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メイドなる参謀~それは女子高生~  作者: 石山乃一
知らぬ世界へ
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プロローグ

はい、さようなら。


私はぐらりと屋上から体を傾け、頭から落ちました。


最初はゆっくりと、次第にスピードが出て風が駆け抜けぐんぐん下のコンクリートが近づいてきます。


あごを引くと学校の中にいる人と目が合いました。ギョッとした目でした。


誰か分からないけどこの一瞬が目に焼き付いて一生忘れられなくなるトラウマになったりして。


あ、しまったな。どうせ最期に見る光景なら学校側じゃなくて反対の景色を見るように落ちるんだった。失敗しました。




私は清水サキ十七歳。しがない女子高生です。


私が屋上から飛び降りた理由ですか?それは私のせいでクラスの子が首を吊って死んでしまったのが原因でした。


私のクラスにはある女の子がいました。

偶然にも小学・中学・高校とずっと同じ学校だったのでよく知ってる子でしたが、あまり仲がいいというわけでもありませんでした。


いいえ、むしろあまり関わりたくないと思って小学校時代から関わらないようにしていました。


何故かと言うと、友達と認定した人に大いに依存するような人だったんです。

小学校時代から友達認定されたら二度と逃がさないというほど引っ付いて行き、休み時間もトイレも放課後も休日もずっと一緒で、ついでに同じ部活にも入りいつまでも、どこでまもいっしょ…。


そこで鬱陶しいと一言いおうものなら、

「友達だと思ってたのに!死んじゃえ!」

と泣き出ししばらく不登校になって誰かが迎えに行くまで来なくなるので、まるでずっと友達認定された人が悪い事をしたかのような雰囲気になってしまうんです。


私は基本一人で行動したいタイプでいつでもべったりタイプの子に付きまとわれたくなかったので、関わらないようにしていたんです。


それが小学、中学ならまだ皆も昔からの顔なじみだからとある程度付き合っていましたが、高校生にもなると他の学校の子も一気に増えますし、自主性も、自分のことは自分でという考え方も育つものです。


その子が「友達だと思っていたのに!死んじゃえ!」と泣いて不登校になっても、皆、

「ああまた病気が始まったよ」

と鼻で笑い飛ばす程度で、気が済めば学校に出てくるでしょと見事にスルーする人が増えました。


しかしそうはいかないのが先生方で、担任の先生に目をつけられたのが私です。


「ずっと学校同じだったのよね?それなら少し声をかけて学校に出るようにしてくれないかしら。サキさんは人によって態度は変えないし頼りになるから、ね、お願い」


担任の先生に言われ、表面上の顔は変えませんでしたが、内心面倒だなと喉の奥で小さく唸りました。

要はそれって、その子の友達になって学校に出させろってことでしょう?


ずっと同じ学校だったからこそその子と関わりたくないのですが。こうやって迎えに行った人は確実に友達認定されて自分の時間を根こそぎ奪われていく人を私は何度も見ていました。


最初は理由付きで強く断っていましたが、そこを何とかと押し問答され、この後私に何が待ち受けてるかも知らないくせにと腹立たしい気持ちを抱えながらも断り切れず、仕方なしにその役目を引き受けました。


学校に引き戻すのは楽に成功し、そして案の定懐かれてしまいました。


私はいつも一人で行動していたため友達といえる友達がいたわけでもないのですが、それでもクラスの全員と何べんなく日常会話をたしなみ、笑い合う程度には親しくしていました。


そうしたら私を友達認定したその子は私が他の人と話すたびに、私以外の子と話しちゃイヤ!と高校生にもなって小学生レベルの発言を毎日言ってきました。


それを言われる度にガッカリしながらそれは無理だと諭していましたが、ある日先生にさようなら、と言っただけで先生とも話しちゃイヤ、などと言い出したので私はプツッと堪忍袋の緒が切れました。


「私あなた以外の人と一生話しちゃいけないんですか!?あなた中心に生活を送れって言うんですか!?そんなのがまかり通ると本気で思ってるんですか、ふざけないでください!」

と背を向けて帰りました。


その次の日、その子が家で首を吊って死んだと担任の口からクラスに知らされました。


しかも遺書があったようで、そこには私がその子にした酷い仕打ちが十枚以上に渡って書き綴られていたそうです。


しかしその全てが私の身に覚えのない物ばかりでした。


ただの言いがかりの遺書を残し、私に対する当てつけで死んだのではと私には思えてなりませんでしたが、実際にクラスメイトが死んだ手前その事は誰にも言えませんでした。


そして運の悪い事にろくに大きいニュースが無くてマンネリしていたワイドショーが女子高生の自殺をかぎつけ、全国にその遺書の一部が公開されました。


そうしたらその子と死ぬ直前まで一番近くに居た私がその加害者だと皆が思ったわけです。


事情を知っているクラスの子たちからは同情的に慰められることもありましたが、それを知らない他のクラスや学年の人からは、


『一人の生徒を死に追いやったくせに、すました顔で毎日学校に来ている厚かましい奴』


と思われていたようで、通りすがりに陰口や暴言をはかれ、ごみを投げつけられるという事が多くなりました。

それも学校内だけでなく、他校の生徒からもです。


私だってまさか自分の言葉のせいで死なれるなど思っていなかったので鬱鬱とした毎日を送っていたのにそのような仕打ちを受けるのですから段々と精神的に辛くなってきました。


それも私はSNSなどろくに見ないので知らなかったのですが、私の名前と顔、住んでる場所も出回っていたらしく、こいつが犯人・人殺し、とネットの中で有名になっていたようです。


そのせいで家にもマスコミのカメラが向けられるようになり、親にもなんでそんな事をしたとなじられ、殴られ、泣かれました。


どんなに自分の身の潔白を訴えようと一から説明しても一切聞いてくれず、怒鳴る・泣くしかしない姿を見て、子供の言葉よりテレビやネットの話の方がよほど信用できるんだなと思ったら悲しくなりましたし、自分の親ながら情けないとも思いました。


なので私も手紙に今までのことを全て洗いざらい書きました。


その子がどれだけ人に依存してくるか、その性格を知っていたので本当は関わりたくなかったことや、他の人と話す度に他の子と話さないでといつも言われて迷惑をしていたこと、挙句の果てには先生とも話すなと言い出し、声を荒げてしまったらその子が首を吊ったこと。


それと勝手に人の名前と顔と住所をネットで拡散するのはいかがなものかという世の中への怒りや不満と、子供の言葉よりテレビとネットの言葉を信じる両親への怒りと失望と、それと同時に短いお付き合いでしたがここまで育てていただいたことは感謝しますというのをたしなめた遺書を。


ああところで私は戦国とか江戸時代が好きなんです。武士、侍、武将。そういうのが好きなんです。


あまりに理不尽な事を言われたら命を懸けて自分の身の潔白を証明するために自分の命を持ってして果てる。格好いいじゃないですか。まあその傾向が強いのは主に江戸時代ですが。


まず死に場所は学校と決めました。

そして遺書を置き、靴を脱いで、はいさようなら、と屋上から飛び降りたわけです。


私の命をもってして理不尽を訴えた遺書です。きっと全国に私の嘆きと不満、怒りが届くはずです。


灰色のコンクリートの質感が目視できるほどになってきました。


…あれ、高い所から落下すると途中で意識失うから怖くないって何かで見たのに。


私は次に来る衝撃の強さを想像して今更ながらゾッとなり、歯を強く食いしばって目をつぶりました。

昔、夢の中で誤って学校の三階から落下した夢を見まして。

最初はゆっくりと、次第にスピードが出てぐんぐん風を切って落下して、コンクリートのザラザラした質感も良く見えるぐらいになって「いやだぁ!ぶつかる!」とコンクリートに向かってとっさに頭を守ろうと手を突き出し次に来るだろう衝撃に歯を食いしばって顔を左にわずかに背け


た所で目が覚めました。ここを見た皆さんは窓から大いに身を乗り出して洗濯物を取ってはいけませんよ。夢の中で私はそれでバランスを崩し落ちました。

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