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第十三章 終焉13-8


それから半年がたった。


「アリシヤちゃーん。ごめん!スープの火を止めて!」

「分かりました!」


アリシヤはオルキデアの店員として働いていた。


慰霊祭の日、アリシヤは英雄になった。エーヌの民の長を屠ったとされている。

そしてその後、数々の行事ごとをこなし、先月から念願かなって英雄の地位を引退。

オルキデアで働いている。


オルキデアの扉が開く。


「なんかいい臭い。楽しみだな」


そういって店に入ってきたのはタリスだ。

彼は、未だに勇者の側近だ。

騙されていた。そのことはタリスにショックを与えたが、やはり彼の勇者はリベルタなのだ。

優秀な勇者の側近として今では皆に認められている。


タリスが顔を上げる。


「アリシヤちゃん。今日、ラナ爺とファッジョも来るから」

「了解です」


アリシヤはびしっと敬礼する。


ラナンキュラスはあの後、アウトリタと再会した。

身内は皆死んだと思っていたアウトリタはラナンキュラスとの再会を喜んだ。

国での仕事に戻ることを提案したアウトリタだったが、ラナンキュラスはそれを断った。

自分には名無しの街での生活があっていると言ったらしい。


「失礼します」


そういってオルキデアの扉を開けたのはクレデンテとカルパだった。


「クレデンテ様。カルパさん。ようこそ」


アリシヤは微笑んだ。


クレデンテは、物語が終焉を迎えたことを惜しんでいた。だが、時代は動き出したのだ。

それを誰よりも理解していた彼はアウトリタに協力の姿勢を見せた。

ジオーヴェ家に従属していた者たちは大人しくクレデンテに従った。

強硬姿勢を取っていたヴィータは、内部の反発により辞任。カルパが代わりに当主となった。


カルパはあまり優秀な当主とは言えなかった。

だが、人望は厚く多くの人に支えられながらなんとかやっている。


「ロセさんは?」

「ああ。いつものお着換えですよ」


カルパは苦笑した。扉が開く。


「お待たせ」


そういって入ってきたロセ。

今日もひらひらのゴスロリファッション。


「可愛いですね」


アリシヤは心からの感想を述べる。

ロセがにやりと笑った。アリシヤは察する。


「私は着ませんからね?!」

「ええ、せっかく持ってきたのに?」


ロセは楽しそうだ。


彼女は、クレデンテと共にアウトリタに協力姿勢を見せた。

もともと優秀な彼女だ。実力主義のアウトリタに認められ、かなり上の地位まで上り詰めている。


扉がチリンとなる。


「遅くなってごめんねぇ」

「大丈夫ですよ。イリオス」


大きな本を抱えてきたイリオス。


「また勉強ですか?」

「いや、これは趣味」


イリオスはにっこりと笑った。


イリオスはあれからジオーヴェ家が引き取った。

クレデンテの養子ということにしたらしい。

それからイリオスはごく普通の少年の生活を送っている。

今は学校へ通いその好奇心からみるみる知識を付けているようだ。


「今度皆と会うからね。皆の住んでた地域のことを勉強したいんだ」 


それぞれ各地に配置されていた記録師。

彼らはこの国の物語の終結とともに解放された。

閉ざされた教会から解放され彼らは戸惑ったそうだ。

だが、それぞれ別々の道を歩き始めたようだ。

今度、このオルキデアで、記録師だった者たちの集まりがある。


「悪い、遅くなった」

 

最後に入ってきたのはリベルタ、そしてルーチェだ。


「お疲れ様です」

「あ、これ、行く道道でもらったから焼いて?」


そういってリベルタが出してきたのは良さげな肉。


「これすごくいいお肉じゃ…」

「そうか?じゃあありがたくもらわないとな」


相変わらずリベルタの人望はすごい。

リベルタはあの後、何事もなかったかのように勇者を続けている。

ただ、変わったことが一つあるとすれば―


「で?アリシヤさん、いつ戻ってくる?」

「戻りません。何度目ですか、この会話」

「まあ、どっちにしろ俺が死んだらアリシヤさんは英雄様に逆戻りだけどなぁ」


嫌な笑みを浮かべる。

最近リベルタはこうやってすぐ本性をさらす。アリシヤはよく絡まれる。

面倒なうえに怖い。

どうしたものか。

アリシヤが眉間にしわを寄せていると、リベルタの頭に強い突きがお見舞いされる。


「馬鹿めが。アリシヤにまたいらないちょっかいをかけてたな」


ルーチェがふんと鼻を鳴らす。


ルーチェはあれから、スクードとして職務に戻った。

リベルタの側近はタリスが務めているため、ルーチェはもっぱら城で兵の育成をしている。

時たま、リベルタと職務を共にする時があるそうなのだが、その時は、戦いのあまりの美しさに、周りの兵が見惚れるらしい。

だが、その後のくだらない会話で冷めるらしい。


ルーチェはふっと笑う。


「それに、お前は死なない。なんせこのスクード様がいるんだからな」

「…頼りにしてるよ」


二人は顔を見合わせ笑った。なんだかんだ仲はいいらしい。


セレーノが台所から料理を運んでくる。


「さあ、皆、できたわよ」


アリシヤとタリスが配膳の手伝いをする。

オルキデアの勝手見知ったロセや、リベルタが勝手に飲み物を用意する。

そんな中、小さく扉が開く。


「こ、こんばんは…」


小声で入ってきた人物。アリシヤは目を見開く。

フードをかぶったその下には金色の髪に碧い目。


「ふぃ、フィア女お―」


その後ろから低い声。


「違う。彼女はただの庭師のフレアだ。女王ではない」


髪を下ろした、鋭い目つきのその男。

どこかで見たことがある。だが分からない。

リベルタが驚嘆の声を漏らした。


「あ、アウトリタ?」


ばっと皆の視線が集まる。

髪を下ろしているから誰か分からなかったが、確かにその鋭い目つきはアウトリタだ。

彼はばつが悪そうにフードをかぶった。


「荷物を届けに来たの」


フィアが抱え込んだ荷物を下ろす。

アリシヤは息を呑んだ。

それは、いつかエーヌの民に攫われたときに持っていた荷物だった。


アリシヤはフィアを見上げる。

フィアは柔らかく頷いた。


アリシヤはそのかばんから必死になってあるものを探す。


「なに探してんだ?」


リベルタの問いを無視し必死になってそれを見つけ出す。


「あった!」


アリシヤはカバンの奥底から一冊のノートを取り出した。

そして、その中から手紙を取り出す。

アリシヤはそれをイリオスに差し出す。


「デイリアさんからの手紙。読んでくれますか?」


イリオスは息を呑んで頷いた。


手紙を開く。


デイリアはこの国の真実を、そして、罪を、中立的な立場で説明してくれていた。

ああ、やはりここには真実が記されていたのだ。

もっと早くに読めていれば。いや。

アリシヤは首を横に振る。


詰まりながらも手紙を読み上げていたイリオスがふと止まった。

そして、アリシヤの方を見て少し迷ったようだった。


「イリオス?」

「読むね」


アリシヤは頷いた。


『アリシヤ。君の名前を聞いた時、エレフセリアはなんて皮肉な名前を付けたんだと思った。アリシヤとはつまりコキノの言葉で『真実』という意味。この国の真実のことをさしているのだと私は思ってしまった』


「だけど違った」


イリオスはそこまで読むと、表情をほころばせた。


『エレフセリアの人生は、この国の真実という名の嘘に翻弄された。嘘も真も分からない人生。その中で愛した女性との間に生まれた君だけが、彼にとって確かな『真実』だったんだ』


アリシヤは息を呑んだ。


『君は多くの嘘に翻弄されるだろう。傷つきもするだろう。でも忘れないで欲しい。君という存在自体が疑いようのない『真実』なのだ』


イリオスは深く息を吸った。


『ありがとう。アリシヤ。君に会えてよかった。君の未来が光あふれるものであるように』


手紙はそう締めくくられていた。


アリシヤは胸を押さえる。

自分は何者か考えた。化物だと思っていた。

でも、それは間違いで嘘によって作られたものだった。

そして気づいた。

大好きなものが自分を形作っていると。


だが、それだけではなかったのだ。


アリシヤという存在、それは内面がどれだけ揺らごうと、周りを嘘に固められようと変わらない。

アリシヤがアリシヤとして存在している。

それは真実で誰にも変えようがない。


「アリシヤが『真実』か…」


アリシヤは呟いた。


それは力強い言葉だった。胸が温かくなった。

目を閉じて、レジーナとそして、会ったことのないエレフセリアのことを思い描く。

アリシヤは小さく言葉にした。


「ありがとう。お母さん。お父さん」


「それじゃあ、私はこれで」

「え」


踵を返すフィア。

だが、セレーノはそれを引き留める。


「あの、よろしければですが、一緒にどうですか?」

「そうですよ、フレアさん!」


アリシヤもフィアに駆け寄る。

フィアはカウンターに並んだ料理に目をやる。

だが、首を横に振る。


「やっぱり、私は―」

「ご一緒させてもらおう」


席に着いたのはアウトリタだった。


「たまには私のわがままに付き合っていただけますか?」


アウトリタがフィアに微笑んだ。


「アウトリタが笑った」


ぼそりとつぶやいたリベルタ。


「いいところなんだから黙っとけ」


ルーチェがリベルタの頭をはたく。

フィアがきょとんとした後、笑った。


「もちろん!」


セレーノはフィアに席を勧める。

ほどなくして、ファッジョとラナンキュラスが現れた。


「カンパーイ!」


皆で同じ食事を囲む。

アリシヤはそれをぼんやりと眺める。

一年前には考えられなかった光景だ。

そして、確かに言えることが一つあった。


これは幸せの光景だ。


アリシヤは胸に焼き付けようと、しっかりその光景を見つめる。


この先、きっと苦難は訪れる。それでもきっと―


「アリシヤちゃん?」


タリスの声にアリシヤは我に返る。

そして、口に出す。


「私は皆さんのことが大好きです!」


***


南西の海。その海に浮かぶ島がある。

そこには一つの国が成り立っていた。国の名は“レシ”。

この国は神秘の国として周りの国から畏れ敬遠されていた。

だが、それはもう過去の話。


魔王伝説は終わりを告げた。

赤き髪と目を持つ少女によって。

彼女はレシの国でこう呼ばれている。

終焉の紡ぎ手と。

そしてこうも呼ばれている。

はじまりの紡ぎ手と。


レシの国の伝説は終わった。

この国は未来へと進みだした。


未来を告げる言葉はレシの国にはもういらない。

未来は彼らが作っていくのだから。


終わり

ここまで閲覧いただき誠にありがとうございました。これにて終焉の紡ぎ手、終焉となります。

よろしければ感想等いただけると大変嬉しいです。


終焉の紡ぎ手ですが、2019京都文フリにて文庫化して販売しようと思っています。「ぐだぐだ座談会」というサークル名を予定しています。挿絵(絵:こあよな)もつきます。京都文フリ参加の際、終焉の紡ぎ手の登場人物のその後を書いた小説をフリーペーパーとして配布しようと思っています。もし、その後が見たい登場人物がいたらリクエストください。喜々として書きます。

詳しくはツイッター(@harima0049)にて。作者ページにツイッターリンクがあります。


それでは、重ねてになりますが、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!

皆さんの未来が光あふれるものであるように!

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