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過去と現在 ~2~

いささかモチベーションが下がり気味で投稿がはかどりませんです。ちこちこ書いた端から上げていきます。


「トオル、髪がのびたな」


 畑作業をしている彼を眺めながら、千早は呟いた。


 あれから一年。トオルの髪は肩より長くなり、首の後ろあたりで一つ結わきにされている。


「ああ。ここでは誰も奇異の眼で見ないからな。伸ばしても良いかなと」


 薄く笑むトオルの髪は、毛先に行くほど色が抜け、白くなっていく。色素欠乏症だ。

 陽に当たったりとかの外的要因で幾らかの色がでるが、生まれたばかりの頃は新人類らと変わらぬ白さだったらしい。

 それが原因かは分からないが、トオルの両親らは仲が悪く、トオルは両親に抱かれた記憶すら無いと言う。

 顔を合わせた事も殆どなく、トオルが研究で糧を得るようになってからは、全く音信不通な状態だったとか。


「俺の一番最初の記憶は、母親に化け物と呼ばれた事だからなぁ。まあ、こんな欠陥品が生まれたら仕方ないんだろうが」

「欠陥品なんて言うな。私達までそうなるだろうが」


 トオルの後ろ頭をペチペチ叩きながら、千早は苦笑する。


 自分達新人類は、旧人類らに歓呼で迎えられた。

 誰もが惜しみ無い愛情を注いでくれ、奇異の眼など向けられた事はなかった。

 時代が違うと言えばそれまでだが、小さな子供が親に見捨てられ化け物扱いされるなど、いかばかりの悲しさだっただろう。

 叩かれて嬉しそうなトオルを後ろから抱きしめ、千早は切な気に眼を伏せた。


 軽く雑談してから執務に戻る千早を見送り、トオルはガイアから許可を貰って、悌の間に向かう。

 旧人類の卵子が尽きてからお役御免になった悌の間は閑散とし、誰の訪れもない。

 そこの人工子宮と培養シリンダーに、トオルはあらゆる方法で新人類達の卵子を使い受精を試みていた。


 今のところ全敗。


 千早の言ったとおり、見事なまでに新人類らの卵子と精子は無関心。御互いに培養液の中で、そこに居るだけと言う有り様だ。

 これも肉体的支配を脱した精神的支配な人種の弊害なのだろうか。

 トオルは自然な受精を諦め、今は組織的にカットした細胞同士の結合に取り組んでいた。

 何とかして新人類達に希望の芽を与えたい。欠片の期待でも良いから結果を出したい。

 この一年で、彼は旧人類らの残した技術の殆どを身に付けていた。元々が研究職だ。基本的な知識や技術は同じなので、とっかかりは楽なモノ。

 トオルは、あれよあれよと言う間に、エデンのシステムを手中におさめていった。

 

 懸命に努力する彼の脳裏に浮かぶのはただ一人。


 新人類達のためと言いながら、実のところ彼の努力は千早だけのためである。

 ヨーグルトの一件から、彼の頭の中には彼女しかいない。

 

 手詰まりでのたうつトオルに、ガイアが書庫を薦めてきた。

 大戦前の書物が詰まっており、データベースに入力されている以外の知識も有るかもしれないと。


 なるほど、有り得る。


 ガイアに言われるまま、トオルはシェルター内の書庫へと向かった。


「時代が変わってもこういう場所は変わらないな」


 巨大な空間を埋め尽くす書籍の山。他の新人類らも時々訪れるらしく、中は業務用アンドロイドが綺麗に設えている。

 書庫独特の埃っぽい匂いに懐かしさを覚えながら、トオルは現代科学の欄を総当たりで読み始めた。


 長い年月にもロボットやアンドロイド達が補修や修繕してきたのだろう。どの本も手入れが行き届き、読むのに不自由のない状態だった。


 一通り眼を通して、トオルは両手を上げながら伸びをする。


「やっぱ簡単には見つからないか」


 半日かけたが棚の半分も読めてない。ズラリと並んだ書棚に、思わず意識が遠退くトオルだった。


 うん。時間はあるし、ゆっくりやろう。


 軽くすがめた彼の眼が、いきなり陽炎のように揺らいだ。


 驚き瞬いた瞬間、それは霞のように消えている。


 今のはいったい? ゆらゆらと.... まるで炎のような?


 訳の分からない幻覚に、トオルの背筋に冷たいモノが走った。疲れてるのかもしれないな。と、彼は癒されるべく、愛しい恋人の元へ急いで帰っていった。

 

 しかし、それからも度々、炎の幻覚にが現れる。ついには煙の幻臭や阿鼻叫喚な叫びや呻き声の幻聴までオプションについてきた。

 

 いらんサービスだ。本当にどうなっちまったんだ? 俺は。


 誰に相談する事も出来ず、トオルは自分で開墾した畑の横に大の字に寝転がっている。

 畑では若手の新人類らが農作業を手伝ってくれていた。

 それを眺めながら、ぼうっとするトオルの視界に、再び炎の幻が現れる。


「うわっ!!」


 脊髄反射のごとくトオルは全身で飛び起きた。跳ねるかのように飛び起きた彼に、新人類らが不思議そうに見つめる。


「どうしたんですか? トオル」


 揺らめく業火の中に新人類達は平然と佇んでいた。やはり、これは幻覚だ。しかも自分にしか見えていない。

 まるで空襲にでもあったかのような風景。なんだってこんな見た事もない光景が自分にだけ見えているのか。

 

 ....書庫だ。あそこに行くようになってからだ。


 トオルは勢い良く書庫へ走り出した。





「そういう事か」


 書庫の最奥でトオルは答えを見つけた。


 予想外.... いや、よくよく考えれば、当たり前な事だった。


 あんな試作品の冷凍睡眠カプセルが千年近い時間を越えられる訳がなかったのだ。自分は現実ではない時を飛んだ。

 だから.... 時のアナグラムはそれを正そうと働く。


 俯く彼の手には一冊の週刊誌。わずかに残された大戦前の雑誌。ガイアが本当に見せたかったのは、これなのだろう。


 トオルは仄かな狂気の光を眼窟に灯し、静かな足取りでエデンに向かった。


トオルは真実を知ります。過去から現在を知り、未来に踏み出します。時の環は完成するのか。鶏達は卵を守れるのか。次回、最終回です。

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