第六十八話 行き遅れ
私は、シエルナーザ・ギルン・グリナダス。王家の血筋の中で一番最後に生まれ落ちた末娘だ……私の上には10歳離れたジェレント兄さまに5歳違いのポメラとパメラという見分けがつかないほどそっくりな双子のお姉さまがいるが、すでに別の家に嫁に出てしまいこの二人の王位継承権は私より下となってしまっていた……。
そうそう、私はピチピチの20歳だ……ふふふ……実はいくつもの貴族たちから求婚の申し込みはあったのだが全て断りいわゆる行き遅れていた。二人の双子のお姉さま達は12歳で嫁いでいるのが普通なのだから私の行き遅れ具合は……分かるだろう?
「はあっ……」
「どうなさいました? シエル様ため息がさっきから何度も出ていますよ?」
「あっえっ?」
「気づいておられなかったのですね? 先ほどから、はあっはあっはあっと声だけ聞いたら怪しい方でしたよ?」
「うっ……だって……私もう20歳に、だけど未だに……」
「ああ、理想の旦那様を思い浮かべてため息をついてらっしゃったんですね?」
「私、完全に行き遅れた……」
「そういえば……ポメラ様の愛娘のカトリナ様が……意中の方を見つけたと聞きました。なんでも剣聖ラングのご子息だとかで……」
「えっ?! カトリナがっ? 確かあの子は12歳だったわ……私は20歳……ううううううううっなんでっ!!! 私だけっしかも姪に先を越されてるなんて……そっそれでカトリナのお相手の事はそれしか分からないの? ねっ? ねっ??」
「え~と……申し訳ございませんが……剣聖ラングの息子としか私は存じておりません。たぶんですが私には情報が下りてこないほどのお方の可能性があります……」
「情報統制されるほどの?」
「はい、中級貴族のわたくしに情報が渡されないとしたら大貴族以上で謁見の間で意見を差し挟めるもの達だけかと思われます」
「あちゃ~最近はお父さまの謁見のお手伝いサボってたからなあ……私は出会いを自らの怠慢で潰していたんだ……」
「ああ、シエル様の代わりに……最近はカトリナ様が陛下のお手伝いをされていました……その時に運命の出会いをされたのでしょうねえ。陛下の謁見を許される者ですしさぞかし立派で素敵なお方なのでしょう」
「うぐっ……うっうっうっ私ついてないわ~~~~~~~~~~」
そんな、ため息をつきながらも時間だけは過ぎていき……今日のお昼からでもお父さまの手伝いをと立ち上がった時に轟音と共に私の運命を変えた出来事が起こったのだった。
「きゃああああっなに? 何が起こったの?」私の叫び声は大きかったがそんな事は些細な事よと言わんばかりの轟音が王城内の通路を響き渡っていた……。
「シエル様……大丈夫でございますか? あっつう耳が……」
「ターニャっ!! 何言ってるか聞こえないわっ!!! いった……耳がおかしい……わ……あえ? 足がふらついて立っていられない……」
私とターニャは凄まじい轟音の後には耳がキーンと響くような音で自分たちの声がボワボワと何を言っているのか聞き取ることが出来なかった……しかも立ち上がれないほど……目がグルグルと回りすぐにその場にしゃがみ込んであまりの気持ち悪さに呻いていた。
「シエル様……立ち上がってはいけません……これは耳に深刻なダメージを受けたようです。何者かの襲撃も予想されます……回復次第に秘密の部屋へ……」
何かあった時の為に、魔法でロックされた秘密の部屋へと訓練を受けていたので声は聞こえなくてもターニャの言ってることは分かったが二人とも立ち上がれずにその場で時間だけが過ぎていった……。
「あっ……」
「シエルナーザ様……大丈夫ですか? たぶん耳に相当のダメージを負っておられます。すぐに治療専門の魔法士が来ますのでそのまま安静に……」
あの凄まじい轟音の後、しゃがみ込む私達の前に現れていたのは先ほど話に上がった……剣聖ラングだった。
「マルチナっ!!! こちらだっシエルナーザ様の治療をっ!!!」
マルチナは床に這いつくばるようにしている私の横へとしゃがみ込み何かしら魔法を唱えると……ふわあああ耳の奥がぽわぽわとして温かくなり十数分ほど魔法治療を受けるとすっかり私の耳は元の正常な状態へと治っていた。
「ふう……耳であんな状態になってしまうなんて思いもしませんでした……。ラングにマルチナ助かりましたわ……」
「はっ! ただいま第一級厳戒態勢がとられています。シエルナーザ様の耳に障害を与えてしまったのは城内で発生した魔族を我が息子が消し去る時に発生した轟音と衝撃波が伝達したため身体強化をかけていなかった者は耳に影響を受けてしまったようです」
「息子? 剣聖ラングの息子ですか? それは興味がありますわね……」私はちょっと意地悪く目を細めラングに問いかける。
「魔族を倒すためとはいえ……シエルナーザ様にお怪我を……息子の不始末は騒ぎが収まり厳戒態勢が解除後に……」
ふふっ!! あの剣聖が焦ってるわ……それにしても剣聖ラングが魔族を倒したというのならまだ納得できますが……息子が倒した?魔族を? 小さい頃に悪さをした時にはお決まりの悪い子の所には魔族がさらいに来ますよ~と脅されたけど……息子が倒せる程度なのかしら?
厳戒態勢が解かれたのはすっかりお昼も過ぎて夕方に差し掛かろうとした頃だった……それまで私は魔法ロックのかかる狭い秘密の部屋の中でお父さまに早く剣聖ラングのご子息の事を聞き出したくて悶々と過ごしていた……。
「や~~~~と、厳戒態勢が解除されたのね~ふあああっもうっ窓の無い部屋は圧迫感があるわね~」
「シエル様、今回は何事も……いえお怪我をされはしましたがその後は何事もなくこうして無事でしたのは城内で働く者たちのおかげです。狭い所にいたと愚痴を漏らしてはなりません」
「うん、そうねっごめんなさい。でも早くお父さまに剣聖ラングのご子息の事が聞きたかったんですものっ!! さっターニャ行くわよっ!!!」
私はすぐにでもカトリナが生涯の相手と決めた、そして魔族をも打倒してしまう力の持ち主の事が気になって気になって魔法ロックを解除した私は早歩きでターニャを連れ立ってお父さまの私室へと向かっていたのだった。
「お兄様……どうされたのです?」お父さまの私室へと向かう私の歩いてきた通路の横から扉を開けて出てきたのは10歳年上のジェレント・ギルン・グリナダスだった。
「おっ!! 引きこもりのシエルっ!!! お前、行き遅れてるからって恥ずかしがって公務をサボってるっていう噂を聞いたぞ?」
「はあっ?!!! 何ですってっ!!! お兄様でも言っていいことと悪いことがっ!!!」
「あっ、わりいわりい。マジで怒らせちまったか……まさかホントだとは冗談だったんだけど……」
「大きなお世話っ! ……それに今からもしかしたらですが私のお眼鏡に合う御方かもとお父様の所に聞きに行く途中だったしっ!!」
「それは奇遇だなっ、俺もたぶんお前が気になったとかいう御方の事が知りたくなってなっ父上の所に向かってたんだ。小さい頃のように一緒に行くか? また迷子になると大変だしな? 昔はオニイチャマって可愛いもんだったのになあ~」
そう、ニヤニヤとした顔で私をからかう兄は……はあっ昔から魔族がさらいに来るぞ~とか私を脅かしてはビクビクする私をおもちゃにしていましたわね……。
「お兄様は相変わらずですね……トリミアティナ様は? お元気ですの?」
「あん? そりゃあ元気だぜ? 息子のタナトスにひっついて剣技と魔法をみっちりと仕込んでいるはずだ……」
「そうですの……」お兄様の奥様になったトリミアティナ様は元王国軍兵で前剣聖ジャストラン様に師事を受けていたうちの一人だ、もう一人は現剣聖ラングと後の一人は名前は分かりませんが3人だったかしらね? 私も子供の頃にジャストラン様に叩きのめされる3人を遠くから眺めていただけですから……。
そんな、思い出を思い出しながら兄と歩くとすぐにお父さまの私室へと到着していた。
「お父さまっ!!!」私はお父さまの姿を見たら子供のように飛びついてしまっていた……。
「おっおお、シエルナーザ……耳を怪我をしたと報告があったが大丈夫かのう?」
抱き着いた私を引きはがし上から下へと見ながら心配するお父さま……。
「轟音が響き渡った時に私とターニャの耳に戦闘の余波で怪我を負いましたがすぐに剣聖ラングと魔法士のマルチナが来て治療をしてくれてすぐに治りましたわっ!」
「そうじゃったか、怪我の報告を聞いてワシが駆けつけたかったが……そう言う訳にも行かなくてのう……良かった良かった……」
とっても愛おしそうに私の頭をなでるお父さまは、私の無事な姿と声を聞いて安心したようだった。
「父上っ!! それよりも城内に発生した魔族を倒した者が剣聖ラングのご子息だと言うのを聞きましたが、どの様な者ですか? たしか剣聖ラングは氷結の魔女ライラと神に伴侶の誓いを立ててそんなに経ってなかったと思うのですが、どういう事ですか?」
「それはのう……う~む、お前たちに話してよいのかのう……」
お父さまが言いかけたときに丁度、私とお兄様が知りたがっていた本人が……そして私のこの後の運命を変える御方が扉をノックし開け放たれた扉の向こうから現れたのだった。




