第30話『あなたが好き』
今朝、血まみれの睦月を背負った葉月が帰ってきた。
二人の惨状を見た挙げ句、大きな叫び声を上げながら気絶して魘されていたらしい。睦月の看病は葉月と実子が引き受けると立候補してくれたおかげで、休むことは出来たけど。あと、理由はないけど。葉月の左手に嵌められた銀装飾のバングルが気になる。
【マスターはネーチャンを守ったんだ、怒らねぇでやって欲しいい!】
そんなアルハザードの必死な償いの言葉と共に睦月は「平気だ」と包帯だらけの身体をベッドから起こして答えてくれた。正直に言えば止めて欲しい。
セラのように離れてくれないタイプだと不安になってしまう。更には葉月のバングルも神話の代物だと告げられ、眩暈や頭痛に襲われる。家族が傷ついて心配しない人など存在しない。死んじゃったらどうしようって、正気を保てなくなる。
【秩序を重んずる行動を示しなさい】
【テメェーッ、セラエノ断章ォ!アンタの硬ってぇアタマじゃ分かンねぇだろうけどなぁ!】
【オマエ等、うるさい】
セラ達の喧嘩する声を聞きつつ、村雲睦月と名札の付いた病室から出る。どうしたらいいの?──そんな言葉が自然と零れてしまうほど。不安な気持ちに押し潰されそうになる。清月が居てくれれば、清月に会いたくなる。不安だよ、怖いよ、寂しいよ、助けてよ、情けない心が溢れる様に出てきてしまう。独りじゃ…無理だよ。
「すまん。遅くなった…!」
零れ落ちそうな涙を流しながら袖で拭き取り、見上げると絶え絶えになった息を整えながら右手を差し出してくる清月が立っていた。
「ふぐっ、うぅ…っ」
「お、おい。どうしたんだ?」
泣きそうになりながら清月の手を借りて立ち上がり、病室の扉を開けるとナース服で睦月に迫っている葉月と実子の姿が目に映った。私が、私が怖くて不安なのに、この馬鹿娘達は楽しそうだな。睦月は諦めているのか、皮の剥かれたリンゴやミカンを黙々と食べていた。
『村雲清月主人公説』
銀之丞 (ヒロイン)のピンチには必ず駆け付ける事が出来るため、浮上してきた疑惑の一つ。




