第九十六話 虚栄の城 芽を出したのは
「アル様……これはいったい……」
俺達の前には虚栄の城が見上げるほどの巨大な樹に飲み込まれ、今もなおうごめく姿が見て取ることが出来ていた。
「ヴァルお姉ちゃんっ!!近寄っちゃだめだよっ!!」
「でっかい樹なのじゃ~わきゃきゃ~近寄ると襲ってくるのじゃ~」
アリアちゃんの心配通りふらふら~と空から近寄ってしまったヴァル様に、まだうごめき成長する樹の枝が迫り襲い掛かってきた。
「ヴァルちゃんっ!!△っ」
とっさに、カトラお姉さまの魔力の三角形が襲い掛かる樹の枝に描かれるとヴァル様に触れる寸前でピタリと動きを止めていたのだった。
「うわ~カトラ~ありがとうなのじゃ~」一目散に飛行モードから羽をしまい助けてくれたカトラお姉さまの背中に隠れるヴァル様。
先ほど用事があると言うカルマータさんとルーチェさんと別れ、俺達はカトラお姉さま、カトリナ様、ヴァル様、アリアちゃんと約束の夕方からかなり遅れてバーバラさんに会いに来たのだが目の前の虚栄の城は巨大な樹によって完全に侵食されていたのだった。
「虚栄の都市はエルヘイブをそのまま映しとっていますので通常時なら私が案内できますが……」
「アル君、これはカトリナでも案内は無理だと思うわ。近寄るだけでヴァルちゃんが襲われたし」
「この虚栄の城を覆いつくす巨大な樹はなんだ?<ニュースサイト>」皆にも情報が行くように公開設定でアンサーをかける。
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生命の樹
生命の樹は初期段階に大量の魔力を必要とする魔樹の一種、種を植えた後に魔力を供給し安定状態まで見守る必要がある。
魔力が足りない場合は、すべてを飲み込み代わりの魔力として大地を枯らす魔樹となる。
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「バーバがなかにいるのか~?アル、大丈夫か~」
これを見たヴァル様がへにょんと眉と口とへの字に曲げてしまい涙目に……待ちきれなくなったバーバラさんが生命の樹の種を植えてしまったことは明らかだった。
「ヴァルお姉ちゃん、ちょっと待ってね」
アリアちゃんは<かぜのこえ>を唱えると……。
「……大変な事になってしまった……魔力を与えていれば今の所大丈夫そうだけど、どうやってこの状況を……」
かぜのこえの後にぶつぶつと呟くような、バーバラさんの声が聞こえてきたが意外と落ち着いて無事そうだ。
「バーバの声なのじゃ~、ヴァルが来たのじゃ~!!」
「姫様っ!!どこから声がっ……申し訳ありません生命の樹の種を待ちきれなくて植えたらこんな事に、この樹は危険です直ぐにアルスロット様の元へとお逃げください」
「大丈夫なのじゃ~すぐ横にアルと皆がいるのじゃ~バーバも安心するのじゃ~」
「はっ、それはアルスロット様このような事になってしまい申し訳ありません。まさかこの生命の樹がこのような樹だとはとても……」
「それで、そちらはどのような状況なのです?先ほど魔力を与えれば大丈夫なような声が聞こえましたが」
「はい、この生命の樹は初期の成長段階時に大量の魔力を必要とする魔樹だったようです……まさか、私だけの魔力ではとても足りずこんな事になってしまうなんて……今はオーチャコ神の台座の上に小さな本体が、そこに私の魔力を与えています。そして足りない分は根からでしょうか大地を伝い周りを覆いつくす根で外がどうなっているかもわかりません」
「なるほど、これは足りない魔力を奪うために伸びて成長した根なんですね……という事はバーバラさんのいる本体の所へと行き、俺達も魔力供給をして正常に成長させるしかないということか……」
「正常にですか?もしかして上手く成長が出来ないという事態があるのですか?」
「生命の樹はどうやら、初期の成長時に安定して大量の魔力を与えないと残念ながら大地を枯らす魔樹となってしまうようです」
「そんなああああっ、私が待ちきれなかったばかりにこんな事にっヴァル姫様っ申し訳ありません」
「んっ?バーバ大丈夫なのじゃ~アルが何とかしてくれるのじゃ~バーバは待ってれば大丈夫なのじゃ~」
「ふふっそうねっ!!!バーバラさん魔力はまだ大丈夫かしら?」
「はい、カトラ様。私はこれでも長生きをしておりますので魔力炉がそれなりに大きいのですよ」
「それにしても……この根をどう対処するべきか……一応アンサーをかけてみるか」
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生命の樹の根
生命の樹は根が成長すると大地を枯らし、葉が成長すると大地に約束された豊穣をもたらす魔樹。初期段階で生命の樹の性質は決まりそれ以降は前述のどちらかの特性を持つ魔樹として育つ。
創世期にはその特性で豊穣と凶作のバランスをコントロールしていたが一部を残し人々から忘れ去られたことにより姿を消した。
根はなんでも魔力に変換し本体へと送り届ける能力がある、そのまま成長を続け大地の浸食が終わると特性が決定してしまう。
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「アル様、根が成長するといけなのでしたら燃やしてしまうのはどうでしょうか?」
共有でアンサーを見たカトリナ様が燃やすという力技を提案してくるが……。
「カトリナっそんな事をしたら中にいるバーバラさんも燃えちゃうじゃない?」
「カトリナお姉ちゃんの炎はすごいから大変な事になっちゃうかも……」
「そうだなあ、虚栄の都市で火災が起こったらどうなるのか?ヴァル様なにか分かる?」
「ん~ちょっと待ってなのじゃ~ん~むむむ~…………その前に魔法はダメなのじゃ~使おうとしても使えないのじゃ~」
「ありゃ?そうなのか……アリアちゃんの声を届ける魔法は使えているけど。あと身体強化も大丈夫でカトラお姉さまの魔法も△が使えた」
「今は、被攻撃魔法は使える設定なのじゃ~。攻撃魔法は解除する項目は無かったのじゃ~」
「アル様、どうしましょう……私たちでは魔法攻撃でしかこの根を何とかする事は出来ないですわ。カルマータ様とルーチェ様のお力ならなんてことないのでしょうけども」
カトリナ様が言う通り、セラフィムの中では最強の破壊の力を持つ二人が別行動なのが痛い……それに共有したニュースサイトの情報が流れたのにすぐに合流してきていないのが少し引っかかっていたのだった。
「んっ、・・・」
「ルーチェ様っ!!お体にお変わりはありませんか?」
そう聞きながら私の体を下から上にと隅々まで見るのは私が赤ん坊の頃から世話係をしているナーダだった。
「あんたも大変だね半年に一度、ほとんどアルタナシア魔国とグリナダス王国を休む暇なく行ったり来たりだろ?」
「いえいえ、カルマータ様そんな事はないのですよ。魔人族の男たちは人族とは違い強靭な体を持ちますので往復の荷馬車の旅で1ヵ月ほどととても早いのですよ?」
意外にも、往復は早いと言うナーダだが1ヵ月と言う時間はかなりに大変な荷馬車の旅だと思わないのはルーチェの事を心底思っているためか……。
「そういえば……もう、取引は終わってるんだってね?」
「ええ、魔国のワインを大量のヴァンプ族の香辛料と交換することが出来ました……どこからそれを?」
何処からか情報が漏れたのかと訝しむナーダに。
「ああ悪い、その商人は私らの知り合いと言うか……リーダーが使ってるエルランダ教国の商人でね。たまたま、魔国の上質なワインに目を付けたザイムが買い付けたんだよ」
「そうでございましたか……今までは魔国のワイン1樽にヴァンプ族の香辛料は3kgほどでしたが。今回ザイムという商人が示した交換比率は魔国のワイン1樽にヴァンプ族の香辛料10kgと驚くべき交換比率でした……」
「んっ、・・・・・・」
ビシッと親指を突き出すルーチェは嬉しそうにナーダにそう告げたのだった。
「そうかい……ちゃんとヴァンプ族の香辛料は値段が下がっているようだね」
「おかげで、行よりも帰りの荷馬車の方が重いと皆喜んでいます。ルーチェ様の行きつけの食堂の店主たちも喜ぶと思います」
「んっ、・・・・・・・・・」
思い出したのか、たら~んとよだれが出てしまいナーダは分かっていたのかそっとルーチェの口元をぬいぐっていたのだった。
「それにしても、先ほどから……ルーチェ様が魔族化しておりません。魔力もとても落ち着いて……いつもなら調子を崩していてナーダが魔人剣ルビアンテを持って宿屋に駆け込んでいるのに……」
「んっ、・・・・・・・」
「さっきから、アルと言う方のお名前が何度も出てきますが……もしかして……」
「ああ、アルスロット・カイラスと言うんだが。冒険者パーティー・セラフィムのリーダーで私たちと伴侶の誓いを約束している男だよ」
「はっわわわわわっ……ルーチェ様の?」
「んっ・・・・」
その言葉を聞いたナーダは白目をむいてそのまま後ろへと倒れ込み、パクパクと動く口はあのルーチェ様がと繰り返し呟くのだった。
「ん~~~!!・・・・・」
「はあ、ふう……申し訳ありません。まさか、まさかルーチェ様がお認めになられる御方が現れるとは……ナーダは夢にも思っておりませんでしたっ!それで、アルスロット様は何処におられるのですか?ルーチェ様を赤ん坊の頃からお世話させていただいたナーダにもちゃんと紹介してくださいませっ」
「んっ、・・・・・・」
「私たちはザイムから魔国のワインの取引の事を聞いてアルスロット達とは別行動を取って会いに来たんだよ」
「そうでございましたか……それでいつもの宿屋の前に、もう一つの待ち合わせ場所にしている冒険者ギルドの前と行き違いが無く助かりました」
何処の都市でもだが、移動中はひっきりなしに行きかう荷馬車と人で行き違いになる事は度々ある事だった。
「これからは、北城門東にある私たちのパーティー屋敷へと来るようにしてくれないかい?香辛料の取引も門を設置後にはスムーズにやりたいね」
「んっ、・・・・・・・・・」
「それは、どういった?ヴァンプ族と直接に取引することが出来るのですか?グリナダスの貴族を挟まず?」
「まあ、そういう事だね。現に魔国のワインは全てヴァンプ族の香辛料になったはずだね?」
「そうです……これがグリナダスの貴族にばれたら取引した商人は只ではすみません。あのザイムという商人は適正価格と言って全ての魔国のワインと言う条件はありましたが交換をしてくれました」
「そりゃ、今では魔国のワインの方が価値があるからね。グリナダスの小麦酒は不味いっと言ったらね……」
「・・・・・・・・・・」
「そうでございましたか、アルタナシア魔国のワインはそんなにおいしゅうございますか……」
グリナダスでも認められる魔国のワインと聞いて運んできた苦労も吹き飛んでしまうナーダであった。




