第八十二話 辺境都市オリア ポルン
あの子たちは何だったのだろうか……私はポルン、元は商業ギルドの食糧全般の取引を仕切るギルド員で駆け出しの商人と冒険者が利用できる低価格宿屋と自身の料理好きから始めた食堂の味改革でオリア城主であるアルタス様の舌にとまり今は王宮料理長と言うポストについているのだが……その私の舌が旨いと、汚い話だがよだれが止めどなく溢れたあの一口……たった一口の味がいまだに残っていたのだった。
この辺境都市オリアは私が生まれる以前より頻繁に広大な大森林からのモンスターの氾濫が幾度もなくあったのだがそのどれもが、オリア軍が動けば半日も立たずとして制圧できるものであったのだが……。
「ターニア……この王城から見えるモンスターの群れ……この世界からオリアは消える運命なのだろうか?」
「ポルン……ダメですよそんな弱気では、貴方は暖かな食事を皆さんに届け少しでも安心できる場所を提供する、そんな大事な仕事があるのですよ」
「そうだったな……」私の永遠の連れ合いであるターニアにそっと手を取られながら諭されるが……今までの辺境都市オリアの歴史上、城壁までモンスターがとりつきその先の平原を埋め尽くすほどのモンスターの侵攻の記録はない……そんな光景に自然と私の首は項垂れてしまう。
「もうっ、ポルン覚えていますか?貴方はオリア兵の父にお腹いっぱいの暖かな食事を食べてもらうんだと幼馴染の私まで巻き込んで暖かなスープを作ったではないですか。また、あの時の子供の時のような優しい心を込めて必死になって城壁でモンスターを抑える兵士たちと避難してきたエルフィン族の皆様を安心させるためにも王宮料理長となったあなたの力が必要なんですのよ」
「ああ、そうだ……ターニアすまない。心温まる食事を皆にお出ししよう」
んっ?子供の声?……私は夕食の仕上げの為に調理場へと足を向けると、私の数百人にもなる弟子に交じって小さな子供が二人……先頭に立ち調理を手伝っていた。
「そうっ、基礎魔法を使って乳化させるのよっ!!ちょっとっ!!魔力はもっと優しくっ!!飛び散ってるわよっ!!!」
「うんっ、そうそう少しずつコケッコ鶏の卵に混ぜていくんです。あっだめですっ!!」
「あれ?混ざらない?しっ白くならないですね……」
「それはねっいっぺんに油草の油を入れすぎたのよっ。糸のように細く鋭くそして柔らかく魔力を流して風をコントロールするのよっ!!」
「ふふっ、マリアも一番失敗した大事な所よねっ!」
「ふっふんっ!!私はもう完璧っよっ!!」
「いや~素晴らしいです、君たちはどうやってこんな魔法調理技術を?特に繊細なコントロールが素晴らしいよさぞ素晴らしい先生に教えてもらったんだね?」
「そうよっ!!聞いて驚きなさいっ!!!私たちの先生はグリナダスの聖女様とオリアの英雄である氷結の魔女なのよっ!!!」
「ちょっと、マリアっ!それは秘密じゃ……」
「あっえっでも。もう言っちゃったもん……」
「あらっあなた達ですね?とてもおいしいマヨネーズとかいうソースを作り出す魔法調理師さんは?」
「はっはい、私はカレナで横にいるのがマリアと言います」
「そうですか、貴方たち二人が……マヨネーズを付けて野菜スティクを食べた時には飛び上がるほどのおいしさに皆ビックリしましたよ。そしてマヨネーズというソースを作り出したのが子供だと聞きつけこうしてやってまいりました」
「やったっ!!カレナっ私たちのマヨネーズが美味しいってっ!!!」
「うんっ、マリアっうれしいっ!!」
「それでですが、貴方たちに私達エルフィン族の女王であるテネシア様にお出しするマヨネーズを作って欲しいのです」
「ええっ!!!エルフィン族の女王様の?」
「どっどうしようマリア……私たちが女王様のマヨネーズを作ってもいいの?」
「ええ、もちろんです。そのために女王テネシア様のお付きである私が直接あなたたちに会いに来たのですよ」
「さっ、さっそくマヨネーズを作って頂戴。聖女様のお力により先ほどテネシア様も重いお怪我からお目覚めになってとてもお腹がすいているはずです」
「「はいっ!!!」」
信じられないことに私を通さずにエルフィン族の女王であるテネシア様にお出しする料理をテネシア様のお付きの者から直接、小さな二人の魔法調理師に依頼が来ていたのだった。
「失礼するっ!!私はこのオリア王宮料理長を任されているポルンだが。お付き殿みずからこの子供たちに?失礼ながらこの調理場を預かる長としてそれは看過できないのだが」
「んっ!!!私たちはアスハブ陛下より言を頂いたアルスロット・カイラスから依頼を受けてこの調理場へ入ったわっ!!!」
「調理場を好きに使う許可もいただいてます。ポルンの弟子の方たちにも手伝ってもらうよう、また指導もと言われています」
「なんだと?それはホントなのか?」
「失礼ですが、ポルンといいましたか?まずはこの子たちの作り出したマヨネーズソースを頂いてみなさい」
「あっああ……少し私にそのマヨネーズソースという物を味見させてもらえるかな?」
「ん~どうしようかな~」
「もうっ、マリアだめだよ?ここに呼ばれた理由はシエルハーナお母さんに言われたでしょ?」
「うっうん、そうだけど……」
「それに、マヨネーズソースは?」
「皆のソースです……」
「自分が作ったマヨネーズソースを色んな人に味見をしてもらって受け入れてもらっていっぱい広めようって言ってたのはマリアだよ~?」
「うぐぐっカレナ……その通りです……」
「ごめんなさい、ポルンさん?ちょっとツンツンしちゃう子なんですがマヨネーズソースは作ることを許された者達の中では一番なの腕なんですよっ!」
「うむ、わたしも君たちに大変失礼な態度をとってしまった。この通りだ、その美味しいと皆から評判のマヨネーズソースを味見させてくれないか?」
「別に私は意地悪じゃないもんっ!だからすぐに作って味見させてあげるわっ!!」
マリアと言う子はどうにか機嫌を直し買い物などによく使われる大き目の袋に持ち手が縫われた物の中から次々と食材を取り出してゆく……。コケッコ鶏の卵、油草、スパイシーの実、黒塩……どれも辺境都市オリアではとても高価な食材がひょいひょいと出てくる光景に私はめまいがする……。
「ちょっちょっとまってくれ……今から作り出すマヨネーズソースという物はこんなに高価な食材を使って作り出す物なのか?」
「んっ?高価な食材?」
「あっ、グリナダスではそんなに高価じゃないんですよ?コケッコ鶏の卵は毎朝、グリナダスの城壁外に設置された巣に勝手に産み落とされるし新人冒険者がクエストとして卵を回収するので毎日新鮮なコケッコ鶏の卵がグリナダスでは手に入れることが出来るんです」
「ああ、コケッコ鶏の卵はオリアでもそうなんだが……油草、スパイシーの実、黒塩が……特にスパイシーの実は貴族の食卓にしか上らない高級香辛料なんだが……」
「えっ?そうなの、でもグリナダスではそんなに高くないよ?それにほらレーモンや新しく見つけたえーと……カレナなんて言ったっけ?」
「コク樹の若芽のしぼり汁?」
「うんっそう、それコケッコ鶏のお肉にとっても会うやつっ!!」
「えーと……忘れちゃった……でも、今から作るマヨネーズソースには使わないからまたでいいじゃない?」
「まっいいかっ!!じゃっ作るよ~」
軽くそう宣言した後には物凄い速さで材料を魔法を使い混ぜ始める……すごい、先ほど聞こえてきた精密な魔法に驚いていた弟子たちの言葉が思い起こされる……基礎魔法には生活に必要な魔法が詰まっている、特に体を洗う事の出来る清浄系魔法、水を作り出す魔法、種火を出す魔法とあるが……マリアと言う子が使っているのはあまり使う事のない微風魔法と言われるものだった……。
「カレナと言ったね、マリアは基礎魔法をいくつ使っているんだね?」
「あっはい、えーと清浄系と微風魔法です。本当は微風魔法だけでも作るれるんですがマリアが清浄系魔法を駆使して不純物?を取り除いて素材だけの味を取り出してるそうでマリアだけにしか今の所できない高度な魔法なんです」
私はそれを聞いて頭の中はパニックになる……体を洗う清浄系魔法を使っている?素材の味だけを取り出す?それに基礎魔法だが……清浄系魔法と微風魔法を多重行使?あまりの衝撃的な内容とは裏腹にマリアと言う子はいとも簡単そうに鼻歌交じりでマヨネーズソースを完成させていったのだった。
「できたわっ!!!さっ味見をどうぞ?」
エルフィン族の女王であるテネシア様にお出しする物とは分けて私とお付きの者へとそれぞれ野菜ステックが配られる……。
野菜が……冷たい?
「これは……野菜スティクがほんのり冷たい……」
「あっ、だって生ぬるい野菜は美味しくないんだもんっ!水魔法の温度をコントロールしてあらかじめ野菜を冷やしておいたんだっ。これは二人で頑張って冷やしたんだよねっカレナっ!!」
「うんっ、冷たい水の生成は大変だから二人で頑張ったよねっマリア」
「うむっ、パキッとしてて瑞々しくまったりしたマヨネーズソースの味がとてもマッチしていますね。二人ともご苦労様でしたこれほどの味ならテネシア様にお出ししてもきっと美味しいとおっしゃってくださるでしょう」
「うむ、素晴らしい味だ……野菜スティクがこれほどまでに美味しいと感じたことは今までにない……」
「マリアよかったわねっ!!」
「もちろんよカレナっ!!」
マリアと言う子は自信たっぷりに胸を張り、エルフィン族のお付きの者を満足させていたのだった……もちろん私の舌も……。
そして、二人はそのままお付きに連れられて自分たちが作った物をエルフィン族の女王テネシア様にお出しするため調理場から姿を消してしまったのだったのだが……。
「ポルンお久しぶりです」
そんな私の前に現れたのは、私が冒険者向けの安宿を開発するきっかけとなった剣聖ラングと……その後ろには私の舌を唸らせたマリアとカレナの姿があったのだった。




