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第六十四話 ルーチェ

夢を見ていた……まだアルスロットに出会う前、私のアルタナシア魔国での日々を送っていたころの窮屈で退屈だった頃の……。







私はルーチェ・ザナ・アルタナシア、魔人族が支配するアルタナシア魔国を束ねる者だ……。そして毎日椅子に座り、大臣たちの報告を聞き色々な認証を行うだけのつまらない日々をすごしていた……。


「ルーチェ様、そろそろ魔人剣を……今日の公務は全て終わりでございます」

私に頭を下げながら、そう答えるのは赤ん坊の頃から私の身の回りの世話をしているナーダ。


「そうですか……私はなんともないのですが……」


「ルーチェ様いけませんよ……魔人剣に魔族の力を……さあ」

私はナーダの言う通りに毎日の様に話すことによって魔族化した体と力を、夕方には全て魔人剣に吸い取ってもらっていた。


「この力は呪い」


「何をおっしゃいます……。これは魔族を祖に持つ我ら魔人族の宿命でございます……そしてルーチェ様はそのお力が強すぎただけでございますよ」


「それにしても……強すぎる力。ナーダが魔人剣で力を調整したのはいつ?」


「そうですね、わたくしは力がかなり弱かったので今まで2度ほどですが……」


「少ない……それに、力を吸われた後には私の様にはならないでしょ?」


「通常、力が吸われても魔族の力の負荷から解放され体の調子が良くなるだけの変化しかありません……ルーチェ様のように体がお小さくなると言うのは……」


「そう……私だけなのね……」


私の体はしゃべるごとに大きく成長し、神の兵と言われた強靭な魔族の姿へと変わっていく……。そして魔人剣で魔族の力を吸い取ると……子供のようなちんちくりんな姿へとなってしまうのだった……。


「どちらが私の本当の姿?」


「さっ、ルーチェ様ここからはジェスチャーのみ。そして発していいのは”ん”だけでございますよ」


「んっ」私は首を縦に振り返事をする……。

なぜか、”ん”だけはどれだけ声に出そうと魔族化はしなかった……変な体……。


「この後は自由時間ですが、くれぐれも羽目を外しすぎませぬように」


「んっ!!」私はフイと顔を背けそんなことしないと抗議する。


「ふふっ、相手をお怪我だけさせませぬように。ルーチェ様のお力の前にはどのようなツワモノもかないませんからね?」










「いらっしゃいませ~、あらルーチェ様っ!! 今日は私のお店に食べに来てくれたんですねっ!!!」


「んっ」公務が終わった後の私はいつも食べ歩きをするのが唯一の楽しみなのだが……今日は魔国の中でも伝統的な料理を出すなじみの店に来ていた。


「本日はどういたしますか?」


今日は……伝統料理の肉のフルーツソース漬け、少し苦みのある黒パン、果実酒を……んっんっんっとそれぞれメニューに指をさして決めていく。


焼いた肉の油とフルーツソースが絡み合い甘くまったりとした肉が黒パンに合う……そして、すっぱめの果実酒で流し込んで……まだ頼んだだけで口から涎が垂れていた。

ちみっこくなった体を大人用の椅子に乗せ足をプラプラさせる……意外と私はこの待つ時間が好きなようだ……。


「さあお待たせいたしましたっ。今日のお肉も肉厚でジューシー、美味しいですよ~」


ふふ、甘い匂いとジュウジュウと肉が焼ける音がなんとも食欲をそそる……そして、付け合わせの野菜もこの肉汁を付けて食べるのがまた美味しかった。


「ん~っ」ポンポンとちんちくりな体に、お腹はぽっこりんと膨らみ大きな椅子の上でお腹をさするのがいつものアレを持ってこさせる合図だ……。


「ルーチェ様っ、新作デザートのゼリムが出来たんですよ~とってもぷるぷる~で美味しいですよ~」


「んっ!んっ!」おなかはパンパンだけどデザートに目が無い私は、小さな手を差し出し早くよこせと催促する……。


渡された新作ゼリムは木の器に乗せられ、デーンと四角いフォルムをさらけ出していた……受け取ると、ぷるぷる~と器の上で震えてとても柔らかいのが分かる。


「あっルーチェ様、これはスプーンで食べてくださいね」


はやる気持ちを押さえ、これもまた木で作られた柔らかな質感のスプーンを渡され更にテンションが上がる。


「ん~~~~~んっ!!!!!!!!!!」あ~~~~~~んと頭の中ででは声を出しすくい上げたぷるぷる~ゼリムは木のスプーンの上で更にこれでもかと震え私の口の中へとダイブするはずだった……。






ボテッ…………。






私の目にはスローモーションでゼリムが木の器と木のスプーンの上から飛び上がり。ぽよんぽよんぽよん~と震えながら落下していくのが良く見える……。


「わ……た……し……の……ゼ……リ……ム……」


その禁断の言葉を発し終わった時には……ボテッと無残な音をさせ、ぽよんぽよんゼリムは床へと激しく打ち付けられ意外と鈍い音をさせた後には完全に崩れさっていた。


「…………………………………………」


「あっああ……ルーチェ様……魔族化して……おります……」


私はゼリムを落とすに至った元凶を探すため立ち上がる……しかし魔族化し体が大きくなった私は力のコントロールが暴走を始めていた……。


「ゼリムを落とす原因を作った者はどこ……」


「店外で騒ぎがあった様です。ルーチェ様、ゼリムをこんな状態にした者を……一緒にさがします……」


店の外に出ようとしたところに更に、ドーンと店をも揺らす振動が襲い……店員はその場でしゃがみ込む……。


「だれ……私の国で暴れる者は……」私はゼリムの安全を脅かした者を許すまじと……店の外に出ると意外とすぐに原因を作った者達は見つかった。








「あなただれ……」私はゼリムを落とすに至った原因を作り出したと思われる女の前に立つ……背は魔族化した私の方が少し高かった……。


「お前……魔族だな……、この国は魔族だらけだねっ!!!」


いきなり魔族と、その女は私に巨大な大剣を叩きつけるが……。「遅い……」魔族化した私はあえて手のひらで受け止める……。


「なっ!!! お前っ!!!!」


建物をも激しく揺らすほどの威力の女の大剣を手のひらで受け止めた私は……そのまま手を握り……。嫌な軋み音をさせた後には、女の大剣を握りつぶしていた。


「お前……私の大剣を……魔族は死ねっ!!!!! <ギガンテ>っ!!!!!!!」


小さな短剣を取り出しギガンテと唱えた女は、身体強化で強化された体の上からアーティファクトと思われる短剣が女の膨大な魔力を吸収変換し更に上から纏うように赤い魔力のラインが噴き出し繊維状となり体中に絡む……そして、目の前には赤く輝く魔力の筋肉を纏った女が立ちはだかっていた。


「私の国では、アーティファクトを使うのは許さない……今すぐその力を解除しなさい……」


「ああああああああああああああっ!!!!!!」


どうやらこの女はアーティファクトの力に飲み込まれてしまっているようだった……。


「少し痛いですよ……」言葉を発し、ゼリムが崩れ去った怒りに任せ魔族化した私は女のアーティファクトの鎧を破壊するように手のひらではたく。


「ガッハッ!!!」


私の上からのはたきに地面へと叩きつけられ、赤い魔力の筋肉がバァンッ!!!と弾け飛んだ後にはいつもの静寂が戻って来る……。


「ルーチェ様……すげえ……あれだけ暴れてた女が一撃だ……」


「ルーチェ様、体は大丈夫かしら……確か側付きはナーダだったわね誰か早く王城へこの事を伝えにっ!!!」


「ルーチェ様、心を落ち着かせてください。それ以上力を使いますと危険ですっ!!」


どうやら、私は力を使いすぎたのか思ったより魔族化が進み周りの者達を心配させていた。




「ルーチェ様~ルーチェ様~、皆の者っ!! 道を開けなさいっ!!!」

声の方を見ると私の側付きのナーダがこちらへと魔人剣を持って駆けつけてくれていた。


「どうしたの? ナーダ……」


「どうしたじゃありませんよっ!! 王城にルーチェ様が魔族化して暴れる女を力を使って無力化したと兵士が駆けつけて来たんですからねっ!!」


さあっ、魔人剣に力を……私は急激に魔族化し力を使ったせいか何時ものように柄を握っても元のちんちくりんな子供の姿には戻らなかった。


「ほらっ、魔人剣無しに力を使ったから……」ナーダは目頭をうるうるさせながら私にギュッと魔人剣を握らせる……。


「んっ……」そして私は心配をかけたナーダにごめんと頭を下げる……。


「それにしてもこの女は、なんでしょうか? どうやら他種族の者の様ですが……」


ナーダが不思議に思うのも仕方がない……この魔国に他種族の者が来るのは珍しいと言ってもいい、それはいまだにこの魔国が名前の通りに魔族の国だと信じている者が多いからだが……この女もその噂に踊らされてここに来たのか……目が覚める前に気絶した女を地下牢へと指示を出し、私は新作デザートのゼリムを食べれないまま王城の自分の私室へと帰っていった。


その夜、お腹いっぱいゼリムを食べる夢を見て枕がヨダレだらけになったのは……あの女のせいだ……と私は思う……。






「ルーチェ様っ起きてくださいませっ!! 朝でございますよ、今日は朝食後に大臣との会議にその後は認証書類などのチェックでございますよ」


「昨日の、女は?」


「ああ、そうでございますね……すぐに報告を上げさせましょう」


私は、昨日の女の事が気になりいつもは5つは食べてしまう木の汁を煮詰めた甘~いソースを絡めた揚げパンを2つしか食べずに大臣との会議の時間になってしまっていた。




「ルーチェ様、聞きましたぞ。昨夜、大通りで狼藉者を叩きのめしたと」


「なんでも、その女はアーティファクトの力を使ったとか聞きましたわっ! この魔国ではアーティファクトの使用は危険なため禁止されております。他種族の女と言えども厳しく罰しなければなりません」


朝から集まった大臣たちには昨日の騒ぎがすべて伝わっており、早速とらえて牢屋に入れられている女の処遇を決める話へと自然となっていた。


「まず、処罰はしない……私が話し……」


「しかしっ!!」


不服なのか私の言葉に被せるように声を荒げる大臣の一人に、私はにらみを利かせる……。


「もうしわけ……ございません……」ブルブルと震え謝罪する大臣……私はそんなに怖いのか……。


「それでは、ルーチェ様はどうなさるおつもりですか? そのまま開放してもまた暴れる可能性や誤解が解けなければまた暴挙に出るやもしれません……」


「それは直接私が話を、まずはそれから……」

私はこの話はこれまでと切り上げ、それぞの大臣と国を動かすうえで大事な事を話し合う……。


「グリナダスからの香辛料等の輸入品価格ですが……荷運びにコストがかかりどうしても今の値段から更に安くというのは不可能でございます……」

スパイシーの実、レーモン、油草、黒塩とどれも買い付けの時点でグリナダスの大貴族たちが間に入っておりそれが魔国まで運んできた後の価格に重くのしかかっていた……。


「そう……ヴァンプ族と直接交渉が出来るようにグリナダスの大貴族との交渉を引き続きお願い」

私は、無理な事を大臣へと指示を出す。


「何かこちらに強みになる物があればですが……ヴァンプ族が育てる特殊な食材には今の所太刀打ちできるようなものがございませんので……交渉すら入れるかどうか……」


「いいの……色々な貴族に交渉して見て。いつかは道が開かれるはず」

私は、あきらめないよう大臣に指示する。



「私からは魔国のダンジョンで見つかる……アーティファクトの件ですが……」


ここ最近になって、新しいダンジョンが生まれそこのダンジョンからは大量のアーティファクトがドロップしていた。


「なにかあったの?」


「はい、拾うには小さすぎるアーティファクトの屑が散乱しているそうです。そして、屑でも体内に入れたモンスターが凶暴化し警備の者と回収チームから多数のケガ人が出ております」


「どういうこと?」


「はい、アーティファクトは地面に落ちていたり宝箱や罠などからも出るのですが……拾いにくい屑だけが散乱しているという事は誰かが勝手に侵入しているのだと思われます」


「どう考えても侵入されているようですね……そんな状況ではダンジョン内でその者達を追うことは不可能……。アーティファクトの屑はモンスターを凶暴化、目をそちらに向けさせ追う暇を与えぬようにバラまいたと考えるのが妥当でしょう」


階層が深いほど強力な力を内包し、中には昨日の女の持っていた物のように機能を持ったアーティファクトも見つかる事がある……しかし今私にできる指示はこれしかなかった。


「もう手遅れかも知れませんが、アーティファクトダンジョン入り口の警備を厳に」




アーティファクトは人族に使うと人造魔族に、素養がある種族では昨日暴れてた女のように強力な力を魔力をつぎ込むことによって使うことが出来る……。

といっても大体が大した力が無い物が多いが、稀に強大な神の兵と言われた真の魔族を復活さえうるような物もあるのも確か……。

早くアーティファクトダンジョンを攻略をする必要があるのかもしれない……嫌な予感がする……。


「ほかに、何もなければ解散……」私は昨日から甘いものを食べそこなっているうえに、大臣たちからは輸入に関して上手く行かない報告やアーティファクトのきな臭い報告に機嫌がドンドン悪くなり……ムスッとした顔になる……。


「ルーチェ様……そのように難しい顔をされては美しいお顔にシワが出来ますよ。それにこの後、例の暴れた女に会いますでしょう? なめられないよう凛としたお顔で臨まれるのがよろしいかとナーダは思います」


「はあ~~~~~っ」私はナーダの言葉に従い深く息を吐きだし……さっきの事をリセットすると地下牢へと暴れ女の元へと向かったのだった。














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