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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
14/32

それなら何か買っていただきましょう

ああ、また怒ってしまった…。私が悪いのか、マーシャが情緒不安定すぎるのか…。


どっちもですかね。


まずプレゼントは…食べ物でもなんでも、通りすがりに気になった安い物を選べばいいでしょう。ともかく、視察を優先しなければ…。


と、先ほど分かれたはずのサランとダンケがプリプリ歩いているマーシャを掴んで物影に引きずり込んで行きました。…というより、あの二人は何であんな路地裏に…?


雑踏の中なのでどんな会話をしているのか分かりませんが、二人はマーシャにとくとくと説教してマーシャはかすかに頭を垂れて肩を落としているように見ます。


「…」


初日はあの輪の中に加わってると思えて、とても嬉しかったのに…今では傍観しているしかありません。


マーシャに昔からの友人であるサランやダンケと同じように話せる、と言われた時とても嬉しかったです。今の今まで友人らしい友人はいませんでした。まんべんなく人と話せて人によって態度を変えないとも言われました。


でも、要はそこまで深く人とつきあって来たことがないというわけで…。

そりゃ学生生活を送っていくうえで仲が良さそうにしている人たちを見て羨ましいと思う気持ちもありましたが、それでもあまり人に干渉されたくもない、自分一人で行動したいという気持ちもあり…という状態でした。


先日マーシャとの会話で、それは一人で行動し過ぎたから?と気付きましたが、メイドの方々にお茶に誘われた次の日、厚かましいかなと思いつつ実際に訪れてみました。


すると普通に歓迎され、お茶を用意してもらえて一緒に優雅な時を過ごしました。その場にいた方々とはもっと近しい間柄になり、私もふと気づきました。


私は日本でこうやってクラスの子たちと顔を合わせて飲食をしながら談笑することがあっただろうかと。


むしろ、

「お昼一緒に食べない?」「帰りにどこか寄らない?」

と誘われても自分の趣味(武士や侍や武将の本を読む、録画したテレビをみるなど)を優先したいがためにいつも断っていたと。


そうとなれば親しい友人が出来ないのは自分から避けるような事をしていたからで、それでいて自分から人を誘う事も無かったからだと気づかされました。

いくら普通に話せる間柄でもそうやって何度も断っていれば誘っても付き合わない人、と皆も見切りをつけて一定以上近寄ることもなかったでしょう。


ああなんだ…。ただこうやって顔を合わせ茶を飲み交わすだけでも一定以上の間柄になれるんだ、むしろ仲が良さそうな人たちを羨ましいと思いながら自分から遠ざけて…中々に私も自分勝手だったなと反省したものです。


「私以外の子と話しちゃイヤ!」


脳内に首を吊ったあの子の言葉が急に蘇ってきて、私は額を手で押さえ軽くため息をつきます。


思えば私にその一定以上食い込んで来たのは首を吊ってしまったあの子だけでした。それでもあの子は…仲良くなるというより自分の存在価値を認めて欲しいという依存に似た何かを感じる接し方でした。


小学生の頃から友人認定した子にベッタリとくっついて、それで嫌われて離れられ、傷ついてもまた友人をつくりまたベッタリとくっついて…。

何で傷つくのに友人を次々に作ろうとするのかと不思議に思っていましたが、今から思えば人に一定以上食い込んでいくあの厚かましさに似たバイタリティは私にはないものだな、とは思えます。


まずあの子のことは思い出したくない、色々と嫌な記憶が蘇ってくると頭を横にふり、市場のあれこれを書き綴っていると、文字がかすれてスカッとインクが出なくなりました。


「…っと」

インクが切れました。


丁度そこにマーシャが戻って来ていて、バツが悪そうな不貞腐れた顔で後ろ頭をかいています。

「…最近、いちいち怒鳴りつけて、悪い」


私は首を横にふりながらマーシャを見上げ、

「ペンのインクが切れてしまったので、まだ何かプレゼントしてくださる気持ちがあるのなら、新しいペンを買っていただけませんか?」


マーシャはどこか不満そうな顔で口を尖らせ、

「…そんなのでいいのか?」

と言ってきます。


「ええ、新しいペンを…ペン…。ペン…!」


私はふっと周りの西洋情緒あふれる市場を見ていて、もしかしてこの地にはあれがあるのではと思いマーシャをパッと見上げました。


「あの…それなら少しわがままを言ってもよろしいでしょうか…?」


ここならあるかもしれません。あれが…!


少しドキドキしながらそっとマーシャを見ていると、マーシャはわずかに目線を合わせたりそらしたりしながら、

「な、なんだ…?」

とソワソワと落ちつかない雰囲気になります。


「あの…実は私…」

私は口をつぐみますが、子供の頃からの憧れが叶うんだと、思いきって口に出しました。

「わ、私…鳥の羽のついたペンが欲しい…です」


子供の頃から鳥の羽がついたペンでカリカリと文字を書いている外国のアニメや映画の映像に憧れを持っていたんです。

最近はあれのボールペンも出ていましたが、違うんですよ…!私の理想は羽はあんなにフワフワしておらず、きっちり糊付けされたものでインクをつけながら書いていくというような、あんな古典的なものがいいんです…!


「あれば、ですけど…手に入らない貴重なものなら別に…」

するとマーシャが肩をガッと掴んで、

「買ってやる!そんな安いのいくらでも買ってやる!その程度…!」


マーシャは、ウッとどこか泣きそうな顔になり、

「そんなに安いので本当にいいのかぁ!」

と背中に手を回してガッと抱きしめられました。


「うひゃ」

驚いて声が漏れるとマーシャもハッとした顔で離れ、顔を隠しているフードを引き延ばして顔も覆い隠し、その場にしゃがみこみました。


ああ、びっくりした。ちょっとマーシャからいい匂いがしました。マーシャの脱いだ服の匂いをかいでいたメイドもそれで嗅いでいたのかもしれませんね…。

でもやっぱり人の脱いだ服を嗅ぐのは変態臭いのでどうかと思えますけど…。


色々な意味でとドキドキする胸を抱え、

「それならペンを買いに行きたいです」

とマーシャを促して立たせ、歩き出しました。


* * *


私は羽のついたペンをクルクル回しながらマーシャを見上げ、

「ありがとうございます…!こんな高価なもの…!」

と感動でいっぱいの顔で何度もお礼を言いました。


ペンを専門的に売っているお店があるというので行くと、インクをつけて書いて、かすれてきたらまたインクをつけて…という普通の羽ペンもあったのですが、それよりちょっと性能のいい羽ペンがあり、


「これはね、インク壷に浸しておいたら壷の中にあるインク全部吸っちゃうの。あとは吸った分を使い切るまで書けるという便利なものだよ。だから持ち運びも楽になるし使わない時はキャップをつけて、こう、胸ポケットにでも入れておけばお洒落にも見える!」


と言われましたが、他のと比べると格段に値段が高く(ドワーフの作った高性能な魔法道具で値段が張るそうで)流石にこれはちょっと…と他のペンを見始めたら、

「これを一つ。それとすぐに使いたいからインクに浸してくれ」

とマーシャはあっさり購入を決めてしまいました。


そんな…こんな値の張るものを即決で一括購入…!?と驚きましたが、遠慮しようにもお店の人とマーシャの間でさっさとお金のやり取りが行われ、インクに浸された羽ペンをほい、とマーシャに渡されたのでおずおずと受け取り、感動のあまり先ほどのように何度も頭を下げました。


マーシャはやや挙動不審気味にあちこちを見ながら、

「い、いや、まあ…そんなに喜んでくれたなら…俺も嬉しいというか、その…」


あとはモゴモゴとしていて何を言っているのか聞き取れませんでしたが、用事も済ませたので外に出て羽を陽の光にかざし、ドキドキとメモに羽のペン先を滑らせます。ペン先は突っかかりもせず、スルスルと滑るように文字が書けます。


「はぁっ…!すごい、書きやすい…!書きやすいです!」


私は興奮してマーシャを見て、羽ペンをうっとりと見ながら、

「大事にします…!」

とギュッと握るとマーシャはどこかもう耐えられないという顔で胸を押さえ、

「サキが望むなら店ごと買っても構わない」

と、日本人がイメージする石油王のような事をのたまってきました。


その言葉に私はスン…と冷静になり、

「馬鹿な事を」

一蹴(いっしゅう)してノートに目を移します。


するとマーシャがムッとした顔になり、

「馬鹿とはなんだ」


あ、しまった、普通に馬鹿と言ってしまいました。国王に。


「冗談と言えどそのような思慮に欠けた発言はという意味で」

「馬鹿だって言ってるのと同じだろ」


「…」

私は言葉に詰まり、

「すみません…」

と返すと、マーシャは軽くプッと笑って、

「まあいい。気にするなサキ」

と隣に並んで、行こうと促してきます。


なんだかその空気感が今までのよそよそしいものではなく初日のサランとダンケと接するのと同じようなもので、私の胸の内にも嬉しい感情が広がります。


「良かった」

「何が」


私の言葉にマーシャが聞き返します。


「ここ最近疎ましがられてると思っていたので、以前のように接してもらえて良かった、と…。お恥ずかしい話、私は親しくしている人々を見て羨ましいと思いながらも、親しくしようと近寄ってきてくれた人を遠ざけるような事ばかりしていて特に親しい友人といえる人がいなかったんです。

それでもマーシャ様にサラン様やダンケ様と同じように話せると言われヘッドロックされた時、こんなにも私を長年の友人と同等に見て接してくれるんだと思ったら…嬉しかったんです」


と言いながらも補足的に、

「もちろん立場は臣下と国王ですので対等の関係を望んでの友人ではなく、気持ちの上でですよ」


それもどうかな、と心の中で突っ込みながらマーシャを見上げると、マーシャはどこか言葉に詰まった顔で赤くなりながら私を見て、


「そ、そんな事は…誰も疎ましくなんて思っていない、むしろ、サキが偶然にでも城に来てよかったと思っている。これは本当だ、ただ…その、俺は、ゆ、友人とか臣下としてじゃなくて…その、俺は…、で、でで、できればサキとは友人じゃなくて、お、俺の…俺の、お、お、おお…」


次第にどもりが酷くなり、モゴモゴとしてよく言葉が聞き取れないので一歩近くによってマーシャの顔を見上げると、マーシャは口を引き結び、片手で顔を覆って反対側を向いてしまいました。


「…あの、すみません。よく聞き取れなかったのでもう一度お願いします」

「うるさい!もういい!馬鹿!」


マーシャはそう言うとズンズンと歩いて行きました。

子供のころよくカラスの羽を拾って、結構パリパリしている…と羽先から根本までをシャワワーと触って遊んでました。芯の所は結構固いので頑張ればペンに出来たかもしれません。作り方知りませんが。

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