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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
23/32

ふざけないでください!

その目からはモヤの涙が流れ、

「酷いよぉ、なんで私には誰も近づいてくれないのぉ、なんでサキちゃんには皆が普通に話しかけるのぉ、サキちゃぁあん、妬ましいよぉ、死ねばいいのにぃ死ねばいいのにぃ…」


まるで私を探しているかのように目がギョロギョロと動いて口から嗚咽のようなオオオという声も漏れています。


「…あんな化け物になる心を持つ者に毎日付きまとわられたら、そりゃ迷惑だっただろう…」


マーシャが一言いいます。と、モヤをグルリと取り囲んで魔法使いたちが一斉にドッと炎を放ちました。


炎はモヤに吸い込まれるように消え失せ、ちっとも効いているようには見えません。それでも腹のあたりに浮かんでいる牧野さんはショックを受けた顔をして、

「皆が私を嫌ってるぅーーーー!」

と絶叫すると、その衝撃が空気を震わせ、周りを飛んでいる魔法使い、地面に居る魔法使い、騎士、それどころか木々と地面すら次々とふっ飛ばしていきます。


その飛んできた木々もこちらに飛んできて、マーシャは私をガッチリ抱えビュンビュンと木っ端からよけているとまた空高く飛んでいます。


「サキちゃぁああん」


声がまっすぐ耳に聞こえてきて顔を動かすと、牧野さんの目が私を捉えたらしく真っすぐに見てきました。そしてズズズ、と顔だけではなく、首から肩、胴体に腕とモヤから出てきます。


「酷いよぉ、妬ましいよぉ、なんで、なんでサキちゃんには男の子も近づくのぉ、私の方が、私の方が女の子っぽいし少女漫画もいっぱい読んでるし、占いだって色んなのに登録しておまじないもしてるのにぃ…」


まるで巨大な手で掴もうとするかのように伸びてくるので、マーシャは腕を上げ、バリバリと電流を起こすとその手に当てました。あまり効いているように見えませんが、それでも牧野さんはショックを受ける顔をして両手で顔を押さえて上を向いてオンオン泣いています。


「なんでぇ、なんで私を守ってくれる人はいないのぉ、なんで一人で過ごせるサキちゃんは守ってくれる人がいるのぉ、なんで…なんで…」


手がワナワナと震えて手を顔から外すと、牧野さんの顔が常軌を逸した顔で笑っていました。


「死ねばいいのにぃいいい!」

口からボッと黒いモヤが一直線に突き進んできて、またマーシャは私をしっかりつかむと宙返りするように逃げていきます。


「うう…!」

フワッとする感覚が襲ってきて気持ち悪いですが、今はそんな事言ってる場合ではありません。


怖いですが、ペガサスはとても安全と言ったマーシャの言葉を信じてこのフワッとする感覚に耐えなければ。


「死ねばいいのにぃい!」

牧野さんは手を振り回して私とマーシャを捕まえようとします。


マーシャが手を動かすと周りにゴォォ…と風が強く吹いている音が聞こえドッと突風が下につき下ろされ、その伸びてきた手もモヤの牧野さんの姿も地面に這いつくばって飛散するように分散し、周りの木々も広く潰れていきます。


…ダウンバースト現象…?積乱雲から降りる下降気流で下の木々が潰れるという…。


しかし黒いモヤは一時分散してもまた元の位置へと戻っていき形を取りつつあります。


と、向こうから何かが飛んで近づいてきたのを見てマーシャはモヤから距離を取りながらそちらを見て警戒し、

「何用だ!」

と叫びました。


見るとあのローカル国の衛兵騎士の甲冑を着た人がある程度の所で立ち止まり、甲冑の頭をガポッと取り外しました。


「私はローカル国の第一王子及び衛兵騎士、ジャイロ・パーガツモ・ローカルである!変化した者が現れたと情報を得て、加勢に加わるように頼まれた!」


マーシャがわずかに何で、という顔をして、

「誰から…」

と聞きました。


すると、ジャイロという人は私をふと見てニコ、と笑いました。その人の良さそうな笑顔は牢屋にいた衛兵騎士の金髪の人と瓜二つ…。


「我が弟、第二王子タービンである!弟は牢屋の窓の外を飛ぶ蜂に音声を吹き込ませ我が軍に緻密に情報を流していた!それを聞いたうえで殺さず手厚く看護してもらった礼だ!国王である父の命令を無視して来たのだ、警戒せず素直に受け入れてほしい!」


その後ろにも大量の甲冑を着た人が続々と飛んで並んでいますが、マーシャの言葉を待っているかのように動かずその場に待機しています。


マーシャは少し悩んだ素振りを見せましたが、今現在の状況だと加勢は多いに越したことはないと思ったのか、

「…ありがたく受け入れよう!手を貸してくれ!」

と返しました。


マーシャのその言葉にジャイロと言う人が手を動かし牧野さんを見ると、一斉にアバンダ国の兵士たちに交じって攻撃をしました。


あの金髪の人は皆から敬われているようなので最上位の貴族だと思っていましたが…まさか王族だったとは…。


「死ねばいいのにぃ、みんな、みーんな死ねばいいのにぃ…!」


元の形に戻った巨大な牧野さんからも、上の点が三つ並んだような顔からもモモモ、と黒く丸い塊がボコボコと浮き出てきて兵士たちにボンッと爆発して飛散するように飛び散り、それが空中で更に爆発し、その黒いモヤに当たった人は苦しみながら地面に落ちて行きます。


「みんな私に優しくない…優しくしてくれない…そんな奴ら…みんな死んじゃえ…!死んじゃえ…!死んじゃえぇえええ!」


「…」

私はというと、段々と牧野さんの言い分を聞いていてイライラしてきました。


牧野さんの言い分は十分わかりました。自分は他の人に避けられているのに、普通に色んな人と話せる私が妬ましかったというのがまずあって、そのうえで誰も自分に話しかけてくれず優しくないと拗ねている。


「牧野さんの傍に寄ってください!」

マーシャに言うとマーシャはかすかに正気か、という顔をして、

「しかしサキ、高い所大丈夫か」


「大丈夫じゃないです!でもマーシャがペガサスは安全だと言っていたのでそれを信じて安全だと思い込むことにします!」


なんだそりゃ、とマーシャはかすかに笑いますが、それでもガッチリと私を掴み、

「何か思いついたか?」

と言ってきます。


「思いつきましたが効果があるかどうかは分かりません、でも…」


全員が様々な魔法を駆使しています。炎、電気、水、風、光、それも巨大な剣が下からモヤを突き刺していますが、どれも効いているように見えません。


「…やってみないと効果があるかも分かりません」


マーシャは、分かった、と微笑みながら頷くと、

「行くぞ!」

と牧野さんの顔の元に飛んで行きます。


すると牧野さんのケタケタと笑ってるような焦点の合っていない目が私を捉え、

「サキちゃぁああん」

と手を伸ばしてきます。


「死のうよぉ、ねええ、私とまた一緒に死のうよぉおおおお」

「ふざけないでください!」


私はなおも手を伸ばしてくる牧野さんに怒鳴ると、かすかに手の動きが緩みました。


「私はあなたと一緒に死んだつもりはありません!大体にしてあなた何なんですか、ろくに親しくもないのにベタベタと長年の友達であったかのように引っ付いてきて!あなた私のことが大っ嫌いだとおっしゃいましたけどね、私だってあなたのことが大っ嫌いです!」


牧野さんの目が次第に焦点の合っている目つきになって、そして次第に憤怒の表情へと変わっていきます。


「むしろなんであなたが誰からも相手にされないか分かっていますか、分からないですよね、皆あなたに依存されるのが嫌だったんですよ!

ちょっと優しい声をかけたらすぐにベタベタと引っ付いてきて、その後はずっと一緒に居ることを強要して他の人と話すなと仲のいい人から切り離そうとする、そんなずっと自分におんぶ抱っこして自分の交友関係すら脅かしてきそうな人間にわざわざ関わって優しくしてあげたいと誰が思いますか!」


大きい船の汽笛のような絶叫が牧野さんからの口から放たれ、殴り掛かるように拳を握ってグアッと動かしてきて、マーシャはポチを動かしその腕の振りから逃げます。


フワッとして、うう、と私は歯を食いしばり唸りますが続けました。


「何が誰も優しくしてくれない、ですか!そういうあなたは誰かに優しくしたことがあるんですか、あなたがベタベタと引っ付いた人のために、相手が喜ぶような事をしたことがありますか!

ありがとうって感謝されるような事を何かしたことがあるんですか!むしろありがとうって言ったことありますか!何かしてもらって当たり前みたいに思ってるんでしょうどうせ!」


「うるさあああああああい!」


その声の衝撃にポチがわずかに飛ばされましたが、一回転して元の体勢に戻ります。


オエッとなりながらも、

「うるさいじゃありません!あなたは一方的に色んな人を友人と認定しましたが、あなたがやっていたことは友人を作る行為ではありません!あなたは誰にも優しくしていない、感謝されるようなこともしていない、それなのに自分は優しくされたい、共感してもらいたい。

その自分の望みを全部満たしてくれる相手を探していただけです!あなた、そんな人と仲良くしたいと思いますか!?」


牧野さんの手が伸びてきて、マーシャは軽く光をカッと光らせて牧野さんの目をくらませるとポチが素早く避けます。


「うるさいうるさい、うるさぁあああい!」

ボコボコと丸いのが表面に浮き出て、ボンッと飛散し、空中で更に爆発ました。ポチはそれをもヒュンヒュンと身軽に動いて避けています。


「うう…!」

フワッとした感覚の連続に思わず吐きそうになりますが、私も続けました。


「うるさいじゃありません!人に色々求めることが多いのに自分は何もしないという人と仲良くなりたいですか!私はなりたくありません!あなたはその性格が変わらない限りずっと誰からも相手されずそっぽ向かれるだけです!」


「私だって…!私だってサキちゃんとなんて仲良くしたくなかった!小学校のころからずっと冷めた目で、私を見下すような目で、可哀想な人とでも言いそうな冷たい目で私を見て…!ろくに何考えてるか分からないくせに皆サキちゃんの言う事には耳を傾けて、男子にだってクールとか言われて一目おかれて…」


見ると牧野さんが顔を覆ってウッウッと泣いています。


「酷いよぉ、なんでそんなに人を見下す目でろくに表情もかわらないのに、皆から信頼されるの、話しかけられるの、サキちゃんの言う事を聞くの。

私なんていっつも笑顔で、とにかく親しく話しかけて、話題も色んな雑誌を読んで流行りの物にも追いつこうと頑張ってたのに、侍が好きっていうクラスで浮きそうなサキちゃんの言葉の方が皆笑って、話を聞いてた…!

妬ましいよぉ、そんなに自分から喋りかけもしないし友達を作ろうともしないのに、気づけばサキちゃんに人が集まってるのぉ…ずるいよぉ、なんで、なんでぇ?」


ウッウッと泣いている巨大な牧野さんを見て、何を馬鹿なと私は思いました。


「それでも私に親友と呼べる人は一人もいませんでしたよ」

牧野さんはひきつけを起こしそうな嗚咽(おえつ)をあげながらかすかに顔を上げます。


「私は誰とでも対等に話ができます。生徒であれ先生であれ、特に問題なく話せます。しかし一定以上仲良くなる人は居ませんでした。皆確かに私とは普通に話します、それでも…一定以上深く入り込んでくる人もいませんでした」


私はそう言いますが、いいや、違うと首を横にふり、

「ここに来て、他の方と一緒にお茶を飲んで話をして…そこで分かったんです。自分の趣味を優先して人の誘いをずっと断っていましたが、休み時間程度ではなく、それなりに長く同じ時間を過ごして会話をするだけでも自然に一定以上の仲になれるんだと」


私は友達を作ろうと相手に一定以上近づこうとしていなかった、一定以上近寄らせようともしなかった。それなのに仲の良さそうな人を見てどこか羨ましく思っていた。


「そうですね…私も牧野さんと少し似ていたのかもしれません、あまりに自分勝手に振る舞いながら一定以上の交友関係を求めるわがままな所が…。それでもある意味…あなたの人との距離の詰め方は…少し羨ましくもありました。私はあそこまで人懐っこく人に近寄るなどできないので…」


「…」

牧野さんは黙って私を見ています。本当に?嘘でしょう?私が?私が羨ましかった?と呆然としている顔つきに見えます。


うふっ、と笑ってるような嗚咽を吐きながら、牧野さんは普通におかしそうな、それでも泣きそうな顔で笑いました。


「皆…なんでサキちゃんの言う事は素直に頷いて共感するのか、今分かった気がする…。本当に、心から言ってるからだ、誰にも媚びてないの、心から思ったことしか言ってないの…」


牧野さんの形をしたモヤも、上の人らしき形を取っているモヤも次第に溶けていくように消えていき、

「初めてサキちゃん、私に心開いてくれた…」

と全てモヤが消え、その中心には牧野さんが横たわっていました。

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