第六章 勇者の盾6-3
ディニタが死んだ。
あっけない死に様だった。スクードは戦場で唖然とした。
近日の魔王軍は、なぜだか、スクードの命を狙っているようだった。
なぜかは分からない。
先に盾を殺しておきたかったのかもしれない。
さばき切れないほどの敵がスクードに押し寄せた。
「スクード!」
リベルタの叫びが聞こえた。
生きる、生き延びてやる。
スクードは怪我を負いながらも必死に敵を打ち倒す。
だが、間に合わなかった。
己の上に降りかかる剣。
これを避けることはできない。
スクードは悟った。
死にたくない。
強く思った。
次の瞬間、目に入ったのは真っ赤な血だった。
それは己の血ではない。
敵とスクードの間に入って、スクードをかばうように手を広げたディニタのものだった。
「なん、で…」
スクードは呟くも、我に返りディニタを斬った敵を殺した。
最後の敵を切り伏せ、地面に転がるディニタを見つめる。
“賢者”という役割はこんなところで死ぬはずがない。
あってはならぬことのはずだ。
唖然としているスクードをディニタが手招く。
ディニタは口から血を吐きながらもなぜか柔らかな笑顔を浮かべていた。
「スクード。いや、――――」
ディニタは、スクードの真名を呼ぶ。
スクードは目を見開いた。
十数年ぶりに呼ばれた自身の本当の名前。
「ごめんな。僕は…誰が死んでも…お前にだけは…生きててほしかったんだ」
ディニタの声が次第に小さくなっていく。
「――――。愛してる。だから、生きて―」
彼は息絶えた。
訳が分からなかった。
自分にあんな仕打ちをしておきながら、今更何を言うんだ。
だが、息絶えたディニタは優しい兄の顔をしていた。
ディニタの死体を弔い、スクードとリベルタは近くの町の宿に向かった。
「スクード…」
リベルタは目に涙をいっぱいに浮かべ、そう呟いた。
スクードには厳しいディニタだったが、リベルタには甘かった。
リベルタはそんなディニタを兄のように慕っていた。
「リベルタ、これからのことは明日考えよう。今日はとにかく寝るぞ」
そういってそれぞれのベッドにもぐりこんだ。
スクードはベッドの中で、ディニタが遺したカバンを探った。
ディニタの最期の言葉、それに意味を見出したかった。
スクードはディニタのカバンからある一冊のノートを見つける。
それは日記の様だった。
スクードはその日記で、真実を知る。
その日は眠ることができなかった。
その真実はあまりにも恐ろしすぎた。
夜が明けるまで。スクードは考えた。
なあ、リベルタ。どうすればお前をこの真実から救い出せる?
***
『逃げよう』
あの日、スクードはリベルタにそう言った。
母がそう言ってくれたように。
だが、リベルタは首を横に振った。
それからリベルタとスクードは、会話を交わすことが少なくなっていった。
リベルタは賢者であるディニタが死んだことにより、魔王を倒すことに囚われていった。
ことあるごとにリベルタを逃がそうとするスクードの言葉に耳を貸すこともなくなった。
そして、スクードは魔王城で真っ赤な髪の魔王と出会う。
一五年前の出来事に思いを巡らせたスクードは、目を開く。
ただ救いたかっただけだった。
スクードは魔王とある契約を交わした。
リベルタを生き残らせるために。
これがこんなことになろうとは誰が予測できただろうか。
町で噂を聞いた。
勇者が連れた赤い少女がエルバの村を救ったと。
なあ、リベルタ。
お前がどうしてその少女と行動を共にしている?
おかしい。こんなはずではなかったのだ。
スクードは軽く舌打ちをすると、起こした火を消した。
フードをかぶり、また歩き出す。
一刻の猶予も許されないのだ。
「待ってろよ、リベルタ。必ずお前からアリシヤを引き離してやる」
スクードの目には、暗い炎が燃えていた。
閲覧いただきありがとうございます。
次回から第七章「一族の男」がはじまります。終焉の紡ぎ手はこの章で折り返しとなります。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。あと半分ほどお付き合いいただければ幸いです。
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