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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
大変な方々
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テーブルマナーはお得意ですか?

「しばらくの間、泊まっていく…!?」


マーシャの言葉にマーシャのお姉さんの二人、マリーとメリーが同じタイミングで頷きました。


「元々ここで過ごしていたのです、何か問題でもありますか?」


「もちろん私たちの旦那様も一緒にですよ」


綺麗な所作で食事をしながら双子のお二人は(おおやけ)の場用の淑女(しゅくじょ)たる微笑みを浮かべてマーシャに告げました。


こうしていると本当にあのギャルのごときのあのしゃべり方が別人のよう…。あ、ちなみに婚約者として私も共に食事をしています。


メイドの時にはマーシャが食べ終わるまでに手早く別の部屋で食事をしていましたが…でも正直、一人で食べたい気分です。


わかりますか?


周りは食事マナーの完璧な人たち、そして私なんてフルコースを扱う店に一度も訪れたことのない女子高生もとい若造です。

食事マナーなどろくに知りもせず、言われてもろくに上手く出来ずでかなり苦労しています。


私は目の前にあるコーンスープに目を移します。


特にこれですよ…このスープ…。


私は憎い敵だとばかりにスープを冷ややかに見下ろします。


分かりますね…?食事マナーでスープは音を立てずに飲むものとされていますが…。

私は普通にマグカップからズズーと音を立てて飲み、スプーンを使ってもズッと吸いこむというようにひたすら吸い込んで飲むのが主流でした。だって日本人ですから。


日本ではヌードルハラスメントという、外国の人が麺をすする音(とにかく音を立てて口に入れる音全般でしょう)が耐えられないというハラスメントがあると言っていましたが、正直日本に仕事か学業で来てるならまだしも、遊びに来ていて耐えられないなら帰れ、ローマに入ったらローマに従えという言葉を知らないのかと(いきどお)りを感じていましたが…。


ここでは私が従わなくてはならない立場です。


むしろコーンスープは好きなんですよ、そしてこのスープはとても美味しいんですよ。けど上手に食べられないから全員の前では手をつけにくくて…。


しかも私を嫌っているマーシャのお姉さん二人にその旦那二人の前で醜態を晒したらマーシャの面目に傷がつくというもの…。


クッと私は唇を噛みました。

皆どうやって音を立てずにスプーンでスープを飲んでいるんですか…!?


と、それに目をつけられたのかメリーがこちらを見てきました。(今は隣にいるミリガンとメネスでどちらか見分けています)


「あら、スープに全然手をつけていらっしゃらないのね。サキさんのお口に合わないのかしら」


「いえそういうわけでは…」


「だったらお飲みすればよろしいではないですか、とても美味しいですわよ」


メリーの言葉に全員の視線がこちらに集中しています。


わざと…?私がスープを飲むのが苦手なのを知ってわざとそんなことを…?

いやまさか、私がスープを飲むのを苦手としていることなんて…いや、食事の場に立っている料理人や召使い、それにメイドの方々も見ていれば苦手そうだと思ってるかも知れませんけど、初の食事風景を見て悟るだなんて…。


「召し上がらないの?」


マリーもそういいながら私をせっついて来て…。


「…」

わざと?やはりわざとですか、これは…?


お二人の顔を見ると高貴で慈愛に満ちた眼差しをしているので、本当に美味しいから食べなさいと促しているのか意地悪で促しているのかさっぱり分かりません。


それでも逃げられないと察し、私は意を決してスプーンを手に取り、スープにスプーンを浸し、恐る恐る口に運び、スプーンに唇を当てます。


音は立てるな、立ててはいけません、少なからず皆の注目が集まっている中で粗相(そそう)があってはマーシャの面目に関わるのですから…。


それでもすすらないでコーンスープを口に入れるってどうやって…!?私はわずかに首を後ろに傾けようとしましたが、いやこれは行儀が悪いのではと首を元に戻し…。


「うあ」


コーンスープがスプーンからこぼれ、口の周りからあごにかけて流れていきました。


私は慌てて手でぬぐいますが、待って、これも行儀が悪いとナプキンを掴んで口の周りをぬぐいますが、あれ、ナプキンを使うときって折り畳んでから使うんだっけと慌てておぼつかない手で折り畳み…。


するとフフッと笑い声が聞こえてきたので顔を上げると、マリーとメリーの両名がクスクスと笑いをこぼしながら私をみています。


「落ち着きになられて」

「誰も急かしてはいませんよ」


その弓なりになった二人の目を見て私は確信しました。


わざとだ、この二人はきっと誰かから私の食事マナーがなってないのを聞き付けてわざとせっついたんだと。


私は恥ずかしさとマーシャへの申し訳なさでかなり心を痛めながらもぞもぞとナプキンを折り畳みますが…むしろもう何が正解なのか分からなくなってきました…。

こんなことならすることがなくて暇だと嘆いてる間に誰かから聞くなりして練習しておけば良かった…。


するとマーシャが肩を掴んできたのでそちらに顔を向けると、ナプキンで口の周りをグリグリとぬぐわれました。


「…」


急に口の周りをぬぐわれて驚いてマーシャを見ていると、マーシャは何事もなかったかの用にナプキンをさっさと折り畳み、


「サキの生まれたニホンでは液体状のものはすすって飲むらしくてな。こちらのやり方にはまだ慣れていないんだ」


「すする?スープを?」


マリーの驚いた言葉にマーシャは頷き、メリーが、まあ、と目を丸くします。


「すするなんてお行儀が悪いわ。それとも民間の方々はそれが普通なのかしら」


さりげなく馬鹿にしてきますね。ラッセルのクセになる嫌味とは違う、明らかに悪意のある嫌味です。


これには私もムッとなります。


「…私の生まれた国では、蕎麦(そば)という麺がありました」


私が嫌味への返答ではなく全く関係の無い話を始めるので皆が黙りこんで私を見てきます。


「蕎麦はのど越しと味もさることながら香りを楽しむものです。すすることで蕎麦の香りが鼻に抜け、舌と鼻どちらでも料理を味わうことができるんです。料理への追及でそのような文化が根づいたと言っても過言ではありません」


本当はどうだかわかりませんがね。どうせこちらの世界ですすり文化へのうんちくを語れる人なんていないのでそれらしい事を語らせていただきました。


そしてすすって口に入れるのは文化と言われてはあまり嫌味も言えなくなったと見えて、マーシャのお姉さん二人は一旦口をつぐみました。


良い判断です、国のトップに近い方々が他の国の文化をどこまでも行儀が悪いだの何だのとケチをつけていたら、最悪戦争に発展してしまいますからね。


私は続けました。


「しかしこちらでは行儀が悪いというのは知っています。ですがこの十七年もの間、私はスープなどはずっとすすって来ましたし、食事マナーなど一度も習ったこともない庶民ですのでマーシャ様の言うとおりまだ慣れていないのです。

ですがこれから少しずつでも慣れていく所存でありますので、それまではどうか平にご容赦を」


一旦ナプキンを置いてスッと頭を下げ、数秒もの間そうしていると、ククッと笑いを噛み締める声が聞こえてきたのでわずかに顔を上げました。


見るとミリガンがナプキンで口を押さえながらあっちの方を向いて笑っています。そして笑いを(こら)えた顔でマーシャを見て、


「国王の婚約者殿は元メイドではなく騎士でしたかな?今の一瞬で鎧をまとっている姿が見えましたね」


その言葉にボッとメネスが吹き出し、慌ててナプキンで口を押さえてから、ケラケラ笑っています。


「そうですね、以前お会いした時にも思っていましたけど、サキさんは淑女というよりナイトと言い表した方がしっくりします」


「マーシャ様は嫁と騎士を同時に手にいれたようなものですな、いや参謀でもありますか。いや一人で三役もやれるのだから大したものですよ」


「色々な方面からマーシャ様を支えられそうですね」


「…」

お姉さん二人はかすかに面白くなさそうな顔で黙りこんでいます。


何気なく自分の旦那が自分たちの気に入らない女を褒めているのと、成り行きでも私が男性陣に助けられたような結果になったのも気に入らないのかも。


それにしても参りましたね、こんな風に嫌がらせを受けるなんて…。これから先が思いやられます。


それでも目下の目標も出来ました。まずは食事マナーの一流化、あとは今の会話で思い付いたことを…。


* * *


「はあ?剣の練習?」


マーシャがすっとんきょうな声を上げて私を見てくるので私は頷きながら続けます。


「そう、剣の練習でもしようかと…」

「馬鹿言え」


一言で終わらせられそうになり、私は慌ててマーシャの腕にしがみつきます。


「先ほどミリガン…さんとメネスさんも言ってらっしゃいました、私は騎士のようだと…」


「それは性格が、という意味で実力がということじゃない。王妃になろうとしている者が何故わざわざ危険に身を投じようとしているんだ」


女だからやめろ、という理由ではないのですねとりあえずは。

わりと地球上では男尊女卑文化が長かったのでこちらもそうかも…と思っていましたが、まず性別でやめろという考えがないのならしめたものです。


「私の国の話なのですが」


マーシャはいつでも日本の話となるととりあえず話を聞く構えになります。どうやらこことは全く関わりのない別世界の話だから気になるようですね。私は話を続けました。


「戦国時代、王家に嫁いだ女もそのメイドたちも戦いに備え、自らも武芸の腕を磨いていました」


「なん…だと…!?」


マーシャは一気に話に引き込まれて私の方に向き直ります。


「戦いに明け暮れていた時代でしたので、いつ何時敵が城の中に攻めてくるか分かりません。ですので女性もある程度自らも戦えるように武芸を習い、いざとなれば国王がいない時に城を守るため最低限戦えるようにしていたのです」


まあ、全員が全員というわけではなかったでしょうが。


マーシャはそう言われるとなるほど…という顔になりましたが、それでも私が剣を持つのはあまり認めたくなさそうな顔つきです。


「ダメですか。城下町への手伝いは快諾してくださったのに」


先の城下町襲撃で未だに怪我をしていたり、住むところも無い方々が多くいるんです。

今までもせめて以前のように怪我人たちの所に包帯を持っていったりシーツを洗うなどの手伝いでも…と思っていました。

それでも将来の王妃がそんなことをしなくてもいいと大臣たちに止められていたので、もうマーシャに直接お願いしてそこは承諾を頂きました。


何もやらず黙ってそこにいるだけなんて死んでるも同然、まるで空気になってしまったようだ、こんな状態が続くなら正体を隠してこっそりと手伝いに行くと訴えたらこいつは本当にやりかねないと危惧(きぐ)したらしく、それについては警護付きならという条件つきでさっき承諾を頂きました。


「剣の練習ができればいざと言うとき自分の身も守れますし、マーシャも守れるかもと思ったのですが…」


そのような考えを伝えると、マーシャは少し私を見てからフイと視線を逸らし、もごもごと何かを言っています。


「…はい?」


全く聞き取れないので体を寄せると、マーシャは顔を赤くして視線を明後日の方向に向けながら、


「…どうせなら俺が、その、俺が、サキを、ま、ままま、守、守…」


マーシャはそこで口をつぐみ、


「もういい!何でもない!」


と腕を組んで体ごとあっちを向きました。


「…」

俺が守ってやるということですか、どうしましょう…キュンとなります…。

本当にスプーンから音を立てずにスープを飲むのってどうやってんの?

ダイソンなの?ただ一つの吸引力なの?

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