第百九話 やさしい移住
「……アルスロット殿そのように簡単に虚栄の都市を我がエルフィン族に提供しても良いのですか?」
俺としては、虚栄の都市のレベルアップのため原始の種族であるエルフィン族の力を借りれるならと思ったんだけど……思ってたよりスッと出た俺の虚栄の都市の移住提案にテネシア様は少し面を食らってしまっているようだった。
「今の虚栄の都市は誰も住んではいないゴーストタウンなんです。最初はヴァル様達ヴァンプ族を救うためこの都市は出来たのですが解放された初心者ダンジョンのヴァンプ族の集落も虚栄の都市の門のおかげで安全に守ることが出来ましたので、俺としては住人が出来ることは喜ばしいことなんですが……それにテネシア様は生命の樹の管理と先ほどヤクウを増やしたように色々と俺にとっては大事な人になっているんです」
目を真ん丸に見開き驚いたような顔をした後には、俺に満面の笑みを見せてくれたテネシア様は少女のようでとても可愛らしかった。
「安心いたしましたわ、虚栄の都市への移住の対価は私ということで構いませんのね?」
「んっ? 私? ……えっええええええええええっいえっそのっそんな、一国の女王様を対価なんてとんでもないです。ああっ言い方が悪かったようですっ! エルフィン族の原始の種族としての知恵を対価にということですっ!!!」
「ふっふふふっ、このまま貰っていただけても私は構いませんでしたのに。アルスロット殿の可愛いお姿を見れただけで良しといたしますわ」
「はっははは……テネシア様」
この後、テネシア様の伴侶はすでに死別していることや基本的にエルフィン族には精神の老いしかない事につい年齢を聞こうとしたら頬っぺたを膨らませて拗ねてしまったり……大森林の奥にはドラゴンがいてそこにエルフィン族が所有する魔人剣が有ることなどを色々と話しているとあっという間に時間は過ぎる。
「ふあ~ある~おきたのじゃ~」
談話室でヤクウのミルクを使ったミルクプリンを皆で食べていると、いつもより少し早く起きてきたヴァル様がドアを開けて目をこすりながら入ってくるなりダルマさんが転んだの如く皆を見て静止してしまう姿に俺が先ほどの挨拶の返事をする。
「おっおはよう……ヴァル様」
「う~……ずるいのじゃ~ヴァルも其れを食べたいのじゃ~」
へにょんとマユ尻を下げて美味しそうに食べるオフェリアとピノを見るヴァル様に。
「ヴァルおねえちゃまの分もありましゅよ?アルおにいちゃまがいっぱいいっぱい作ってくれましゅたから大丈夫でしゅ……」
「きゃうきゃう」
パクパクと先ほどからありえない速さで口の中にミルクプリンを放り込んでいたオフェリアとピノが罪悪感なのかヴァル様を慰めるかのように補足を入れると俺はミルクプリンが入った魔道具の冷蔵庫を三種の神の宝箱から取り出したのだった。
「それでは、アル様にデザートはお任せしてもよろしいですか?」
「えっ? アルスロット様が?やったっ!!!」
先ほどヒルダさんが訪ねてきてアスハブ陛下からしょう油に回復の魔法薬の献上が正式に受理されたとの報告と、昨日の晩さん会にて姿から様変わりした大魔法貴族マユス・ガーランについての謝辞を伝えに来ていたのだった。
「メリダさんは何時ものクッキーをお願いします。甘草から精製した砂糖もたっぷりストックしておきましたので今後、色々な料理やお菓子に使ってください」
俺は新しく覚えた<エクストラクト>でコケッコ鳥の骨と皮からゼラチンと甘草からは砂糖を取り出し、<浄化>を使いそれぞれ不純物を完全に分離すると透明なゼラチンの粉と真っ白な砂糖を作り出すことに成功していた。
「ヤクウのミルクを沸騰しないように温めて……砂糖にゼラチンを溶かして」
「あら? これは箱ですね……アル様?」
「えっなに? 箱から白い煙が漏れ出てます!! これは何ですかアルスロット様?!」
「あっ、それに触れないようにお願いします。それはデザートや飲み物などを冷やそうと作ってみた魔道具です」
「アルスロット様……これが魔道具ですか?」
メリダさんとヒルダさんが驚くのも仕方がないほど俺が魔道具だといった箱は……ただの箱だった。
「この箱には氷魔法の魔力を閉じ込めましたのでうかつに触れると手などが凍結してしまいますので危険です。触れる時は手拭いを手に巻くかフェルトの鍋つかみを必ず着用してくださいね」
「アルスロット様って本当にすごいですね……魔道具なんてダンジョンから出る冒険者ギルドの黒水晶とか、宝剣類、宝珠類にあとは低レベルから高レベルの魔力が封じ込められた魔石が融合した武器防具ぐらいですけど……」
「といっても、これは厳密には道具レベルですけどね。魔をつけてしまいましたが実際には俺の魔法・アブソリュートゼロでドライアイスというものを作り出してこの箱の中に置いているだけですから」
「は~アブソリュートゼロで作り出したドライアイスってなんですか?もうその時点でこれは立派な魔道具です」
ヒルダさんは俺の説明に、はあっとため息をついて何やらぼそぼそと独り言が口から出るが何を言っているのかは聞き取ることが出来なかった。
「わ~~~~アル~~プルプルなのじゃ~でっかい塊なのじゃ~全部食べていいのか~?」
期待に目を輝かせるヴァル様の前に出されたのは30cmx10cmほどの長方形で5cmほどの深さがあるバットに、そこに流されたヤクウのミルクは俺の魔道具で冷やされ形が崩れない触れるとプルプルとしたプリンの姿をプルプルップルプルッと見せていたのだった。
「ヴァル様、さすがに全部はだめですよ。まだ起きられないピリカさんに、エルランダ教国で後処理をしているアリアちゃん、さっき急いでアルタナシア魔国に向かったルーチェさんとカルマータさんにナーダさん達に……ラヴィちゃんとザイムさんにも味を見てもらいたいな……」
「アルスロット様……大事な方を忘れていますよ。アスハブ陛下にもお願いいたします」
ヒルダさんには、アスハブ陛下と言われたが後日に改めて献上のために持ってゆくということで報告だけに留めてもらおうとしたのだが……。
「それは困りますっ!!アスハブ陛下にはアルスロット様がなにか美味しい物を作ったらすぐに報告するように、できれば作った料理を持ってくるようにと言われているんです~後生ですから私がグラファルン城へと帰る時までに……お願いいたします~」
そんな感じで泣きつかれ、すぐにもう一つアスハブ陛下用にと作り魔道具の冷蔵庫の中へと入れたのだった。
「アルスロット様、ヒルダのためにありがとうございます……」
忘れずにヤクウのミルクプリンをバットごとわたすとズッシリとした重さにニヤニヤとにやけながら虚栄のドアをくぐってゆくヒルダさん……きっと、アスハブ陛下たちに交じってまた食べるんだろうなあれは……。
「アルスロット殿、丁度良かったようですね」
そしてテネシア様はアルタス様にエルフィン族が虚栄の都市に移住することを伝え、ヒルダさんと入れ替わりに戻ってきたのだった。
「テネシア様、すでに移動が?」
「ええ、アルスロット殿すでに移動は始まっています。エルフィン族は人族のように家の大きさを競ったりはすることがないので各長老の集落ごとに分散して住むことになります。イルルカ、ネイルーカ、ヘスタム、ケドクシア、チコル、ムントが6長老がそれぞれ5万のエルフィン族を纏めていますので」
「それでは、特に俺がやることはないのですね。何かご要望はありますか?」
「そう……ですわね……」
やはり虚栄の都市は生活するには暗すぎること、土の上で生活をしていたエルフィン族の足には石畳の道は辛いこと、後は驚いたことにエルフィン王国には水道があったこと……と言っても巨大な大森林の木々たちの大地から吸い上げる水を分けてもらっていたということだったが……。
「ヴァル様……どうかな?虚栄の水晶がエルフィン族が移住を始めたからレベルアップしていると思うんだけど……」
「ん~~~~~~、色々と変えたり広くしたり出来るようになってるのは前のレベルアップと変わらないのじゃ…………」
「んっヴァル様どうしたの?」
色々と設定が増えているのを見ていると思われるヴァル様が黙り込むと……。
「う゛~アル~~わらわにはこんなにいっぱい無理なのじゃ~~~」
あまりにも細かい設定項目が多く、自由奔放な性格のヴァル様には苦手なんだろうな……まじめな性格で虚栄の都市の元となっているエルへイブ治めてるカトリナ様が使うことが出来ればよかったんだけど。
「ヴァル様、ニュースサイトにアンサーを渡してみるね」
俺は、選ばなくても設定が出来ないかアンサーを渡す。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
虚栄の水晶・音声入力モード
VRコンソール画面に手を置き、音声で検索・設定できる。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
「あら?意外と簡単なんですのね?これならヴァル様でも問題なさそうですわ」
「う~手を置いてお願いするだけでいいのか~?石畳を土のように柔らかくしてほしいのじゃ~」
「なっなに?アル君っ地面が、足の裏が気持ち悪いっ!!」
ヴァル様が土のように柔らかくと虚栄の水晶のVRコンソールに手を置き声を出し設定をすると、足の裏に石畳が崩れ土がうにょうにょとうごめく様な感触が伝わり一瞬で石畳は柔らかな土へと姿を変えたのだったが。
「アルスロット殿……荷馬車が立ち往生しているようですよ?」
テネシア様は土の地面の感触を確かめた後、視線を大通りへと向けるとすべての荷馬車がその場で止まり、荷の重量で車輪が土に沈み込んでしまったようだった。
「う~皆ごめんなのじゃ~~アル~どうしようなのじゃ~」
へにょんとしてしまうヴァル様に、皆の視線も俺に痛いほど突き刺さってくる。
「ん~どうしましょうか……」最低限、街道のように土を固く踏み固められたものにしなければ荷馬車が動けないし……待てよ?膨大な設定があるんだから同じものとはいかないまでもそれに似た物を設定してくれるんじゃ?
俺は、ダメもとでヴァル様にあるものを設定してもらう。
「土のかわりに……」
「土のじゃ~…………」
「ヴァル様、高密度で」
「こうみつどなのじゃ~」
「次は、柔軟性があって」
「じゅうなんせいがあるのじゃ~」
「コシの強いハニカム畳に」
「こしが強いのじゃ~……」
「ヴァル様、ハニカム畳です」
「はにかむだたみ?にしてほしいのじゃ~」
ちょっと……意味不明な俺の説明はヴァル様には厳しかったが最後まで頑張って虚栄の水晶に音声で伝えると。
「やった……ヴァル様、見事です」
足元にハチの巣状のハニカム構造の灰色の石畳が敷き詰められ、しかも見渡す限り凹凸のない平たんで……。
「アルスロット殿……これはいったい……足の裏が吸い付いて滑らなく、柔らかいような?なんと表現すればいいのでしょう」
「あっアル君、荷馬車が動き出したよっ!!」
「良かったですわ、今度の石畳のようなものは荷馬車も……静かですわね」
走り出した荷馬車は、普通の石畳の時をゆっくりと感じさせるほどの速さで走り出し車輪が転がる騒音がほとんどなく静かな荷馬車が走る大通りの姿を作り出していた。
「アル様、素晴らしいですわ……これを農業都市エルへイブでも使えたら。荷馬車の騒音が無くなって助かりますのに」
「ん~そうだよね~、朝なんか荷馬車の車輪の音で目が覚めるもんね……」
「アルスロット殿、これは非常に助かります。エルフィン族は大森林の静かな中で暮らしておりましたので、ふふっそれにオフェリアとピノがとんでもない速さで追いかけっこできていますわ」
そういわれ辺りを見ると、ものすごい速さで逃げるピノを同じような速さでオフェリアちゃんが追うと荷馬車を障害物のように避けながら笑う姿はとても楽しい遊びを見つけたかのようだった。
「後は、ヴァル様……夜のお月様を出してもらえるかな?」
「アル~お月様ってなんじゃ~?」
「あっとごめん、夜様ねいつも暗くなるとお日様のかわりにいつもまん丸い姿を見せるよね?」
「そういえば、虚栄の都市には星は瞬いているのに夜様はありませんわね」
夜のお日様は、月のことだがこの世界では夜様と呼ばれていた。
「夜様~でてきてなのじゃ~」
さっそく、ヴァル様は夜様を虚栄の水晶に設定をしてみるが……闇夜に浮かび上がったのは……。
「アル様、黒い球ですわね……」
「アル君っ真っ黒だよ?夜様はホンワカした優しい光を照らしてくれるのよ?」
「う~~アル~失敗しちゃったのじゃ~」
ヴァル様の目の前に出来た真っ黒な球体は空に浮かぶことも無く巨大な真球の姿を見せていたのだった。
「アルスロット殿、夜様は闇の精霊の力が強くなるとお日様の光を遮り代わりに魔力で光る夜様が優しい光を届けるのですが……」
なるほど、月の夜様は魔力の光……ということはこの黒い真球には光の魔力を充填しないといけないのか?
「この月の夜様を光らせるにはどのぐらいの魔力が必要だ?」
@@@@@@@@@@@@@@@@@
虚栄の月
1日あたり光らせるには一握りの光魔法を充填する必要がある、最大充填魔力は一つ辺り64000日である。
@@@@@@@@@@@@@@@@@
「光魔法ですか?アル様、種火の明かりとは違うんですのよね?」
「たぶん、光魔法は俺の……<ライト>」
一握りのLEDライトの光を出すと種火の温かい明かりとは違い白い寒い光が手のひらで光る。
「アル君の光って不思議だよね~白いのに明るい……なんだか寒い感じがするし」
「本当に、不思議な光ですね。淀みない光……信じられないことに光の精霊と闇の精霊が一緒にこの光の中を踊っています」
テネシア様の話では日の光の下では光の精霊が闇の精霊を陰に押しやり逆に夜様の光の下では闇の精霊が光の精霊を隠し光を地上へと届かなくするそうだ。
「アルの光はヴァルにやさしいのじゃ~大好きなのじゃ~」
ヴァル様たちヴァンプ族は日の光が苦手で、最初あった時は日の光の中無理して飛んできてパーティー屋敷の門の陰でしゃがみ込んでたんだっけ……。
「アルスロット殿、この光ならヴァンプ族の方たちにも問題はないのですね……本当に不思議な光」
「アル君っ、早くこの真っ黒な夜様を光魔法で光らせて見せてよっ!」
「カトラ様、そんなに急かしては駄目ですわ」
「む~カトリナだって早く見たいくせにっ!」
「ヴァルも早く見たいのじゃ~」
俺の首に抱き着くヴァル様に耳元で早くなのじゃ~と急かされ、鏡の前に立ったごとくそっくりな顔のカトラお姉さまとカトリナ様には腕を組まれながら一方は俺の顔をじっと見つめながら急かしもう一方はぎゅっと俺を引き寄せ落ち着かせるようたしなめる……そんな姿をテネシア様はとてもやさしい目で微笑みながら見守ってくれる。
「あ~あ、消えちゃった……アル君っ今のは見せるだけのために光らせたのね?」
「あっうん。やりすぎると大変なことになるから一握りってニュースサイトのアンサーが出てるし加減して一握りの光をだしてみたんだ」
「そうですわね、アル様を急かすととんでもない光をまた出してしまいますわ……」
この光魔法は色々とやらかしている……辺境都市オリアではお日様よりも明るい光で平原を淀みなく照らし出し……エルへイブに向かうときはルーチェさんがツンツン突いたら弾けて強烈な光をまき散らしたんだったな……。
黒い真球の前に立つと見上げるほどの大きさに手で触るのにも挙手をするときのようにしないと球体である黒い真球に触ることが出来なかった。
「<ライト>」
俺は前世の世界の月を思い描き光魔法の<ライト>を一握り発動させると……先ほどの寒い明かりとは違いホンワカとした明かりが指の間から漏れる……。
「うまく光ってくれよ……」
一握りの光魔法をうまく光ることを願いながら黒い真球にへと押し込むように手のひらを当てると、球体の中心部へと潜っていくような光が見えまた少しすると……黒い真球が徐々に俺の<ライト>の光に色づき発光を始めたのだった。
「アル様、とてもやさしい光ですわ……」
「でも、こんなに近くにいるのに眩しくいないけど……大丈夫なのかな?それに……これってどうやって空に浮かぶのアル君……」
「どうやって浮かぶんでしょう?」
カトラお姉さまの指摘にこの巨大な夜のお月様がどうやったら浮かぶのか……光り出したら勝手に浮かぶことも無く……。
「ヴァル殿に触れてもらっては、設定というものが出来るんでしょう?」
「じゃあ、ヴァルが浮かぶようにお願いしてみるのじゃ~」
ヴァル様には巨大すぎる光り出した夜様を、空に飛びあがりてっぺんへと降り立つとそっと触れ元気よく「浮かぶのじゃ~」と声が聞こえるとゆっくりと夜様は上昇をはじめたのだった。
「ねっえ……アル君っ虚栄の月がなんかおかしいよ?」
カトラ様の声が終わる前には空高く上がった虚栄の月は徐々に光を失い、暗い……。
「変ですわね、ニュースサイトでは一握りで1日分の夜様である虚栄の月を光らせることが出来るんですわよね?」
「暗くなっちゃったのじゃ~」
「アルスロット殿……最初は光と闇の精霊が群がっているのが見えてましたが、今は散っていってしまってますね」
周りを見ると、虚栄の月が光り出した時と違い街灯と星明りの煌めきだけの光と影のコントラストがはっきりとした景色に戻ってしまっていた。
「ニュースサイト……虚栄の月の発光時間が短いなぜだ?」
@@@@@@@@@@@@@@@@
虚栄の月 発光時間
一握りの光魔法で虚栄の月が発行する時間は1日だが、映しとった都市の規模によって精霊の力を借り淀みなく光りを届けるシステムの為、場合によっては発光時間は短くなる。
@@@@@@@@@@@@@@@@
「この虚栄の都市は燃費が悪いってことなのか……」確かに農業都市エルへイブはグリナダス王国最大の都市だ都市の外には広大な畑が広がっているし……豊穣を約束する生命の樹も中心に星空に届きそうなほどの巨大な樹となってそびえたっている……。
「どうやら、この虚栄の都市は常人の魔力では維持すらできないそんな都市のようですね……でも、今維持するにはどうやって魔力を……」
「確かにそうです……虚栄の月を作り出して運用しようとしたらとんでもなく魔力を消費して……ではこの都市を維持するのにどこから魔力が供給されて……」
俺は、テネシア様のもっともな指摘に体の奥底から恐怖が沸き上がって震えが止まらなくなる。
「う~~ん、アル君っきっと大丈夫じゃないかな?虚栄の水晶を設置したエルへイブも特に何も起こっていないし。もしだけどこの虚栄の都市が莫大な魔力を要求していたら元となって虚栄の水晶が設置されたエルへイブは今頃は大変なことになっていると思う」
「ニュースサイト……虚栄の都市の魔力はどこから補われている?」
俺は、もしかしたら取り返しのつかない都市を作り出してしまったのでは……マスターのヴァル様の命にかかわるような、震える手を何とか抑え込み祈りながらニュースサイトのアンサーを見る。
@@@@@@@@@@@@@@@@@
虚栄の都市の魔力
虚栄の都市は起動時にマスターの魔力を登録、具現化した後は虚栄の都市を利用する者たちの魔力によって維持される。
利用人数が増え魔力の供給源が確保できなければ虚栄の都市のレベルは上がることなく最小設定でのみの運用となる。
採取する魔力は、余剰魔力を魔力炉が拡大する負荷でのみ採取される。設定で強制採取が出来るがおすすめはしない。
虚栄の月、虚栄の太陽、虚栄の海、虚栄の星空などオプション設定の魔力は虚栄の都市を維持するのに必ず必要としない為、別途魔力の供給が必要となる。
魔力が枯渇した場合、機能が停止する。
@@@@@@@@@@@@@@@@
「はあああ~~よかったあ……」この虚栄の都市が関係ない人たちからも魔力を吸いとって運用されているのではないかと最悪の事態を頭をよぎっていたが、この都市を利用する人たちから魔力炉が拡大する程度の安全な負荷の採取で運用されているとの回答に一気に締め付けられていた心が解放される。
「ほら~アル君っ大丈夫だったじゃないっ!!しかもこの都市を利用すれば勝手に魔力炉を拡大してくれるおまけつきっ!!!魔法士には最高の都市よっ!!!」
「アルスロット殿、問題があれば虚栄の都市を利用しているヴァンプ族から声が上がったはずです。それに余剰魔力の譲渡はエルフィン王国でも様々な精霊たちへと行っていたことです。問題はありません」
「アル様、ヴァル様の父上であるドノヴァ・フレイア様からも特に問題のご報告は上がっていないと思いますわ」
「ヴァルも毎日飛んでるけど大丈夫なのじゃ~」
「うん……皆ありがとうすごく安心したよ」
ヴァル様が毎日のようにこの虚栄の星空を飛んでいるのだから……大丈夫だよね、それにこの虚栄の都市を利用するにあたって余剰魔力が採取されることをちゃんと告知すればいいことだ。カトラお姉さまの言う通り魔力炉の拡大させる程度の負荷なら冒険者や魔法士なら大歓迎だろうし、エルフィン族には精霊たちへ余剰魔力の譲渡は当たり前の日常だったようだ。
「それで、アル君どうするの?虚栄の月が長時間光らないし浮かばないとただの真っ黒な球体だよ?」
「そうですわね……もう一度、一握りの光魔法を充填してみてどのぐらい光るのか見るといいかもしれませんわ」
カトリナ様の提案に、俺はもう一度<ライト>を真っ黒な虚栄の月へと充填してみる。
「1・2・3・4・5・6……180……あっもう消えるのか……」
虚栄の月への充填から約180秒でスッと光が電池が無くなった時のように消えてしまう。
「アル君、あんまり持たないね……魔力的にはどうなの?」
「<ライト>は魔力消費は殆ど無いです出す光の強さや光の大きさで消費魔力が変わると思いますが……」
「どうやら、一握りの光魔法というのが問題があるようですね」
「はい、一握りの光魔法に込めることのできる魔力にはどうやら限界があるようです」
「アル君っじゃあ、限界まで魔力をつぎ込んで一握りの光魔法を出して充填したらさっきより伸びるんじゃない?」
「カトラ様、先ほどのアル様の光魔法が限界まで魔力を込めたものだったのでしょう?」
「うん……限界まで込めた一握りの光魔法だったんだけど。結果は約3分しか光ることはなかった。ということはこの一握りの光魔法を何回も充填しないといけないってことだね」
1回のライトで3分、1時間光らせるには20回か今の俺ならどんなにライトを使おうと回復する魔力を上回ることがないから平気なんだけど……問題はこんな充填を毎日やるなんてできないってことなんだよな。そうなると、答えは一つしかないけど……とっても恥ずかしいんだよねあれって……ライトを出しながらそう結論を出していると皆も分かっているのか目が嬉しそうに輝く中、テネシア様だけそんな様子にコテッと首をかしげるのだった。
「ピノ~~~お空にまん丸のでっかいおほしゅさまでしゅ~きっとアルおにいちゃまがなにかしたんでしゅよっいきましゅよっ!!」
虚栄の都市を隅々までを走り回り、ピノも十分な散歩が出来満足できたころにサーっと虚栄の都市全体が明るくなり空を見上げ目に入ったのは巨大なふわりと光る不思議な星だった。
虚栄の城は虚栄の指輪を持たない者には開かれることのない、アルたちとその関係者たちだけのプライベートな城となっていた。
城門をくぐるには虚栄の指輪を持っていなければ開くことはなく、また空からの侵入も指輪を持たない者は見えない壁にやさしく追い返され入ることはかなわなかった。
「オフェリアでしゅよっ!!指輪をもってましゅ。あっピノも持ってましゅよ開けてくだしゃい~」
そんな事を言わなくても門は開くのだが……子供らしい素直な行動が良いところだ。
虚栄の都市は魔力で作られた都市、オフェリアの指輪に反応し城門が開くが特に音もなく巨大な扉が開いてゆくと。
「ピノっいきましゅよっ!!」
「キャウッ!」
人を意識しているように胸を張ってズンズンっといった感じに歩いているのだが……そんなオフェリアの入城を見送る者もおらず生命の樹がそびえたつ虚栄の城の中庭へと足を進めるのだった。
「アルスロット殿、今からいったい何が……皆そわそわしているようですが」
「あっはは……えーと」
俺はテネシア様の問いかけにうまく言葉が出てこない、今この場にいる虚栄の指輪を持つ人たちには俺の秘密を見られても構わないのだが、というかこの場に来ることが出来る人たちに俺の秘密を隠すことは不可能だしね。
「テネシア様、わたくしもでございますよ……ヴァル姫様っいったい何が起きるんですか?」
バーバラさんは、今までどのように育てても芽吹かなかった貴重な種を虚栄の城の実験場の苗床に植え終わり先ほどオーチャコ神の台座がある城の広場へと来ていたのだった。
「今からアルの本当の姿が見れるのじゃ~とっても可愛いのじゃほっぺがぷにぷになのじゃ~」
「アルスロット様の本当のお姿ですか?はっ!!我らヴァンプ族と同じように伴侶が見つからなければ成長することが出来ない種族……でも、アル様はヴァンプ族ではないですしヴァンプ族以外で伴侶が見つからなければ成長することが出来ない種族は聞いたことがありません」
「ん~バーバ違うのじゃ~」
「テネシア様、バーバラさんこのことは虚栄の指輪を持つ者以外には知られないようお願いします。じゃあカトラお姉さまは俺の抱っこを、カトリナ様は三種の神の宝箱を俺が触れることが出来るようにお願いしますね」
俺はカトラお姉さまとカトリナ様に挟まれるように虚栄の月から少し離れた場所に立ち、テネシア様、ヴァル様、バーバラさんには俺たちよりも後ろで待機してもらうと三種の神の宝箱の赤いダイヤモンドにそっと触れ魔力を流すと8歳の年齢が捧げられると一瞬で俺は0歳9ヵ月の赤ん坊へとなり服とチャトラアーマーの海へと沈んだのであった。
「あ~もうっ、アル君っ!!しゃがまないからほらもうっ!!危なかったっよ」
俺はまたカトラお姉さまに怒られながら服とチャトラアーマーの海からヒョイと抱き上げられると……揺れないゾウさんがまた丸見えだった……。
「まあっ!アルスロット殿……もしかしてそれが本当の姿……」
「えっええ?アルスロット様が赤ん坊に……ええええええええっ?!」
思わず大きな声を出してしまったテネシア様は口を押え、バーバラさんは盛大に2度驚きの声を上げたのだった。
「あ~~~~あうっ!」
覗き込んでくるテネシア様とバーバラさんを無視して俺はすぐにカトリナ様に三種の神の宝箱の赤いダイヤモンドを触れさせてもらい、作動させるために俺の魔力を流すと三種の神の宝箱のレベル乗の捧げた年齢の俺の分身の数が表示されるが俺は無視をして光を失っている虚栄の月を隙間なく取り囲むように8歳の俺を配置し一握りのライトを数えきれないほどの分身が次々に充填をしてゆく。
「アルスロット殿がどうやってアーティファクトを飲み込んだ凶暴なモンスターたちからオリアを解放したのかやっと理解できました……」
「すべてが実体を?命令された一つの行動が終わると消えてしまうようですが……これはすごいです、アルスロット様が守れと分身を出せばアルスロット様と同等の力を持つ分身が護衛を終えるまでなんてことが出来るのでしょうか?」
なるほど、バーバラさんの指摘に俺は護衛につくようにと分身を1体出してみる。
「ふむふむ、なるほど……今は私たちしかいないので検証のしようがありませんが。アルスロット様に何か危機が迫ればこの棒立ちになっている分身のアルスロット様は動き出すのでしょうか?」
「それにしても、こんな近くで見ても実体にしか見えませんね……とても光魔法を充填し終えた分身と同じように消えてしまうなんて信じられません」
そんな、俺の分身に目が行っているうちに光魔法の充填を加速させてゆく。最初は充填しては消えてゆくごとに配置し充填と繰り返していたが。
「あだだだ~」
オリアの時のように空中に分身を出し光魔法のライトを投げつけ充填させるとあっという間に65535体分の分身が光魔法・ライトの虚栄の月へと充填を終わらせたのだった。
「わ~アル君っ今度はちゃんと光ってるわっ!!すごく不思議……全然眩しくないのにとっても明るいけどほわ~っとしてる」
「光と闇の精霊が嬉しそうに手を取り合ってこの光を虚栄の都市全体へと運んでいますよ……」
何処を見ても光が届いており、眩しくない何とも不思議なホンワカした柔らかな光が虚栄の都市を支配したのだった。
「アルスロットお兄ちゃま~お母しゃま~お空におっきいおほしゅしゃまでしゅっ!!」
虚栄の月が無事に光り出し空へと浮き上がるとほどなくしてそれを見つけたオフェリアちゃんとピノが城門から元気良く駆けてくると、ドーンと分身の俺に抱き着いてくる。
「あうっ」
「しゅごいでしゅ、おっきなおっきなおほしゅさまでしゅ!!!あたらしい、スキル技がうかんだんでしゅよっ!!」
「まあっ!オフェリアまた今度見せてくださいね」
「アルスロットお兄ちゃまもっ今度みてくだしゃいっ!!」
三種の神の宝箱から出現した俺の分身は護衛を命令して配置した……オフェリアちゃんの問いかけに答えるわけがないのだが……。
『すごいっすごいよっ!オフェリアちゃんのまたあの美しいスキル技を見るのを楽しみにしてるねっ』
「はいでしゅっ!!アルおにいちゃまっ!!!あの真ん丸のおほしゅさまみたいにとってもしゅごいとおもいましゅっ!!!」
「だ~だだっあぶっぶ」
今俺はカトラお姉さまに抱かれて赤ん坊に、そして俺の目の前でオフェリアちゃんとしゃべっている俺は護衛の命令をした分身のはずなのに……皆もそんな俺の分身にびっくりして硬直している……。
「あっ!!!あかちゃんでしゅっ!!!わあっわあっかわいいでしゅっカトラおねちゃまっしゃがんでオフェリアにも見せてくだしゃい」
抱き着いていた分身の俺から飛び降りると物凄い速さでカトラお姉さまの元へと走り寄りピョンピョン飛びながら「みたいでしゅ」と何度もねだる。
「うっうん……ちょっと待ってね」
カトラお姉さまは俺に目を合わせると目が泳ぎまくってどうしたらいいか分からないようと目配せをする。
はあ、とにかくオフェリアちゃんには秘密かな……俺はニュースサイトの共有で箇条書の指示を出す。
@@@@@@@@@@@@@@@
・俺は迷子の赤ん坊でカトラお姉さまのオーチャコ神孤児院で預かるということに。
・オフェリアちゃんには、この赤ん坊が俺だということは内緒で。
・分身の事は無視。
@@@@@@@@@@@@@@@
赤ん坊の俺は赤ちゃん言葉しか話すことはできない、カトラお姉さまならかろうじて何が欲しいとか程度なら感覚的に理解してくれるが……会話が出来ないときに限って問題が起こるんだよね。
「わ~おとこでしゅっ!おかあしゃまオフェリアの弟でしゅか?」
「いいえ、違うのですよ……この子は見ての通り人族の子」
「オフェリアちゃん、どうやらこの子は迷子みたいなの」
迷子になっていたようですねとごまかすが……。
「迷子でしゅか?ピノと同じでしゅっ!!オフェリアが面倒を見るでしゅっ!!!」
さっと、しゃがみ込んだカトラお姉さまの手から俺を抱っこするとその場に座り込み目を輝かせながらあやし始める。
「オフェリアでしゅよ、あっ横にいるのはピノでしゅよ今日からおとうとでしゅよっ!よちよちでしゅ、とってもいい子でしゅなきましぇんとっても強い子になりましゅよっ!!!」
オフェリアの弟宣言に皆が苦笑いをする……が。
「この子はオーチャコ神孤児院でお預かりするそうですオフェリア……カトラにその子を預けるのですよ」
その声に泣きそうになるオフェリアちゃんは俺をぎゅっと離すまいと「いやでしゅ、おとうとなんでしゅっ!!」と大きな声を上げ抵抗をし始めたのだった。
「では、ご迷惑をおかけしました。ほらっオフェリア」
「う゛~~~~~ん、う゛~~~~~ん、おっオフェリアのおとうとでしゅっ絶対そうなんでしゅっ!!!」
泣きわめくオフェリアちゃんは赤ん坊の俺が弟だと頑固として主張をするが……そんな姿にテネシア様から爆弾発言が投下される。
「そうですね、アルスロット殿がいつか良き日にオフェリアの弟を授けてくれるかもしれませんね」
「ほゅうっほんとでしゅか?アルおにいちゃまが……オフェリアにおとうとを連れてきてくれるでしゅか?」
「ええっ、きっとアルスロット殿が……」
口元を抑えちらっと俺を見るテネシア様は先ほど見せた少女のように赤くほほを染めながらオフェリアちゃんに満面の笑みで答えていたのであった。




