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ゴブリン攻防戦の幕開け

 



 リージルの森の中で歩いている魔物の集団、醜悪と嫌悪の象徴とも言えるようなその醜い姿をさせているのはゴブリンと呼ばれる魔物達だ。

 尖った耳と大きな鼻、口を開ければ歯並びの悪い歯と緑の舌が獲物を欲するかのように息を吐いている。手足はどちらかと言えば細いものだがその腹は小太りしていて肌が青や緑なのもあって見ているだけでも近寄り難い雰囲気を醸し出している。


 彼等のリーダーなのかゴブリンの中でも頭に兜を身に付けているゴブリンが仲間達に声を上げた。



「オイ、本当ニコノ先ニアノコボルト共ガイルンダロウナ?」

「ヘイ親分! アイツラ大慌テデ逃ゲタカラカ足跡トカチャントアリマッセ!」

「グヒヒッ! 馬鹿ナ奴等ダゼ、俺達カラ逃ゲラレルト思ッテイルンダカラナ……!」



 ゴブリンとコボルトの関係は狩る者狩られる者。自分達に脅えて逃げ出す彼等を追い詰めてその肉を食らう、もしくは献上してゴブリン達は生活を安定にさせているのだ。執着にコボルトを狙うのも自分達よりも弱い奴等だからで、彼等は己の欲が満たされるまで狩りをやめるつもりはない。


 足跡、折れた枝、土が擦れた部分を観察し少しずつコボルト達が逃げたであろう場所へと近付いていく。どんなに逃げてもコボルト達が食料もなく平原まで逃げ出す事は先ずあり得ない。何故ならばそこから先は人間達のテリトリーでもあり、コボルトを見付ければ当然倒すからだ。人間達は魔物ならば誰であっても容赦する事はないし魔物相手に抵抗する事もない。


 マルティッカ平原に出るというのは人間達への格好の餌になるのだ、あの広い平原に出るとしたら人間相手でもどうにかなる魔物か魔族、あまりにも弱く数が多いスライムくらいしかないだろう。



「オ前等、アノコボルト共ニ俺様達カラ逃ゲタ事ヲ後悔サセルンダゾ?」

「ヘイ親分! 親分ニ逆ラッタラドウナルカ、思イ知ラセテヤリマショウ!」

「親分ノ強サハコノ森一番デス!」



 自分の子分達に持ち上げられてゴブリンのリーダーであるル・ブオは上機嫌にさせながら褒め称えてくれる子分達の頭を乱暴に撫でていた。

 彼は他のゴブリンと比べると一回り大きい体をさせている。そしてリーダーとしての格の違いを見せ付けていく為に己の頭部には人間が使っていた兜の一部を使った装飾品を被っていた。赤い羽はその兜の持ち主から見つけられた物でよく目立つから兜の飾り付けに使っているようだ。全裸当然で武器である剣を握る他のゴブリン達とは違いル・ブオは腰に布を巻いてよりこの群れを束ねる強者としての存在感をアピールしている。


 しかし、結局はゴブリンを束ねるリーダーなだけであってその布についてはそこまで拘る様子はなく何処かで手に入れたボロボロの布となっていた。



「親分! コボルトノ臭イガ増シテキヤシタ! キット近クデスゼ!!」

「クックック、アイツラツイニ観念シテ俺様達ノ餌ニナル気ニナッタカァ?」

「チャント俺達ノ分けケテオイテ下サイヨー?」

「アア、チャント奴等ヲ仕留メラレタラダケドナァ?」



 コボルトの臭いが増してくる事でゴブリン達の足取りは自然と速くなっていく。幾ら足が早いと言われているコボルトでもその足取りを完璧に消すような事は出来ない、寧ろ彼等が走る事でより多くの痕跡が残ってしまいそれが自分達を追い詰める事に繋がってしまうのだ。それに気付いていないコボルト達のあの間抜け面を思い出すとル・ブオは下劣な笑みを浮かべて醜悪な笑い声を漏らしていた。


 コボルト達を追って歩き続ける事数十分、彼等はコボルトの臭いとは違う何やらいい匂いがしてきた。コボルトを食べる為に腹を空かしていたというのにこの瑞々しい甘い香りはゴブリン達の空腹を逆撫でするように煽ってきていて、その鼻は香りの正体を探ろうとしていった。



「親分! コンナ所ニ沢山ノ木ノ実ガ落チテルゾッ!」

「スゲェ美味ソウダァ、コレ食ベタラ駄目カ?」



 ゴブリン達が見つけたのはあちこちに落ちている木の実だ。

 その黄金の輝きを持つような黄色の皮はゴブリンの顔をうっすら反射させておりその匂いも中々なものだった。丸くずっしりと実が詰まっているそれは普段ゴブリン達が口にしている肉とも、コボルト達から奪った木の実とも違う物で彼等の興味はその木の実へと視線を注がせる。

 丁度小腹も空いてきたしこの辺りで休憩しつつ木の実を食べるつもりではあったのだろう、ル・ブオも特に反対する理由はなく食べていいと許可した。落ちている木の実の多さが少し疑問には感じていたが他の魔物が木にぶつかったりして実っていた果実が地面に落ちたのだろうと大して気にしていなかった。


 自分の子分が次々とその果実を拾い上げて汚ならしい食べ方で貪るように食べていくのを見ながら、ル・ブオも自分の口に運ぼうとしたその時だった。ゴブリン達は食べていた果実をその手から落として急に苦しみ出してしまう。



「ウ、ガァッ! グ、ウウウゥゥ……!」

「グ、ヒィッ! ゲホッ、ナ、ナンダァ!?グ、グルジィ……!」

「ヴォエエェ……! キ、ギボジワリィ……!」

「オイ、ドウシタお前等! チッ、マサカコレノセイダッテノカ……!」



 苦しそうに声を上げながら食べたゴブリン達が次々倒れていく。喉や腹を押さえるようにしていきながら苦しそうにしていてその目は大きく見開かれ口からは唾液が溢れている。

 食べていないゴブリン達は彼等が倒れた事に驚いてしまいその様子を体を震わせながら見つめている。ル・ブオも倒れたゴブリン達を見て動揺しているが彼等の食べた果実を見て直ぐにそれが原因だと察した。無造作に、そしてあのコボルトが自分達に抵抗する為に何かするわけがないと思っていたがこれが罠だったとすればその考えを改める必要があるのかもしれない。



「オ、親分……! ド、ドウシタライイ……!?」

「慌テルンジャネェ! 見タ所死ニハシネェダロウガソレデモ危険ナノハ確カダ……」



 だが誰だ?誰がこんな事をしようと考えた?

 あのコボルト共は俺様達同様そこまで知恵があるわけがない、ならこれは偶然……?

 俺様達が自分から招いただけの事故か?



 混乱している他のゴブリン達を一声で制止させる。幾らコボルトでも罠を張ったりするような知恵を思い浮かべるとはあまり考えられない。それは彼等を飼ってきたゴブリンだからこそ確信出来る事だった。

 ならば何故よりにもよってこんな場所に不自然なくらい果実が落ちていたというのか、普段頭を使うような事はないのでその答えを探ろうにもどうにも納得出来る答えを引き出せそうになかった。


 だが、やはりあのただ食われるのを待っているだけだったコボルト達が今更になって自分達に逆らおうなんて考えを浮かべるとは思わなかったので結局は偶然なんじゃないかという考えになる。そもそもコボルト達がこの果実の事を知っていたとも考え難かったというのもあった。



「コイツ等ハ此処ニ置イテイク、不用意ニ動カサナキャ体調ガ悪化スル事モネェヨ」

「ウウ、親分ガソウ言ウナラ……」

「ッタク、イイ匂イノスル食イ物ダッテ思ッタノニトンデモネェモンダッタ……!」



 ゴブリンの数は大体百匹体、しかしさっきの果実によって二十体程戦闘に参加出来なくなってしまったのだ。思ってもみていなかったトラブルではあるがもうコボルトが目の前である以上ここで引き下がるわけにはいかないだろう。

 動けないゴブリンに数体の護衛を付けておいて自分達は引き続きコボルト達の後を追い掛けようとする。



――その時



「ガハッ!」

「ウギャアアアアァァ!?」

「!?」



 突然ゴブリン達の悲鳴が耳に入り何事かと目を向けるとゴブリン達の体に矢が刺さっていたのだ。緑色の血を流しながら痛みに耐えるように腕を押さえるゴブリン、腹を押さえるゴブリンが目に付く。

 何処から飛んできたのかとその目で追いかけていけばそこには弓矢を構えているコボルト達の姿があった。まるでこちらが来るのを待ち構えていたかのように冷静に弓を引いている彼等、それを見てやはりあの果実が落ちていたのは偶然なんかではなく彼等が張った罠だったのだという事が分かる。


 コボルトが張った罠に嵌まってしまったという事実に激しい屈辱を感じてル・ブオは歯を食い縛ってその目が殺意に満ちていくのは直ぐだった。あのコボルト風情にこうも簡単に自分達が引っ掛かったという事実、それはゴブリンにとって許されない事なのだ。



「オイオ前等……マサカトハ思ウガコレハオ前等ノ罠カ?」

「ゴブリン共、これ以上コボルト、狙うな!

狙うなら、クーウル達、お前等倒す!」

「……クックック、アノコボルトカラソンナ言葉ガ出ルトハ思ッテモミテナカッタ

ケド、ソノ願イヲ聞ク気ニハナレネェッテモンダナァ?」



 少なくとも自分達を出し抜いてこんな屈辱を感じさせてくれたのだ。ここで引き下がるというのはプライドが許さなかった。それは他のゴブリン達も同じようで血気盛んになりながら今にもコボルト達に襲い掛からんとばかりに武器を構えている。

 それだけでも十分な威嚇になるのか遠目から見てもコボルト達が怯んでいるのは直ぐに分かった。やはり幾ら彼等が愚かにもゴブリン達に逆らおうとしていても今まで逃げてきた情けない魔物には変わりはない。



「オイオイドウシタァ? マサカ今更ニナッテビビッテンジャネェダロウナ、アァ!?」

「ひいいぃ……!」

「こ、怖イ……ゴブリン怖イ……!」

「お前等、怯むな! 怯む、向こうの思惑乗る」

「ホォ、ソコノコボルトハ他ノコボルトヨリモ度胸ガアリソウダナ」



 怯んでいるコボルト達に鼓舞している一匹のコボルト、その目は他のコボルトとは明らかに違う目付きをしていた。既に覚悟を持っている強者の目、ル・ブオには少なくともそんな印象を受けたのだ。彼だけは他のコボルトとは違う何かがある、それは推測でもなくある意味確信みたいなものだった。

 しかもそれ以上に気になったのはあのコボルトが名付きという事だ、名付きの魔物は上級の魔物以外はほぼ珍しい物でコボルトに名付きがいるのは驚くべき事だ。少なくともあのコボルト達のリーダーはそんな名前ではなかったのをよく覚えている。


 だからこそ、あのコボルトを捕らえて食いたいとル・ブオの中で欲求のような物が芽生えた。



「ヨシ、オ前ハ俺様ガ食ウ」

「あり得ない、食われる前に殺す」

「コボルト風情ニ何ガ出来ルト言ウンダァ?」



 他のコボルト達よりは骨がありそうだが所詮はコボルト、自分達に勝てると思っているのならそれはあまりにも身の程知らずというものだろう。

 脚がどれだけ速くても奴等には自分達のように攻撃力があるわけではない。一度攻撃を食らうだけでも呆気なくやられてしまうような脆いコボルト達に一体どんな勝機があると言うのか、さっきの果実で予想外の戦力の低下があったとは言えそれでもあのコボルト相手ならば十分戦えるのには違いなかった。


 しかしクーウルというコボルトはゴブリン相手に怯む様子は一切ない。

 どんなつもりで対峙しているのかその目から彼の考えや感情が読み取れなかった。どのコボルトも少なからずその目、体の動きで脅えているか恐怖を隠しているか分かるのだがクーウルにはそれが見られないのだ。



「……オ前、コボルトナノガ勿体ナイ強サガアリソウダ」

「クーウル、弱い……でも、負けられない」

「グヒヒ、親分……ソロソロ無駄話モ終ワラセマショウ」

「アア、ソウダナ」



 ゴブリン達が武器を構えていつでも戦えるようにしているのを見れば彼の言う通り、これ以上無駄話をしていく必要性はないと考える。

 あのコボルトがどんなコボルトにせよ腹に入れてしまえばそれはどれも同じ。

 お互い睨み合うようにしていきながら森は静寂に包まれていった。やがてお互いの間を通り抜けていくように強い風が吹いてくればそれが合図となってル・ブオのその大きな口が開かれる。



「ヤッチマイナお前等! 一匹残サズ狩リ取ッチマエ!」

「「「「ウオオオオオオォォォォォ!」」」」



 ル・ブオの声が響くと雄叫びのようにゴブリン達も声を上げて弓を構えているコボルト達に突っ込んでくる。そのゴブリン達に矢を向けるようにしてクーウルを含めたコボルト達も矢を放っていく。


 戦いの火蓋は切って落とされた。


 コボルトによる初めての戦闘行為、それは彼等の新たな道を切り開く切っ掛けの一つとなり後に歴史に刻まれる一つになる。

【ステータス】

ル・ブオ(ゴブリンリーダー)

レベル7

体力    79

力     55

防     43

魔力    12

魔防    7

速さ    32

運     17


スキル 『強者の挑戦』『信じる力』


・強者の挑戦

相手が格上な程自分の力を限界まで高めるスキル。

その際防御も高まる効果もある。


・信じる力

己の力に絶対の自信があると取得するスキル。

自分の力を信じる事で攻撃力を高められる。

ーーーーーーーーーー

【ステータス】

ゴブリン(名前なし)

レベル5

体力    53

力     46

防     32

魔力    7

魔防    2

速さ    16

運     9


スキル なし

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