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処女懐胎 なりそこない魔女の悪あがき  作者: 本山葵
町と死に人
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是非の無い依頼

国家(レルヴァ)に忠誠を誓った親衛隊(ヴァリヤーグ)である限り、表だった反逆は許されない。彼は監視兵や衛生兵に危害を加えることができないんだ」


 大方の説明を終えて、温和な表情で紳士が語る。

 重い息を吐いた獣使いの少女は、諦めの境地に立って言った。


「私が二人の脱出に協力すれば良い――ということですか。それ、私に断らせる気ありませんよね?」


 断ることは諦めきれても、最初から協力しないわけがないと思われていることには少し腹が立つ。

 その通りだけど。

 ――ついさっき、もう会うことはない、なんて。ちょっとだけ感傷的になったのになあ。


「で、森に配備された監視兵は何人ですか?」

「おいおい。早とちりされては困る」

「何人かを後ろからパックリ――。そうすれば非常事態で彼が呼ばれるか、ここの監視が薄くなるか、どちらかでしょう? 双眼鏡は私が回収すればいいだけですし。誰も困らないと思うんですけど」


 紳士は呆れたように答える。


「もう少し穏便な解決を願いたい」

「具体的には?」

「私から衛生兵に、少女に対する治癒術の行使を願い出る。しかし隔離対象者と接近したがる治癒術士はこの町にいないだろう。そこで君に白羽の矢が立つ」


 治癒術に代表されるほとんど全ての精霊術は、対象者から離れていては使えない。

 確かに、腕の裂傷を治癒させることが可能だったわけだから、彼女は効きが良い、精霊に愛されている人間だと推測できる。ならば体温の上昇ぐらい造作もないだろう。

 しかし――。


「精霊が死人に協力するとは思えません。だから彼女は、何らかの形で生きているのだと思います。でも、もし死人に近い状態となること自体に意味があるのなら、彼女自身が協力を拒むかもしれませんよ」

「抵抗するなら仕方が無い。そのために彼がいる」


 ――仕方が無い。

 そうして彼がどれだけの回数、手を血に染めてきたことか。昔は指まで可憐で清楚だったのに、鉄塊を振り回す度に血塗られて、今では荒々しくなってしまった。

 私が欲しがった、あの細い指と指を絡める権利――――。今はもう、望むことさえできない。想うだけで胸が裂ける。

 少女は承服できない道理に再びの諦観を観て、紳士の言葉を受け入れた。

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