第八十七話 まいごなんでちゅ
「わああああっ。お父ちゃん、お母ちゃんお空がきらきらとってもきれいでちゅ」
グリナダス王国の大通りで立ち止まるラヴィが見上げる大空には夕日に照らされキラキラと光る雪の結晶が天から舞い降りていた。
「おっと……お嬢ちゃん、こんな所で上を見上げて止まってたらぶつかっちまうぜ?」
声をかけると口をポカーンと開け目はまんまるに見開き、きょろきょろと左右を見渡した後に大きな俺を見上げるお嬢ちゃんの目からは……涙があふれていた。
「ウッ……グズッグスッ、おかあちゃん……おとうちゃん……いないよう……あたらちいお家わかんないでちゅ……。おっおそらを見てたからまいごになっちゃったでちゅ」
きょろきょろと周りを見渡すがひっきりなしに人と荷馬車が行きかい大きな声の屋台のおっちゃんの声が小さなラヴィの声をすべて消し去っていた。
「まいったな……お嬢ちゃん迷子か? もしかして俺が声をかけたから親とはぐれたか?」
「ちっちがうでちゅ、ラヴィがおっおそらをきらきらしてきれいでちゅから……みてたら。おっおじちゃんがこえをかけてくれちゃから、まいごになっちゃったのがわかったでちゅ」
「おっおう……そうだったか、それでお嬢ちゃんのお家は何処だい? おじちゃんでよければ送ってやるよ。おっとおじちゃんはあやしい奴じゃないからなっほらっこれがおじちゃんの冒険者カードだ」
俺は首から下げる冒険者カードをこのお嬢ちゃんにしゃがんで見せる。
「がいる? おじちゃんでちゅか?」
「おっ、字が読めるんだなっえらいなっ!! そうだおじちゃんは……ガイルって言うんだ。こう見えてもBランクパーティー・ガンブルグを束ねるパーティーリーダーなんだぜ?」
「ぱーてぃーりーだーでちゅか? アルおにいちゃまとおなじでちゅか?」
「んっ?なんだアル? アルスロットの事か?」
「がいるおじちゃんはっアルおにいちゃまをしってまちゅか?!!」
「ああっ、しってるぜ? まだFランクだがなかなか出来た奴でなっ」
「ラヴィは、アルおにいちゃまにたすけてもらいまちゅたよっ!!」
「おうっそうだったのかっ!! じゃあ、新しい家も分からないみたいだしっ冒険者ギルドに行くか?」
「アルおにいちゃまがいまちゅかぁ?」
「ちょっとっ!! ガイルっなにやってんの……それガイルのいっけないんだ~チッタにいってやろ~いけーないんだ~」
「ぶっ、ティタっ!! こりゃあそんなんじゃねえっ!!!」
「冗談よ……あら~可愛いわね~4歳ぐらいかしら~。ねえ? 私はティタっていうんだけど、どうしたのかな~?」
ひょいと軽々抱き上げ、うるうるするラヴィの目線と合わせ指でたまる涙を拭き取ってあげる。
「ムラクとコトリの子、ラヴィでちゅ。きらきらおそらをみてたでちゅ、そしたらまいごなんでちゅ」
「ふふ、可愛い~。あー確かにさっきの夕日にキラキラと光る空は奇麗だったわねっ。それでお父さんとお母さんとはぐれちゃったのねっ」
「ああ、そうみたいだぜっ。どうやらその子はアルスロットの知り合いみたいだからとりあえず冒険者ギルドに連れて行こうと」
「ん~そうねえ~、皆~Fランクダンジョンで疲れてると思うけど直ぐに冒険者ギルドに行くよ~」
声の後にはチッタを含む12人のDランクパーティー・バルキリエの女性たちが抱っこされるラヴィに群がったのだった。
「う~~~~ん、良く寝たのじゃ~っ!!! アルの所に行くのじゃ~」
夕方になり伸びをしながら目が覚めたヴァルは布団から元気よく飛び出し2階のバルコニーへと飛び出るとそのまま夕日が落ちる大空へと飛び立っていた。
北の城壁に沿って広大な敷地を持つアルスロットがアスハブ陛下から下賜された貴族屋敷からグリナダス王国の冒険者ギルド総本部はオーチャコ神礼拝堂を中心とし南にそして北には小城を内包するグラファルン城が巨大な姿を見せていた。
「むーーん、沈むおひさまが……あっちなのじゃ~……」グリナダスの上空へと飛び上がりアルから教えてもらった日の沈む方向は西……先日、あふれるモンスターの脅威にさらされた辺境都市オリアへと沈む夕日が見えていた。
「…………グリナダスはまんまるいのじゃ~真ん中にギルドがあるのじゃ~」西を向いた体を左に90度回すと大きな城が見え、オーチャコ神の礼拝堂にその先は陰になり見ることはかなわなかったが、ふわっと優しい魔力が冒険者ギルドのほうから一気にグリナダス中に広がり、雪の結晶がチラチラと夕日に輝き幻想的な景色を作り出していたのだった。
「ライラのまりょくなのじゃ~っ!!!ふわ~っ気持ちいいのじゃ~」
ライラの優しい魔力になんだかうれしくなり、オーチャコ神礼拝堂の尖塔をグルグルと余分に回り冒険者ギルドへと降り立ったっていたが。この日、オーチャコ神礼拝堂へと目を向けた者達は、神の御使いが天から降りてきたと噂したのだった。
「ふうっ、冒険者ギルドに着いたわよ。うわっ!! なんでこんなに混んでるの? アル君がいるといいけど……ラヴィちゃん?」
「オーチャコ神のみちゅかいちゃまがおりてきまちゅ……」
「へっ? オーチャコ神の?」
ラヴィに言われ上を見上げると、体全体を濃密な魔力を纏いキラキラと光るオーチャコ神の御使いは大きな羽を羽ばたかせ魔力を散らすように払いのけた後に現れたのは……。
「と~~~~ちゃ~~~くなのじゃ~~っ!!アル~いるか~?」
「うわっ!! あなたヴァンプ族?」
「おしょらから……みつかいさまでちゅっ!!!」
「わらわはヴァルなのじゃ~、みつかいってなんだ~?」
「おとうちゃんと、おかあちゃんにいいこしてるとオーチャコ神ちゃまのみつかいちゃまがきてくれるっちぇ……」
「ヴァルは……ヴァンプ族なのじゃ~」髪の一部となっていた羽を魔力を流して大きく広げる。
「うわ~っ!!!すごいでちゅっ!!!みつかいちゃまのおそらにとぶはねでちゅっ!!!」
ティタの手を離し近寄るラヴィに、漆黒の羽を羽ばたかせ魔力の乗った風を送ると……。
「ふわ~すごいでちゅっ!!ラヴィの体が浮いてるように軽くなりまちゅっ!!!」ヴァルよりもさらに小さいラヴィの体はヴァルの魔力の羽ばたきの風で体が軽く浮くような感覚を伝えていたのだった。
「空を飛んで見るか~? ヴァルよりちっこいから軽々なのじゃ~」
「いいんでちゅかっ?おそらをとんで見たいでちゅ」
大喜びし興奮するラヴィを後ろから抱えると……ふわっと羽ばたき未だライラの魔力が満ち雪の結晶が舞い散るグリナダスの大空へとスッと飛び立ちラヴィは人生初の飛行を楽しんだのであった。
「おい、ヴァルと言ったかあの子……アルって言ってたよな?」
「うん、降りてきた時に……。ヴァンプ族の人、久しぶりに見たわ~以前は初心者ダンジョンで荷運びのクエストでお世話になったけど」
「ああ、今は10階層までCランク以上のパーティーじゃなきゃ入れないからな。その先はAランクパーティーしか許可が出てない」
「ガンブルグは挑戦したんだっけ?」
「行ったが……ありゃダメだな1Fですぐに引き返した。小規模なパーティーでは進むこともままならねえ規模のダンジョンになっちまってたよ。その内、Sランクダンジョンに格上げされると思うぜ?」
「そうなんだ……残念だなあ、Fランクダンジョンで私達結構がんばってあと少しでCランクに届きそうなんだけど」
そんな情報交換をしていると……雪の魔力も薄くなり空の飛行を楽しみ終わったヴァルとラヴィが下りてきたのだった。
「うわっ!!」
「やっぱり、おねえちゃまはみちゅかいちゃまでちゅっ!!」ぎゅっとヴァルに抱き着くラヴィは目をキラキラとさせて興奮収まらず。
「空を飛ぶのは気持ちいいのじゃ~、楽しかったか~?」
「うんっ、おねえちゃまっ!!!」
「ヴァルていったか?アルのパーティーメンバーなのか?」
「んっ、そうなのじゃ~アルはいるか~?」
「えっと、私達もいま冒険者ギルドについたところなの。それに、今日はなぜか大混雑してて中にも入れないのよね」
「ああ、まいったぜっ……。こんなに混みあうと言ったら剣聖が来た時ぐらいだが」
「あらあら? ヴァルちゃんかしら?」人混みがさっと割れて入り口から顔を出したのは顔をシルバーコートで隠した氷結の魔女ライラであった。
「あっ~やっぱりなのじゃ~とっても優しい魔力が空高くまでヴァルの所まで届いていたのじゃ~」
ライラを見つけたヴァルはラヴィを抱えたままライラへと抱き着き。
「ふわっふわっふわ~でちゅっ!!!」
ラヴィもライラの優しい魔力に虜になってしまっていたのだった。
「あらあら~、この子は何処の子かしら~」
「その子は迷子になっていたんです。なんでもお空を見てたら、親とはぐれてしまったそうです」
「たまたま、立ち尽くすこの子に俺がぶつかりそうになって……」
「がいるおじちゃんが声をかけてくれちゃから、ラヴィがまいごになっちゃのがわかったでちゅ。アルおにいちゃまがいるぼうけんしゃギルドにつれてきてくれちゃんでちゅ」
「まあまあ、そうだったのね~。アルスロットちゃんなら今はギルドマスターと話してると思うわ~」
「よかったでちゅっ!!アルおにいちゃまがいまちゅっ!!」
「ふふっ、良かったわね~」
なんとも、良かったのかニコニコするラヴィにこれで迷子は解決したのかとほっと一安心するBランクパーティー・ガンブルグとDランクパーティー・バルキリエは目を見合わせ深い安どのため息をつくのであった。




