第六十五話 ゆるい三人
「なんだい? 私の処刑でも決まったのかい?」ベットに寝っ転がったまま地下牢へと階段を降りてきた私にそんな声が女からかけられる……。
「私はあなたを、処刑する気はありません。民に死者が出ていれば別でしたが……まずは誤解を解ければと話をしに来ました」
「はんっ!! 何をっ先に手を出してきたのは魔人族の方だよっ!! しかも魔族まで……」
「まずはその魔族の誤解を解いておきましょう……起き上がってこちらを向いていただけませんか?」
「まずは名を名乗りなっ!!」
意外と女は名をと怒鳴ってはいるが聞いてきた……、この方は……大丈夫なようですね。
「わたしは、ルーチェ・ザナ・アルタナシア。このアルタナシア魔国を統べる者です……あなたの名前は何というのですか?」
「ふう……そうだったのかい……。私はカルマータ・ギガンテ……」
ベットから起き上がり私の方を向くが……。
「びっくりしましたか? 私は魔人族ですが、中にはこのように魔族とほとんど変わらない姿になってしまう者もいるのですよ」
「あんたは……魔族なのに人格がしっかりあるのかい?」
「ええ、ありますよ……ただし、魔族の力を使った場合は……どうなるか私にもわかりませんが……」
「じゃあ、昨日……私を殺さないでその魔族の力で手加減してくれたのか……」
「カルマータ……なぜ、アーティファクトの力を使ったのです?」
「ふう……それはこっちの勘違い……いや、一方的にルーチェ様を魔族と決め込み私の最大の力、アーティファクトで攻撃をしてしまった……申し訳ない……」
そう謝罪するカルマータは、どうやら話がすぐに分かり理解する度量を持った好感が持てる人物だった。
「私もゼリムを食べそこない少し気が立っていた……力加減を間違わずに済んでよかった」
「ゼリム? なんだいそりゃあ?」
「そうですね……起きてからまだ何も食べてないでしょう? 一緒に少し早めの昼食とゼリムを食べに行きませんか?」
「私はそうしたいけどね……牢屋からは出してもらえるのかい?」
「はい、カルマータの魔人族に対する誤解は取れました。それで十分です、よろしければお腹いっぱい食べて今回の行き違いの事は水に流しませんか?」
「ああ、もちろんだよ。旨いものをたらふく食べてお互い水に流そうじゃないか」
「ナーダっ、魔人剣を今日は持ち出します」
私はナーダに魔人剣を持ってこさせ……、牢番に鍵を開けるように指示をする。
「あー良かった、本当は何をされるのか不安だったんだ。ルーチェ様のような話をしてくれる方が魔国の統治者で……」
「カルマータ……ルーチェと呼び捨てに。あなたは他国の方ですし……そうですね私の友という事にしておきましょう」
「はははっ、魔国の統治者がいいのかい?」
「いいのですよ……あなたになら私は怖くないでしょう?」
「ふーん、正直怖くはないね~。魔族を見るのはあんただけじゃないからね……」
私の姿は魔族化と言っても、肌はそのまま真っ白だし所々まつ毛や眉毛に髪の毛が特徴ある青い色と形へと変化するのと……ナーダが言うには大きくなった外見は絶世の美女だという事だった……。ただし……魔人剣で魔族の力を吸い取った後にはちんちくりんの子供姿になり……こちらは逆にとっても可愛らしいとの事だった……。
「はあ?その姿から……子供に? それは……もしかしたら魔族化した人を誰でも元の姿へと戻すことが出来るのかい?」
「魔人剣は魔族化した者を滅する剣と言われている……だれにでも使う事は出来るけど、魔族の力を吸収した後……その者が元に戻るかどうかは分からない……」
「そうか……でも、もしかしたらでも可能性があるのなら……」
「それは、カルマータ……あなた身内に魔族化した者が?」
「ああ……母が魔族化したと思う……」
カルマータは母親が魔族化した時の光景を思い出したのか、とても苦い顔をする。
「カルマータ……誰かに尾行されてる……」
「ああ、私のパーティーメンバーだよ……たぶん王城の地下牢から出てきた辺りから、どうしたらいいか伺ってたみたいだね。おいっ!! イオスっ!! こっちは大丈夫だ姿を見せなっ!!」
大通りの建物の陰からひょいと体を弾ませスラっとしたスタイルの青年の男が現れる。
「ありゃ~バレバレだったか~、初めまして私はカルマータのパーティーメンバーのイオスと申します……」
魔族姿のルーチェを見て、恐ろしいより逆に美しいと声を漏らしながら挨拶をするイオス。
「ルーチェ……。あなたはあまり信用できそうにない……」
「はは……それは厳しいお言葉で……アルタナシア魔国を統べる魔王ルーチェ・ザナ・アルタナシア様をどうにかするつもりはないですよ~」
「あなた……しつれい……意地悪な奴」
「イオス……それ以上、ルーチェをからかうんじゃないよ……それと二度と魔王なんて言葉を出してみな……次は出した途端にあんたは後悔する事になるよ」
「おわっ! カルマータ冗談……ルーチェ様申し訳ありませんでした」
丁寧に腰をしっかりと折り曲げ謝罪するイオスに、ルーチェは睨みつつも基本無視を決めたようだった。
「いや~カルマータ……魔国で暴れるなんて正気を無くしたと思って思わず隠れちゃったよ~アハハ」
「あんた……それで姿が見えなかったのかい……それで、私にちょっかいを出した奴らのことぐらいは調べたんだろうね?」
「そりゃあもちろん~、これを調べて無きゃカルマータを放置した意味がないからね~」
へらへらと笑うイオスはルーチェが嫌うのも分かるね……。
「それで、カルマータを襲ったのは?」
「それは……ヘイマンというやつはご存知ですか? そいつの屋敷にカルマータにちょっかいを出した奴らが入っていきましたね~」
「入っていったのを見ただけ?」
「ええ、屋敷に入っていったのを見ただけですよ。裏を取るには忍び込む必要がありますし、その場合見つかったら容赦なく殺されますから~」
「ヘイマンなら……グリナダスとトヴァリスの交渉事を任せている大臣……」
「あ~とそれは……グリナダスとトヴァリスの貴族ともつながって悪さしてそうだな~」
「トヴァリスにも……そのヘイマンと言う大臣の屋敷へとアーティファクトと魔族の事を調べていた私にちょっかいを出して来たやつらが逃げたんなら……」
お昼までにはまだ早い食堂には三人の……はたから見ると迫力のある者たちが席について静かに食事が運ばれてくるのを待っていた。
「ルーチェ様~お待たせしました~もしかしたら昨日食べれなかったゼリムをお召し上がりに来られると思って作っておきましたよ~」
三人の目の前には、伝統料理のフルーツソースに付け込まれた肉に付け合わせの野菜、黒パン、果実酒とぷるんぷるんと震えるゼリムがテーブルの上に運ばれてきていた。
「たべて……魔国の伝統料理とぷるぷるゼリム……」
あ~んと口を開けてゼリムから食べるルーチェはやっとっ!! と言うような笑顔でパクパクとデザートから食べ始める。
「あ~とルーチェ様……俺も頂いてもよろしいので?」
嫌われているイオスは一応とルーチェの顔色を窺いつつ……。
「旨そうだねっ!! へえ~甘いソースかい肉汁と混ざり合ってとっても美味いよっ!!」
カルマータは一口、フルーツソース漬けの肉を食べた後は止まらなくなり黒パンをかじりつつガツガツとあっという間に肉を平らげていた。
「カルマータ……果実酒で口を休めたらゼリム……ぷるぷる……」
「ルーチェあんた……」
「へ~このデザートはプルンとした触感とさわやかな果物の甘みが」
「そう、ゼリムはぷるんぷるん……」
ルーチェはお代わりをし昨日の分も取り戻すように口の中にゼリムをダイブさせていた。
「それで、ヘイマンとやらをどうにかするのかい?」
「ヘイマンは魔国の大臣……簡単にはどうこうできない。アーティファクトや魔族にかかわる悪事の証拠でもない限り……」
「まあ~カルマータにちょっかい出した奴らが屋敷に入っていっただけですからね~それで屋敷を調べてどうこうしても……見つからないだろうね~」
「とりあえずはヘイマンとやらの屋敷へ行ってみるかい?」
「俺は、やめた方がいいと思うけどね~」
「朝、大臣たちとの会議でアーティファクトダンジョンで何者かが無断で侵入をしていると聞いた。そちらを調べてみる方がいいかもしれない……」
「やっぱり、アーティファクトが大量に出るダンジョンがあるんだね?私たちはそれを調べていてちょっかいを出されたんだよ」
「まあ、アーティファクトダンジョンに何かあるんだろうな~」
「私も気になる……それに、魔族を生み出すアーティファクトが大量に持ち出されるのは世界の終わり」
「そうだろうね……わたしは母さんを見つけるのと……元に戻す方法なりが知りたいんだけどね」
「まあ、それぞれ多少の思惑があるが……見に行くところは同じ。協力して乗り越えよ~」
「私はそれで構わない……準備に少し時間を、冒険者装備に魔人剣は王城に置いていかなければいけない……」
この後、ちんちくりんのルーチェが銀の細剣を装備し現れるが……。
「んっ!!」しゅぴっと手を上げて”んっ”と挨拶するルーチェにカルマータとイオスが気がつくのはしつこく手を上げ続けて3分後であった……。
「んっ……」
「その姿が、ルーチェの本当の姿なんだね……正直、子供にしか見えないね……」
「いや~ルーチェちゃん。手をつなごうか? 迷子になっちゃうよ~グボッ」
軽口の後にはルーチェの怪力でボグッと嫌な音をさせ腹パンを食らい崩れ落ちるイオス……。
「ははは、そいつには容赦は必要ないよっ」
「んっ!」拳を見せるルーチェはどう見ても線の細い小さな女の子、筋肉がモリモリついているわけではない……。
「ぐえっうえっ、はあっはあっ息が……出来ない……もうちょっと……手加減ぐらい……」
「イオス、あんたの軽口は死を招くよっ! 気を付けなっ!」
「ひでえ……」
「んっ!!」ルーチェは目じりをにょっと釣り上げ怒りの顔をするが、ただただ可愛いだけだった……。
「………………」




