第七十二話 辺境都市オリア アルちゃんと通じ合ってるわっ
「お父さま、わたくしのアル様が困っていますわっ!」
「うっ、うむ……私も深くは聞くつもりはない……どうやって知ったのかつい口が出てしまったのだよ、許してくれ」
「はい、どうやって知りえたかは申し訳ありませんがお答えできませんが……かなりの正確性のある情報です、それに僕の情報から王国軍剣聖部隊がすぐさま西城門へ先行いたしました」
もう、剣聖ラング……お父さまが西城門へ向かって10分以上は経過していることに少し焦りを覚えてきた……。
「剣聖ラングが信じた情報だ、私も君のその情報を信じるしどのみち兵士はどの門にも送るのは決まっているそれが早まっただけだ」
「ありがとうございます。僕たちはこれから西城門へと、剣聖ラングに合流し少しでも助けになるよう向かおうと思いますのでこれで失礼いたします」
「んっ? 虚栄の門はどうするのだ? 開いたままだし、もう数十分ほど兵たちの移動に時間が必要なんだが……」
「それは、大丈夫なのじゃ~虚栄の門は離れてても開閉や解除は出来ちゃうのだ~」
「そっそうなのか……私も兵の移動後はこの城前に広がる大広場に陣を張り逐一伝令を出し対処するつもりだ。何かあればそれぞれ向かわせる部隊に必ず伝令兵がいるから君たちセラフィムのメンバーも伝令を使えるよう手配しよう……」
「はい、よろしくお願いします。それでは西城門が気になりますので僕たちはこれで失礼いたします」
俺はスッと軽く頭を下げながらその場を離れて激しい戦いが始まっていると思われる西城門へと向かったのだった。
「だっ!! だめだああ。城門が破られるったいっ………………」
その頃、西の大森林から押し寄せたモンスターの波は強固な城門を破り、オリアの街へと流れ込んでいた……。
俺の息子のアルスロットが約6分後には西城門がモンスターに破られ、このオリアは蹂躙され壊滅すると突然言い出した時には驚いたが……身体強化で西城門まで走りぬけた時には……。
「アル……何とか間に合ったようだ、ありがとう……」
俺達が到着した西城門の扉は、ゆっくりと轟音を立てながら内側へと倒れていくのが到着する直前の俺たちの目に映っていた。
「ガンダーっ!!! 門の代わりにモンスターを止めろっ!!! 俺はモンスターの圧力を下げるっ! ジェナス、ロンド、パナス(パナストリーチェ)、はガンダーと押しとどめたモンスターを片っ端から叩けっ!!! 他の者は崩れた兵士たちの代わりに城壁の守りに付けっ!!!」
ガンダーが飛び込んだ門の先には真っ黒に塗り潰された闇の中から無数の真っ赤な光がこちらに鈍い光を反射させ今にもオリアを飲み込もうとモンスターの群れが入り込み始めていた。
「うおおおおっ!!!」ガンダーが雄たけびを上げながら特別製の巨大な盾を前面に構えると……新しい素材で作られたマジックレイヤーアーマーの盾がモンスターに接触しキャリキャリと甲高い音を立て……刹那の時間、先頭のモンスターの体が硬直する。
「あとは任せたぞ……<神鋭><ラインスラッシュ>」ガンダーが瞬きするほどの間、先頭のモンスターを受け止めたことにより連鎖して全てのモンスターが硬直したところを神鋭で更に加速した俺はラインスラッシュで切り伏せる……。
固い……オリアに押し寄せるモンスターは暗闇のなかで不気味に赤く光っていた。切れないことは無いが切れ味が鈍ればスピードが落ちるため、更に俺は魔力をダンジョンで手に入れたゼフィラスに込めると俺の魔力を旨いとばかりに刃に這わせ一回り巨大な魔力の刃を作り出していた。
「ラング様っ凄いぜっ!!」「あれが……ラング様がダンジョンで手に入れた宝の剣」「きれいっ!!」ラングの捉えることのできない神鋭と青白く走る巨大な剣線の後には門内に入り込んでいた全てのモンスターが砂と化していた……。
「ばかやろうっ!!! お前らラングの後に続けっ!!」
「もうっガンダーっ余裕なんだから剣聖の力の余韻に浸らせてよねっ!!」
「いいか?門はすでに破られている、どれほどのモンスターがオリアに押し寄せているか分からないんだぞ……。おらっ俺は門の右半分を塞ぐから左に流したモンスターを叩けよっ!!」
ラングはモンスターの大群で姿が見えなくなり門に押し寄せるモンスターの圧力がぐんと減っていた。
「アル落ち着いているねえ……エルランダ教国からずっと無茶な戦いをしてきたせいなのかね……」
「そうですわね……アル様は昨日の王城での戦いの後に目覚めてからは、落ち着いた雰囲気がありますわ」
「んっ!」ルーチェもうんうんとカルマータとカトリナの意見に首を動かす。
「そうなのか~?」
「えっ? 俺が何?」
「アルの雰囲気が落ち着いてるって話していたんだよ、普通はモンスターの大群の中にいるってだけで人は怯えて恐怖するもんだがね」
「えっと、そんなこと言ったら皆も落ち着いてるよね?」
「はは、そうだけどね。私らはこれでも経験を積んでいるんだよアルよりもね」「んっんっ!!」
「私はさすがに少し怖いですわ……カルマータ様とルーチェ様と一緒にはしないでくださいませねっ」
「ヴァルもさすがに怖いのじゃ~でも、皆がいるから大丈夫なのじゃ~」
「それで、どうするんだい? 私たちの力を見せてしまっても? 正直、アーティファクトを飲み込んだモンスターが混じっているならある程度の力を出さなきゃ押し寄せる大量のモンスターを押し返すことはできないかもしれない」
「本当の力ですか?」
「ああ、私もルーチェも普段とは話にならないほどの力を出すことが出来る……が」
カルマータさんは代々受け継がれたアーティファクトの力と、ルーチェさんは魔人族の先祖返り? だっけ……魔剣カーンがそばにあれば二人ともその力を使ったとしても安全みたいだけど、剣聖ラングと王国軍の兵たちもいるし……あまり目立って活躍するようなことになっては、オリアを救うために王国軍を動かしたアスハブ陛下の立場を悪くするかもしれない。
「そうですね……このオリアのモンスターを俺達だけで殲滅ではありませんから……。魔族の力を使うのは必要になった時だけにしませんか?」
「そうかい…………アルがセラフィムのリーダーだからね、私らはそれに従うよ」
「んっ!」ルーチェさんはぐいっと親指を突き出しそれで大丈夫と俺を安心させてくれる……。
「アル~大丈夫なのだ~皆でモンスターを追い払うのじゃ~」
「そうですわ……この苦境は皆で乗り切り、また平和なオリアを取り戻しますわっ」
俺達は今まで手に入れた力のみでこのオリアの苦境を乗り切る決断をし、全力で西城門へ到着した時にはあまりの光景に先ほどまでの意気込みは奇麗さっぱりと吹き飛んでしまっていた……。
「ぎゃああああっ!!!」「だれかっ!! こいつを後方にっ」「回復魔法士っ!!」
チャトラさんの新しいアーマーを着込んでいるが……俺のとは違い存続の繋目があり強度もかなり落とされたマジックレイヤーアーマーでも時折混じる赤い強化されたモンスターの強烈な一撃を受け止めることが出来なく怪我をするものがあちらこちらで出ていた。
「赤いモンスターに気を付けろっ!!! 動きが早く固いうえに、受け損なうとやばいっ!!! できるだけ避けるんだっ!」
必死に指示を出しているが……止めどなく押し寄せるモンスターに避けることもかなわず、すでに少ない部隊では支えることが出来ずにじりじりと後退しはじめていた。
「ヴァル様……虚栄の門は?」
「ん~、まだ駄目なのじゃ~」
ヴァル様が設置する虚栄の門は一つの都市に一つだけの制限があるようで、今は王都グリナダスの兵士を移動させるためにオリアの城がある中心部に虚栄の門を設置していたので、移動が終わるまでは門をここに出す事は出来ないようだ。
「仕方ないね……アルと私とルーチェで打って出て何とか門外で押しとどめるよ。カトリナは城壁の兵たちへの支援と、ヴァルは兵が移動し終わったら代わりにここに門を設置するんだよ」
「んっ!」「分かりましたわっ」「ハイなのじゃ~」
「皆、混戦になるから気を付けてね」
俺は何時ものように皆の力で乗り越えられるとこの時は……。
「アルちゃん大丈夫かしら……ママ心配になってきちゃったわ…………」
ここ数日でアルスロットの生活が一変し、夜中まで帰ってこないことも……本当ならライラの腕の中で小さな赤ん坊のアルスロットが眠っているはずなのにと、大きくなったアルに理解はあるがライラの心の奥底では目まぐるしく成長して歩き出してしまったアルスロットに寂しさを感じていた。
「そうだわっ!!! オリアに逃げてきた方たちは食事とか大変なはず……アルちゃんから虚栄の指輪を貰ったしパッとお手伝いしてパッとアルちゃんに会いに行きましょうっ。ふふっとってもいい案が浮かんじゃったわ~料理上手なマリアちゃんとカレナちゃんにお手伝いしてもらって~皆さんにいっ~ぱい美味しい食べ物を頂いてもらいましょう」
すっかり、限定タイプの虚栄の指輪は指輪を持たない他人はドアを通ることが出来ないと忘れているライラは自分が考えた名案にふんっふふっふふ~ん、と鼻歌を歌いながら足取り軽くオーチャコ神礼拝堂へと向かうのであった。
「シエルハーナ殿、アルスロット様より料理が出来る孤児をオリアの救済の為に手伝いに出してほしいとの事ですわ」
「ふむ、それは構わないが……オリアは大丈夫ないのかい?」
「それはもちろんですわ、今現在オリアにはアルスロット様とセラフィム、剣聖ラングと王国軍がすでに到着済みですわ」
「はははっそれなら安心だねっ、ちょっと待っててくれよ残念だが今の時間起きていられる大きな子は二人しかいないんだがそれでもいいかな?」
「はい、構いませんわ」
この世界の仕事は朝がとても早い……ある程度大きくなった子供たちはオーチャコ神礼拝堂の掃除を中心に、今ではアルスロット殿が開発したマヨネーズ需要でコケッコ鶏の卵の大量の買い出しからとても忙しい一日を孤児たちは過ごすようになっていた。
「ふふ……まさか、お金に困ることなくしかも将来は今度作られるマヨネーズ工場や各都市の貴族のお抱え料理長から弟子に来ないかと大量の手紙が届くほどだ……。あれはダメだ一口でも味わってしまうとそれ無しでは生きてはいけないな……それほどの素材を劇的にうまくする魔法のマヨネーズ……おっと、来客か?こんな時間に?」
院長室から孤児院へと歩いていたシエルハーナの前にはかつて氷結の魔女と言われたライラの姿があったのだった……。
「あっ! シエルハーナ丁度良かったっ!! ふふっ今からアルちゃんの所に行くのっこの前マヨネーズの作り方を教えた……えーと、マリアちゃんとカレナちゃんは居るかし……あっ違うわね、まだ起きてるかしら?」
「あっああ、ライラ先日は子供たちに指導有難うマヨネーズのおかげで一切お金に孤児たちの将来に困ることは無くなったよ……。ふむ、丁度良いと言うか今私もその二人を呼びに今から行くところだったんだよね」
「あらっ? そうだったの丁度良かったのね~じゃ私も一緒に行くわっ」
「それに、アルスロット殿の屋敷を管理しているメリダ・トリニテ様が来ているよ……たぶん、君の息子のアルスロット殿とライラの考えは同じかな?」
「ええええっ!! アルちゃんが? ふふっふふふふっそうっアルちゃんもなのねっ!!!」
スキップにくるくると回転を入れながらアルスロットと同じ考えが浮かび、とても上機嫌になるライラにシエルハーナは苦笑いをするしか無かった。