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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
12/32

俺は国王権限を使うぞサキ―!(マーシャ目線)

明日、サキを市場に連れ出して…プレゼントを買うと決めたはいいが…。


プレゼントをどういう顔で渡せばいい?何か言葉でも必要か?受け取れ?お前にやる?似合いそうだから買ったとか…あああああああ!そもそもそんな浮ついた言葉が面と向かってサラッと言えるのか!俺は!


頭をかきむしりながら唸ると、サランが呆れたように笑い、

「お前ってば俺様みたいな顔に似合わずヘタレだよなぁ。けど大丈夫だろ、サキの好みのタイプなんて城の中に居ないし。ゆっくり攻めよう」


なんでサランがサキの好みのタイプを知っている。


いや、つまりそれは俺もサキの好みのタイプではないってことか…?いや、まあまあまあ…この二人も協力してくれるというのだから、これから少しずつ…。


と、ダンケが顔を動かして、

「あれ、サキの声がする…」

と言いながら窓辺に近づいてカーテンと窓を開け、バルコニーに出た。


その言葉に俺とサランもついて行ってダンケの見ている方向を見る。今日は満月のためとても庭が照らされていてよく見える。


と、庭の整えられた植木の傍にサキと…ラッセルが二人立っているのが見えた。


「…ん!?」

俺はバルコニーの(ふち)にしがみついて二人を見ていると、二人は対面して何か話し合っていているが声はちっとも聞こえない。


するとラッセルが何かをサキに渡しサキはそれを受け取って、どこか、

「いいんですか」

とでも言っているような反応をしている。


ラッセルは腕を組んでサキを小馬鹿にするように軽くあごを上げているが、サキは嬉しそうに受け取った物を両手でしっかりと持っていて、頭を何度か下げている。

ラッセルが組む腕を崩して腰に手をあて何か一言いうと、二人はドッと笑ってサキはラッセルを手で「いやだ」とでも言っているかのように押している。


ラッセルはサキの背中に手を回すと、城の中に戻ろうとでもいうように指さして二人は同じ歩調のままお互い顔を合わせ何か話しながら城の中へと入っていった。


「…」

俺はその光景を唖然とした気持ちで眺めていた。


そしてゆっくりと隣にいるサランとダンケに目を移し、

「今のは…どういう…ことだ?」

と聞く。


それでもダンケもどこか呆然としている顔で、

「え、ええ…?」

と混乱している口調が出て来て、

「だ、だってラッセルは…サキを一番気に入ってなかったし、この二週間でなんでああまで打ち解けたんだか…」


「…あ」

サランが何か思いついたという顔になったので俺とダンケの視線が集中する。


「サキの好みのタイプの男は…眉毛は太くて口はおおきいが引き結んでいて、窓辺で物静かに本を読んでるようでどこか人を食ったような顔立ちの黒髪の男だと言っていたな…」


それを聞いて俺は固まった。


ラッセルは黒髪に近い茶髪で眉は太くて、口は大きくていつもムッツリと引き結んでいて、人を食ったような性格で暇さえあれば日が暮れるまで窓辺で黙々と本を読んでいるような奴だ。


それに引き換え俺はオレンジ色の髪、スッと伸びた眉に女みたいなぽってりした口、物静かとも人を食ったようなとも言えない性格だし、なにより本なんて勉強以外で読む気にもならない。


どこにも出かけず本をそんなに読んでて何が楽しいんだろうな、と他の大臣職の者たちからたまに馬鹿にされているが…。そんな見た目のラッセルが物静かに窓辺で本を読む姿をサキが通りすがりにでも見ていたとしたら…。

しかもサキは毒を吐くラッセルの事を最初から妙に気に入って好意的に見ている節がある。


「それにラッセルってまだ結婚してないでしょ?浮いた話も一つもないし…それなのにあんな風にするって事は」

「馬鹿それ以上言うな!」


ダンケの言葉をサランが止めるが、俺の膝から力が抜けてその場に崩れ落ちた。


「これは…予断を許さない状況と…いうことか…」


俺の言葉に二人は何も返さない。その通りだと二人も思っているんだろう。


…ならば。


俺の心は決まった。ダンケがやったような事をやるしかない。


既成(きせい)事実を作るなど…かなり国王としてどうかと思うが、ラッセルに譲る気も毛頭ない。

ラッセルには悪いが国王が手を付けた女だというのなら臣下として引かざるを得ないだろう。


あともう少ししたらサキが就寝を告げに来る、その時に…。


「…」

こんな方法でしか好いた女を手に入れられないとは情けない。


むしろサキは…サキは本当にラッセルが好きなのか?だが俺に対してあそこまで笑って軽く突き飛ばすような態度を取ったこともないし…いやそれは俺が国王だから?


俺は膝をついたまましばらくあれこれと悩んでいたが、天を仰いだ。


…親父。今宵だけ、一生に一度だけ、国王の権力を振りかざし女性を手に入れようとすることをお許しください…!


* * *


腹は決まったが、どうにも落ちつかずソワソワしてしまい、結局サキが来る前にベッドに入っているという間抜けな形になってしまった。本当はさりげなく…こう、


〇魔法で少し明るい俺の部屋

  何か本でも読んでる俺、響くノック音


俺「入れ」


  ドアを開け、頭を下げて上げるサキ。


サキ「失礼します、マーシャ様、就寝の時間です」

俺「うむそうか」


  本を閉じベッドに入る俺、横になりながらサキに向き直る


マーシャ「サキ…国王命令だ、こっち来いよ」


  不敵な微笑みを浮かべ最上級の艶美(えんび)な声で布団をめくる俺


サキ「…!マーシャ…様…!」


  顔を赤らめ恥じらうサキ


…というような流れにしたかったが、どう考えてもサキがそんな都合よく顔を赤らめる様子が想像できず、女関係で自分の考えがその通りに運んだ試しもないのであれこれ考えていて結局ベッドに入っている。


するとコンコンとノックが聞こえ、心臓が飛び上がった。


それでもいつもの条件反射で、

「入れ」

と言うとサキの「失礼します」という声が聞こえて扉を開け頭を下げた。


ここまでは俺の想像通り…。


だが、サキはふと顔を上げて俺がもうベッドに入っているのを見ると、それ以上言う事はないという顔つきになってもう一度頭を下げ、

「おやすみなさい、マーシャ様」

と外に出て行こうと顔を動かす。


い、いや、扉付近で戻られても困る!


「な、なあ、サキ」


本当はもっとしっかりした声で言うつもりだったのにどこか相手の機嫌を伺うかのようなしどろもどろな声の弱さになってしまった。

サキは振り向くので、こっちに来いと指でクイクイと呼び寄せるとベッドとはまだ離れた所まで進んで止まった。もっと来いと指を動かすと、ベッドの脇に立った。


言う。言うぞ、そして一生に一度の今だけ、国王の権力を振りかざす。それでもダンケが言ったというような断りやすい「入る?」ではなく「こっち来いよ」と断れない、国王としての命令を出す。


落ち着け、布団をめくってたった一言だ、一言「こっち来いよ」と言うだけだ。


「あ、ああの、何だ…今日は過ごしやすい気温で夜を迎えられて…」


頭では分かってるのに口が訳の分からない前口上を述べてしまう。

違う、と頭をかきむしりながらあっちの方向を見てうつむき、また髪の毛をかきむしる。


ダメだ、時間がたてばたつほど顔に血が昇っていくのが分かる。早く言わなければ、サキがどこか不思議そうな顔をして俺を見始めている…!


俺はまた髪の毛をかきむしってから布団をめくりサキを見上げ、

「こ、こ、ここ、こ…」


何でこっち来いの一言がこういう時すんなり言えないんだ俺は!


膝に頭を乗せてまた頭をかきむしって改めて顔を上げると、サキはベッドに片膝を乗せスッと身をのりだし、


「マーシャ様、失礼をば」

と両手を伸ばしてくる。


サキの手は俺の頬を撫でるかのように両脇から手を滑らせ、髪の毛をスッと後ろに流して行った。

その手つきに少しゾワッとして、その急な行動にも驚いてすぐ目の前にあるサキの顔を見ると、サキは俺の目を真っすぐに見ながらもう一度俺の髪の毛に指を滑らせ、


「綺麗な髪の毛なのです、寝る前に乱すようなことはおよしになってください」

「…!」


見透かされていた!?俺が、俺が権力を振りかざして既成事実を作ろうとしていたのが!?


その事と正面から見つめられるような、それでいてどこか男が女を口説き落とすかのようなやり方に一気に顔に血が昇って、そんな赤い顔を見られまいとベッドに倒れこむように丸まってあっちを向き、

「う、うるさい!うるさいうるさい!そんな事なんて全然考えてなんかないんだからな馬鹿!あっちいけ!」

と怒鳴ってしまう。


後ろからはサキが少し動揺したように少し黙り込み、

「…申し訳ございません、マーシャ様が髪の毛をかきむしって乱れたのでそのまま寝たら明日の朝が大変そうだと思って直そうと…」


「…」

…髪の毛が乱れるような事って、頭をかきむしったことか…。


そうなると余計に恥ずかしさで顔が熱くなってくる。


ああああ!色々と勘違いしたのが恥ずかしい、急に顔に触れられたのが恥ずかしい、何もかもが恥ずかしい!

「馬鹿!もう知らん!寝る!」


俺は布団を頭まで被って丸まった。


後ろからはどこかトーンの下がった声で、

「…おやすみなさい」

と声が聞こえ、扉を開けて、閉めていく音が聞こえる。俺はソッと布団から顔を出して扉をみやるが…もちろんサキは居ない。


俺は起き上がって顔を覆って、なんで!なんで俺は!こんなにうまくできないんだ!とブンブンと頭を振り回してふと斜め向こうを見ると、壁にかけてある父と母の肖像画が目に入った。


自分の今の心持のせいか何となく母の絵は我が息子ながら情けない、と苦笑しているように見えて、父の絵は、

「権力を振りかざしたらダメだって、父さんいつも言ってただろ?」

と同情しながらも諫めるような顔つきに見えた。


「…」

何となく両親の絵を見たら落ち着いてきて、それと同時に俺は何をやろうしていたんだと罪悪感も湧いて両親の絵の前に立ち、頭を下げて謝罪する。


やはり、いくらライバルだからと臣下を無理やり引き下がらせ、サキの気持ちも確かめないままに物にして一生隣に居させるようにするのは…やはりダメだ。


「父上、母上…今更ですが正々堂々、立ち向かいます。そのうえでサキに王妃になっても良いとその口から言わせるよう、尽力します」


もちろん両親の絵は動きもしないし喋りもしないが、二人の絵はどこか応援するかのような顔つきに見えてきた。


まず明日だ。明日、サキに何か欲しい物をプレゼントするぞ、俺は。


それと何も分かってないだろうが今しようとしたことも謝って…ついでにラッセルと庭で何を話していたのかも…。


「…」

しかしその部分は聞き出したいような、聞き出したくないような…。

「まず明日だ明日!」


俺はベッドにもぐりこんで横になり、明かりの魔法を消した。

タイトル、「俺は人間をやめるぞジョジョー!」より。

どうでもいい事ですが、私は偉い立場の人が「父さんダメだって言ったろ?」とか急激に父親っぽくなったりすると萌えます。

Twitterで「お母さんやるから!」「パパ今いくから!」「お姉ちゃんに任せて!」「お父さんねぇ…あ」って後輩や生徒に言ったとかいう話題見るとよく萌えます。

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