表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/60

第三章 山賊の村3-3

村から出て五分ほどたったところ。

見たところ背の高い草が生い茂った草原だ。

そこのある一部を子供たちが、頑張って掘り返す。


「おお」


アリシヤは感嘆の声を上げた。

掘り起こした土から現れたのは隠し扉。

扉を開けると立派な階段がついている。


アリシヤはあたりを見渡す。

大人がいる気配はない。

だが、少々不味いかもしれない。

何かわかるかと思ってついてきたが、この階段を下れば子供たちの元締めがいて自分の命が危ういかもしれない。


何かあったらすぐ逃げること。

アリシヤは下手に結ばれた紐を勢いよく解く。


「あ、う、うわぁ!!」


それだけで驚いた子供たちが散り散りになって逃げていく。

自分が逃げる前に子供たちが逃げてしまった。


「ま、待って!」


残ったのは母親と同じ茶色い髪を長く伸ばしたピノだけだった。

ピノは泣きそうな目でアリシヤを見上げる。

だが、首を強く横に振り、覚悟を決めたようにアリシヤに階段を下るように促す。


「…安全が保障されない限り降りません」


アリシヤがそういうとピノは首をかしげる。

「保障」という言葉が難しかったのか。

アリシヤは問いを変える。


「この下に誰かいますか」

「いない。ここは子供だけの秘密。オトナにみつかるまえにはやく入って!」


村の入り口に男が一人立っているのが目に入った。

あたりを伺っている。

まだこの子供を信じたわけではない。

だが、男の動きは妙だ。まるで、侵入者を探すようなそぶりだ。

もし何かあれば子供相手の方が逃げやすい。

アリシヤは身をかがめてピノの指示に従い地下の階段に身を滑らせた。


***


土臭く、冷たい風が流れている。

階段を下りきると小さな部屋に出た。

アリシヤは息を呑む。

その端に剣や槍などの武器が置かれている。


「ここは?」

「ここは子供の秘密キチ。私が見つけたのよ」


ピノは胸を張ってこたえるが、その手は小さく震えている。

アリシヤを悪魔と思って怯えているのだろう。


「それで、私に何の用ですか?」


単刀直入にアリシヤが尋ねると、ピノが部屋の隅から大きな木箱を持ってくる。

開けると中には石や小枝などが入っている。

ピノが口を開く。


「これ、みんなの宝物あつめたの。アクマって宝物上げたら願いをかなえてくれるんでしょ」

「へ?」

「これ全部あげる。いるんだったらこの基地もその武器も全部全部!」


ピノがアリシヤの前に立つ。必死なその表情にアリシヤは息を呑む。


「だからお願い!エーヌの奴らを殺して欲しいの!」


ピノから飛び出した残虐な願い。

やはり子供は純真無垢なんかじゃない。

だが、ピノが冗談半分にそう言っているようには見えなかった。

アリシヤは腰をかがめ、ピノに目線を合わせる。


「ピノさん。先に言っておきます。私はそんなことはできません」


ピノが言葉を詰まらせる。俯き歯を食いしばったかと思うと、顔を上げる。

その目には涙が浮かんでいる。


「わかった…じゃあ、私の命をあげるから」

「へ?」

「私の命をあげるから!村を!お母さんを助けてよ!」


ピノの瞳から涙があふれた。

子どもは狡猾で、人を騙す。情に訴えかけて悪いことをする。そう思い込んでた。

だが、大人も同じじゃないか。

ピノに自分の中の子供というレッテルを張り、どこか見下し敵とみなしていた。


だが、違った。命を懸けてまで守りたいものがある。

アリシヤにも覚えがあった。

もし、アクマが願いをかなえてくれるなら、あの場でアリシヤは自分の命を賭してでもルーチェの生還を祈っただろう。

アリシヤは改めてピノと向き合う。


「ごめんなさい。ピノさん。私は悪魔ではありません。アリシヤというただの人間です。」

「…ただのニンゲン?赤いのに?」


目を丸くするピノにアリシヤは真摯に答える。


「ええ。どちらかと言えばただの人間なのに赤いのです。生まれつきそうなんです」

「じゃあ、私のおねがいは」

「はい、叶えられません」

 

そういうと、ピノの瞳からまた涙があふれてしまう


「じゃあ、意味ないじゃん…」

「いえ、皆殺し、という物騒な願いは叶えられないかもしれませんが、対策はとれるかと」

「タイサク?」

「えーっと…エーヌを追い払うことはできるかもしれません」


そういうとピノは少し俯く。


「本当?」

「はい」

「おねえちゃんは聞いてくれるの?」


涙目のピノの言葉にアリシヤは強くうなずいた。


ピノがぽつりぽつりと話し始める。

ピノが生まれて物心ついたころから、エーヌはこの村にいた。

エーヌの民を名乗る男たちは、時折、村に現れ、食べ物や金品を奪っていく。

少しでも抵抗しようものなら、男たちは村人に暴力をふるった。

そして言った。

俺たちはいつでもこんな村を燃やせるんだ、と。

その脅し文句が怖くて村人たちは従っているようだった。


そういうことなら、話も聞かずに扉を閉めた村長の態度も納得がいく。

戦わないのか、とピノはペルラに尋ねたがペルラは首を横に振るばかりだったという。

そこでピノら村の子供たちはどうしたらいいか相談しあった。


「でね、勇者様に助けてもらおうとしたの」

「え」

「でも」


ピノがしゅんと頭を下げる。

子供たちは村から出ることはできない。

まず王都がどこにあるのかも知らない。

そこで月に一回程度この村にやってくる行商人に手紙を渡すことにした。


アリシヤは納得する。

リベルタの持っていた『エーヌが出た』。

あの手紙はピノたちが出したものだったのだ。

だが、ピノから出た言葉は予想に反していた。


「笑われたの。勇者様はいそがしいから、そんな話きいてくれないって」

「え、でも、手紙は—」

「受け取ってもらえなかった」


ピノのはっきりした答えにアリシヤは唖然とする。

では、あの手紙は何だったのか。


「だから、勇者様じゃなくておねえさんに話したの…アクマは宝物を差し出したら子供の願いでもかなえてくれると思ったから…」


手紙のことは気になる。だが、今は目の前のピノだ。

アリシヤは気持ちを切り替える。


「事情はわかりました。今の話を勇者様にしましょう」

「でも…勇者様は忙しいから子供の言うことなんて」

「いえ、あの人なら聞いてくれるでしょう。大丈夫。話してみてください」


そういうと、ピノは少し表情を明るくし頷いた。

だが、その顔はすぐに曇る。


「でも、エーヌの奴らに聞かれたら村が燃やされちゃう」

「なら、村の外で聞いてもらいましょう」

「でも、子供は村の外には-」


アリシヤの耳が音を拾う。しっ、とアリシヤは人差し指を前にやる。

静かになった地下室に足音が響く。誰かがこの地下に潜ってきている。

アリシヤは、剣に手をかけピノを自分の背後に回す。


降りてきたのは男だった。

さっき村の前であたりをうかがっていた男だ。

男の手には短いナイフが握られている。


「大人しくしろ!」


男があげた怒号に、ピノがひっと声を上げる。

アリシヤはピノをかばい一歩前に出る。


「何用ですか?」


尋ねるとともにアリシヤは剣を抜く。男が怯む。

この男、戦闘慣れしていない。

直観的にアリシヤは察した。

ならば先手必勝。

アリシヤは素早く踏み込み、階段下にいる男の懐に入る。

男のナイフを跳ね上げ、そのまま剣の柄で男のみぞおちに一撃を喰らわす。


「ぐぁ…っ」


男が地面に伏す。横にとんだナイフをアリシヤは回収する。

息をついてのもつかの間、複数の足音が近づいてきているのに気が付く。


「ピノさん、後ろに」

「う、うん」


ピノをかばい構えたアリシヤ。

その目が見開かれる。

長いひげの初老の男性。村長だ。


「赤い人。これはどういうことか説明してもらおうか」


目の前には倒れた男。アリシヤの手には剣とナイフ。

村長の後ろには武器を持った男達。


「黙ってついてきなさい。弁解はそこで聞こう」

閲覧いただきありがとうございます。

次回「悪手と違和感」です。


ツイッター(@harima0049)にて更新情報など呟いております。よろしければどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ