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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
大変な方々
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三人の男

「本当にすまない…。あの二人はいつもああなんだ、思ったことは言葉の選別なんてしないで人を傷つけ、怒らせることも平気で言う…」


中庭まで来た私たちはベンチに座り、座ると同時にマーシャは膝の上に肘をのせ、そして手を組んでその手に額を当てて…と酷く落ち込んでる姿勢のまま私に謝ってきます。


私はマーシャの肩に手を当てて励ますように軽くさすりながら、


「マーシャ様は何も悪くないですよ、そんなに落ち込まないでください」


と声をかけました。


それでもマーシャの落ち込んだ表情と姿勢は変わらず、地面に落ちるのではというほどの重々しいため息が漏れていきます。


「…それにしても、前にお会いした時と印象が違いますが…」


以前、貴族たちと戦争についての話し合いと私の紹介が行われた時、マーシャのお姉さん二人は今と変わらず私が気に入らないという表情をしていましたが、あんな話し方ではなく、


「あなたサキさん…とおっしゃるのね?いいこと、マーシャのメイドだからって思い上がるような真似はしないことよ。あなたはあくまでも従者であり王に使える身であることをお忘れにならぬよう肝に命じておきなさい」


とか、


「いいですか、サキ。今までマーシャはメイドたちに散々な目に遭ってきました。従の者が主人を脅かすなどあってはならないことです、もしあなたもそのようなことをするとしたら…どうなるか分かっていますね?」


と厳しい口ぶりながらも理路整然と新人メイドである私に教え諭し、マーシャを心配しているというのが分かる話し方をしていました。


だから私もこうやって離れていても心配してくれるお姉さんがいるなんて羨ましいと思った訳で…。


「さっき見たのが本当の性格だ。(おおやけ)の場や嫁ぎ先では王族の皮をかぶってる」


姿勢を変えないままマーシャは言い切りました。


「…そうですか」


まさか本性があんなギャルっぽい方々だとは思いもしませんでした。

初めて会った時はなんて厳しいながらにキッチリとしつけてくれる人だろう、こんなしっかりとしたお姉さん方なら仕事相手としても個人的にも話が合いそうと思っていましたが…。


ギャル…。


私も軽く思い悩んで空を見上げました。


私は日本でもまんべんなく人と話せていました、もちろんあのように一般的にギャルと呼ばれる方々とも。ちなみに私が見る限り一言でギャルと言っても全員が同じ性格でもなし、様々なタイプの方々がいました。


それでも私はそうでもなくても一方的に苦手意識を持たれることももちろんありました。


それがマーシャのお姉さん方タイプの「過去も未来もどうでもいい、とにかく今の一瞬に弾ける享楽(きょうらく)タイプ」のギャルです。


そんなタイプの方々と私は本当に話が合わないんですよね。


…あれは授業でグループを組んで最後にグループでまとまった考えを発表する時のことでした。


私はあれこれと先のことを考えながら順序よく物事を進めようとする中、


「めんどーい」

「やりたくねー」


とウダウダしていて、私はやりたくなくてもひとまずやらねばと諭すとムッとなって、


「知ってるし」


と言うわりに二人で別の話で盛り上がりだし、結局同じグループの真面目な子たちで発表と相成りました。


結局話し合いに参加すらしない…と苦々しい気持ちになっていると、当の本人たちは「あー終わったぁ」と言いながらやり遂げた顔をしていて、あなたたちなにもしていないじゃないですか…!と軽くキレて指摘すると、またムッとなって、


「はいはいすいませーん、スイマセンデシター」


と不愉快そうに気の乗らない謝罪をしてきたのを覚えています。


向こうは向こうで私の真面目に諭す言葉は(しゃく)に触るようですし、私は私でその場限りの気持ちのみで言動する彼女たちにイラつくという…。


普通に会話できても分かりあえることはないだろうと思ったのがそんなタイプの人たちでした。


参りました、と私も軽くため息をついて空を見上げると、マーシャはハッとした顔で私に目を向けます。


「…そうだな、呆れただろうな…王族だというのに礼儀も何もあったものじゃない…」


「ああいえ、そこではないんです」

「じゃあなんだ?」


マーシャの言葉に私は言ってもいいものやら…と口をつぐみましたが、いいから言えと目で言ってくるマーシャに押されて今思った事を伝えました。


「ですからお互いに正反対なんです、私の性格とマーシャのお姉さんたちの性格は。それを考えるとこれから先仲良くやって行けるかと心配になって…」


その言葉にマーシャはヒヤッとした顔になり、


「ま、まさかあの二人のせいで婚約を解消するなんてことは…」

「あり得ません」


ピシャリと私は返しました。


「私はマーシャに連れ戻された時に全身全霊をもって我が身尽き果てるまでマーシャに尽くすと誓いました。もうその意思は揺らぎません、尽くさせてください」


真っ直ぐマーシャの目を見ながら言い切ると、マーシャは目を瞬きし、恥ずかしげにチラチラと背けて軽く反対側を向きながら、


「もっと言い方はどうにかならないのかお前は…婚約者じゃなくて騎士を相手にしてる気分になる」


責めるような口調をしてきますが、見る限り照れ隠しですね。


「好きなんです、尽くさせてください」


「…」

マーシャは真っ赤になって両手で顔を覆い最初の落ち込むような姿勢になりましたが、これは照れてるだけですね。


私は可愛いらしいと口端を上げました。この二週間ほどで私のマーシャをおちょくるスキルも随分上達しました。


それにしてもいつになったらマーシャはこういう言葉に慣れるんでしょうね。まあ照れてる姿が可愛いので慣れないなら慣れないままでいいんですけど。


うつむいてるマーシャの背中を撫でているとフフ、と漏れるような笑い声が聞こえて来ます。


そちらに声をかけると、男性が立っています。ええと短い金髪であごひげを生やしている三十代ほどのエレガントな雰囲気のこの方は…。


そうだ、あの双子のお姉さんの方の旦那の…。


「ミリガン様」


私がそう言って立ち上がって頭を下げようとするとミリガンは軽く手で押し留めて笑いながら近寄って来ます。


「まだ婚約中だとはいえ、いずれ私はあなたの配下になるのですよ?先に頭を下げるのも様をつけるのも結構」


そう言いながらもニヤニヤとあごひげをさすり、


「それにしてもなんて初々しいお二人でしょう、羨ましい、私は三十路を越えてからマリーを嫁に迎えたからそのように初々しいやり取りをすることもなくてね」


マリーとはあの双子のお姉さんの名前です。ちなみに妹の方はメリーと言います。顔も似ていれば名前も似ているという非常に混乱しやすいものになっています。


「…」

マーシャはミリガンの言葉にうっすらと顔を赤いままにしてわずかに睨み付けながらも立ち上がり、


「姉もろとも元気そうで何よりだ」


と言っています。そしてミリガンを見ながら、


「マリーとは…うまくやっているのか?」


と聞きます。ミリガンはデレッと表情を崩し、


「そりゃあうまくやっているとも。あの子は立派な淑女だからね、歳の離れた私にも甲斐甲斐しく尽くして、時には諌めて…立派な妻だよ」


「…なら、いいんだが…」


マーシャは微妙な表情で口をつぐみます。何となくミリガンの言い分とマーシャその表情から言いたいことは分かりますよ。

きっとマーシャのお姉さんであるマリーはミリガンの前でも公の場でのキリッとしたレディの姿のみを見せていて、


「マジウケる(スマホ内臓の絵文字)」


なんてギャルのような姿は一切見せていないのでしょうね。


それを考えたらかなり器用な方とも思えますね、四六時中共にいる…それも旦那である方にちっとも悟らせやしないのですから。


私には無理ですね。人によって口調も性格も変えるだなんて…。


でもマリーのような方のほうが人生を上手く渡っていけるのでしょう、思えば私が腹を立てていたギャルのあの子たちも非常に明るくて生徒からも先生からもよく声をかけられて大いに皆を巻き込んで笑っていました。


そのように人を巻き込み明るく生きていけるような所は私には無いものですね。

どう頑張っても私は楽しくなければ笑えもしませんし、人を巻き込んで笑顔にするというのも…正直向いていません。


むしろ私と相対(あいたい)する人はどこか背筋を正すことが多かったんですよね。話せば案外ときさくだけど話しかけるときちょっと緊張する、とよく言われていましたし、先生方にももっと笑顔になれないものかと言われていましたが…。


やっぱり楽しくなければおべっか笑いもできません、私は。


「しかし二人同時にやってくるとは…」


マーシャが苦々しい顔でそう言うとミリガンは別の方向に目を移して軽く笑いを含ませ、


「もう少しでメネスくんもあなた方に挨拶に訪れると思いますよ、今こちらに走ってくる音がする」


メネスとは双子の妹、メリーの旦那さんです。確かミリガンとは違い、私よりも年下の…。


「あっ」


高めの声が聞こえ、明らかに少年といった見た目の男の子がこちらに駆け寄ってきます。


「お久しぶりにお目にかかります、ご機嫌いかがでしょうか」


目の前で止まった黒髪で浅黒い肌に黒い瞳の子が大きい目で私とマーシャを見上げて来ます。


「お部屋にいると聞いたので伺ったら出ていかれてしまったとメリーから聞いて…」


「…二人には手間をかけさせたな、悪い」


マーシャも軽く謝りました。用があって城に来た貴族などはまず国王に軽く挨拶しなければならないので、部屋から飛び出してしまったマーシャをこの二人の旦那さんたちは今まで探し回っていたのだと思われます。


「あ、いえ、そんなつもりで言ったわけでは…」


メネスは慌てて手を動かし、ミリガンは笑いながら、


「それでも声をかけず二人きりにしていた方がよろしかったかな?私もわずかに躊躇するほど微笑ましい光景で…」


とマーシャをからかっています。


年上のマーシャに気を遣うメネスと年下であるマーシャをからかうミリガン…ある意味対照的な対応ですね。

マーシャはミリガンの言葉に顔を赤くし、ムッとなった顔になりながら、


「そんなんじゃない!」


と怒りますが、ミリガンは余裕のある態度で「あっはっはっはっ」と軽快に笑っています。そしてメネスはマーシャにあわあわと手を動かし私をチラチラと見ながら、


「マーシャ様、そんなんじゃないとサキ様の前で言うのはお加減がよろしくないかと…」


と言い、マーシャもハッとした顔で私に視線を移して、


「あ、いや、別にそのような意味で言ったんじゃ…」


と慌てています。


三者三様の態度の違いにおかしくなってきて私は口を引き結んでプルプル震えていました。

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