表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/60

第十三章 終焉13-2


深夜。


アリシヤは、ロセから受け取った紙を手に、待ち合わせの場所に向かう。

紙には待ち合わせの時間と場所、『私を頼って』そんなロセからのメッセージが付いていた。


「遅いな」


隣にいるタリスが不機嫌そうに漏らす。

アリシヤはくすりと笑う。


ロセの思惑ではきっとタリスが付いてくるなどとは思っていないだろう。

だが、タリスは必要なのだ。

ロセとの話の後、作戦を実行するために。


その場に現れたのは、カルパだった。

カルパはタリスの姿に一瞬目を見開いたが、ふっと優しい笑顔を見せた。


「付いてきてください。お二人とも案内いたします」


城門を通った。そして、アリシヤとタリスは息を呑んだ。

門兵の位置にソーリドが立っていた。

今日は、ラーゴのはずなのだが。

二人は顔を見合わせたが、カルパに導かれ城に入った。


案内されたのは城の教会だった。

白と青のステンドグラス。


いつかここでアリシヤは一人で覚悟を決めた。

強い覚悟だった。だが、それは脆くもあった。

ステンドグラスは月明かりによって色とりどりの光を教会の床に映し出す。


「待っていたわ」


澄み切ったそのロセの声が教会に響く。

ロセの隣にはクレデンテが控えており、彼は小さく礼をした。

ロセはタリスの姿を見て眉をひそめたが、何も言わなかった。


「アリシヤ、真実を知ったのね」

「はい」


ロセの静かな声にアリシヤははっきりと答える。


「逃げなさい」

「できません」


アリシヤの答えにロセは寂しげに笑った。

ロセはステンドグラスに描かれた光を見上げる。


「この国はね。英雄となったものを殺すの」

「え」

「今の勇者以外の歴代の勇者は、皆スクードに殺されている」


アリシヤは言葉を失った。

そんな事実は知らない。

確かに勇者は今まで皆、早死にしている。

だが、その理由に頭をめぐらすとどうだ。

魔王の呪いなどといった理由ではなかったか。


「魔王を殺した勇者はあまりにも強い権限を持つ。それを嫌う国の者たちに殺されるの」


ロセはアリシヤの手を握った。


「あなたは慰霊祭の日に、大英雄になる。そして、混乱に乗じて勇者に殺される」


アリシヤの背に冷たいものが走った。

リベルタの暗い表情を思い出す。


「あの男にかなう人間はいない。だから逃げなさい」


戸惑うアリシヤ。

ロセの言う通りだった。

リベルタは歴代の勇者の中でも、最も剣の技に優れている。

近くで戦いを見てきた自分がそれを一番わかっている。

剣でリベルタにかなうわけがない。

自分は殺されてしまう。


「わかりました…。逃げます」


アリシヤは小さな声で言った。

ロセがほっとしたのがわかった。

アリシヤは首を横に振る。


「いえ、違います。物語が終わった後、全力で勇者様から逃げ回ります!」

「は?」


タリスが横で吹きだした。


「確かに、あの人にはかないません。勝てない相手から逃げるのは基本中の基本です。だから逃げます」

「だったら今から」

「それはできません」

 

アリシヤは静かにロセを見つめる。


「私が逃げれば、また百年後、次の誰かが犠牲になる。私で終わるのであれば私で終わらせたい」

 

ロセは俯いた。


「アリシヤさん」


クレデンテの声にアリシヤは顔を上げる。


「あなたの考えは素晴らしい。ですが、この小さな島国がどうしてこれまで他の大国に侵略されずに来たかご存知ですか?」


思わぬ話の方向にアリシヤは首をかしげる。

考えてみたこともなかった。

クレデンテはじっとアリシヤを見つめる。


「それは魔王伝説があるからです」

「え」

「この国の物語に恐れをなして、他国は攻め込んでこない。この国は、物語のおかげで他国の支配から逃れてきたのです」


考えても見なかった。

クレデンテは続ける。


「物語が人々を守っているのです」


アリシヤは息を呑む。

だが、アリシヤの目に魔王の名のもとに苦しんできた人々の姿が浮かぶ。

そして、アリシヤは自分の髪に触れる。

ずっと迫害されてきた。自分もその犠牲者であった。

アリシヤはクレデンテを見つめる。


「物語は人を殺します。魔王の名をかたって人を殺します。それでも貴方は物語を必要と言うのですか?」

「はい」


クレデンテは静かに言った。


「私はこの国を愛していますから」


それは嘘偽りのない言葉に思えた。

きっとこれはクレデンテの信条なのだ。

彼は彼としてこの国のことを思っている。

それをアリシヤは否定することはできない。


わずかな沈黙の後、カルパが口を開いた。


「そのために、アリシヤさん。君に生き残ってほしい」

「え」

「デイリアが死んだことにより、魔王の末裔は君だけになってしまった」


アリシヤは気づく。

赤い目に赤い髪の人間はもうこの国に自分しかいない。

だったら、そうだ。


「私が…次の魔王になれ、と」

「違う。君の子孫だ」


アリシヤは言葉に詰まった。


「次の百年まで君は僕らジオーヴェ家が守る。君は好きな人と結婚し、子供を授かる。それだけでいいんだ」

「よくない…」


アリシヤは顔を上げる。

まだ結婚なんてわからない。まして自分の子なんて想像すらつかない。

それでも自分と同じ目には合わせたくない。


「よくない!そんなこと私は—」

「分かってる」


ロセが声を上げる。


「分かってるわ…これがどれほど残酷なことか、私たちだって理解してる」

「ロセさん」

「だけど、お願い。そうして欲しいの」


冷静な目だった。

アリシヤの瞳に涙が浮かんだ。


「ロセさん。それはジオーヴェ家の者としての言葉ですか?」

「ええ、そうよ」


ロセは言った。

分かっていた。わかっていたはずなのだ。

ロセはこのためにアリシヤに近づいた。


初めてできた友達。

アリシヤにとってはかけがえのないものだった。


アリシヤは涙をこらえる。

そして、言い放つ。


「断ります」


アリシヤはもう一度言う。


「この話は受けません。私は物語にはやはり賛成できません」

「そうですか」


クレデンテが寂しそうに微笑んだ。


「アリシヤちゃん。行こう」


タリスの手を取った。

アリシヤは教会を後にした。


「アリシヤ…」


ロセが呟いた言葉はアリシヤには届かなかった。

教会の扉が静かに閉まる。

ロセはその場にうずくまった。


「おかしい…こんなはずじゃ…こんなはずじゃない」

「そうですね」


クレデンテはロセの肩にそっと手を置いた。


「だって、貴方はあの子の友達なのですから」

「違う。私はジオーヴェ家の者としてあの子に近づいた」


この優しい子のことだ。

傷つくのはわかっていた。

小さく震えるロセの肩。

幼い頃からずっと見てきた。

彼女の幸せを願っている。

だったら、己にできるとこはなんだ。


「…まだ、間に合います」


クレデンテは言った。

クレデンテは遠くを見やった。


かつて、サトゥルノ家にいた茶色い目の友人を思い出す。

利用するために近づき友人となった。

噂好きの面白い男だった。


ずっと後悔をしている。


「行きなさい。ロセ」

「クレデンテ様?」

「後悔する前に」


ロセが目を見開いた。

クレデンテはロセの手に小さな鍵を乗せる。

それは、クレデンテの部屋の鍵だった。


「彼も連れて行ってあげてください」

「彼?」

「そう。最近私が引き取った、貴女のように後悔を持った少年ですよ」


ロセははっとして頷いた。


「さあ、行きなさい」


ロセは走り出した。彼を迎えに行くのだろう。

クレデンテはその背を見つめた。


「クレデンテ様」


カルパの声に、クレデンテは振り返る。


「カルパ。私は私の信念を貫いてきました」


物語を終わらせないために手を汚した。

神に仕えるものとして許されないこともした。


「ですが、駄目ですね。年を取ったようです。若者の友情なんかを見てしまうとちょっと胸が熱くなってしまいました」


クレデンテは笑った。

久しぶりに見せる嘘のない笑顔だった。

カルパは優しく微笑んだ。


「ありがとう。クレデンテ様」


二人は笑いあった。


が、二人の体に緊張が走った。教会の扉が開いたのだ。

入ってきた人物にクレデンテは目を見張った。彼は言った。


「タリスとアリシヤ君を知らんか?」


閲覧いただきありがとうございました。次回「奪還」です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ