プロローグ
「おい!出たぞ、アイツがでた!」
「っ魔道具は大丈夫なのか!?」
「やられた!くそっ!」
「追え、ヤツを絶対に逃がすな!」
バタバタと騒がしい足音が遠くに行ったの見計らって、一つの人影が薄暗い廊下を走る。そのまま右に曲がり、とある一室に入った。物置に使われていたのであろうこの部屋は、あまりかたずけられておらず、かなりほこりをかぶっていた。
「あとは…」
人影がそう呟いたところで、突然背後のドアが勢いよく開かれ、一人の男を先頭に大勢の騎士たちが入ってきた。
「そこまでだ!怪盗!」
ぱっと人影の周りに明かりがつき、そこには一人の仮面をした男が立っていた。
「さあ、お前が持っているその魔道具を返してもらおうか」
先頭の男がそう言うと、後ろの騎士たちがいっせいに魔法陣を展開し始める。
「……あいかわらず、無駄にチームワークのいい隊ですね、アルス隊長。」
「お前にそう言ってもらえるとは光栄だね、大怪盗。お前とはいろいろ話したいことがあるから、大人しく捕まってくれないかな」
「俺としては、なにも話すことはないから、遠慮したいところですね」
「それは残念だ……やれ!」
アルスがそういったとたん、魔法陣から次々とツタが飛び出し、仮面をつけた男、怪盗に向かって迫る。
その様子を眺めていた怪盗は、唯一見えているその口元を僅かにゆがませると、アルス達には見えないようにしながら、部屋の壁を白い手袋をつけた手でなでつけた。
「……まて、魔法を止めろ」
今度こそはと、いきりついていた部下たちに魔法を止めるように命令し、まゆのようになった巨大なツルをじっと見つめたアルスは、少し目を細めてから、剣を抜いてツルの塊を横断した。
「嘘だろ…」
「い、いねえ」
「また逃げられた…」
逃げられたことを悔しがりながら、アルスは次の指示をだす。
「……屋敷の周辺を探せ。まだそう遠くには行っていないはずだ。私は子爵に報告をしに行ってくるよ。」
「了解しました、隊長!」
走り去る部下たちの背中を見送り、怪盗が消えた場所を一瞥してから、今回の怪盗の餌食となった子爵のもとへ歩きだした。
「おい、聞いたか?」
「また出たんだろ?」
「今回のターゲットは、この国の子爵のものだったらしいぜ」
「また騎士団の負けか」
「確かあそこの隊長って、Sランク冒険者と同じくらいの強さなんだろ?」
「しっかし、ほんとに何者なんだろうな…
怪盗クロって。」