プロローグ的な
私は清水サキ、十七歳。女子高生でした。
…どうして「でした」と過去形なのかと?
それは私が地球上に居たときの話です。
ああ、私は今地球上には居ないんです。今は非常に後悔していますが、実は学校の屋上から飛び降り自殺をしたんです。
意味が分からない、何で?自分は二章から読み始めたという方はまず一章の冒頭からどうぞ。
私も最初何が起こったのか理解できず、今いる所は死後か死後の一つ前の世界かと思っていたんですが…。私もどんなことでこうなったのか理解できないのですが、私は魔法もありペガサスもいるというこちらの不思議な世界で元気に過ごしています。
まあそんな成り行きで王族の住まう城にたどり着き、成り行きで女嫌いの国王マーシャ付きのメイドに、そして侍好きが高じて手に入れた戦の知識でマーシャから参謀に任命され…まあ、何といいますか…、そのですね、マーシャの嫁として嫁ぐことになりました。
いやはや、世の中何が起きるか分からないですね。
自殺したと思ったら妙な世界にたどり着いて、今まで一度も異性とお付き合いしたこともなかったのにいきなり交際などをすっ飛ばして人妻となるんですから…それもまだ高校生という若い身空で出逢ってから二ヶ月足らずの人とスピード結婚コース…。
こんな状態になっても何となくまだ信じられませんね、絶対に私は晩婚か、言い寄る異性も好きになれる異性もおらず独身で過ごすであろうと思っていたので…予想外過ぎる展開です。
それでもまだ正式に嫁いでいないんですけどね、戦後処理もありますし。
まず城下町もある程度まで復興させて周囲の国にも戦争が締結されました、というのをアピールして以前の国同士の行き交いが通常に行われる状態になってからマーシャとの婚儀に入るとの話を聞いています。
だから今はマーシャとの関係性は婚約者ですね。そんなわけで私も一度城を出ましたが、再び城で暮らしています。
私的には以前と同じくマーシャのメイドをして参謀的に色々とする気満々だったのですが、メイド的にあれこれとしようとすると、
「なにを…!マーシャと婚約したのでしょう!?いずれ王妃になるお方がそのようなことしなくてもよろしい!」
と仕事をことごとく取り上げられました。
そして何をするのかといえば、何もしません。
ただ皆と会話をして…。会話をして…。
…。
…城に戻ってから数週間、本当になにもやってません。
皆の言い分としては後の王妃が細々(こまごま)とした仕事をしなくてもよろしい、王妃の体に何かがあれば大変だからというものらしいのですが…。
それでも私の望みは…。
「仕事が…欲しいです…」
ドア越しにラッセルに声をかけると、ラッセルはこちらに振り向きました。
「おや、未来の王妃が臣下に頼み事とは…そんな事ではいずれ俺に弱味を握られますよ」
ラッセルも私に対して敬語になりました。
それにしてもラッセルが敬語を使うと本当に嫌味臭い口調になりますね。
「本当にやることがなくて…」
「そりゃあ王妃をあごで使うなど言語道断だろう…おっと、でしょう」
「無理に敬語にしなくても構いません、以前通りにしてください」
何となく普通にタメ口や気さくに話していた騎士や大臣、メイドの方々にもかしこまった言葉で話されると調子が狂います。
「それにやることがなくて…暇で…」
「本でも読んでいたらどうだ」
ラッセルはラッセルで私に敬語を使うのに慣れないのか私の言った通り敬語をやめました。
それでも…皆が働いてる時に一人読書とか…。
そんな私の顔を見たラッセルは鼻で笑ってこちらに体を向け、
「女嫌いのマーシャ様が見初めた女なんだぞ、お前は。他の女じゃ駄目なんだ、お前でなければ。そんなお前に何かあって傷物になって子供が産めない体になったらどうする?どこかの誰かのように一連の責任を負って役職を辞して城を出るなどして済む話じゃなくなるんだぞ?」
「…」
ああ、この嫌味の連続。クセになります。
やっぱりラッセルはへりくだってるよりこうでなければ。
「…サキ」
聞こえてきた声に私はパッと顔を後ろに向けました。
「マーシャ様」
私は好意を寄せる人の声が聞こえたので嬉しく思いましたが、マーシャはどこか面白く無さそうな顔でこちらを見ています。
「…いかがしました?」
マーシャの近くに寄って行くとマーシャは面白く無さそうな顔のまま目をそむけ、
「…何で気づいたらラッセルの側にいるんだお前は…」
とボソボソと文句を言っています。
「ラッセル様の私への嫌味が中々楽しいもので」
「国王の前で臣下を陥れるようなこと言わないでもらえますか、王妃の発言で国王が臣下を殺すこともあり得るのです、これからは言動に注意していただきたい」
ラッセルが後ろから最もなことを突っ込んできました。そしてこの人、他の人の前では私に敬語を使うことにしたんですね。
…でもそうですね、いずれ臣下ではない位の高い立場になるのですから、ちょっとした冗談でも冗談で済まされなくなることもありますか…。
私は今の発言を取りなそうとマーシャに向き直り、
「好いているという事ですので、どうか勘違いなさらないでください」
「余計悪くなったわ、馬鹿が」
イラッとしたラッセルの言葉が飛んで来て、マーシャも一気に面白く無さそうな顔で腕を組み、あっちの方向を睨むように視線をそむけました。
「え…だってマーシャ様もラッセル様のことはお好きでしょう?嫌いだったら大臣に取り立ててないでしょう?」
何でそんな顔をするんですかとばかりに問いかけるとラッセルはため息をついて額に手をあて、
「男女間の機微というのが全く分かっていない…」
とポツリと漏らします。
それは否定できないので黙りこんでいると、マーシャは私の手を掴んでズンズンとラッセルの部屋から私を連れ出しました。
…ああ、ちなみに城の中枢の方々…大臣や騎士のトップクラスの方々は各自城の外にも実家はあるんですが城の中にも個人の部屋があるんですよ。
寝泊まり自由な職場のオフィスみたいなものですね、それでもラッセルは自分の部屋より外で本を読むのがお好きみたいですが…。
「またラッセルのことでも考えてないか?」
「え?ええまあ、はい」
良く分かりましたね。
簡単に肯定するとマーシャは面白く無さそうな顔で立ち止まって私に向き直り、上から見下ろすように私を睨みつけてきます。
「サキは俺の婚約者なんだぞ!?それなのになんだ、お前は気付けばラッセルの側にいて楽しげに話し合いやがって!」
やがってとはまた口の悪い…。
「だって…マーシャ様は戦後処理で休みなく働いていますし、休憩の時くらい一人で気を抜きたいのではと…」
「休憩の時くらい隣にいろ馬鹿!」
マーシャはイライラの延長で怒鳴ってきます。私は疲れたら一人になりたいタイプなので気を使ったつもりだったのですが…。そうですか、マーシャは別に一人じゃなくてもいいタイプですか。
…それより…休憩の時くらい隣にいろ、と…。
ここまで直球で言われると…嬉し恥ずかしという感じですね…。
恥ずかしさで顔に昇る熱を感じながら視線を床に下ろし、
「申し訳ございません、次から気をつけます」
とモゴモゴと返すと、マーシャも私の言葉で冷静になったらしく、一気に顔が赤くなって視線を背け片手で顔を隠しました。
そうやって何とも気まずいような次に何を言えばいいのか分からない時間が過ぎて行く中、向こうから大臣見習い兼飛行魔法使いのサランが走って来るので私もマーシャもそちらに視線を向けると、近づいてくるサランの顔が何だか緊張に満ちて引きつってるように見受けられ…。
その顔を見たマーシャも何かトラブルでもあったのかとまだ赤い顔ながら国王らしい引き締まった顔でサランに向き直ります。
「どうかしたか」
サランもこちらにたどり着く前から大声で、
「マーシャ…!大変だ、大変な方々が来てしまった…!」
と呼びかけます。
何となく一波乱ありそうだという予感が私の中によぎりました。
ダンケ「サキに好いてるって言ってもらえていいなぁ。俺も言われたい」(※婚約者あり)
ラッセル「まあ満更悪い気分ではなかったな」(※婚約者あり)
サラン「お前ら…」