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第百十話 分神

「アルおにいちゃまぜったいでしゅよっ!ひっく、おとうとが来たらいっぱいかけっこするんでしゅっ!う゛~~~~んう゛~~~~~~ん」


「それでは、アルスロット殿お世話になりましたね」

テネシア様はまだ泣き止まないオフェリアちゃんを抱っこし、分身である俺に言葉を掛けるとカトラお姉さまに抱かれている赤子の本当の俺を見ながら辺境都市オリアのバリアン城へと繋がる虚栄の門をくぐってゆく。


一同、キッと鋭い視線を俺の分身である8歳の俺に向けると矢継ぎ早に質問を投げかける。


「アル君っこれはいったいどうなってるの?分身なのにしゃべることが出来るの?」


「そうですわ……赤子になったアル様がこの分身に指示をしているのですわよね?」


「アルは赤ちゃん……なのじゃ~?」


しゃべりかけるなら本体である赤ん坊の俺だろうと突っ込みながらニュースサイトの共有を経由して皆に伝えようとする前にそいつは口を開く。


「ああ、これは新しい能力なんだ<分神(ぶんしん)>といって神を下すことが出来るね」


「あっえっ?神……アル君それってどういうことなの?」


「それでは、今目の前でしゃべっているアル様の分身の中身は神ということなのですか?」


「あったり~カトリナは素直で頭が柔らかいね~私は神だよ~」


「アルなのにアルじゃないのか~?」


「うんうん、ヴァルそうだよ俺はアルスロットでもアルスロットじゃない」


「えええっと……ヴァル姫様いったいどいうことなんでしょう?」


あまりに、おふざけな問答に皆はますます混乱を深くしてしまう……。




『緊急速報 パーティー屋敷にてピリカが剣貴族により手打ちにされる』


ばぶっ!!(なにっ!!)


「ん~緊急速報だよ、どうやらピリカがピンチになるようだ」


「えっ!!!大変じゃないのアル君っ早く戻って助けなきゃっ!!!」


緊急速報は共有で皆に配信されることはない……今は分神と赤子の俺に緊急速報が流れたようだ。くそっ!!成長で8歳に戻りたいけど……さっきから試しているのに通常の分身を三種の神の宝箱から出し尽くした後とは違い分神が消えるまで成長は使えないようだ……。


「もう一人のアル君~大丈夫、私に任せなさい護衛をしっかりと果すよ。それには護衛対象の君がピリカが巻き込まれる場所へと行く必要があるけどね~」


「えっ、でっでもそれでは赤子のアル様に危険が……この状態では何もできないですわ」


「アルは元に戻れないのか~?でも、ピリカが心配なのじゃ~……」


「俺はこのままでも構わないけどね護衛対象は赤子の俺だから……言っておくが緊急速報の配信はピリカが危険と判断された未来から8分前だが遅くなればなるほど……被害は大きくなる」


さらに分身の俺の言葉に皆は混乱してバーバラさんは震えて完全に沈黙してしまっていた所に新たな虚栄のドアが現れそこから入ってきたのは……。








「皆、何をしてるんだい?アルが……二人?これはどういうことだ」


「んっ・・・・・・(アルが赤ん坊)


虚栄の城のオーチャコ神の台座がある広場に新しく出現した虚栄のドアから現れたのはアルタナシア魔国へと向かっていたカルマータさんとルーチェさん。

カルマータさんは俺が赤ん坊と8歳と二人存在していることに一瞬で冷たい目を分身へと向け赤ん坊である俺と分身との間へと割り込む。

ルーチェさんは俺が赤ん坊になっていると抱っこしているカトラお姉さまの元へ瞬時に来てピョンピョン飛びながら俺を抱っこさせろとせがむ……。


「あの、カルマータ様そのアル様の分身は新しい能力の一つのようです。それよりも今はパーティー屋敷で剣貴族がピリカ様に危害を加えようとしていると……」


「ルーチェっ!!! 赤ん坊のアルを抱っこするのは後だよっ!! それよりもピリカとメリダを助けに行く早くしなっ!!! カトラは□魔法と△魔法でしっかりと赤ん坊のアルを守るんだいいねっ!?」


「!? うん、カルマータさんっ赤ん坊のアル君は任せてっ!!!」


「アル様に危害を加える者は許しませんわテネルトーナで燃やし尽くします」


「あっヴァルもなのじゃ~」

肩掛けの可愛らしいポシェットから取り出したのは子供でも使える短剣の柄の部分だけ、それをキラキラとはじける夜空に向けてアルテミスと呼びかけると……いつもと違うこの虚栄の星空を凝縮した煌めく星々が閉じ込められたさらに美しい魔弓・アルテミスが出現したのだった。


「また、ヴァル様に水をあけられてしまいましたわね……わたくしのテネルトーナもいつかきっと……」


「大丈夫なのじゃ~カトリナのテネルトーナもいいこなのじゃ~」


「そうですわね……危険が迫っているピリカとメリダを助けましょうテネルトーナ頼みましたよ」

そっと、テネルトーナをやさしくなでるが……まだ反応はなかった。












「タナトス様、わたくしの情報では次期剣聖は先日剣聖を引退したラング・カイラスの息子であるアルスロット・カイラスの名前が挙がっているようです」


「へえ、剣聖ラングの息子が?俺を差し置いて剣聖候補に名が挙がっているのか?」

母親譲りの鋭い目に、剣技のために髪は短くツンツンに斜め後ろ上に尖って痛そうな頭に生意気そうな口から少し品の悪い言葉が漏れる。


「はい、冒険者パーティー・セラフィムのパーティーリーダーを務める冒険者らしく。今回、起こった辺境都市オリアへのモンスターパレードを抑え込むのに尽力した功績が後押ししているようです……」


「なにっ?そいつは俺よりも年下の8歳ほどなんだろ?そんな子供が辺境都市オリアが落ちると大混乱したほどのモンスターパレードを抑え込むのに役に立つわけねえだろっ!!」


ガンッと足元から何かを蹴る音が聞こえるが、対面した者はそれを無視してさらに話を進める。


「はい、見た目はただの子供です……ですが、先日のアスハブ陛下の御前での報告ではマユス・ガーランの魔法障壁を打ち破り……」


「なんだと?奴の魔法障壁はスキル技をつかっても切ることが出来ないほどの強固なものだぞ?」


「はい……その通りでございます。マユス・ガーランの魔法障壁を切れるのはトリミアティナ様とラング・カイラスぐらいしか」


「そいつは、俺よりもすごい剣技を使えるってことなのかっ?!」


「いっいえ……そのようなことは、マユス・ガーランも場所が陛下の御前でありいつものように力を出し切れなかっただけかもしれません」


「おいっ、試すぞ……俺よりも強いらしいアルスロット・カイラスをっ!!!」


「そっそれは……手をお出しになられてはタナトス様の名に傷が、ましてやトリミアティナ様に事がばれると……その……たいへんきついお仕置きが」


「うっぐっ……そうだったな、母上にはいつも何をしても筒抜けだ……」

トリミアティナのきついお仕置きが頭をよぎったのか二人とも顔が青ざめると、先ほどとは逆に弱音が漏れだす。


「そうでございます、トリミアティナ様は王国軍出身でジェレント様に見初められる以前からそのっ王国軍では影の将軍と言われていた方ですので。グリナダス王国軍に関わる剣貴族は元より魔法貴族の者たちまでもの目はトリミアティナ様の目でございます……」


少しでっぷりとした男も剣貴族の上級貴族の一人なのだが……汗をだらだらと流し小さなハンカチではぬぐい切れないほどトリミアティナの話をするごとに顔を青くする。


「そうだな……母上に見つからないようには無理か……どうにか誤魔化して目こぼしてもらえるようにそいつに会うことはできないか?」


「そっそうでございますね……それでは、こんなのはどうでしょうか?」






「なるほど……剣聖の最低条件である冒険者レベルSランクをどちらが先に取得することが出来るか競うと」


「はい、アルスロット・カイラスはまだ冒険者になって日も浅くセラフィムのパーティーではBランクのルーチェとCランクのカルマータのベテラン冒険者に冒険の指導を受けているとの情報があります。タナトス様がアルスロット・カイラスに剣聖としてどちらが上か勝負を申し込むのです」


「ふふっそれでは相手にならないではないか。俺はすでにAランクだSランクのモンスターを1匹でも倒して力を示せばいいだけだ」


「はい、タナトス様が勝負を持ち掛ければあちらは下級貴族です断ることはかないません。そして勝負事であればトリミアティナ様は目こぼしをしてくれるはずでございます」


「確かにっ母上は勝負事であれば多少のことは目をつぶってくれるなっ!!だが……Sランクのモンスターが居るダンジョンは辺境都市オリアに行かねばならんぞ?」


「それなんですが、以前は辺境都市オリアの冒険者ギルドで定期的に行われるエルフィン王国のSランクダンジョンへの合同クエストに参加する必要がありましたが。今となってはエルフィン王国は立ち入ることもできない迷宮となっていると聞いております。そして、少し前にここグリナダスの初心者ダンジョンが様変わりしております」


「初心者ダンジョンが?俺も供を連れて何度も行ったが……」


「はい、ですが現在はCランク以上の者しか立ち入ることはできないうえに10Fよりも深い階層が新たにできておりSランクモンスターが居るのではと?噂されております」


「Cランク以上で10Fよりも深い層が?あの安全なダンジョンにか?」

Gランクのモンスターに、ボスは確かFランクのゴブリンが多くても数匹か酷いときは1匹なんてこともある初心者ダンジョンだったはずだ……うまみと言ったらダンジョンの宝がまだ眠っているかもしれない事と、固定された必ずある宝箱から低確率で魔力を封じ込めた魔石がはまった武器や防具が出るぐらいだったはずだ。それでもGランクモンスターを安全に狩れるのと一獲千金を狙って大人気なダンジョンだった……冒険者がひしめき合うほど入り口は混雑していたのを覚えている。


「よし、それでいこう。俺がそのアルスロットとかいう子供よりも先にSランクとなり剣聖にふさわしいと示せば必ず認めてくださるはずだ。それで、どうやってお爺様の屋敷へと行くんだ?」


「はい、お屋敷は毎日城より下働きの者たちが集団で通っております。その荷馬車の後をつけ荷運びようの馬車門より強引に入り込めば後は話しをつけるだけでございます」


「ふむ、お爺様の屋敷は俺でも正面から行っても許可がないと入ることはできないからな。それに、強引に入り込めば屋敷の警備を任されているアルスロット・カイラスの失態になるからそれを餌にすれば絶対に断ることも出来ぬな」


そんな完璧な作戦に、お爺様の屋敷の中へと入りこんだ所までは良かったのだが……。





「ちょっとちょっとっ!!!アルに用があるならその前にピリカちゃんが相手よっ!!!」


「ピリカさん、いけませんっ!!」


「でもっ!!メリダを困らせておいて許せるわけないもんっ!!!」


まずいことになりましたわ……わたくしは中級貴族ですからまだ何とかなるのですが、平民のピリカさんがもしこの者たちに手を出せば……チラリとみると王国軍の新兵らしき者たちが取り囲みその中心ではでっぷりとした男がハンカチを片手に立っていた。





「おい……ルドガー出てきたのはやかましい女じゃないか、どうしてアルスロットが出てこない?あいつは何かの功績でおじい様の屋敷の護衛をさせてもらっているだけだろう?どうして、カトリナ姉上のそば仕えのメリダが出てきてるんだ……」


「あっその……なんででしょうか……。私にもさっぱりで、噂ではアルスロット・カイラスがこの屋敷で冒険者として護衛の任についているとの情報だったのですが……」


「早くメリダからアルスロットの事を聞き出せ」


「たしかお前はカトリナ様付きのメリダ・トリニテだったな。この屋敷にアルスロットという冒険者がいるはずだ。私は上級剣貴族のルドガー・ハイドである」


「や~い、で~ぶでぶアルはいないよ~だ。お前なんかと会わないよ~だ、べろべろべ~~~~っだ」


「こっこここっこむすめーーーーーーーーーーーっ!!!」


「あれれ~、コケッコ鳥の声が聞こえる~あっなるほど~この屋敷って城壁に面してるもんね~壁を越えて遊びに来たんだ~」


弾丸の様に悪口が出るピリカに、堪忍袋の緒が切れたルドガーが剣を抜いてしまう。


「わしはっこれでも代々剣豪を多く輩出してきた上級剣貴族・ハイド家だっ!!!下働きの小娘っそこまで馬鹿にするのであればわしの剣受けてみよっ!!!」


「おっおい……ルドガー手を出して……母上の目に……」


ちぇすとーーーっと少し驚かせてやろうとの気合の声を上げると上段からピリカに向かって振り下ろされる剣……十数年ぶりの本気の寸止めと気合の声を上げた直後のタナトスからのトリミアティナの目にとの声でバランスが崩れ体が前のめりに出っ張った腹のせいで踏ん張りもきかない。


「はっ!! いかんっ娘っよけよっ!!!」


「いやっ!!!うっうごけないもんっ」


「ピリカさんっ!!!」


勢いは何とか殺せてはいたが、ルドガーのよろける先にはまだうまく体を動かせないか弱いピリカに剣先がメリダの叫び声も空しくスローモーションのように軌跡を描くのであった。








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