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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
13/32

市場への視察です

今日の午後は休息をとマーシャに促してみましたが、それでも国内の視察をするというので私もご一緒することになりました。それに時間が合ったという事でサランとダンケも一緒です。


「市場というのは初めて行きますね」


今まで戦争になった時に重要となりそうな箇所を巡っていたのでこのような町中は初めてです。


「色々と売ってるからマーシャと見て回ると良い。俺たちは俺たちで欲しいもんあるから」

サランはそう言いながら、な、とマーシャに目を移し、マーシャは、

「お、おう…」

とどこかソワソワしているような落ち着かない気配を感じます。


一応全員城の中の人と言う事で一般市民の格好に着替えてから馬車に乗り、目立たない所から馬車を降りて市場に向かうという寸法です。


それにしても…マーシャが妙に挙動不審です。


今日は朝起こした時から、

「あ、あの、昨日は…悪かった」

とよく分らない事で謝られ、その他にも「それと昨日…昨日庭で…」と何か言いかけては何でもないというのをずっと繰り返しで…。


「あ、あの昨日…」

またマーシャはそう言いますが途中で言葉を止めて、何でもないとまた目を逸らしました。


それを見ていたダンケが何かピンと来た顔をして、

「サキ、昨日の夜ラッセルと話してたよね?庭で」


ダンケがそう言うとマーシャが驚いた顔でダンケを見て、私に目を移してきます。


「あんなに仲良くなってるとは思わなかったけど。何があってあんなに仲良くなったの」

「ああ…」


確かに当初ラッセルは私を大いに嫌っていました。

それと反対に私は段々とクセになっていたんですけど。ドラマの中に居る嫌な人だけどどこか憎めない名脇役的な人で。


そんなある日、私が庭を歩いているとラッセルが窓際のベンチで本を読んでいました。黙って通り過ぎるのも何なので挨拶をして、それは何の本ですか楽しいですか、という手軽な話題を振りました。


「平民のお前に言っても無駄だ、どうせ俺が読むような本の文字なんて読めないだろう」

と馬鹿にされ本を広げてこちらに向けられましたが、日本語でもないのに不思議とスラスラと文字が読めてしまったんです。


それにはラッセルも驚いた顔をして、どうにか私をこき下ろそうとあれこれと自分の知識をひけらかしてきましたが、それが学校の授業でも習っていることだったり、むしろ日本で習った授業の方がこちらの常識より進んでいる内容だったり、個人的に気になって覚えていたことだったりして…。


そうなると自分と対等に話せる者が現れたと感動したようで、

「読みたい本があるなら貸してやらんでもないぞ」

と言ってきたので…。


「昨日はこの世界に現れる幻獣やモンスターをもっと多くまとめた本をお借りしたいと頼んだらわざわざ渡しにきてくださったんです。幻獣やモンスターをもっと覚えたいと思っていたので」


簡単に仲良くなった経緯と昨日あったことを伝えました。


「へえ~随分と楽しそうに笑ってたけど、もしかしていい仲になってるんじゃ…だってサキの言った好みのタイプに当てはまってるし…」


ダンケがそう言って来るのをサランが軽く足をガッと蹴り飛ばしています。

そう言われれば…勝海舟に似てるかと言われれば部分的には似てますけど…。


「もっと薄い顔が好みです」


確かに特徴は当てはまってても彼は西洋人顔です。和服を着ても外国人の侍コスプレにしかならなそう。


そんな事を考えているうちに市場近くにたどり着いたようで、マーシャと私。それからサランとダンケと二手に別れ、時間になったら馬車に落ち合おうと市場の中へと歩き始めました。


やはり人が多く盛り上がっているように見えますが、マーシャによると以前よりは活気も行商人も物も少なく、値段もやや高騰(こうとう)しているのだそうです。


「やはり世上が不安になると物の値段が上がるんですね」


私はそう言いながらノートにペンを持ち、あちこちを見てはメモしていると、マーシャは、

「何をメモしてるんだ?」

と声をかけてきました。


マーシャに声をかけられたので私は市場のあちこちの角などを指さしながら、

「仮にここまで攻め込まれた時、あのような曲がり角を利用できそうだと思いまして」


空から狙われたら終わりですが、地上戦だとあのような死角から数人がかりで攻撃し、すぐに逃げるというのを繰り返せばどこから襲われるかと相手に動揺を広げることができます。やはり城に近い城下町の市場なので、ある程度そのような事を考えた造りになっているようですね。


そうマーシャに伝えると、妙に呆れた顔をして、

「休息を取れと人に言ったくせにサキの方が休息を取ってないじゃないか」

と言ってきますが、私は何を言っているのかとマーシャを見上げました。


「今は休息ではなく視察の最中でしょう?」

マーシャはわずかに「あ」と表情を変え、

「あ、当たり前だ!」

と言いながらずんずんと先に進んで行きましたが、何か思い悩むように頭を振り、隣に戻ってきました。


「あ、あーとな、サキ」

「はい」


マーシャは視線を背けながら何度か口の中で言葉を潰すように唸りながら、

「な、なにか、欲しいものがあるんだったらな!買ってやってもいいぞ!」

と言ってきました。


「欲しいもの…ですか」


私は何が必要かとあれこれ考えますが…戦争時に必要な物資は城の方で買うことになってますし、私も今のところ不自由はしていません。


「特にありませんね、気を使っていたただいてありがとうございます」


マーシャが、えっ、と私の顔を見てどこか混乱に陥った顔になりました。私が何かねだると思っていたかのような顔つきです。


「あ…あ…」


某神隠しアニメ映画に出てくる黒い生き物みたいに手を動かしマーシャは言葉を詰まらせていましたが、何か思い付いたという顔になり、

「そ、そうだ、俺付きのメイドになって働いているのだから何か褒美を…」


私はそれを聞いて眉間にしわがよりました。


「私だけがマーシャ様のために働いているとでも思っておられるのですか?私が来るずっと以前から城の中にいる皆さんはあなたのために働いておられるのですよ、その中で何故私一人だけに褒美をやると?そんな周りの方を軽視するようなことはお止めください。

新入りばかり優遇すると古参の人々から不満の声があがるものです。こんな戦争が始まろうとしているときに内輪もめを誘発しそうなことはいけませんよ」


私の言葉を聞いたマーシャはグッと言葉に詰まり、どこかションボリとした顔で肩を落としました。


その顔を見て言い方がキツすぎたかと思い、

「お気持ちは大変嬉しく思ってます。ありがとうございます」

と声をかけながら腕を軽く叩くとパッと顔を上げ、

「嬉しいか?」

と聞いてきました。


いえ正直私だけ贔屓にするような事やめて欲しいと思ってますが。


「ええとても」

と言うと一気に顔色がよくなり、どこか足取り軽く歩き出します。


「…」

どうにもマーシャが情緒不安定です。


ソワソワと落ち着きがなく怒ったと思えばすり寄ってきて、落ち込んだと思ったら復活して…。大丈夫でしょうか、戦争が近づいているので落ち着かないんでしょうか、不安です。

やっぱり今日は休息にした方が良かったのでは…。


「それでも…なんだ、サキは今までのメイドとは違うから…それの礼も込めて、何か…その、何かをプ、プレ、プレゼント、したくて…したいと、思って、だな」


マーシャが背中を向けながら、つっかえつっかえに言葉を出してきます。


しかしそれは単にあなたの運が悪かっただけで私にお礼なんてする筋合いもないと思うんですけど…。それでもマーシャなりにその事がとても嬉しく思っているのかもしれません。


そう思うとマーシャが不憫(ふびん)に思えてきますし、ほんの少し女性嫌いも軟化して優しい気持ちを持ち始めたのにマーシャの好意を激しく突っぱねたら失礼に当たる気がします。

それに再び「これだから女は嫌いだ」という態度に戻ってしまう可能性もあるかも…。


それならまず女代表として何か安いものでも買ってもらった方がいいのでしょうか。いずれ好きな女性が現れたらサッと買ってプレゼントする予習代わりにでも。


「それなら…何か買っていたただいてもよろしいですか?」


その言葉を聞いたマーシャはパッと私の顔を見て、

「もちろんだ、もちろん!」

と言いながら、えーと、と何か考え、

「そうだな、化粧品などはどうだ?化粧は女のたしなみだと言うからな!」

と言ってきました。


私はそれを聞いて、もしやとある考えに行き当たりました。


そして今までのマーシャに疎まれていると思ったことの本質に気づき、軽くうつむいて、

「…承知しました」

と顔を上げます。


「…そういう事でしたか…私の顔が嫌で、だからここ最近会うたびに嫌な気分になって怒っておられたのですね…。分かりました、そうとなれば化粧を駆使して別人のごとき美女に化けて見せます。どうぞ化粧品の購入をお願い申し上げます」


「ち、違う違う!誰がそんな事を言った!」

マーシャは慌て、

「それなら!それならアクセサリーはどうだ、宝石のついたネックレスとか耳飾り…」

「宝石なんて高価なものをつけているとそればかりが気になって業務に支障が出そうです」


「…小物…こう、キラキラしている、可愛らしい物…」

「私、可愛いのは好きですけど実用性が無いものは結局使わないので要らないです」


マーシャは次第にイライラした顔になって、

「何でも買ってやるって言ってるだろ!遠慮するな!何が欲しいんだ!」

と怒りだしました。


どんな怒り方ですかと思いながら、

「ですから化粧品…」

と言うと、

「そんなものサキに必要ない!」


癇癪(かしゃく)を起した子供みたいにプイッと顔をそらし、プリプリと怒りながらマーシャは進んで行きました。

テレビを見てて、日本の某城下町の構造が路地裏(建物の影)に隠れ潜み、近づいてくる人を襲って倒せる造りになってる…というのがあって、今でも残ってるんだ…いざって時には現役で使えるじゃん…と思いました。

やっぱり戦国時代だと町中もそうやって襲いやすい造りなんだなーって。

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