国家親衛隊《ヴァリヤーグ》
森の輪郭にある高木に登って、国家親衛隊の少年は言った。
「今日中に来るだろう」
その木に登れず根元で腰を下ろす獣使いの少女は、白毛の巨犬を手指示で座らせる。
憂いを纏った表情で上を見上げ、今日はどうするの、と訊ねた。
「いつも通り、やるしかないよ」
少年は言うと、森の裏にある街のどんな建物よりも高いところから、一足で飛び降りる。
低い背丈、細い体躯、女の子のような容貌。
どう見たって親衛隊なんて似合わない。親衛隊というものは荒れた蛮族のような者達が、国家に忠誠を誓って結成される集団だ。
決して彼のように一人で行動しないし、間違っても彼ほど欲のない親衛隊などいない。
蛮族として集落を襲い金品や女を強奪するような輩が国に忠誠を誓うなら、相応の対価が必要となるはず。
隣に立ちながら一つの威圧も暴力的な不安も感じさせない。
まして目の前に自分と同じ歳の少女がいて厭らしい目の一つも寄越さない、そんな少年が親衛隊だなんて。
――後半は、私の魅力の問題という可能性もあるかなぁ。
十四歳の少女は複雑な心境で溜息を溢して、長い髪の先をくるくると指に巻いた。
「それで、今回も夜戦になりそう?」
前回は明け方に近い深夜だった。
敵は海を挟んだ先にある新興国の兵。
夜討ち朝駆けを狙うに都合の良い時間だったのだろう。
「今回は夕暮れより前になるだろう。もう隊列を作って行進している。前列後列にそれぞれ五十、計百人。隠れる気は無いらしい。腕に自信があるみたいだ」
そんな恐ろしい話を平然と語られても、と、少女はまた息を吐いた。
「じゃあ私、先に行ってるね。――言っても無駄だろうけど、無茶はダメだよ」
「うるさいよ。早く行け」
――ああ、これ絶対無茶するなぁ。
それでも彼を信じて行動しないことには、新興国の侵略が後ろの街まで及んでしまう。
だからここは、大人しく持ち場へ赴くしかない。
「行くよ、バクスター」
白毛の巨犬に言うと、獣使いの少女は森を移動し始める。
光を鎖した森の深奥が騒めき、幾つもの湿った足音が重なり、何百もの眼が一つの目的地へ揃って動き始めた。