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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
24/32

血を流さない領土争い

「オーエス!オーエス!」

「もっと引っ張れぇええ!」

「コラァアア!うちの国が負けてるぞぉおお!」


目の前で大いに盛り上がっている綱引きが行われています。


これは領地を賭けての綱引きです。


お互いが綱引きをして、綱引きで勝った国の大将が的に矢を三回射て、その的に書かれた数字分、自分の領地が広がる…という日本で昔あったという勝負です。


化け物に変化した牧野さんが人の形になって倒れた後、牧野さんはアバンダ国の医者の所に担ぎ込まれました。もしかして死んだのではと思っていましたが、外傷もなくただ気絶しているだけだったそうです。


そして改めてマーシャは加勢に来てくれたジャイロにお礼を言いながら握手をしていて、ジャイロは私をジロジロと見て、

「うちの弟がねえ、随分と君に良くしてもらったみたいでねえ。弟はアバンダ国は悪い所ではない、こんな風に傷の手当てをするよう医者に進言して傷の心配をしてくれていると必死に守るような事を毎日毎日蜂に音声を吹き込んでてねえ、どうやら情にほだされてしまったみたいだねえ。

怖い怖い。敵地の女の子に命を助けられて毎日怪我の具合を心配されたらどんなに屈強な男であれコロッといってしまうだろうよ」

とどこかニヤニヤと笑っていました。


しかしあの金髪の人…タービンでしたっけ、情報が手に入らないとか動けないとか油断させておいて、情報流す気満々だったんじゃないですか…。まあ、今回は良い情報が流れたので加勢してもらえたんですけど…。


やられた、と思っているとジャイロはマーシャに視線を移すと顔を引きしめ、

「ただし、弟を含む衛兵騎士四名が我が国の意向とはそぐわない行動をしたことは、国王である父の代わりにここで陳謝する」

と胸に手を当て、頭をグッと下げました。


マーシャも顔を上げて、と言いながら、

「こちらも、略奪はしないという名目で我が領地としようとしたが…兵士の下の方まで命令と教育が行き届かず数々の略奪で混乱させたこと、ここに深く詫びる」

と頭を深く下げました。


ジャイロはクッとおかしそうに笑い、次第に大笑いして、

「おかしいな、敵対していた同士の王族がこんな道端で頭を下げ合っている」

と言いながらも、

「親父は勝手にあの曖昧な地域を一方的に奪われたことについて大いに怒っているぞ。あのままだとまだ戦争が続きかねない、うまく説得してみろ」

と気の抜けた顔になって正装しているマーシャの胸にドンと拳を当てました。


「それなら私たちの国に実際にあった、血も流さない一風変わった領地の決め方があるんですが」

と上の通りの綱引きの説明をしていると、

「それなら君が父を説得してみればいい。君の発案なんだから」

とジャイロが言ってきました。


マーシャを思わず見上げると、マーシャは私を気遣うかのような顔をしているのを見ましたが…。


「…私が出した案です、最後まで責任を持ってやらせていただいてもよろしいでしょうか…?」


怖いと尻尾を巻いて逃げたのに厚かましい言い分だと思いながらマーシャに頼みこむとマーシャは、大丈夫かと心配する顔と、どこか嬉しそうな顔の入り混じった声で、

「ああ」

と答えました。


私も、もうしばらくマーシャの姿が見ていられるんだなとわずかに思いましたが、いいやそれよりしっかり話をつけなければと頭を振りました。


「うおおおお!」

「負けるな―!」


領地を取るか取られるかの真剣な戦いだというのに、隣の国の人たちも、こちらの国の人たちも、全員がどこか楽しそうで、それでも真剣で、自国の人たちを頑張れ頑張れとスポーツ観戦しているかのごとく応援しています。


「それまで!」


ジャッジ役のジャイロとサランが上にボッと炎を向けると、お互いが力を緩め、綱を地面に放しました。


「勝者…」


その言葉に集まっている民衆たちはゴクリとつばを飲み込んで見守っています。


「アバンダ国!」


「うわああ!クソ!」

「ざまーみろー!」

「ッざけんなよてめえら!」

「んだぁ、調子に乗るな!」


民衆の中で暴動が起きそうになるのをお互いの国の兵士たちが落ち着け落ち着けとなだめに行きます。

そんなお互いの兵士が同じように動いているのを見ると、ああ、平和っていいなと思えます。


アバンダ国とローカル国の話し合いの場に到着すると、早速話し合いは行われました。


まずマーシャがローカル国王に改めて戦争が始まる前に略奪したことについて詫び、それと同時にローカル国の衛兵騎士が国に攻めてきた事の非難を告げ、その四人を引き渡す代わりに戦争を仕掛けるのをやめていただきたいという旨を発言しました。


それに対しローカル国王も、戦争をするという声明も発していないのに自分たちの衛兵騎士が勝手に侵攻したことを謝罪、そして衛兵騎士を殺さず治療したことへの感謝をしましたが、同時に所有が曖昧な地域から完全に自分たちの領地であった村や町をアバンダ国領にしたことと略奪したことに対し、非難しました。


それでも最後に戦争を仕掛けるのは止めにする、と付け加え話終えました。


どうやらローカル国がアバンダ国に顔を見せに来いと言ったのは、確かに力のあるマーシャのお父さんが亡くなったのを期にアバンダ国を隷属(れいぞく)させようとしていたらしいです。


何度か見ていたマーシャの細い体と女の子のような見た目に性格も軟弱だろうと軽く思ったらしいですが、国王になったばかりなのに堂々と自分とやり取りをする胆の座った手紙の内容に、ここでやめたら逆にアバンダ国に難癖をつけられて乗っ取られるのではと疑心暗鬼に陥り戦争を仕掛けようとしていたみたいです。

つまり思ったより相手が手ごわそうで軽い気持ちで振り上げた手は引っ込められなくなり、引っ込み所も見失って振り回してる状況だったらしいです。


そうやって戦争を終わらせることについての話合いはすぐに終わったのですが領土の問題となるとそれは別問題だとローカル国王はこちらを非難してきます。


そこで私が、

「実は私の国では血を流さず、なおかつお互いの力で領地を決めるという方法がありまして…」

と綱引きでその年の領地を決める、という話を聞かせました。


最初ローカル国王は、何を馬鹿なという顔で相手にせず、元々の自分たちの領地を返せと繰り返しました。


「いいのでは、父上」


第一王子のジャイロが後ろから声をかけ、

「形は違えど力での勝負、いうなれば小さい戦争です。毎年その綱引きとやらでこちらの領地が増えるようにしたらアバンダ国が約定をつけた村や町も我が国のものになります、力自慢の男を揃えて、父が的に弓を射ればいいだけのことでしょう」


それでもローカル国王は不満げな顔をしていましたが、

「おや、弓など一度も引いたことがないから大勢の人の前で的に当たらず恥をかくと心配してらっしゃるので?」


人に抱えられながらあの金髪の人…第二王子のタービンが現れました。

ローカル国王は驚くやら嬉しがるやら、それでも父を馬鹿にする息子の言葉に腹を立てるやらの顔で一度怒鳴り散らすと、タービンは続けました。


「今はお互いに嫌な感情で見ています。それなら相手が気に入らないという民衆の中からも何人か選び、その綱引きに参加させましょう。そうなればお互いが本気で相手と立ち向かい、民衆たちも関わった結果だというのなら皆も納得するはずです。

どうかこれ以上戦争をしたくないのであれば、今年の一回、試しにそのような真剣な遊びで領地を決めてもよいではないですか」


まだ傷が完治しておらず包帯にくるまれた痛々しいタービンから発せられる言葉に国王はまだ納得のいかない顔ながらも渋々と納得したようで、国中にお触れを出し、一ヶ月たった今日、お互いの国が力自慢の男を集めて綱引きをすることになったんです。


と、クイ、と服を引っ張られて私が後ろを振り向くと、牧野さんが居ました。


少し体が強ばり、何の用か聞いた方がいいのかと見ていると、

「…そんなに警戒しないでよ」

と恨めしそうな顔で見てきます。


そしてどこかバツの悪そうな顔で下をうつむいていましたが、顔を上げました。


「…私ずっと…ずっと私が可哀想って思ってた、誰にも相手にされなくて、話も聞いてもらえなくて、皆に避けられて…可哀想って。でも、サキちゃんに誰かに優しくして、ありがとうって言ったことあるかって言われて…全然、そんなのしてないのに気づいたの」


牧野さんは一歩前に近寄ってきて、


「あのあと…次の朝に目が覚めたあと水車小屋に戻ったら粉屋のおじさんとおばさんが心配して探し回っててね、そこで心配かけてごめんなさいって、探してくれてありがとうって言ってみたの。

…お礼とか、言い慣れてないからすごくつっかえつっかえだったけど…。そうしたら…無事なら良かったって言ってもらえて…」


牧野さんは目を潤ませながら、

「今まで貰う事ばっかり考えてたけど、違ったんだね、まず自分が相手にありがとうって言わないと。私今まで誰かに何かしてもらう事しか考えてなかった。けど自分からまず優しくしないと、周りの人が優しくしてくれることなんてそうそうないんだ」


私は軽く頷いて牧野さんを見ました。以前よりずっと話しやすい距離感と話し方です。


「…私、そこの家の子になることになったよ。本当はね、何もしないのに文句ばっかり言って町に出かけてばかりいるから追い出そうかなって考えてたんだって」

とどこか自虐的に笑うと、


「…嘘の遺書かいて、サキちゃんを追い込んでごめん。…私のせいで死んだんじゃないって言うかもしれないけど…私サキちゃんが本当に憎かったの、何でもできて、私には手に入れられないのが普通に手に入れてる余裕な顔が本当に…憎くて妬ましくて、どうしようもなかった」


…面と向かって憎かったと言われると少し傷つきますね…。

それでも牧野さんは私を見て、


「けどサキちゃんに羨ましいって言われた時にね、私にも、少しでもサキちゃんから羨ましく思われる所もあるんだって思えて嬉しかった。けどそう思った時、私サキちゃんの言う通り人に認められたくて褒められたくて…自分の欲しい言葉言ってくれる人を探して回ってたんだって気づいたの。

そう思ったらサキちゃんって、誰のためでもなくて自分が言いたいこと言ってるんだって、私は人の気を引きたくて人に媚びてばっかりだって…サキちゃんと私ってそこからまず違うんだって」


牧野さんは私の両手を握り、

「色々と本当のこと言ってくれて、気づかせてくれてありがと、サキちゃん。これから私…少しずつでも変わっていくから。人に褒めてもらおうとするんじゃなくて、自分で自分を褒められるような良い所作るから」


その言葉にはかすかに私にもジンとくるものがあり、それでも今まで辛く当たって避けてきた相手にこういう時どういう言葉をかければいいのかと悩み、

「頑張ってください」

というあまりにも素っ気ない言葉しか出ませんでした。


それでも牧野さんは、

「じゃあね!」

と笑顔で手を振るとおじさんとおばさんだろうという人たちの元に駆け寄り、元々親子だったのではないかと思えるほどの親しさでしがみついて、頭を撫でられながら人ごみに消えていきました。


「…」

三人を見送り、もし私があの水車小屋の二人の元に行っていたらどうなっていたでしょうと考えました。

もし私だったらあそこまで元々親子だったような関係性を築けたでしょうか、どこかよそよそしい…いつまでたっても主人とおかみさんと居候の立場を崩せずにいたでしょう。


そう考えるとあなたのそのように壁を作らない距離の取り方と愛情表現をそのまま表せる所はあなたの長所であり、誇っても良い所だと思いますよ、牧野さん。

綱引きで領地を決めるというのは国土交通省を巻き込んで本当に秋田と山形間でやってました。

が、本当に昔からあった真剣な戦いだったのか、お祭り的にやってた近年の行事なのか、そこはちょっと分かりませんでした。

でも領地を決めるやり方としては一番平和的なやり方だと思います。


領地を決める方法が書かれたブログがあったのでそれを参考にさせていただきました。


YouTubeで動画見つけました↓

【再開希望】第10回三崎山国盗り合戦(最終決戦)[2002年]


アメリカとフランスの人も参加していたらしく、動画後半で「アメリカ国、フランス国よりも参加云々」と言っていましたが、まるで米と仏から軍事介入されてるようで大爆笑しました。(笑えねえ)

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