそろ開ける頃だと考えていたら、廊下の方で何かが落ちた音が耳に入った。落ちた音がしたのは、一回や二回じゃなかった。二十個ほどの何かが落ちてきたような音だった。

 急いで扉を開けると、怪老人の人形が廊下に何個も落とされていた。

「やられた! イタズラだ!」

 俺が大声で刑事の皆に伝えると、爆竹が降ってきた。天井に目を向けたら、怪老人が天井に付いた縄にぶら下がっていた。はめられた! ただのイタズラでしかなかったんだ! こっちの情報が筒抜けじゃないか。

 怪老人を捕らえようにも、爆竹に(はば)まれて無理だった。部屋から出てきた刑事も爆竹を食らった。その間に、逃走を俺達は許してしまった。完全なる警察の敗北だ。

 それに、警察の行動もバレバレだった。怪老人は真犯人とやりとりをしているというわけだ。もしくは、真犯人が怪老人の役も(にな)っていたとか。

 ともかく真犯人は、容疑者の中に必ずいる。

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