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第七章 一族の男7-7

本当にこれでよかったのだろうか。

アリシヤはチッタの街を振り返る。


あれからインノは、イリオスに行っていた数々の仕打ちを暴露され、

司祭としての地位をはく奪された。

加え、兵を自身の護衛のみにあたらせて、民を守らなかったことに対しても追及が下るらしい。

 

今回、エーヌの民による襲撃でおよそ三十人の命が奪われた。

リベルタたちがエーヌの民に応戦したが、長であるレジーナは逃したらしい。

そして、イリオスはまた教会に戻ることになった。


「アリシヤ。ボクは君を恨む」


彼はアリシヤにそれだけ告げると、教会へ帰っていった。


リベルタ、タリス、ロセと並んで帰路に付く。

アリシヤは思わず口に出した。


「…どうすればイリオスさんを救えたのでしょう」


タリスが振り返った。

そして、アリシヤの肩をつかむ。

急な動作にアリシヤは目を見開く。


「タリスさん?」

「アリシヤちゃん。記録師様はあれで救われたんだ」

「でも、デイリアさんの願いは―」

「忘れろ」


タリスが強く放った。


「あれは人を殺し、俺の大切な人を奪った赤い悪魔だ。あれの願いなんて―」

「じゃあ…!じゃあ…イリオスさんの大切な人を奪った赤い私は何なんですか…!?」


タリスが口を閉じた。言ってしまった。

タリスの口から出た『赤い悪魔』という言葉が怖かった。

タリスもチッタの街の人間と同じなのではないかと。


アリシヤの耳の中で「殺せ」の大合唱が響く。

タリスの手を払い、耳を塞ぐ。

殺せ、殺せと頭の中がうるさくてたまらない。

ふっとロセが、アリシヤの肩を抱いた。


「今は気が立っているだけよ。大丈夫。少し休みなさい」


***


それから宿まで無言で歩いた。

タリスの方を見ることは一度もできなかった。


「おやすみなさい」


そういって、ロセが明かりを消す。

暗くなると響いてくる「殺せ」の声。

目をつぶると蘇ってくるデイリアの首から噴き出た鮮やかな赤。

嗅ぎ取ったにおいまで蘇ってくるようで、アリシヤは吐き気を催した。


ふらふらとした足取りで、宿の外にでる。

今は外で空気を吸いたい。

外にあったベンチにアリシヤは腰下ろす。


月明かりの中、自分の掌をまじまじと見る。

この手は人を殺した手だ。

その事実がアリシヤに重くのしかかっていた。

掌を宙に向けた。

そしてそのまま顔を覆った。


デイリアはかつてたくさんの人を殺した。

いずれ処刑される身だった。

どんな言葉でも自分を慰めることはできない。


イリオスの言葉を思い出す。


『もし、アリシヤの大切な人がデイリアと同じ立場だったら―』


殺した。

アリシヤにとってのルーチェのような、イリオスの大切な人を奪った。

苦しい。

アリシヤは顔を覆ったまま深くため息をついた。


「アリシヤさん」


声に顔を上げる。

リベルタが困ったような笑顔で前に立っていた。


「こんなところにずっといたら風邪ひくぞ?」


そういって、アリシヤにコートをかけてくれるリベルタ。


「ありがとうございます…」


アリシヤは力なく礼を言う。

リベルタはそのまま、アリシヤの隣に腰を下ろした。

無言の時が過ぎる。

無理に何かを問いかけてこないリベルタにアリシヤは、ほっとしていた。

ふっと、空に白い息を吐き、リベルタが口を開いた。


「英雄ってさ、綺麗なだけじゃいられないんだ」


リベルタが右手を空にかざす。


「この手だって真っ赤に染まってる。だけどな」


リベルタがこぶしを握り締め、下ろす。


「英雄と呼ばれるものじゃないとできないことがあるって信じてる。なあ、アリシヤさん」

「…はい」

「俺はな、アリシヤさんに期待してるんだ」


リベルタがにっこりと笑う。


「一緒にこの国を救う英雄になってほしい」

「私は、英雄になんてなれる器じゃありません」


アリシヤは弱弱しく笑う。

そんな、アリシヤの頭をリベルタが撫でる。


「今は決断しなくていい。だけど、考えといてくれ」


リベルタの言葉にアリシヤは大人しく頷く。


「それから、お疲れさん。今回はよく頑張ったな」


優しい言葉にふっとアリシヤの強張った体がほどけた。


「う…ぅっああっ」


アリシヤは声を出して泣いた。

日が昇るまで泣きくれたアリシヤにリベルタはそっと付き添ってくれていた。

空に浮かんだ月が二人を見守っていた。


***


チッタの外れ。


「ちくしょうっ!」


罵声を吐きながら、スクードは追ってくる敵を切り倒す。

先ほどから何時間これを続けているのだろう。

敵の数は多い。

無限に増えているのではないかと思うほどだ。

赤い面が、スクードの前に立ちふさがる。

十人は超えるだろう。


スクードは舌打ちした。どうやらこの場所に導かれたようだ。

かなり消耗している。

乗り切れるだろうか。


「ご苦労様」


後ろから、面をかぶらない女が現れる。

スクードは息を呑む。

黄金の長い髪に碧い目。


「レジーナ姫…?」

「あら。私のことを覚えてくれているの?嬉しいわ、スクード」


こちらの名前も知っているようだ。

スクードはレジーナを睨む。


「俗説では、貴方は死んでいるはずだが?」


スクードの問いに、レジーナはからからと笑う。


「俗説?ああ、魔王に穢されこの世を儚んだというあれかしら?」

「ああ、そうだ」

「あんなの嘘よ。私は、魔王様。いえ、エレフセリア様と愛し合っていたもの」


レジーナの言葉に、スクードは反論しなかった。

そのことをスクードは知っていた。

エレフセリアの口から直接聞いた。


「ねえ、スクード。貴方は真実を知っているのでしょう?」

「…ああ」

「なら手を組みましょう?」


レジーナが、スクードに手を差し伸べる。

スクードは首を横に振る。


「この世界の破壊なんぞには興味がない」

「あら、そうなの。残念。でも、あの子には興味があるでしょう?」


スクードの動きがピクリと止まった。


「貴女の守りたい子は私の守りたい子でもあるわ。この国からこの世界からあの子を守るため協力してくださらない?」


確かに、自分の力だけでは守り切れなかった。

だが、これほど多くの力を持つ集団なら―


「いいだろう」


スクードはレジーナの手を取った。


「ありがとう。貴方がいれば、彼も怖くないわ」

「…どうだろうな」

「こっちに来て。皆にあなたを紹介するわ?」


レジーナに導かれ、スクードは深い森へといざなわれる。

これからの道を暗示しているようだ。

それでも守りたいものがある。

スクードは強くこぶしを握り締めた。

閲覧いただきありがとうございます。第七章七部終了です。ぞろ目ですね。特に意味もないけど嬉しい。

次回より第八章「家族」が始まります。よろしくお願いします。


ツイッター(@harima0049)にて更新情報を呟いております。よろしければそちらもどうぞ。

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