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処女懐胎 なりそこない魔女の悪あがき  作者: 本山葵
町と死に人
16/25

捕虜

 獣使いの少女は、白いシャツを脱いで衛生服に着替える。

 ――またこの服かあ。元の服を返してほしいぐらいなのに。

 元々着ていた服は衛生管理の名の下に処分されてしまった。別に思い入れというほどのものもないけれど、突然に所有物を処分されるというのは気分の良いものじゃない。

 その甲斐があったのか、自身の検査は難なく終えている。

 しかし今度はあの幼女のような少女を治癒するために、検査を行う側として衛生服を着なければならなくなった。

 それもゴワゴワして全身――目の周り以外――を覆い、目を守るゴーグルまで着用。受ける側以上に念が入っている。さっきの清涼感溢れる白シャツのほうがずっと動きやすくて見た目も好きだったのだが、どこかの無表情な男の子と違って国家親衛隊(ヴァリヤーグ)でもなく平民の身分だから文句を言う権利がない。

 こういう時だけはガラス細工一発で無茶の通る立場が羨ましくなる。

 不満を熟々と頭の中に溜め込みながら結局重たい吐息にして吐き出し、部屋に入る。すると女性医師と女性検査官が自分と同じ衛生服を着て立っていた。


「――君は、さっきの」


 女医が訊ねる。


「あはは……、なんか精霊術が必要とかで、呼ばれちゃいました」

「例の少女に精霊術を施すのか? 医者の身としては、精霊術で回復させて検査を通すというのは、かなり乱暴なように感じるのだけど」

「軍の人間に『やれ』と言われたら、私の立場じゃ逆らえませんから」


 目を見合わせて二人で苦笑して、軍の人間は粗暴で困るな、全くです、なんて会話を交わす。

 次いで隣の部屋とこちら側を仕切る扉を見た。

 扉は大枠だけが木製で、枠内には無色透明なガラス板が嵌め込まれている。本当にこの国のガラスは透明度が高い。まるで存在しないように向こう側を映し出す。なのに不思議と存在も主張する。

 その重厚で上質なガラスの向こう側では、(くだん)の幼女と想い人の少年が無表情で手をつないでいた。


 ――何か理由があるんでしょうけど、解せないわ。


「さてっ、じゃあ再検査といきますか。とんだ茶番になりそうだけど」


 腕を上にグッと伸ばして背筋を正し、疲れの色が濃い声で女医は言う。

 更に続けて、獣使いの少女に告げた。


「あまり無理しないでね。お腹の子(・・・・)に障ったら大変よ」


 子を孕む少女は自らの腹部に手を当て、何度か軽く撫でた。

 まだ膨らんでくる感じはしないし、悪阻(つわり)もない。でも、いる(・・)――。


「大丈夫です。私は、自分の手を汚さないタイプですから」


 悲しそうに笑って、少女は答えた。

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