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シオンズアイズ  作者: 友崎沙咲
第一章
1/19

黄金族人間の王子ファル

エリルの森で、男は息を飲んだ。

見つけた…!この女じゃないのか…?

男は目の前で怯える女を見つめた。


「女!よく顔を見せろ!」


男は女の髪を掴むとグイッと自分に引き寄せた。

痛ーっ!


「何するのよっ!この、野蛮男っ!」


男は女の悪態を無視し、その顔を凝視した。

大きな瞳は潤んで輝きを増し、こちらを睨んでいる。

なんだ、違うのか…?

女は、野性的な感じのする男の頬をバチンと殴った。


「…!」


殴られた男は一瞬ムッとしたがすぐにニヤリと笑うと、男らしい顔を傾けて女に近寄せた。


「気の強い女は、嫌いじゃないが」


そこで言葉を切ると、男は女の両手首を片手で束ねるように掴み、自由を奪った。


「まだ陽が高い。夜まで待て…」


女は、妖しく光った男の眼を見て焦った。

夜まで待て…?

それって、それって、つまり、そーゆー…!


「誰か、たっすけてーっ!!!」

「ばか、叫ぶな!」


耳をつんざくような悲鳴をあげた女の口を、男は焦ってふさいだ。

う、そ……!

女は唇に柔らかな感覚を覚え、やたらと近すぎる男の端正な美貌を見つめた。

これって、これって、キスじゃない?!


女は茫然自失で力を抜いた。

男は、女から唇を離してその顔を見た。

女の瞳にみるみる涙が浮かび、ポロポロと頬を伝う。

男はギクリとした。


「ううっ、ひっく…」


◇◇◇


…この三日前。

ファルはイライラしていた。

水面に反射する朝の光を、瞳に映すのですら煩わしい。


「ファルがイラついているわよ」

「朝の煌めきに眼を細めるのも腹立たしいのね」


ファルはチッと舌打ちして、声のした方向を向いた。

森には、噂好きでおせっかいな妖精が数多く住んでいる。

……畜生!

ファルはすぐ目の前の草を一本引き抜き、形の良い唇に挟むと、右手の親指と中指でなぞるように触れた。


「危ない!ファルが草を黄金の針に変えるわ」

「それを吹いてあたし達を殺す気よ」


早口でそう言うや否や妖精達はたちまち消えてしまい、声だけが残った。


「野蛮なファル。黄金族人間の王子。偉大なる王ダグダの嫡男とは思えない振る舞い」


「白金族人間の攻め込みに手を焼いているのね。ケシアの都が攻め落とされたとか。王子ファルの指揮が悪くて、軍が壊滅したとか」


「黙れ!」


苛立たしげに金色の瞳を光らせ、ファルは金の針に変えた草をプッと吹いた。

黄金の針は消え去った妖精を捕える事など出来ずに、ポトリと土に落ちた。

その光りながら落ちていく黄金の針を見つめて、ファルは唇を噛みしめた。

そうだ、俺のせいだ。

俺のせいで最北の都市ケシアが攻め落とされたんだ。

そう、天敵である白金族人間に。


幼馴染のアルゴもジュードも、弟のように可愛がっていたロイザも、敵軍の中に埋もれて消え、消息が掴めないままである。

率いた軍が散り散りになったのは、自らのせいだと責めずにはいられない。

黄金族人間の王であり父でもあるダグダは、ボロ布のようないでたちで帰路についた王子を一瞥すると、何も言わずに軍事の間へと側近を連れて立ち去った。


ファルは父王ダグダの雄大な後ろ姿を、ただただ唇を噛みしめて見送る他はなかった。

父王ダグダはファルの憧れである。

ダグタは誰よりも勇敢で、誰よりも強い男であり、王の中の王である。

彼の武器は荒れ狂う雄牛をひとふりで倒せる刃付きの棍棒で、そんな巨大な棍棒を片腕で自由自在に振り回せるのは、ダグダしかいなかった。


ファルは父王ダグダの去った後の風を感じながら、その場に立ち尽くした。

そんな昨日を思い返しながらファルはくっきりとした唇にわずかに力を入れ、グッと立ち上がった。

これからどうするか。


やがて勢力を増すであろう白金族人間を何としてでも食い止めなければ、我ら黄金族人間に未来はない。

戦うしか道はないのだ。


止まっている暇はない。

ファルは歩き出した。

エリルの森の柔らかな風が、彼の金色の前髪をサラリと揺らした。

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