第五十六話 魔剣の目覚め 後
「えっと・・・・・・・魔剣?」俺は突然のルーチェさんの初めてのハッキリとした言葉にガンザギムルの事など頭から消え、もう一度・・・もう一度・・・ルーチェさんの声が聞きたくて聞き返していた。
「るっルーチェがしゃべったのじゃ~~~~~~~~!!!」ルーチェさんの方を見て埴輪のようになったヴァル様につられてカトラお姉さまとカトリナ様も硬直していた。
「ルーチェ・・・もういいよ」
しかし、カルマータさんだけはルーチェさんを気づかう言葉をかけていた。
「んっ・・・」ルーチェさんは俺の腰ベルトに取り付けてある折れた魔人剣を取り出し・・・自分の腕を浅く切り付けていた・・・。
「なっ!!!ルーチェさんっ!!なんでっ!?」俺はすぐにルーチェさんから折れた魔人剣を奪い取る。
「アル・・・ルーチェは声を出すと魔族になってしまうんだよ・・・。本当はもっと後で教えるつもりだったけどね、それと魔人剣は魔族を魔人へと人族に近い者へと力を奪い変える力を持っている・・・今、ルーチェが自分を切り付けた理由はそういう事なんだよ・・・」
「・・・それは・・・」ルーチェさんの喋れない理由が分かったが今度は皆でショボーンとまた気分が沈み込んでしまった。
「でも、アル様が魔人剣を持っているのでこれからはもし喋ったとしても大丈夫ですわよねっ?」
「腕の傷を治すわっ!〇っ!!」すぐにカトラお姉さまの〇魔法でスッと時間を逆回ししたように切り傷が完治する。
「ルーチェ・・・魔族になっちゃわないか~?」へにょんと心配顔になるヴァル様・・・。
「そうだね、魔人族の故郷にはいくつか魔人剣があるからねそれでいつもは抑えていたんだろ?」
「んっ!」うんうんと首を動かすルーチェさんは、心配させないように笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、この魔人剣はいくつかあるうちの・・・一本なんですね。あっ!じゃあルーチェさんが魔人剣を使った時は自分の魔族になった力を魔人剣に・・・」どう見ても折れた剣にしか見えない魔人剣・・・あの時、ルーチェさんは青白い刃を出し鉄の棒を薄くスライスしていた・・・。
「アル・・・ルーチェが・・・お前に見せてたな・・・あれが」
「魔族の弱点・・・なんですね、記事にも取り込んだ力を強靭な体をもって使うことが出来るのが魔族だと・・・、この魔人剣でその力を奪い取ればいいんですね」
「んっ!!!」ビシッと親指を突き出すルーチェさんに俺は思わず抱きついてしまっていた。
「アルは出来るだけ魔人剣で切り付けてガンザギムルから魔族の力を奪うんだよっ!!私たちは魔力を使わず物理的なダメージでアルのフォローをするんだっ!!」
まだ卵状態のガンザギムルに俺は魔人剣を突き刺す・・・がなにも反応が無い・・・はは、突き刺しても平気なのかよ・・・。
「アルっ!!!そのままできるだけ魔人剣を突き刺して力を奪うんだよっ!!!動き出した時にだけ気を付けなっ!!」
カルマータさんから的確な指示が飛んでくる・・・他の皆は・・・カトラお姉さまは動き出す瞬間を警戒して□魔法のバリアを、カトリナ様は<ロックスパイク>という地面から棘を大量に出して卵に突き刺す魔法を唱えていた。
ヴァル様は飛び上がって・・・あら?左右に右往左往していた・・・どうしたんだろ?
「んっ!!!」ルーチェさんはヴァル様に手を振り降りて来いとジェスチャーを・・・。
スッと降りてきたヴァル様は・・・。
「わらわのアルテミスは魔力矢だったのじゃ~空に飛び上がってから気が付いたのじゃ~・・・」
あはは、なるほど・・・魔力を吸い取る能力があるガンザギムルに魔弓・アルテミスの魔力矢を撃ち込んでも効き目は期待できないだろうな。
「ヴァルはルーチェと空に上がってガンザギムルに突撃を繰り返して落下の力をハンマーに乗せてあげなっ!!」
「ん?ルーチェを空に上げるのか~?」「んっ!!」巨大ハンマー・トールを手前に握り羽を広げたヴァル様に背を向けていた。
そして、カルマータさんは指示を出しながら身体強化に魔力をすべてつぎ込み・・・グレートソード・タイタンを刀身が見えないほどの速度で卵ガンザギムルに切り付ける・・・。
側面の殻は・・・中心に魔人剣を差し込んだ俺からじゃ見えなかったが、キャキンッキャキンッキャキンッと何度も嫌な音が響き渡り・・・その後すぐに攻撃が止まってしまっていた。
「まいったね・・・魔力を与えないタイタンじゃ羽のように軽すぎて、私の全開の身体強化でも卵に傷がつく程度だね・・・」
魔力を糧に重力を発生させるグレートソード・タイタンは普段は重力に逆らい羽根の様にフワフワと浮き直立してカルマータさんの後ろをついてくるんだよな・・・それに・・・。
「と~~~~つ~~~~げ~~~~き~~~~なの~~~~じゃ~~~~~~~~っ!!!」「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
仲良く一緒に飛び上がったヴァル様とルーチェさんが一緒に叫びながら・・・落下の様子を見守るが・・・ああああっ卵ガンザギムルに巨大ハンマー・トールが激突したとたんに激しくはじかれて・・・。
「タイタンっ!!!」カルマータさんは羽のように浮くタイタンを跳ね返り地面へと落ちて行く二人に向かって投げつけていた。
「うう・・・怖かったのじゃ~、思いっきり跳ね返って何もできなかったのじゃ~」「ん~・・・・・」ヴァル様の落下速度とルーチェさんのバカ力がそのまま跳ね返されてしまい制御不能、叩きつけられる直前にカルマータさんが投げつけたタイタンが二人の体にくっ付き、すくい上げるように地面ギリギリをスライドして激突から助けていた。
「カルマータ様・・・私の攻撃では絶望的ですわ。ロックスパイクも一切歯が立ちませんし・・・」カトリナ様は何度かスパイク状の岩を地面から卵ガンザギムルに向かって撃ちだしていたが二人の突撃後は攻撃を中止していた。
カルマータさんの攻撃で何とか傷がつき・・・ヴァル様とルーチェさんの二人の力を合わせた攻撃は跳ね返され、カトリナ様のロックスパイクは傷さえ付かないなんて・・・。
「アル君の魔人剣・・・」
ぼそっとカトラお姉さまの言葉に皆の視線が一斉に俺に集まる・・・。
あれからだいぶ時間がたつがガンザギムルの動きは特にない・・・というか魔人剣を卵に差し込んだ時から異変があったのは剣の方だった・・・。
「魔人剣が変だ・・・」卵に刺さった姿は変わらないが・・・剣の柄から膨大な魔力があふれ出し、ガンザギムルの方は・・・あれほど魔力が循環していたのに完全に沈黙して静まり返っていた。
「アル・・・魔人剣を抜いて見な・・・」
カルマータさんの指示で魔人剣を卵ガンザギムルから抜き皆に見えるように上に掲げる・・・。
「きれい・・・」「刀身が色とりどりの宝石で輝いていますわっ」「すごいね」
「わ~奇麗なのじゃ~」「んっ~!!」チビッ子二人は触らせろ~と俺に飛びついてきていた。
折れた刀身は神像のコアか?そして宝石の様に輝き激しく魔力を循環させている・・・今までなんの存在感もなかったグリナダスの武器屋に転がっていた折れた剣は、今や強烈な存在感を漂わせる魔剣へと姿を変えていた。
「ガンザギムルは・・・」魔人剣を抜いた卵はピキピキと音を出し始め差し込んだ場所から上下にひびが入り左右へと割れて魔族ガンザギムルが姿を現す。
「アル君っ・・・あれが魔族?」
「ふつうの、人に見えますわ・・・?」
「あれが魔族か~裸のおっちゃんなのじゃ~」
「ああ・・・どうやら、魔族が生まれる前にすべて力を吸い取ってしまったようだね・・・」
左右に割れ分かれた中心にはガンザギムルが・・・真っ裸で横になり倒れていた。
「はは・・・魔人剣に助けられてしまったようですね・・・」
「んっんっ!!」ルーチェさんがガンザギムルにツンツンして動かないのを確認した後には、ビシッと親指をつき出し勝利を宣言していた。
「ん・・・おお、お前が主か・・・久しぶりに目覚めることが出来た・・・小僧、名は何という?」
「えっ小僧?」
「ふふっきっとアル君のことよ小僧って!」「アル様は小僧ですわね・・・」
「アルは小僧なのじゃ~」「んっ!」
「なんだい?名前を教えてやらないのかい?」
皆になんだか笑われながら俺は・・・この魔剣に、名を教えていた・・・。
「ふむ、主の登録は完了した。魔剣の力はこれよりアルスロット・カイラスに解放される」
そう宣言した魔剣は、また元の折れた剣に見た目は戻り・・・刀身を補完していた神像のコアが新しい鞘に俺の手のなかで形を変えていた。
「ふう・・・終わりましたね。ガンザギムルは・・・」魔剣の力を取り戻した魔人剣を腰のベルトに挟み込み、ガンザギムルの安否を確認すると神の宝箱から大き目の布を取り出し掛け・・・巨大な魔族の卵?の殻は回収しておいた。
「もうこれ以上は暴れたりはしませんわよね?」「ん~~~?」
「カトリナっもう大丈夫だと思う。魔力も一切感じないしねっ!!もし暴れたら今度は△魔法で止めて見せるわっ!」
「カトラもし暴れたら△魔法で拘束を。アルはヴァルと一緒に虚栄の都市へエへラン教皇陛下に事態が収拾したことを報告に頼んだよ」
ヴァル様に後ろから抱えられて飛ぶ俺は虚栄の都市の広場の上空に来ていた。
「アル~、あそこなのじゃ~アリアと一緒にいるのじゃ~」
夜目が効くヴァル様はすぐにエへラン教皇陛下を見つけ地上へとゆっくりと降りて行く。
「アルスロット殿っ!!!ここだっ!!」「アルお兄ちゃんっ!!ヴァルお姉ちゃんっ!!」エへラン教皇陛下とアリアちゃんもこちらに気が付き大きく手を振る。
「なんと・・・魔族ガンザギムルを倒したのか?」
「いえ、ガンザギムルさんは無事ですよ。ただ、いまは衰弱したのか気を失ったままですが・・・」
「じゃあ、アルお兄ちゃんが魔族からエルランダ教国を救ってくれたんだねっ!!!」
「そうなのじゃ~、アルの魔剣が魔族の力をすべてうばいとったから。ただの裸のおっちゃんなのじゃ~」
「魔族の力を・・・アルスロット殿はそんな力が・・・。しかもガンザギムルに慈悲を・・・ありがとうエルランダ教国はグリナダス王国と冒険者パーティーセラフィムには大きな恩が出来た・・・言葉では言い表せないほどだ・・・」
周りを見ると避難していた教国民たちは静かに両手を胸の前に合わせて神の祈りを俺たちに向け一斉にしていた・・・。
「アル殿、今回もまた大活躍をしたようですな」うんうんと満足顔でこちらに近寄ってきたのはヴァル様の父上、グリナダス王国大貴族のドノヴァ・フレイア様だ。
「ちっちうえ~ありがとうなのじゃ~無事に魔族を倒した?のじゃ~」
「さすがヴァルの夫となるものだな・・・。ふむ、もう私は何も言うことは無いアル殿末永くヴァルを頼んだぞ」
「えーーーーヴァルお姉ちゃんは、アルお兄ちゃんのお嫁さんだったの~?いいな~アリアも・・・」
「アリアもアルのお嫁さんになるか~?」
「えっ、ヴァルお姉ちゃんいいの?」
周りを見ると・・・あれ・・・エへラン教皇陛下がズイッと顔を近づけ・・・。
「アルスロット殿・・・我が国の教国民を、今回の基礎魔法の功績でアリアは大司祭になる・・・。私としてはエルランダ教国を救った英雄とは繋がりを持ちたいのだがどうだろうか?アリアもとても好いておるようだし?」
ぶっちゃけて話をしてくれるエへラン教皇陛下に、アリアもじっと俺の方を見て返事を待っていた・・・。
「アル~・・・アリアはだめなのか~?いい子なのだ~ヴァルの妹にしたいのじゃ~」
「あっえっ、あっごめんねっ!!じゃなくてっ!!!アリアちゃんはホントに俺の所に?」
「うん・・・それに・・・、アリアに基礎魔法をくれたのはアルお兄ちゃんだし。その・・・」
「そうだな、アルスロット殿・・・アリアに浄化魔法を掛けて、そして受け継がせた基礎魔法で今度はアリアがアルスロット殿を浄化しただろう?」
「ええ、初めて会った時に・・・食事を手渡しながら俺がアリアちゃんに浄化をしましたね。基礎魔法の時は逆にアリアちゃんが・・・」
「まあ、エルランダ教国の古くからあるしきたりなんだよ・・・夫婦となるものがお互いに魔法をな。近年は魔法が使える者がいなくなったせいで廃れた儀式の一つではあるんだがな・・・」
なるほど・・・俺は知らずとはいえ夫婦となる者の神聖な儀式をアリアちゃんとしてしまったらしい。
「アリアちゃん、俺はまだまだ男としては成長途中なんだけど・・・それでもいいかな?」俺がまだ10ヵ月にも満たない0歳児と知ったらどんな顔をするんだろうな・・・。
「うんっ!!!アルお兄ちゃんっ大好きだよっ!!!!」
「はははっ、アル殿が成長途中とは世の男たちはこれを聞いたら顔を歪めるだろうなっ!!」
「ドノヴァ殿・・・全くだ」肩をすくめ、首を振るエへラン教皇陛下は教国民たちとアリアを末永くよろしくなと祝福の言葉を残し虚栄の門を通りエルランダへと先に帰っていった。




