第百四話 なおったでちゅ
「どうかな?ラヴィちゃん異常は無いかな? 魔法薬を付けた手で傷口を押さえ込んだ時にムズムズとくすぐったい感じがしたのは急激に傷がふさがったからだと思うけど」
「はいでちゅ、もう治っちゃったでちゅ少しも痛くないでちゅよ」
冒険者達の輪の中で飛び跳ね始めたラヴィちゃんはもうすっかりと膝は治ったと皆に嬉しそうに見せて回ったのだった。
「すげえぜ……この魔法薬があれば、戦闘中でも傷を塞ぐことが出来て逃げることが出来る。助かる確率が……不安が無くなるぞ……」
「あっあの……疑ってすまなかった」
周りを取り囲んでいた冒険者はいつの間にかここに居合わせる全員がラヴィちゃんと俺に注目しており、口々にすまなかったと謝罪の声が漏れ始めるのだった。
「やあっ!! アルスロット君、やあやあこれは素晴らしいモノを作り出してくれたねっ!! 是非そのアルスロット君が作り出した瞬時に傷を治すことが出来る魔法薬は我ら冒険者ギルドに卸してもらいたい」
何時ものように、軽い感じの声に顔を上げると2階のギルドマスターの執務室から騒ぎに気付き降りて来たのかイオスギルドマスターが。
「そうだっ、頼むっ!! そのすごい魔法薬があれば……生存率は劇的に上がる、体が動かなく撤退も出来ずに死ぬことも無くなるかもしれない。なあっさっきの非礼はこの通りだっ何度でも頭を下げさせてもらう……頼む……」
そして、先ほど魔法薬は偽物が出回っていて腹を下したと言っていたベテラン冒険者のおっちゃんは俺に頭まで下げていたのだった。
「頭を上げてください、ラヴィちゃんの為に疑いの目を向けるのは当然ですから。もちろんこの魔法薬も出来る限り早く皆さんの手に出来るようにしようと思います」
「そうかっ!! ありがとう」
「よかったでちゅよ、アルおにいちゃまっ!!」
「うん、良かったよ。ラヴィちゃんが皆から愛されているっていうのが分かったしね、決心することが出来たよ」
俺は今のやり取りで冒険者システムに選ばれた冒険者限定の虚栄のドアの運用にようやく心から利用する事を許可することが出来ていたのだった。
「イオスギルドマスター丁度良かったです。ラヴィちゃんのご両親と話は?」
「ああ、それは冒険者ギルドにとって大事な事だからね朝一で話を付けたよ」
ニヤッと口角を上げながらパチッとウィンクするイオスギルドマスターに少しイラっとしながらも、そうですかとだけ返事をする。
「イオスちゃまとお話ししましたでちゅよっ! ラヴィはカウンター内のお掃除をするんでちゅ。お父ちゃんと、お母ちゃんは、となりで働いているから安心でちゅよ」
「あっ、もうヘアサロンを作っているんだね」この世界の貴族の良いところは宣言したことはすぐにでも実行する事だが……どうやら大魔法貴族マユス・ガーランは魔刃アモルゴスで殴った効果、殴りつけるごとに悪の心を粉砕することが出来たようだ。
「ああ、驚いたね隣に髪切り師と髪結い師のヘアサロンというギルドが出来ると聞いて……ラヴィちゃんのご両親が、ギルドマスターと副ギルドマスターにそれぞれ就任したそうだよ。資金は魔法貴族から出されるそうだが……剣貴族も早々に資金をつぎ込んでくるだろうね。ヘアスタイルは大事だからね~いや~見てよ極まってるだろ?」
そういえば今日のイオスギルドマスターの髪はピッチリと後ろに流されており艶々だった……俺が渡したヘア油を使ったんだろうな……。
「それは良いのですが……」
「あっと、ここじゃ話せないね執務室まで来てくれるかい?」
俺はイオスギルドマスターの部屋へと招かれ、ラヴィちゃんの冒険者限定ドアの運用の決心がついたことを伝える。
「そうか……それは嬉しいね。冒険者に虚栄のドアが開かれれば冒険の幅は驚異的に広がるだろう。それに、アルスロット君の魔法薬だ……もちろん、冒険者ギルドにも?」
「ええ、そのつもりです。それと、冒険者用の虚栄のドアが運用開始後にエルランダ教国には冒険者ギルドを立ち上げてほしいです。これはエへラン教皇陛下よりの要請でもありますのですぐにでもお願いしますね」
「もちろんだよっ!! あのエルランダ教国に冒険者ギルドが新たに立ち上げる事が出来るなんてっ!!」
「それと、エルランダ教国民はほとんどの者達が回復魔法を使うことが出来るそうです」
「なんだって? それは、本当なのかい? 回復魔法を?」
「はい、エルランダ教国の大司祭であるアリアが毎朝お勤めに……どうやら、毎朝必ず全教国民で基礎魔法を使い各々の魔力炉の活性と飢饉になりやすいエルランダ教国の大地を癒やしているそうです。たぶんですが、教国は今後は大魔法国家になる下地が出来たんだと思います」
「そうだったのか……確かに基礎魔法を毎日そのように使えば魔力炉の拡大に魔法熟練度の向上も、しかも回復魔法がほとんどの者が使えると……すばらしいね、冒険者パーティーのバランスが回復魔法士にアルスロット君の魔法薬で」
「はい、激変すると思います。イオスギルドマスターの目指していた場所へ1歩進めるとおもいますよ」
「ああ……アルスロット君、ありがとう……」
ぎゅっと俺の手を握りしめるイオスギルドマスターは見た目とは違いとても熱い男だったようだ。
イオスギルドマスターの執務室を出て次に向かったのは……いや、向かいたかったのはバラス家が運用する魔法研究所なんだけど……場所が分からない、そもそも秘密で俺が限界成長の薬草を育てたのは王城の庭だったしな……。
「ああ、それにルーチェさん……アルタナシア魔国の話もしないと。カルマータさんとルーチェさんは魔国に向かう事になるんだろうな、たぶん」
冒険者ギルドから出て、自分のパーティ屋敷のある北城門へと足を向けると巨大なロータリーにグリナダス王国の中心であるオーチャコ神礼拝堂がそびえたつのが見える……。
朝から礼拝に来る人が増えたよな……たぶん、マヨネーズが前の日に買えなかったんだろうな。
カトラお姉さまから毎日新鮮なマヨネーズはすぐに売り切れると喜びの悲鳴を聞いていたのだが。
すぐに売り切れるという事は、エルランダ教国とオリアにヴァンプ族にエルヘブンと……あれ?これ回るのか?どう見ても供給が足りてない?
アスハブ陛下が専用の工場を作ると言っていたが……すでに秘密裏に稼働しているのかもしれないな……。
巨大なロータリーを東回りで北に向かう、すると今度は小城を4つ内包したグリナダスの王城が顔を出すと……。
「失礼、アルスロット殿かな?」
突然呼び止められ貴族であろう馬車を見上げるが一切、装飾がされておらず家紋が無い……訝しんでいると完全に停車した馬車から降りてきたのは……。
「突然呼び止めてゴメンなさいね。アルスロットちゃん急いでなかったかしら?」
「丁度良かったです、僕もバラス様にお会いしたかった所なんです」
そう、この装飾が一切されていない貴族らしかぬ馬車の主はカトラお姉さまのご両親で魔法研究所を独自に運営しているバラス夫妻だった。
馬車に乗ると、北の正門ではなく貴族街が北にあるのは王城の正門がそちらにあるからだっけ……オーチャコ神礼拝堂と接しているためダルマのように円状にそれぞれの敷地が接しておりさらにそれを一つにするように大きな円状に入城用の門と壁が設置されているが上から見るとダルマのくびれの部分の広場に馬車を止め南の裏門に歩いて入城するのだが……。
「これは、小城の一つですか?」
「うん、アルスロット君そうなんだよ。魔法研究所はこの小城なんだよね」
「アルスロットちゃん、この小城はねグリナダス王国がエルヘイブやオリアにヴァンプ族を統一していないころの一番古いお城なのよ。だから、中はとっても古くてちょっと怖いのよ~」
バラス夫妻の他にも、頭を軽く下げながら早歩きで小城へと消えていく何人もの貴族が……そして、俺を見ると驚いてびくりと体が震えるのだった。
「うん、悪く思わないでくれ。ここに居る者たちはアルスロット君が作り出したあのどんな毒でも排出させてしまう魔法薬を作り出した天才だと知っているんだ。たぶん、いきなり魔法研究所である小城に来たものだから驚いてしまっているんだと思う」
「ほんと、アルスロットちゃんがこんなに小さな子……なんて聞いてはいるけど実際に見るとビックリしちゃうわよね~」
「そうなんですか……天才と言う訳では無いのですけどね」
俺はただセンワルス様に選ばれた、だけなんだよね。
「そうだな、天才で片付けるのは失礼だったな。我々が思いもよらない発想こそがアルスロット君の天才と言わせるゆえんかな?」
「そうね~、体から有害物質である毒を排出させる……中和させ無毒化する事しか、今でもあの時の事を思い出すのよアルスロットちゃん。私たちの無力さと発想の狭さにね……」
二人を見ると、あの時の事を思い出してしまったのか拳をギュッと握りしめ少し震えて、膨らむ感情を少しでも押さえつけようとしているのが……見えてしまった。
「今日、お会いしたかったのは。実は新しい魔法薬を作り出したのでアスハブ陛下に献上する前に試験をお願いしたく」
「新しい魔法薬を?今度はどの様な効力がある魔法薬を作り出したんだい?」
「まあ、それは素晴らしいわっ!!まあまあっ!!」
俺は、胸の青いボタンに魔力を流しながら触れると手の中に薬草と甘草を取り出す。
「薬草に……それは、なんだい?これは薬草とは違うね……」
「アルスロットちゃん、これは甘草ね?」
流石にエルトラス様は甘草を見ても分からなかったようで……パメラ様はアスハブ陛下のようにかじった事があるのかな?
「はい、料理などに使う甘草ですとっても甘い調味料です」
「お父様に、おやつと言われて出されたのが葉っぱの状態の甘草だったわ……懐かしいわね、少しえぐい位の甘みで魔法調理をしないとあまりおいしくなのよね~」
「へ~陛下がこの甘草を……アルスロット君ちょっと味見をしてもいいかい?」
俺は手に出した甘草をエルトラス様に渡すともう一度、神の宝箱から甘草を取り出す。
「アルスロットちゃん、すごいわっどこから出してるの?パッと出てきて魔法なの?」
パメラ様は俺の手を触りながらどこかから出したのか調べるが、チャトラアーマーの高密度な格子状の繊維が見えるだけである。
「うっうぐっ、確かに甘いがこれがえぐいと言うのか……それで、この甘草で薬草に甘い味をつけて飲みやすくするのかい?それでは、魔法薬ではなく調理薬……いや調合薬と言うべきか」
エルトラス様は、う~むと考え込むが。
「ここは素直にアルスロットちゃんに新しい魔法薬を作ってもらいましょうねっ」
「そうだな、やはり甘い味をつけるぐらいしか思いつかないな……」
「それでは……<清浄><アブソリュートゼロ>」
手の中でサラサラに崩れたのを感じ、さらに魔力を集中させて……。
「<コンポジション>」
薬草と甘草が魔力で強固に結びつき輝くような白い粉が手のひらの上に出来上がる。
「これは……まさか、賢者の砂?古城の石板に記されていた魔法薬の特徴と全く同じだ……」
「賢者の砂、キラキラと光り輝き粒状でサラサラと砂のような状態の魔法薬である。だったかしら~」
俺の手の上に出来上がったサラサラの輝く粉を摘まみ取って自身の手の平に乗せると使い方は?効果は?と質問攻めに、先ほどラヴィちゃんが冒険者ギルドで使用した話を伝える。
「すごいぞアルスロット殿……しかし作るのに特殊な魔法を必要とするんだね?」
やはり冷却系の魔法は使い手がいなく、さらに魔力で二つの成分を強固に結びつける魔法は聞いたことも無いそうだった。
「こまったわね~アルちゃんしかこの賢者の砂を作れそうにないわね~」
「毒消しの魔法薬のほうはマユス・ガーランから昨日やっと魔法士の協力が得られるように今日からでも大量生産に入るところだったんだが……この二つの魔法薬が常時民に供給できればな……」
魔法兵器の汚染物質流出事故で活躍した薬草を基礎魔法の微風で乾燥粉砕させ通常魔法のアンチポイズンを添加した粉末状の魔法薬は今回作り出した回復薬と同じように長期間の保存と飲んでも塗ってもと万能な姿にバラス夫妻により改良がくわえられていた。
「新しい魔法薬ですが、僕ができうる限り作ります」
「そうしてくれると助かるよ、それでレシピとその特殊な魔法の詳細を残しても?」
「できれば、グリナダスを救ってくれた毒消しの魔法薬と一緒に後世に残したいわっ」
もちろん、俺は後世に残すことを承諾し氷結の魔法と2つの成分を強固に結びつける魔法の習得に必要な知識を伝え今度こそパーティーハウスへと戻っていったのだった。
アルスロットと別れた後、その場で組成してもらった回復の魔法薬を大事に大事に小さな小瓶へと詰めてゆく、隣ではパメラが聞き出したアルスロットの魔法薬二種類のレシピを丁寧に石板へと下書きを施し基礎魔法の微風を指先に収束させスラスラとなぞっていく。
「いくつかの成分を一つに組み合わせる……イメージ的には魔力の中に各成分を一粒か」
「アルちゃんにはこの魔力が小さな小さな砂のように見えるのね……魔力は体の中に流れていくもの……この中に傷を治す成分を組み合わせれば、それはまさに魔法薬ね。はあっどうしてこんな事も思いつかなかったのかしらね」
「ははっ、確かにな。回復魔法が回復力のある魔力をケガをした人の体内へと流す魔法と考えれば……か、もしかしたら……」
目をつぶり魔力を奥底から湧き上がらせるとエルトラス・バラスの両手からは今まで一度も使えたことがない回復魔法が光の粒を輝かせ溢れ出たのだった。




