戦場の片隅
1人の若い兵士が夜空を見上げ願いが叶えられたことを知った。
祖父母、両親、弟と2人の妹、家族揃って質素だが楽しい夕食を摂っている時だった。
家の外から数台の車が急停車した音が聞こえ、続いて複数の男達の怒鳴り声が聞こえたと思ったら家のドアが外から蹴り破られる。
蹴り破ったのは国防軍の兵士、兵士の後ろから踏み込んで来た将校が僕達に向けて怒鳴った。
「静かにしろ!
我々は徴兵を行っている。
13歳から40歳までの男子は義務を果たせ!
この家は3人だな、よし、連れ出せ」
抗議する間も与えられず、父さんと僕に弟は兵士に外に追いたてられた。
追い出されて周りを見渡すと、村中の家から男が引きずり出されている。
中には抵抗して殴られている人もいた。
母さん爺ちゃん婆ちゃん妹達に別れを告げる事も許されず、トラックの荷台に放り込まれる。
軍事教練を受ける事も無くしちょう部隊に配属され牛馬のごとく扱われた。
沢山の物資と共に輸送船に押し込まれ前線に向かっている時、船が機雷に触れ沈没。
2人が掴まっているのがやっとの板切れを父さんは僕達の方へ押しやり、自身は荒波の中に消えた。
身一つで前線に辿り着いたしちょう部隊の面々は扱った事も無い銃と銃剣を手渡され、前線に配置されていた歩兵部隊と共に攻勢に打って出る。
敵を掃討中弟が撃たれた。
弟を担ぎ野戦病院に向かったけど傷を見た軍医は首を横に振り、弟は治療される事も無く病院の外に放り出される。
母さんと妹達の名前を呟きながら弟は短い人生を終えた。
しちょう部隊の生き残りはそのまま歩兵部隊に組み込まれ、歩兵部隊は再編成のため後方に戻される。
後方に戻された僕達元しちょう部隊の面々は徴兵されてから初めての休暇を貰う。
そしてそこで僕は故郷が無くなった事を知る。
敵の戦術核ミサイルで村とその周囲は焼け野原になったらしい。
教えてくれたのは隣の家の小母さん。
小母さんは偶々この町の親戚を訪ねてきていて村でただ1人難を逃れた。
僕はその夜、月に向けて願う「こんな世界滅びてしまえ」と。
ICBMが飛び交う空の下の戦場の片隅に砲弾に引き裂かれ上半身だけになった若い兵士が息絶えている、その顔には笑みが浮かんでいた。