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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
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国王付きのメイド兼参謀になりました

「…よろしいのですか、本当に、こんな素性もろくに分からない者をいきなり中核に入れるなど…」


私がマーシャを見ながら聞くと、

「これほど知識のある奴をどうして放っておける?」

とマーシャが向き直りました。


「サキは女のくせに戦争に詳しい、それも地図を見ての第一声が大雑把すぎて地形が把握できないときた!」


アッハハハと笑いながらペラリと地図を持ち、

「今までこれを見てそんな斬新な切り口から話し始めたのはサキが初めてだ。それもお前の国で起きたであろう戦争のことも色々と覚えているとみた」

マーシャはキラキラした目をこちらに向けて、

「それはとても参考になる。どうか俺に教えて欲しい」

と言ってきます。


「…」

私は軽く息をのんでマーシャを見ました。


驚いた、朝から今までサランとしか話さずほぼスルーされていたのに、あっという間に打ち解けてしまったかのようです。

しかも王だというのにこんな素性もろくに分からない女に対して「どうか教えて欲しい」ときました。


周りを見ると、あの私を嫌っている黒髪の人は私を睨んでいますが、他の人たちは多少目を互いに合わせてからどこか朗らかな笑顔で、

「いいのでは?」

「確かに。戦争中に広まる病気にも詳しいですし、他の国の争いごとの話は確かに参考にできますしな」

とまあまあの歓迎ムードです。


…この人たち、本当に戦争に直面してる人たちなんでしょうか、あまりにも和やかというか、大らか過ぎませんか?


「…しかし実際にここで戦争が起きたこともあるのでしょう?その方々にお教え願った方がいいと思われますよ。私は…そんな魔法使いなどいない所の出身なので」


飛行魔法使いは戦闘機、魔法騎士や歩兵魔法使いは戦車と考えてもいいのかもしれませんが。鉄で覆われていない生身の戦闘機と生身の戦車。


「魔法使いのいない戦い方というのも興味がある。色々と教えてくれ」

「…まあ、望まれるのであれば…」


「俺は反対です」


黒髪の人が立ち上がって私を睨みつけました。


「確かに知識もあります、我々が知らない事も話すこともあるでしょう、それでもこの国の出身でない者をこれ以上話の中に食い込ませるのは反対です!」


「落ち着けラッセル」

高年の騎士の人が私を嫌っている黒髪の人…ラッセルという人の背中をポンポンと叩いています。


なるほど、ラッセルという方なんですね。


「私はまあ…色々とありまして一度命を捨てようとしました。自殺しようとしたんです」

ラッセルという方に目を向けながら話しかけると、ラッセルは私に目を向けました。


「それでも私は生きていました。何が起こったのか自分でも分かりません、むしろ今でも本当は私は死んでしまっていて、ここは一風変わったあの世ではないかと少し疑っています」


何が言いたい?という目を向けられたので私も真っすぐに目を向け、


「結果的に私はこの国に拾っていただきました。一度捨てた命です、それなら拾われた所で望まれ、役に立てるのならこの命燃え尽きるまで尽くしたいと思ってます」


ええ、せめてまとまったお金が貯まるまでは追い出されたくないので、力を貸せというのならいくらでも貸しますとも。


ラッセルは私の言葉を聞くと何とも言い返しにくそうな顔をして、それでも何か言い返してやろうという気配がみえましたが、結局、フン、と鼻を鳴らし何も言わず椅子にどっかりと座り直しました。


見ると騎士姿の人たちは、

「女性でありながらなんて一本気な騎士道精神…!」

「俺もこうでありたい…!」

と軽く目頭を押さえ、上を向いています。


いいえ、別に騎士道精神なんてもの持ち合わせていません。どちらかと言うと武士道精神です。

…一緒でしょうか…?


「サキはやはりどこかの騎士の家の娘ではないか?」

「いいえ、私は平民です」


サランの言葉に私は軽く返しました。


マーシャは軽く笑いを押さえ、

「では皆が納得したところで話の続きといこう」

と少し顔を引き締めてから私に視線を移し、

「まずこちらのことがあまり分からないサキがいるから皆も知っていることも改めて言う」


説明されたのは今現在の情勢です。


まず隣国のローカル国は着々と戦争の準備を始めている、こちらも商人からそれを聞いてから少しずつ戦争の準備を始めているので後手に回っている状態。

先ほど長々と続いた必要な物資を集め、剣や槍、盾や鎧などの防具を多く作り、敵に備えようとしていること。


「ちなみにローカル国も魔法使いは居るのですよね?」

「もちろんだ」


私の質問に周りから声が飛んできて、私はそちらのおじさん…鎧は着ていないので大臣でしょうか?その方に目を向け、


「領空権はどうなっているのですか?お互いがお互いの領地に飛んで入ってしまうなどのことは」

「キナ臭くなる前は自由に行き来していたが、今では互いに行き来しないように言っているだろう。我がアバンダ国も向こうからこちらに入ってくるのであれば捕まえるように言っている」


「地上の行き来は」

「ローカル国とは今は断絶状態だな。唯一通れるのは各国の通行許可書を持っている旅商人のみだ。その旅商人からローカル国が戦争準備をしていると聞いた」


なるほどと私は頷いて、

「ちなみに届けられた手紙についてですが」

私が聞くとマーシャが私に目を向けます。


「内容は会いに来いという内容だと伺いましたが、それ以外はどうだったのですか?ハッキリと隷属(れいぞく)しろ、さもないと戦争を仕掛けるというのが暗にこめられていたのですか?」


「最初は親父が死んだことについての残念だった、という内容だったが…。二度目に届けられたのが気落ちしているだろうというのと、新国王の俺に対して自分の国まで来て会いに来いという内容だった」


マーシャは続けました。

招待したいというのなら喜んで、と言ったかもしれませんが、もてなすという事は一切書かれておらず、ただうちの国に会いに来いということだけだったと。

自分の元に来させ、頭を下げさせようとしているのは明らか。なのでマーシャは怒って拒否したと。


どうやら蒙古(もうこ)襲来(しゅうらい)のフビライ・ハーンのような脅しに似た手紙なのはやはり間違いないようですね。

それに対しマーシャは当時の鎌倉武者がしたような無視をするという事もなく、新しい体制になって今は忙しいので無理です、それぞれの貴族らに挨拶をしなければならないので無理です、父を弔うための鎮魂の儀式が数ヶ月先まであります、と日にちを置きながら返書をして丁寧に断っているので向こうも表だって何もできない状況のようです。


それでも段々とイライラしてきたのか、いつでも攻め込めるように戦争の準備をしている…、という所でしょう。


そしてアバンダ国とローカル国は昔から小競り合いが度々起きていましたが、マーシャのお父さんの働きで今ではほぼ対等の国として平和な時間を過ごしています。

その対等な関係を崩すということはアバンダ国の後の世代にとってもいい事ではないのは確か。


「…今はこちらで手紙を止めていると聞きましたが。返答はどうするんですか?」

「こちらから手紙を送るとしたら、正式にそちらと戦争をする旨をしたためた手紙になるだろうよ」


マーシャは、ふん、とかすかに怒ったように言います。


だけど…と私は言葉を続けました。

「私は前面的に戦わない道を模索(もさく)するべきだと思いますけどね」


マーシャの顔に怒りの色が浮かび、私を睨みつけました。

「なら戦わずに屈しろと?」


「戦わずして勝てるのならば、それに越したことはないと思いませんか」


少し目をぱちくりさせながらマーシャが私を見返します。


「そんな方法あるの」

とダンケが聞いて来ました。


「まあ兵士をあまり動かさず相手の戦力を削って勝てるかもしれない方法、というもので必ずしも上手くいくというものではありませんが」


「その方法は?」

マーシャに言われて私は、大雑把な地図に指を乗せました。


「ここら辺…うちの領地と隣の領地に近い町や村が結構ありますね」


まずアバンダ国の城や城下町は防御用の壁で覆われて壁の中を川も通っています。

その城壁の外にも点々と町や村があります。その向こうに広い森が広がっていて、その森の向こうにもアバンダ国の町や村が点々とあり、そしてそのすぐ隣に国境がありローカル国の村がある…という次第。


この地図を見る限り、上から半分より下までは国境はしっかりとした線が引かれていますが、そこから下は切り取り線のように点々と引かれている…。


つまりこの部分はお互いにどちらのものであってどちらのものでもないという曖昧(あいまい)な地域なのでしょう。


その曖昧な地域にも点々と人家らしき絵もポツポツと書かれているので人も住んでいるでしょうが、この辺りに住んでいる人にとって国境はあってないもの。日本でいう所の県境みたいな感覚なのではないでしょうか。


皆が身を乗り出して地図を見ながら目線で私に話を促すので、


「きっと今一番怖がっているのはこの国境付近の町や村の人々です。

曖昧な地域だからこそ先に手に入れれば自分たちの領土が増えるとローカル国も考えているでしょうし、そうなればここがお互いの国が衝突する激戦区になりかねない。そうなれば戦争に巻き込まれる危険もありますし略奪の恐れもありますから」


うんうん、とダンケも頷きながら真面目な顔で地図に顔を落としています。私は続けました。


「私の国では四百年前、このような国境近くの村や町は、城主…国と話し合いをして取り決めをしていたそうです。国がその村や町を略奪しない・襲わない代わりに、その国の味方になるという話し合いを。そうなればその地域が丸ごと自分たちの味方、領土になります」


本当は村などから城主にお金や人質を差し渡す代わりに城主はその村に乱暴(らんぼう)狼藉(ろうぜき)しないという取り決めなのですが、そこは黙っていましょう。平民の私は平民の味方です。


「そうやってこの…お互いの国境が曖昧なところに話を持ち掛ければ少しずつこの辺の人は味方になってくれますし、本当に略奪もしないとしたらアバンダ国に良いイメージを持って後々の政治も楽になります。

そして出来るのであれば相手方の家臣や手下に声をかけ、こちらの味方になるように持ち掛けます。こちらで働くともっといいメリットがある、こちらが勝ったらそれなりの地位を与えるなどでしょうか。

それが簡単に出来るとは限りませんが、このやり方なら傷つく人は少なく、相手の戦力を効果的に削ぐことができます」


気付けば私が一方的に話しているのに気づいて少し口を止め、以上です、と付け足して少し身を引きました。


「確かにいいやり方かもしれん。だがそんな裏からコソコソと手を回すようなやり方は…」

一部からそれはどこかやり方が卑怯だ、という顔が浮かび上がります。


「私の国、日本は数十年前の戦争で外国と戦い、負けました」


私の言葉に皆の顔が集中しました。


「その時の戦争は大変悲惨でしてね。私もその時代の戦争を習う度にガッカリするほどの悲惨さでした。兵士もですが、戦争に参加していない一般の人たちも大いに巻き込まれ大量の人が死んだんです」


私は騎士の人たちに目を向けました。


「堂々と正面から戦うのは確かに格好よく正義感あふれていて私も好きですが、戦争に参加していない人達からしてみれば危険もなく戦争が終わるのであればそれに越したことはないと思ってるに違いないと思いますがね。

平民の私としての意見を言わせていただきますが、戦争なんて上で取り決めてやるもので下の人々は基本的に我関せずですよ。自分たちのために戦ってくれる兵士たちには頑張ってもらいたいし無事に戻って来てほしいと思うでしょうが、上で決めた戦いに自分たちを巻き込まないでと思ってるのが一番強い感情だと思います。

なにより戦争なんて心からやりたいと望んでいる方はこの中いるんですか?ただ避けられないから戦争をしなければならないと思っているだけではないんですか?違うんですか?」


おっと、また熱くなって語ってしまいました。以上です、と言って私も黙り込みます。


「…」

騎士の方々は軽く口をつぐんで黙り込み、誰も何も言わずシン、とした静かな時間が流れます。


「…サキの言いたいことはよく分った」

静寂を破ったマーシャの言葉に全員がマーシャに目を移します。


「戦争は避けられん、それでもけが人が少なく勝利で終えられるというのならそれに越したことはないと俺も思う」


マーシャは全員に向き直り、

「サキの言う事は騎士道精神からは確かに遠いやり方だ。それでも俺だって戦争なんてやりたくないしお前たちも国民も無駄に傷つかせたくない。どうだろう、サキのやり方でまずやってみるというのは?反対意見は」


全員…ラッセルも何も言わず、意見はまとまったようです。


っていうか本当にいいんですか、ただ私熱く語っていただけなんですけど。


マーシャもその様子を見て私に向き直り、

「さて、これからが忙しくなるぞサキ」

と手を差し伸べてきました。


私はその手を見て少し戸惑いました。これ、握手したら本格的に参謀として活動することになるんですよね?


私はただ武士、侍、武将。戦国時代や江戸時代が特に好きなだけの女子高生なんで、そんな参謀にと言われても困るんですが…。


まごまごしているとマーシャは、

「どうした」

と言いながら手をズイッとこちらに伸ばしてきます。


西洋人の圧の強さにほぼイエスマンとしか化せない日本人の弱さのせいか、私は反射的にその手を握り、握手をしてしまいました。


マーシャはガッチリと私の手を握り、微笑みながら何度か手を上下に揺らします。


「頼んだぞ、メイドの仕事と、参謀の仕事を」

「…ああ…はい…」


清水サキ十七歳。国王付きのメイド兼参謀になりました。

祖父が存命で病院の四人部屋に入院している時、南方方面に出兵した人が居たらしいんです。とにかく逃げてて、そうしてるうちに戦争が終わったのを知って日本に帰り、ただいまーと家に入り、仏壇を拝もうとすると自分の遺影が飾ってあって「ええ!?帰ってきたのに俺死んでるの!?」と驚いたと。


「一回死んだんだから、長生きしねえとなぁ」

とニヤニヤと語っておられたそうです。

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