第九十七話 虚栄の城 怒り
「は~これは……大貴族様のお屋敷でございますね?アルスロット様とはどんな方なのでしょうか?」
荷馬車に乗り北城門東の城壁伝いの広大な敷地に見上げるほどの高さの屋敷の前に到着すると、そんな感想がナーダの口から漏れてくる。
「ん、・・・・・」
「ふふっ、そうでございますか。それでは言葉では言い表せない立派な方なのですね」
「すまないが、この時間は小間使いの者はいないから自分たちで馬を馬房へと入れてくれ。敷地の一番東側にあるからね」
アルタナシア魔国から荷物を運んできたのは6台もの荷馬車にナーダを入れて12人といあり得ないような少人数編成だった。
「お帰りなさいませ……お客様でございますね。私はこのアルスロット・カイラス様のお屋敷の管理をお任せいただいているメリダ・トリニテと申します」
「メリダ様、私はアルタナシア魔国の王、ルーチェ・ザナ・アルタナシア様の側付きのナーダでございます」
「んっ、・・・・・・・・」
「そうでございますか、遠い所からお疲れでございましょう。屋敷の主人であるアルスロット様は今は不在ですがゆっくりとしていってくださいませ」
魔国からの荷馬車には総勢12人と言う人数の為、入り口から左の貴族用の小ホールを開け疲れ切ったナーダ達を迎え入れたのであった。
「ルーチェ様っ!!おいしいでふっ!!!とってもスパイスが利いてますっやはりアルスロット様は大貴族様なのですねこんなに香辛料の利いたお肉に、このマヨネーズソースが添えられた温野菜……たっぷりとこの白いソースをつけて食べるととっても美味しゅうございますよっ!!!」
「んっ、・・・・・・」
「これは、全てアルスロットのおかげだね。もう以前のような味気ない食事には戻れないだろうねえ」
「ええっええっ、これはっモグモグっんゅぐぐ……食べるのが止まりません」
ナーダ以外の者達は豪華すぎる貴族の小ホールに。しっかりと味付けされスパイシーな肉、未知の白いソースがかかった温野菜の味に無言となってがっつくのであった。
「ルーチェ様美味しかったでございますよ。皆の者もやはり疲れていたのですねこの美味しい食事でとても顔色が良くなっています」
お腹いっぱいの食事の後には、体が睡眠を要求し始めたのか直ぐに頭が舟を漕ぐ者が……ナーダを残しいつもは使っていない貴族用の部屋へと眠りについてもらう。
「メリダ様、わたくし共に過分なお部屋をありがとうございます。皆、明日の朝にはしっかりと疲れもとれ帰りの道中も頑張ることが出来ます」
小ホールから談話室へと移った後は、カルマータ、ルーチェ、メリダ、ナーダだけとなり目の前には食後の紅茶が香り高くメリダによって用意されていた。
「は~食後の紅茶も美味しゅうございます。メリダ様何から何までありがとうございます」
「お客人をお迎えする事は当たり前ですので、お気になさらずに」
「さて、ナーダ……そろそろアルタナシア魔国の状況を教えてくれるかい?」
「んっ、・・・・」
「はい、魔国の民は特に変わりはありません……次期アルタナシア魔国の王を決める5年に1度の時期になりましたがルーチェ様以外の者をという者たちは……一部ですが出てきております」
「へ~そりゃあまた、勇気のあるやつもいるもんだね……そいつらはルーチェよりも強いのかい?確か魔人族は力がすべてじゃなかったかい?」
「はい、カルマータ様その通りでございます……。魔人族の者はまずは力の強い者に惹かれます……そしてルーチェ様のような善良な王には特にです」
「確か、魔人族の2代前の王は。魔族の復活へと動いたヤツもいてルーチェのザナ家が魔人族たれと内戦、多くの犠牲を出して今の魔人族のアルタナシア魔国があるんだろうに」
「・・・」
ルーチェのその呟きにビクッと震えるナーダは、顔を歪ませながら口を開く……。
「アーティファクトダンジョンへと無断で入って行き戻ってこない者がおります……」
「それは、誰?」
それを聞いた瞬間一気に魔力が爆発しルーチェの姿が魔族化すると、背はカルマータよりも少し大きく肌は真っ白のままだが体中からは濃密な青い魔力が噴き出し氷結の魔女ライラのシルバーコートのような魔力を纏う姿となっていた。
「ルーチェ落ち着きな……」
「ナーダ、私が禁止したアーティファクトダンジョンへと入っていった者は誰……」
「それは……」
「<フェリンクロウ>っ!!!」
マユス・ガーランの魔法障壁を打ち破った時とは違い魔力を十分に乗せて生命の樹の根へと叩きつけ、アーティファクトで巨大化したピノが前足で削り取ったような大きな穴が開くが……。
「アル君、ダメそうね……」
「直ぐにふさがっちゃうのじゃ~」
ヴァル様が呟いた後には、俺の全開で放ったフェリンクロウの大きな穴は根が新たに伸び折り重なるようにふさがってしまっていた。
「まいったな……これで前に進めると思ったんだけど。こんなに修復が早いなんて」
「やはり、私の魔法を試してみるかないですわ」
魔法ロッド・テネルトーナを手に取ると魔力をロッドへと集中させる、するとポッボッボッボヒュと炎が上がるが、様子がおかしい。
「カトリナお姉ちゃんっ!!まって魔力の炎への変換が乱れてるっ!!!」
そして、空からはぽつぽつと水滴が……そしてアリアちゃんの声の直後にはドザーと滝のような水がカトリナ様を中心として俺達に降り注いでいたのだった。
「みんなだいじょうぶか?」俺は身体強化を立ち上げていたためその場にとどまることが出来たが、カトリナ様を始め皆は上から降り注いだ水の圧力に耐えられずにしゃがみ込み大量の水に後方へと流されていたのだった。
「ゲホっゲホっ、なんなんですの?なんで水が上から降って来るんですの?」
「びしょびしょなのじゃ~、髪も……乾くまで羽を出せないのじゃ~」
「もうっ!!なにっこの子供のいたずらのような水はっ!!!」
「う~聖衣が張り付いて動きにくいです~」
怪我はないようだが、皆の体は大量の水で完全に濡れ一番大量の水が降り注いだカトリナ様は水を飲んでしまったのか少しせき込み、カトラお姉さまも□魔法のバリアが間に合わなかったとこの子供のいたずらのような水に怒り爆発、ヴァル様は夜空のような漆黒の青色の長い髪が濡れ乾くまでは飛ぶことが出来ないとしょぼくれ、アリアちゃんの薄い聖衣は体にぴったりと張り付きいかにも動きにくそうだった。
「やっぱり、攻撃魔法はダメそうだね。まさか宝杖の力まで抑え込まれちゃうなんて」
「アル様、魔法の起動が失敗するなんて……おまけに水まで。これはこれで虚栄の都市が安全な都市とも身をもって知ることが出来ましたけど」
「カトリナっ確かに安全だけどこれじゃ何も出来ないわっ!!」
「みんな~ごめんなのじゃ~」
「ヴァルお姉ちゃんのせいじゃないです。でも、アルお兄ちゃんどうしようバーバラさんの所までどうやって行ったら……」
ここは宝杖でも魔法は行使できない、しかも子供のいたずらをスケールをデカくしたような安全装置が働き俺達は水浸しになった。そして、ニュースサイトのアンサーを渡しても答えは出ない……緊急速報も立ち上がらないという事はすぐにピンチになる事は今の所ないはずなので安心できるが、バーバラさんを助け出す方法はこの時の俺は全く分からなかったのだった。
「ピノっどうしたんでしゅか?うるしゃいでしゅメッでしゅよ?」
突然にピノが泣き出しその場で可愛い尻尾を激しく振りきゅうんきゅうんと鳴き声を上げ始める。
「どうしたのです?もう夜の精霊の時間ですよ。光の精霊が起きるまで眠りにつかなくてはね?」
「でも、ピノが急に泣き始めたでしゅ……それに夜のせいれいしゃまもお友達でしゅよ。あっピノッ!!」
テネシアは夜の精霊の時間は寝る時間ですよと言う意味でオフェリアに言ったのだが……。そんな事を思っていると我慢が出来なくなったのかピノはオフェリアの抱っこから抜け出し物凄い速さで部屋を飛び出していってしまう。
「オフェリア追ってはいけませんよ。幻獣族の子は我らとは違うのですからね?散歩が足りなかったのかもしれませんね」
「でもっでもっ……ピノが一緒じゃないとねむれないでしゅ……」
いつも一緒に寝ているピノがいないと眠れなく、つい先日も聖女様のカトラに我がままを言ってしまったばかりだった。
「それは困りましたね……仕方がありません母と眠りましょう」
「ほんとでしゅか?お母しゃまと?」
ドーンと抱き着くオフェリアに、隣に隣接しているテネシアの大きなベットへと入ったが……少しすると。
「お母しゃま……風のせいれいしゃまがピノの鳴き声をはこんできましゅ……とってもかなしい声でしゅ」
確かに、先ほどからどこか遠く……というか反響を重ねたような小さな小さな鳴き声が聞こえていた。
「これは……仕方がありませんね。まだ深夜ではないので大丈夫でしょうけどこのまま泣くピノをほってはおけませんね」
部屋着を着こみ、風の精霊が届ける声を聞きながら足を運ぶと……壁の前で先ほどよりも悲しそうな声できゅうんきゅうんと小さく泣くピノの姿が見える。
「ピノっどうしたでしゅか?さびしいでしゅか?」
オフェリアが近づき抱っこをすると今度は壁に向かってキャンと吠え始め、そこに何かあると言ってきているようにも見える。
「ここは……ピノどうしたのですか?ここに用があるのですか?」
すると、ピノはテネシアの言葉に応えるかのようにまたキャンと泣くとク~ン、ク~ンとまた悲しみ始める。
「お母しゃま、ピノがかなしそうでしゅ」
「そうですね……ですがここは」
テネシアとオフェリアが見上げた壁には何もない只の壁だが……オリア城の訓練場の壁は一つだけ秘密があった、虚栄の都市へと続く門が隠されていると。
「ピノには分かるのですね?ここに、門があるのが……そして、悲しそうに泣くという事なら……何かあるのですか?」
キャンとテネシアに応えるかのように泣くピノに、仕方ありませんねと壁に手を当てると巨大な門が浮き出るように目の前にそびえ立っていたのだった。




