第百五話 魔族
バラス夫妻と別れた後、ローターリーの流れに沿って歩き北の貴族街を魔法貴族と剣貴族とに分ける大通りへ、そして巨大な北城門を見上げるほどまで歩き右へと体を向けると貴族の高い建物が立ち並ぶ路地に入ってゆくと降り注ぐ日の光と登城のため行き交う貴族の馬車、俺のように下級貴族は歩きだが……道幅は俺の歩幅で30歩以上歩かないと渡り切れない広さで、ちなみに大通りは渡るのに100歩以上歩く必要がある。
この異世界の実家の王国民街の路地は狭いところがあったっけ、石畳も凸凹がひどかったな……ライラお母さまに抱っこされて歩いて公園に行った時も大変そうだったっけ。あの時はライラお母さまの魔力炉は俺の中にあったしな……身体強化も使うことはできなかっただろう……。
そんな、思いがこみ上げてくると……あれっ魔力炉なし?えっ基礎魔法を使っているところは殆どなかった……俺の汚したオムツやお風呂に、布団もお日様の匂いがした……清浄系の基礎魔法を使わずいつも大変な手作業で……今更ながらにお母さまが俺の為に注いでくれたたっぷりの愛情に気が付き涙をあふれさせながらパーティーハウスの屋敷門に手を触れると主を認識し自動でゆっくりと左右に開いたのだった。
「キャウッ!!!キャウ~~~ン」
屋敷門をくぐると……ふわふわの毛玉みたいな子犬が俺の足に軽く頭突きをしながら小回りに何週か回った後、近づく何かを感じたのかすぐにぴゅ~んと走り去る。
「あっえっと……そっか、エルフィン族のテネシア様とオフェリアちゃんに幻獣族のピノが屋敷に泊まったんだったな。ということは……」
「アルスロットおに~~~~~ちゃま~~~~~~~~」
土ぼこりを上げながら現れたのはエルフィン族の王女オフェリア・ウル・エルフィン、先ほどのピノの様子から追いかけっこでもしていたんだろうなと考察しながら見ると、元気よく身体強化の魔力が巡り体の周りに今はそよ風が吹いておりなんだかくすぐったい……。
「げっ元気だねオフェリアちゃん……もう朝ご飯は食べたかな?たぶん新鮮なマヨネーズと野菜スティックにコケッコ鳥の卵焼きとフワフワのパンとヤクウのミルクかな?」
「あったり~~~とーってもおいしかったでしゅよっ!!!あっしょうでしゅ、ヤクウなんでしゅが生命の樹の葉をたべさせてあげてくだしゃい」
「んっ?生命の樹の葉を?ん~どうなのかな~俺はヤクウの面倒を見ていないからな~その葉を上げてもいいのかわからないよ」
たしか、ヤクウの世話は専用の人が見てるんだっけかな……アスハブ陛下にも大事にしてくれと言われてたし。
「んっ、いいんでしゅっ!!!ヤクウはエルフィン族がなかよしの国に贈るんでしゅよ。なかなかふえましぇんが、生命の樹の葉を上げればすぐに増えるでしゅ」
「そうなのか?……すごい、それが本当ならヤクウを増やして貴重なミルクを皆に提供することが出来る……それに、これは初心者冒険者のクエストに出来るな」
考え込んでいると、いつの間にかピノが構ってくれと足に頭突きを何度もしており。はっと顔を上げた先には、オフェリアちゃんが言ったように2匹しかいなかったヤクウが3匹に増えていたのだった。
「アル様お帰りなさいませ、皆様は談話室で話し合いの最中です」
「メリダさんただいま、アスハブ陛下から頂いたヤクウが増えててびっくりしたよ……」
「ああ、はい……まさか生命の樹の葉を与えたとたんに分裂するとは思いもしませんでしたわ」
「分裂ですか……それは……」メリダさんの顔が少し半笑いになる様子からして……あまり、その分裂は見てて良いものじゃないことは想像がついてしまう。
「さあ、アル様。皆様がお待ちになっておりますよ」
重厚な扉がゆっくりと開けられると真ん中に置かれた長机にはヴァル様とアリアちゃん以外が全員そろっており、なぜかテネシア様も席についていたのだった。
「アル様おかえりなさいませ、ラヴィちゃんが冒険者ギルドで働くことはご両親からご許可が?」
入ってきた俺にラヴィちゃんとの話が気になり、椅子に座る前に質問をされる。
「カトリナっアル君はあの戦闘の後に時間がなくって休みもしないで冒険者ギルドに行ったのよ?まずは座ってもらってメリダさんのおいしい紅茶を飲んでもらおうよっ!」
「ふっ、そうだな。アルご苦労だったね、まずは座って休みな」
「んっ、・・・・・・」
そっか、アリアちゃんは夜まで帰ってこれないかもしれないな……。大聖堂前の白の広場はラメルダさんの超大規模魔法で石畳はすべて破壊され高重力で地面も、カルマータさんが受け止めた所を中心としてクレーター状に大きく陥没してしまっていたんだ。
「さあっアル様、紅茶でございます……まずは一口飲んでそれからお話しくださいませ」
俺はメリダさんから薫り高い紅茶をもらい口に含むとじんわりと口の中に広がるのはこの異世界に生まれる前に飲んだ紅茶の味だ。
「メリダさんとってもおいしいです……これの元が薬草だなんて……」
「ふふっ、アル様もついにお知りになったのですね?」
「ええ、先ほどケガをしたラヴィちゃんを治す回復の魔法薬を作った時に」
その言葉に一同が目をむき硬直する。
「まったくアルは少しでも目を離すと……本当に回復の魔法薬を?もしそうなら、イオスが黙っていなかったんじゃないかい?」
「はい、イオスギルドマスターには冒険者ギルドに供給することを約束させられました。暇なときに大量に作ればいいので承諾しましたが魔法薬を流通させるにはアルハブ陛下への献上がまず必要ですからバラス夫妻にサンプルをお渡ししてきました。たぶん、試した後にはすぐアスハブ陛下の元へとご報告と献上されると思います」
「アル君っ、私のお父さんとお母さんに会ったんだ。元気だった?」
「うん、元気だったよ。毒消しの魔法薬も改良がうまくいって今日からでも大量生産に入るって喜んでいたよ」
「ふ~ん、そうなんだ。通常魔法の毒消し魔法が使える魔法士を使うことを許可が下りなくてまだ少量しか作れないって言ってたけど上手くいったんだねっ!」
「私のお父様は、まだ辺境都市オリアですわ……帰りは王都グリナダスまでモンスターの残党を排除しながらの帰還になると連絡がありました」
「ギンド将軍には感謝していますよ、それと今は剣聖ラングとともに打ち漏らしたモンスターの群れを狩りに出てくれています」
「ラメルダ様っ一日も早いエルフィン王国の奪還を願っておりますわっ」
辺境都市オリアは、カトリナ様のお父様であるギンド将軍と俺のお父様である剣聖ラングに任せておけば大丈夫だろうな。
「それで、ラヴィは冒険者ギルドで働くことになったのかい?」
「はい、隣にラヴィちゃんのご両親も働くことになったおかげか簡単に了承を得ることが出来たみたいです。あとはヴァル様に門の設置をしてもらうだけです」
「よかったですわアル様っラヴィちゃんもこれで立派な冒険者になれるのですわねっ!!」
「カトリナそうだよねっ、ラヴィちゃんは最年少冒険者だし。とっても可愛いし絶対すごい冒険者になれるわっ私応援しちゃうっ!!」
カトリナ様、カトラお姉さま……ラヴィちゃんは先輩冒険者から大人気でしたよ、もう皆の心を鷲掴みにしていると思いますと俺はそっと心の中で冒険者たちに囲まれ輪となる中心にいるラヴィちゃんを思い出し今は冒険者というよりも受付嬢なんじゃないかなとは口に出さずに飲み込むと、やっとアルタナシア魔国……ルーチェさんが激怒した問題に話を振るのだった。
「それでは今一度、アルタナシア魔国で何が起こったのかナーダがお話しさせていただきます」
姿勢を正したナーダさんからの話では……。アルタナシア魔国の5年に一度の王の選定でルーチェ以外のものをという声が一部上がっていることと、チラリとルーチェさんを見た後にガリ家という名前が出てきたのだった。
「その、ガリ家という貴族みたいなものでしょうか?その家の者がルーチェさんより自分が王にふさわしいと名乗り出たのでしょうか?」
「んっ、・・・・・・・・」
「二代前の王ということは……復権を?ルーチェさんの家に変わったということは問題があったんですよね?」
「ガリ家は魔人剣を破壊し魔族に神の兵へ先祖がえりをと舵取りをした愚かな家だよ、ルーチェのザナ家が止めていなかったら……破壊が跋扈する世界になっていただろうね」
「んっ、・・・・・・・・・」
「それで、そのガリ家が王になろうと動いているんですか?」
「それが……その、あまりにもルーチェ様の人気が強く先祖返りのごとく力を使うことのできる為、対抗するためかガリ家のモーク様が何名か仲間を引き連れて禁止されているアーティファクトダンジョンへと潜っていったようでございます」
最悪だった……ラメルダさんが支配しちょっかいを掛けないという条件でアルタナシア魔国に手を出さないと見逃してくれたはず。だから、ルーチェさんはアーティファクトダンジョンへの入場の禁止と自身とカルマータさんが力をつけるため辺境都市オリアと王都グリナダスのダンジョンへと来てたはずだ。
「母さん……魔族・ラメルダから見逃してもらう条件がアーティファクトダンジョンに干渉しないことだったね」
「んっ、・・」
「でも、ラメルダさんは今日の朝にエルランダ教国にいましたからそれは大丈夫じゃないですか?」
「まあね……今じゃアーティファクトダンジョンには用がないといいんだがね」
その言葉に俺はニュースサイトへとアンサーを渡す……。
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アルタナシア魔国のモークダンジョンのアーティファクト埋蔵量
数百万年分の定期的なモンスターパレードに使われるはずだったアーティファクトが眠る。
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「モークダンジョン……」俺のつぶやきの後には突然静まり返るセラフィムだけの時間が流れ、突然黙り込んだ俺たちに心配そうにナーダが声をかけるまで口を開くことが出来なかった。
「ルーチェさん、王の選定に異を唱える者がいるのならアルタナシア魔国へと行かなければなりませんよね?」
「んっ、・・・・・・」
「アルスロット様、王の選定は現王の支持が魔国民の半数を割った時に支持を得た王候補たちとの戦いによって選ばれます。ですので、今回のようにほんの少数の声では王の選定自体行われないばかりかモークは王候補として認められもしませんので自動的にルーチェ・ザナ・アルタナシア様が魔国の王となります」
「だが……そのモークはアーティファクトダンジョンへと消えていった。魔人族だからアーティファクトをコントロールする素養はどの種族よりも高く魔族・ラメルダの力の一端を受けたが……それをも超える魔族が生まれる可能性もあるね」
「アルスロット殿たちは……古の神の兵である魔族とも戦っていたのですね?」
テネシア様はおもむろに世界の始まりを話し始め、その内容はとても衝撃的であった。この世界の創成期といわれる時代、エルフィン族が神から与えられたすべての命を育みコントロールするはずだったが完璧すぎる神は自身の力の一端を行使できる魔族を作りだす。
その魔族はエルフィン族ではコントロールすることはできなくやがて戦いになると、大地は破壊されつくし貴重な原始の樹の生命の樹を失くし……エルフィン族も殺され始めた時に神は気づき数多の魔人剣をエルフィン族に託したそうだ……。
「テネシア様、数多の魔人剣でございますか?」
「ええ、そう伝え聞いておりますよ。エルフィン王国にも一振り魔人剣がありますが今はエントの迷宮の中、容易には……」
「さようでございますか……」
「それがどうかしたのですか?」
「んっ、|・・・・・・・・・・・《魔人剣は三振りしかない》」
「ルーチェさん、たったの三振りしかないの?」
「カトリナ様そうでございます……歴代の王を多く輩出してきた三家であるザナ家に一振り、ガリ家に一振り、ジル家に一振りとアルタナシア魔国にはこの三振りしか残っておりません。二代前の内戦時には多くの魔人剣が消失してしまいました」
「そうですか……魔人族は未だに魔人剣での調整が必要ですね?」
「はい、そうでございます。私のように力が無い者は一生のうち2~3回ほどの魔人剣による調整で済みますが……中にはお力が先祖返りされる方もいます、特にルーチェ様はほぼ毎日の調整が必要でございました」
「まあ、今は魔人剣の少なさを議論しても仕方がないさ。それよりもモークといったかね?そのガリ家の奴らがアーティファクトに手を出して暴れたら……今度こそ魔人剣を全てなくすことになるかもしれないね。まっ、それは魔人剣カーンを持つアルがそいつを止めに行けばいいんだろうけどね」
「アルスロット様は魔人剣をお持ちなのですか?」
「ええ、たぶんその消失した魔人剣の中の一振りを主と認められ持っていますが。アーティファクトに手を出していなければルーチェさんの説得で済むでしょうし……」
そんな俺の意見に皆が少し苦笑いしながら答える。
「アル様、それはありませんわ……ガリ家という歴代の王を輩出する家の者が王の選定の儀が行われる時にアーティファクトダンジョンへと潜ったのですから……自らに取り込み魔族化していますわ」
「アル君っ私もそう思うわっ!」
「そうですね、アルスロット殿。今のアルタナシア魔国は魔族化したモークを討伐するための余分な魔人剣はありません。アルスロット殿がお力を貸さなければ……アルタナシア魔国の未来はありません」
髪型以外はそっくりな鏡のような二人とエルフィン王国を統べる女王からの声は甘い考えの俺の言葉を肯定することはなく、テネシア様に至っては俺の魔人剣で討伐しなければアルタナシア魔国の未来はないとまで断言していたのだった。
強大な力を得た魔族を倒すには魔人剣が必要だ……モークがどんな状態かわからないが歴代の王を多く輩出してきたガリ家なだけあってアーティファクトを取り込む素養があると思ったほうがいいか。
ニュースサイトのアンサーでもアーティファクトダンジョンの名前がモークダンジョンとなっていたことから……はあっ考えなくてももう決まっているよな。
「主よ……」
「なんだ?カーン」
「先ほどのエルフィン族の女王の話だが……その時にセンワルス神様は我を持ちエルフィン族の勇者となり魔族を切って楽しんでおられた」
「じゃあ、魔族は……」
「センワルス神様の退屈な心から生まれたのだ」




