第四十七話 大事な物には・・・・・
「ラング殿、ぜひ私の私設軍も同行させてほしいのだが?」
初心者ダンジョンの入り口に集まり整列する王国軍剣聖部隊の前には入り口を通せんぼするように、商業ギルドを束ねる大貴族がずらりと顔を合わせていた。
「ゾンガどの、私はアスハブ陛下よりの言で動いております。少しでも私たちの行動を邪魔すれば、それはアスハブ陛下への反逆敵対行為とみなしますが?」
「ほほほっ、ラング殿まさかそんなことはいたしませんよ・・・なに、いつも世話になっているヴァンプ族の住処の保護をお手伝いしたくてこうして商業ギルドを束ねる大貴族で私設軍を出したわけですよ」
でっぷりと肥えたゾンガは汗をだらだらと垂らしながら、それらしい理由を並びたてていた。
「ラングっ、ありゃあマズいぜっ?やつらヴァンプ族が去った後に集落に私設軍を置いて奪うつもりだ」
「ああ・・・ガンダー、あの肥え太った顔を見れば分かるよ・・・」
ヴァンプ族の住居の問題は、去った後の事が意図的にアスハブ陛下と話し合いが行われておらず。この後、ヴァンプ族の集落はこの肥え太ったブタ貴族ゾンガに乗っ取られる事が容易に想像できていた。
まいったな・・・俺たちが初心者ダンジョンを解放した後、アルたちセラフィムが来た時にあいつらが居座っていたらさらに不味いことになる。どうヴァンプ族を移動させるかはあの場では聞けなかったが・・・普通では無い事をするはずだ・・・セラフィムのメンバー、特にカトラちゃんの魔法を使うとしたら欲深いあいつ等に見られるわけにはいかない・・・。
「ガンダー・・・手を抜いて時間を稼ぐぞ・・・。アルたちがどのぐらいでこちらに来れるか分からないが、こうなってしまったからには先にヴァンプ族の集落に到着するわけにはいかなくなった」
「はあぁ、そうだな・・・セラフィムはヴァンプ族の移住先のエルヘイブに行ってるんだったか?」
「ああ、俺なら行き帰りで1時間かからないんだが・・・アルたちがどのぐらいで帰ってこれるかは正直分からないな・・・」
「俺はガキの頃にヴァンプ族の荷運びクエストの世話になってたが・・・。集落までゆっくり歩いても約2時間だったぜ?手を抜いてCランクのモンスターという事を入れても・・・時間稼ぎは3時間が限界だろうな」
「3時間か・・・正直、アルたちが手早くエルヘイブへ到着してヴァンプ族の受け入れ処理を早く終わらせるのを祈るしかないな・・・」
「いかがいたしましたかな?剣聖殿・・・出発時には、私達は後ろをお任せいただいても?」
「いや、ゾンガ殿・・・申し訳ないが真の初心者ダンジョンの解放が終わるまではこの場で待機をしていただきたい」
「そっそれはっ私の私設軍が邪魔だという事かね!?確かにアスハブ陛下の王国軍剣聖部隊にはかなわないが、私の軍も金を掛けた猛者たちの集まり決して遅れは取りませんぞっ!!」
ぶぶっと唾を飛ばしながら喋るゾンガは不満そうに、ラングの決定に文句をつけてきていた。
「申し訳ないが、いまここの指揮を執るのは私です。誰であろうとアスハブ陛下の言に従うように私は動かねばなりません」
「うぐっ、わかっとるわっ!!解放後は私の私設軍もダンジョンへ入らせてもらうぞっ!!」
また盛大に唾を飛ばしながらゾンガは怒りをまき散らし、待機するために作られた天幕の中へと引っ込んでいったのだった。
「まったく・・・自分の思い通りにならないとなると途端に文句だからな・・・こまった貴族どもだ・・・」
「俺は、貴族じゃなくて良かったとあいつらの顔を見るといつも思うぜ・・・」
「ガンダー俺もだよ・・・アルが小さい内はと思っていたが意外と早く解放されるかもしれないな」
「なんだ?ラングあんたが貴族をやめちまったらアスハブ陛下は困ることになるぜ?」
「どうだろうな、親バカだがアルスロットがああも大きくなってしまうと正直もう俺はあいつに任せて昔の様に気楽な冒険者に戻りたいけどな」
「ああ、俺は忘れないぜ。剣は練習用だったがお前の本気を受け止めたあいつは本物だった」
「ははっ、ガンダーありがとう」
アルスロット達の早い到着を祈りながら俺はゆっくりと真の初心者ダンジョンを開放していった。
「それじゃあ、私達の落ちた突き当りの罠の所に繋げばいいのね?」
「うんっ、たぶん時間をかけるとまずい気がするんだ・・・そもそも、初心者ダンジョンが真になり脅威度はCランク以上に上がっていたことは冒険者ギルドから報告が上がってるはずなんだ・・・それがヴァル様が助けを求めるまで放置されてたのに、それに陛下の謁見の時にいた大貴族たち・・・」
「確かにね・・・あの大貴族たちは嫌な感じしかしなかったしね」
「ええ、アル様・・・お恥ずかしいのですが大貴族、グリナダスの建国時から続く本当は一番に国民の事を思わねばならない者たちなんですが・・・」
「んっ」ルーチェさんは親指を下に向けて・・・最低だと表していた。
「ヴァル達・・・ヴァンプ族は嫌われてるのか?」
「あっヴァルちゃんっ、そんなことないよっ!!!一部の大貴族がヴァンプ族を食い物にしてるのが悪いのよ」
ヴァル様は自分たちが忘れられたかのように対応をされたのを知ってショボーンとしてしまっていた。
「さっヴァル様、元気を出して。俺はヴァンプ族のヴァル様が大好きですよ・・・」
「アルっほんとかっ?!!!」「んーーーーっ」ヴァル様には首に、対抗心丸出しのルーチェさんにはドーンと真正面から抱き着かれていた。
「嬉しいのは分かるけど、そろそろいくよ・・・カトラ頼んだよ」
「りょーかーいっ!!□っ〇っ×っ」カトラお姉さまは軽快に〇×△□魔法を唱え、マジックドアを目の前に直ぐに出すと魔力を流し真の初心者ダンジョンを目覚めさせるきっかけとなった場所へとドアをまたいで1歩で来ることが出来ていた。
「わ~すごいのじゃ~カトラの魔法は、魔法なのじゃ~」
ははっ、初めて見たヴァル様はホワ~とした顔でドアの向こう一歩の景色、自分たちの住んでいるダンジョンを見て驚いていた。
「わ~皆早くドアをくぐって~魔力がぐんぐん減って・・・」
「皆さま早くっ!カトラ様っ!!!」
皆がドアをくぐるまで大量の魔力を流してドアを開けているカトラお姉さまは最後に入って来る。
「ふう・・・かなりきつかったわ・・・。もしかして距離が関係あるのかも、エルヘイブの虚栄の水晶で作り上げた拠点都市からだから、今までで一番遠いマジックドアだったわ」
「そうですわね・・・今までは近距離だけのでしたから今回は良い経験になりましたわね」
「たしかにね・・・ピンチの時にぶっつけ本番で使えないことがあったらたまったもんじゃないからね」
カトラお姉さまのマジックドアは地面に設置すること、距離は今回30kmが成功したけど魔力消費が距離で増減することが分かった。
「はあ、少し残念・・・距離によっては1回のマジックドアでくぐることは出来そうにないね・・・」
「アルっ地図をっ」「んっ!」ルーチェさんにはVR表示の枠の大きさを指定されたけど・・・いや、大きさの調整は自分でやってね・・・。
「VR表示は大きさを変えたい表示を移動させたい、色の濃さを変えたいとか思えば色々できると思いますよ」
「アル君っ便利だわっ!!思っただけで表示の大きさや場所を移動できたわっ!!」
この、思考制御が出来なかったら赤ん坊の時に詰んでいただろうな・・・。俺の能力もパーティー向けにも成長してくれてほんとに助かっていた。
「それじゃ、ヴァンプ族の集落に行こうかね・・・ヴァル先頭で案内を頼んだよ」
「はいなのじゃ~ここはヴァルの庭なのじゃ~モンスターが全然いないのじゃ~」
すでに、お父さまたち王国軍がモンスターの討伐をしながヴァンプ族の集落へ向かっているおかげでワイルドカードで表示された地図には一匹もモンスターは表示されていなかった。
「ヴァル様っどんどん進もう」「うんっなのじゃ~」
ヴァル様は時たま上に飛び上がりながら・・・。
「「「「「あっ!!!!!!!!」」」」」
「ん?どうしたのじゃ~みんな~」
「あっうん、宝を見つけちゃったんだVRにも表示されてたんだけど視界に収めないと正確な場所が分からないから、ちょうど飛んだヴァル様の先が宝でそれで皆驚いてたんだ」
「はは、真のダンジョンになったからね・・・すべてがリセットされたんだろうねえ。カトラまた小さなマジックドアを出しとくれ、ルーチェはツンツンするんじゃないよっ!!」
「んっ!!」むっとした顔でそんなことしないと声色で表現するルーチェさんはちょっと不機嫌だった。
「危ないですからヴァル様も降りて・・・こちらにですわ」
「うんっヴァルちゃん、宝でも罠だからとっても危ないんだよっ」
「宝ってなんなのじゃ~?」
「ヴァル様そうですね・・・以前見つけたのはこの三種の神の宝箱、タイタン、トール、テネルトーナが・・・あっそうだ、三種の神の宝箱の中にタイタン、トール、テネルトーナが収められていたんだ・・・そうなると宝は三種の神の宝箱だったんだな、中身はたぶんおまけだ」
「んっ!!!」「アル様・・・」「アル・・・」
「ぎゃっ!!!」トールからは電撃、テネルトーナからはビー玉のような火の玉、タイタンからは重力を受け俺は地面に痺れながらべちゃっと潰されて火の玉でズボンを穴だらけにされていた・・・。
「アル君っ!!!もうっいくら何でもやりすぎよっ!!○っ!!!」
カトラお姉さまに〇魔法ですぐに回復をしてもらうが、穴だらけのズボンは元には戻らなかった・・・。
「まあ、今のはアルが悪いよ。だけど場所を弁えないで怒ったお前たちも反省しなっ!!!」ゴツンとそれぞれゲンコツを貰い、宝を手に入れる為にカトラお姉さまはにはマジックドアを出してもらっていた。
「何が出るんだろうねえ・・・ドキドキするよ」
「じゃあ、宝の罠を触ってみるね」カトラお姉さまは小さく出したマジックドアを開けて宝の罠を発動させる為に手を突っ込んでいたが。
「何にも起こらないわっどうして?」カトラお姉さまがぺたぺた触るが全く宝の罠は発動することは無かった。
「んっ!」「なんだい?それじゃダメ?」
ルーチェさんはカトラお姉さまの手つきにダメ出しを・・・どうやらツンツンとするようだ。
「うーん、ルーチェさんそれじゃ分からないわ・・・」
「んっ!!」ツンツンしながらスイッチを押すのかい?
「スイッチ・・・あっこれね。でも5個押すところがあるわ・・・全部押せばいいの?」
「んっ!!!」だめっとルーチェさんがカトラお姉さまの手を止めると俺の方に視線を向けてきた・・・。
「あっなんだい?アルに・・・ああ、なるほどね。アルっどうやらこの宝の罠は間違えると大変な事になるみたいだから正解のボタンをニュースサイトで聞いとくれ」
俺はすぐに、マジックドアから罠のボタンを見てこの罠の正解のボタンを教えろとニュースサイトを開示で開く。
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2323 真の初心者ダンジョンの宝の罠
この中の正解のボタンを押すと宝を手に入れることが出来る、間違ったボタンを押すと様々な罠が発動し危ない。
正解のボタンは、しずく模様のボタンを3回連続で押す。
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「分かったわっ!アル君ありがとうっ!!」カトラお姉さまはしずく模様のボタンを3回押すと・・・天井から銀色のしずくが垂れてダンジョンの地面へとポチョンと落ちていた・・・。
「なんだい?あれだけかい?」「んっ・・・」「なんでしょうね?」「ヴァルが飛んで見てくるのじゃ~」
俺の止める声を出す暇もなくヴァル様は天井から落ちた銀色?のようなしずくを手に持って・・・戻ってきていたが。
「かわいいのじゃ~、神様のしずくなのじゃ~」
神様のしずく?俺はすぐにニュースサイトのアンサーで聞く。
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2325 神のしずく
見た目は銀色のしずく。だが神の目から零れ落ちた涙とも言われる貴重な神のしずくは成長する無機物生物である。
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へえ・・・良く分からないけど、神のしずくと言われる無機物生物らしい・・・。
「わあっ、可愛いっ!!」「ぷるぷるしてますわね」「なんだい?スライムににてるねえ。大丈夫なのかい?」「んっんっ!!」
確かスライムは強さが分からない厄介なモンスターだったっけ・・・あっちの世界じゃ最弱で可愛かったが・・・。
「わっわわなっなに?」「別れちゃいましたわ」「んっー!!」「小粒になったね・・・」「神様のしずくが5個に分かれたのじゃ~みんなで分けっこなのじゃ~」
「俺の分は・・・?」なぜか5個に分かれた神様のしずくは俺に近づけると、ぷるぷると震えて嫌がっていた。
「アル君・・・嫌われてるね・・・」
「アル様・・・この子たち震えてますわ」
「あ~アルに近づけると逃げちゃうのじゃ~」
「ほんとだね・・・」「んっ~~??」
「はは、どうやら俺は嫌われてるみたいですね・・・」
俺を嫌った?神のしずくはそれぞれカトラ、カトリナ、カルマータ、ルーチェ、ヴァルの指に巻き付き細い銀の指輪に姿を変えていた。
「宝も手に入れたことですし、急ぎましょうか。ヴァル様案内をお願いしますね」
「ここからなら、ヴァンプ族の集落はすぐなのじゃ~」
10分ほど宝に時間を取られた俺たちはヴァル様の案内で、真の初心者ダンジョンを進んでゆくと・・・半円状のアーチ型の巨大な集落への入り口がダンジョンの壁にぽっかりと大きな口を開けていた。
「ついたのじゃ~、ここから入るのじゃ~」
ヴァル様に案内されて入ると、そこは集落ではなく立派な都市が目の前いっぱいに広がっていた・・・。
「ヴァル様?集落ってここですか?こんな凄いダンジョン都市が??」
「うわ~すごいっ。ヴァルちゃん集落じゃなくてこれはダンジョン都市だよ・・・」
「そうですわね・・・でも、ここを去らないといけないなんて・・・」
「う~ん、そうだねこれは廃都市にするのはもったいないね・・・」
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っんっ!!!!」
ルーチェさんが突然、入り口の端から端までを手の大ぶりなジェスチャーで・・・あっ!!!
「これ・・・ヴァル様、虹の門を設置できませんか?設置する時の設定でこの入り口全体をカバーする巨大な門にして、ダンジョンから入るとヴァンプ族の集落へ、中からくぐると虚栄の都市へと行けるようにしたら・・・?もちろん出入りできるのはヴァンプ族とセラフィムだけにして」
「ルーチェ~~~~アル~~~~~ありがとうなのじゃ~。ここに虹の門を設置すれば・・・このままここに住めるし、食料や移動の問題も解決なのじゃ~すごいのじゃ~」
ははっ、中には虚栄の都市に移住する事を嫌がる人が絶対いるからどうしようかと思ってたけど・・・これで解決できた。そんなことを話していると俺たちを見つけたラングお父さまがこちらに歩いてくるのが見えていた。