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プロローグ
その夜、俺は俺の愛する人を抱いた。
合意の上の関係である。
彼女の髪に肌に唇に何度も、何度も触れた。
それだけを聞けば、愛し合う恋人達の甘い一時に聞こえるだろう。
だが、実際は少し違う。
触れた指先に熱はなぜか帯びず、触れた肌の温もりもどこか冷めていた。
理由は単純で、俺がどれだけ触れても、想いを懐いていてもこの気持ちが彼女に届くことはないとわかっているからだろう。
隣で眠る彼女には、好きな人がいるらしい。
そしてその好きな人には、どうやら恋人がいるそうだ。
何でそんな奴に惚れたのか、彼女の報われない思いが可哀想に思えた。
可哀想というよりは、同情に近いのかもしれない。
なぜなら、俺もそんな彼女に惚れてしまったから……。