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第百十二話 ゆりかごの誓い

「トリミアティナちゃん、アルちゃんに手を出さないでって言ったのにっ!」


「まったく……仕方がないだろう。グリナダスには次の剣聖が必要なのだよ、辺境都市オリアへのモンスターパレードの後にそれを止めた剣聖ラングは引退し一人の冒険者となった、そして本当の英雄はこの通り赤ん坊で少年で全てを手に入れることが出来るのに表に出ることがない。そこに剣聖が空席なんてなればグリナダス王家は全く力を失くしてしまうではないか」


「むうっむうっだけどっ!アルちゃんが少しの間、目を覚まさないしタナトスちゃんにもプレッシャーをかけて危なくなった真の初心者ダンジョンへとSランクモンスターを討伐しに行っちゃったんでしょ?まだ誰も上層と思われる10Fまで攻略してないし絶対に危険だわっ」


「ああ、そうだ危険だ……そしてタナトスはSランクになるには覚悟が足りなくてな。そんなまごまごしているタナトスの対抗心を煽るのにアルスロット殿は丁度よかったのだ。これも未来のグリナダス王家の為だ、ジェレントは残念だが殆ど力が無いしな……息子のタナトスが剣聖にさえなれればジェレントが王になった後もグリナダス王家は安泰だ」


タナトスの襲撃の後、パーティー屋敷には揺り篭でスヤスヤ眠る赤ん坊のアルスロットの周りに母親で氷結の魔女・ライラ、タナトスの母親のトリミアティナ、エルフィン王国の女王テネシア、アルタナシア魔国に向かう途中のトヴァリス帝国の大貴族カルマータ・ギガンテとアルタナシア魔国の王・ルーチェ・ザナ・アルタナシア、秘密にされていた顔がそっくりな二人のカトラにカトリナとアスハブ陛下から下賜されたこの屋敷を管理するメリダにグリナダス王家の連絡役のヒルダ、ヴァンプ族の姫・ヴァルに100年以上を生きるヴァンプ族の知恵袋のバーバラ、先ほどエルランダ教国から戻ってきたアリアとパーティーハウスの貴族を迎える小ホールでアルスロットを慕う女性たちが勢ぞろいをしていた。


そして、揺り篭で眠るアルスロットはタナトスとの戦闘が終わりこうして女性陣が集まった後にも目覚めることなくスヤスヤと眠りについていた。


「それで、その分身のアルちゃんはなんて言っていたの?」


「えーとアル君は分身で力を使いすぎて赤ん坊のアル君は少しの間は眠った状態になるって言ってました」


「それにしても、あの分身のアル様はいったい何だったのでしょうか……見た目はアル様でしたけど」


「私は謁見の間での姿とスキル技を繰り出すところを見たぐらいだったから特に違いというのは分からないのだが……まさかそこで眠っている赤子が本当のアルスロット殿だったとはな……未熟なタナトスと何とか起動した聖剣グリナダスを相手にだが終始圧倒し、しかも焦りや緊張など一切ない自然な体だったのと私の謀はすべて見抜かれていたよ」


「トリミアティナ様の謀を、アルスロット様は……」


「アルスロット様の普段の功績を聞いてこの可愛らしい赤ん坊がアルスロット様の本当のお姿と言われてこうして見ると混乱してしまいます」


ヒルダとメリダはスヤスヤと眠るぷっくりほっぺたの可愛らしいアルスロットを見ているとそのギャップに信じられないと脳が激しく混乱するのだった。


「それで、少しの間ってどのぐらいなのかしら?何日もこのまま目が覚めないのは赤ん坊のアルちゃんには……」


「アルは起きないのか~ヴァルがおっきくなっても起きてくれないのか~?」


「ヴァルお姉ちゃん、今は何時もの朝の様には無理だと思う……分身のアルお兄ちゃんは少しの間って言ってたし、それと……」


「アリア殿、それとなんでしょうか?私はエルフィン族ですから精霊が見えるのですが……アルスロット殿の周りには眠りの精霊が群がっています。少しで目覚めるとはとても思えないのですが」


「アリアちゃんっこのまま赤ん坊のアルちゃんが何日も目覚めなくて何も飲むことも食べることが出来ないと……」


赤ん坊のアルスロットが……このまま何も飲み食いが出来ず眠り続ければ命にかかわるのは容易に想像が出来る。


「はい、それが…………」


「アリアちゃん、もしかしてとても難しいことなの?ここにはトリミアティナちゃんとテネシアちゃんがいわるわっ大体の事は便宜を図ってくれるはずよっ?」


「あっその、ライラお母さま難しいというか……伴侶の誓い……をと言っていました」


「まあっ!それは素敵な事ねっ!!この前はオリアが大変なことになっちゃって結局できなかったんだったのかしら?」


「ライラ、そこではないだろう……なぜ、アルスロット殿が目覚めるのに伴侶の誓いが必要なのかだ」


「えっでも、伴侶の誓いをすれば目が覚めるんでしょ?この前は中止になっちゃったしちょうどいいかな~って」


その答えにトリミアティナはため息をつくしかなかったが、この義理の妹の単純な思考はいつもうらやましいと思うのだった。




「私事ですがいいかしら?」


「はい、テネシアちゃんどうぞっ!」


「私は短い間ですがアルスロット殿と接して精神が若返ったのです……」


「え~と、テネシアちゃんは若返ったのね?良かったわ~でもアルちゃんに若返らせる能力でもあるのかしら?」


「いえ、ライラ違うのですよ。エルフィン族は基本的に長寿の種族です外見はある一定の時を過ぎると老いることはなく精神が衰え最後には樹と大地に同化し最後を迎えるのですが……その私の精神がアルスロット殿に会うことで若返ったのです」


「失礼だが、テネシア殿その精神が若返るということはどういうことなのだ?」


「トリミアティナ……それは私がアルスロット殿を愛しているということです」


「あいっ?!てっテネシア様もその……アル様の所へ?」


「まだオフェリアが女王を継ぐにふさわしい時ではないので何時も、というわけにはいきませんが……それにオフェリアとはアルスロット殿との間に弟をと約束をしてしまいましたわ」


そう答えるテネシアはホホを染めながら淡々と答える姿に、ここに集まる女たちから一斉に視線を受けながらも子をもうけたいとまで言わせていたのだった。







「はい~テネシアちゃんもアルちゃんのお嫁さんに決定~もうっもうっこんな素敵なお嫁さんがまた増えてくれてとっても嬉しいわっ!!」


「ライラ、私を認めてくれてこんなに心強いことはない……私は永久の愛をアルスロット殿に誓おう」


「わっ私もっアルお兄ちゃんの事が大好きですっ!!この思いは誰にも負けませんっ!!!」


「ふふ、アリアも私と同じなのですね」


アリアの叫びの後も、カルマータ、ルーチェ、カトラ、カトリナ、ヴァルと次々と宣言をすると立ち上がる7人の体から光り輝く神のしずく(・・・・・)が集まり赤ん坊のアルスロットから何かを(・・・)吸い込むとまた光となって空中で7つに分かれそれぞれアルスロットに伴侶の誓いをした7人へと戻っていったのだった。


「なんだ、今のは……」


「あ~うっ!」


「アルちゃんっ!!!よかったっ目が覚めてくれたのねっ!!!」


「ライラ様、すぐにアルスロット様に食べ物をお持ちいたします」


この状況を冷静に見ていたメリダがアルスロットのためにすぐにキッチンへと行きヤクウのミルクに浸したフワフワパンを持ってくると早速、ライラがアルスロット抱き上げ少しずつ食べさせる。


「は~い、美味しいですよ。ゆっくりあむあむしてね~」


しかしヤクウのミルクパンを食べ終わるとまたアルスロットの瞼は徐々に下がりスヤスヤと眠りに入ってしまう。


「どうやら、アルは大丈夫なようだね……それにしても、さっきの光の粒は初心者ダンジョンで見つけた神のしずくだったが」


「んっ、・・・・・・(どこにもない)

カルマータの神のしずく発言にルーチェは自分の体を服をぴらっとめくりながら調べるがどこにもその痕跡はなかった。


「ルーチェ~ヴァルにもついているのか~」


服をめくって神のしずくの痕跡を調べるルーチェに追従してヴァルも調べるがもちろんその痕跡は同じように見つけることは出来なかった。


「ヴァルお姉ちゃん、神のしずくは見えないみたい……けど私たちの中にあるのかな?アルお兄ちゃんの悪いモノ(・・・・)を吸い取ってくれたのかも」


これは、分神を使うとセンワルスが本体のアルスロットに流れ込んでしまいその結果が深い眠りに繋がり神のしずくはその流れ込んだセンワルスという神を吸い取っていたのだった。




「状況からして、アリア様の言う通りに何かをアル様から吸い取ったから眠りから覚めたんだと言えそうですわね」


「分身のアルスロット殿が伴侶の誓いをと言ったのはこの神のしずくを発動させるのに必要だったのですね」


「うんっ!!きっとそうだよっ!!!よかった~アル君の目が覚めてヤクウのミルクとコケッコ鳥のスープに浸したパンを食べてくれて……またねむちゃったけどきっともう大丈夫だよっ!!」


けぷっとゲップをさせたアルスロットをゆらゆらと揺れる揺り篭に横たえると安心からなのかとても幸せそうなアルスロットにホッと息をついたのだった。




「それで、トリミアティナの方は大丈夫なのですか?今はアルスロット殿の安全が確保されましたがタナトス殿はそなたにアルスロット殿との勝負を謀られ痛めつけられ姿を消しましたが……」


「それは、必ず大丈夫だとは言えないが……イオスギルドマスターに手をまわして、3つの有力なパーティーをつけてくれることになっている。今頃は真の初心者ダンジョンの1Fで苦戦しているタナトスに合流するころだろう」


「さっすが~トリミアティナちゃんっ!でも、心配だよね~」


ライラの心配だという言葉に思わずトリミアティナは顔を崩してしまうがすぐに何時もの何事にも動じない少し冷淡な顔へと戻る。


「真の初心者ダンジョンはモンスターの数がとにかく多い、私たちがヴァンプ族の救出のために1Fを集落まで向かったが王国軍がモンスターの排除をしていなければ進むのも困難だったはずだ」


「仕方があるまい、それも試練だ……」


どこか遠くを見るように視線を高くするトリミアティナは誰が見ても子を心配する母の顔をしていたがもう誰もそれを指摘する者はいなかった。





「あっ!あ~~~皆で集まってピリカちゃん抜きで何してるの~っ!!」


「ピリカさん……お静かに、アルスロット様が揺り篭で眠っていらっしゃいます。それにピリカさんを抜け者にしたわけではありませんよルドガーに刺されそうになったのをアルスロット様が助けて……」


「アル君~、わっわ~また赤ん坊にかっわいいっ~またピリカちゃんを助けてくれたんだねありがとっ!」


飛びつく勢いにテネシアに止められるが、泣きそうな顔になるとライラがそっとよと言いながら揺り篭からアルをそっとピリカに抱っこさせてあげるのだった。








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