この世界での戦闘
賢達は特訓の場所としてリージルの森に向かって歩いていた。
この広い草原から見渡してみれば何処に何があるかというのは分かりやすく目的地も見つけやすい。リージルの森がどういう場所なのか杖に聞いてみたが実際に訪れないと詳細な事は何一つ言えませんと答えられてしまい、期待半分不安半分でリージルの森へ進んでいった。
クーウルが言うには森には材料があるから弓矢も作れるとの事でどちらにしても彼の戦力を整える為にも行かなくてはならない。平原を見る限り魔物らしい魔物の姿も見掛けないので特に危険な事やトラブルが起きる事もなくのんびりと進む。
「えーっと、この辺りはどういう場所か教えてくれるか?」
『此処はマルティッカ平原、魔物の大半が弱めな為基本的には大人しい魔物が多いようです
平原を抜けると商業で賑わう小さな街のシルベウスがありますが行くのはオススメしません
魔族は皆赤い目をしているのでマスターが入れば良くて牢獄、悪くて死刑でしょう』
「物騒だなおい」
「人間、魔族、どっちも嫌い、見掛けたら必ず殺す」
聞いているだけで気が滅入りそうになる。自分がもしも人間だったら何かしらの方法で金を稼いで、みたいのを考えはしたがそんな話を聞かされてしまったら絶対人間の街には行かないべきだと決意する他ない。出会い頭にこんにちは、死ねっ!なんてやられてしまうのが容易に想像出来てしまうからだ。
一応今から向かう森にはその人間の街とは方向が違うのもあって人間に出会う可能性はないのだろうがそれでも不安に思わずにはいられない。手汗を掻いてしまい震えているのに気付いたのはクーウルに手を握られてからだった。
「ご主人、大丈夫、大丈夫だ、俺、ご主人、守る」
「あ、ああごめんな……本当ならお前等に主としてこんな所見せるべきじゃないのかもしれないけど」
「だいじょーぶ! だいじょーぶ!」
「俺達、ご主人の配下、守るの、当たり前
俺達弱い、でも頑張る、ご主人の為、クーウル頑張る」
あまりにも健気な彼等に涙が出てきそうです今まで雑魚の魔物について馬鹿にしていた所あるけど訂正させてもらおう、こいつらも絶対死守しなければ!
彼が新たに誓いを立てているその時だった。
目の前に魔物のスライムが空気から実体化していくように現れたのだ。
突然出てきたスライムに思わず後ろに下がってしまうのは例えスライムと言えど攻撃されたら一撃でやられ兼ねないから。クーウルも武器がない以上素手で戦って効く相手かも考えにくい、ここは同じ種族であるムニニにどうにかしてもらうのが一番だろう。
そして、そんな状態で主を守るように威嚇しながら立っているクーウルはとても従順なのだがそれと同時に一番弱いスライムでさえ前に出られない賢の情けなさに哀愁が漂う。
「よ、よーし!正直戦闘は嫌だがこの際仕方ない……
ムニニ! どうにかあいつを何とかしてやれないか?」
「ムニニ、ご主人守る、大役」
「よぉーし! がんばるー!」
気合い十分なムニニはそう言うと体を震わせながらスライムの前に立った。そして両者動く事もなく睨み合いを続けるその空気に思わず賢とクーウルは唾を飲み込んだ。
スライムとスライムの戦い、この戦いによって自分達の運命が決まってしまう。スライム一体で汗を頬から垂らしてしまうようなこの緊張感。賢は真剣に見守りながらも誰にも見られていない事を本当に心から安堵していた。こんな場所誰かに見られたら魔族の威厳とかを抜きにしても人として色々と終わってしまう気がしたからだ。
先に動いたのはムニニだ、まるで風船のように跳ねていきながらスライムに近付いていく。一方スライムはムニニに近付かれても動いていく気配はない、警戒でもしているのかと思えば突然ムニニとスライムが互いに体をくっ付けてきた。
「な、なんだありゃ!?」
『あれはスライム同士で行われる会話の一種との情報、どうして魔族といるのか不思議に思ったのでしょう』
「へぇー……そりゃスライム配下にしている魔族なんて俺くらいだろうしな」
『スライムは頭空っぽそうですが実際はああしてお互い触れる事で会話をする知識はあるのです』
スライムだからってこの杖思い切り馬鹿にしやがったな、悪気なさそうだけど
ムニニ達の会話が終わるのを黙って見守りながら数分、くっ付くのをやめたムニニ達はピョンピョン飛び跳ねながらそれはもう癒されるような空気を醸し出している。
――が、次の瞬間お互い体当たりして吹っ飛んだ。
「ええええぇぇぇ!? なんで体当たりしてんだあいつら!」
『どうやら話し合いは失敗した模様、マスターのムニニの説得が失敗し
スライムとムニニは怒りながら戦闘を始めたようです』
「あれ怒ってたの!? どう見ても和解しました感あったんだけど!」
『飛び跳ねる動きが彼等の喜怒哀楽を表しているのです
先程のは怒りの飛び跳ねでした』
「冷静に解説されても分からんわ!」
何を話していたのかは知らないが取り敢えず和解は失敗したようだ。
ムニニとスライムは体を起こすようにすると何度もその体をぶつけていて後先考える様子もないその戦いは正に猪突猛進だ。お互いぶつかり合っているがムニニの方が攻撃のダメージはそんなに食らっていないようで逆にスライムは段々動きが鈍くなってきているのが素人でもある賢から見ても分かった。息切れするように若干溶けているスライムにムニニはトドメとばかりにタックルを繰り出すと食らったスライムはベチャッと地面に張り付く。
まだ微妙に息はあるのかスライムは動いているようで、そんな虫の息の彼にムニニはそっと近付く。同族同士で傷付け合うというのはやはり気楽そうなムニニでも何か思う事はあるのかもしれない。また彼等はお互い張り付くようにして会話をしているみたいだった。
『あのスライムとムニニは魔族とマスターがどれだけ違うか同じかを分からせる為に
プライドも掛けて戦っていたようですね、そして今漸く分かり合ったのです』
「あの戦闘でそんな熱い展開になってたの!?」
「ムニニ、よくやった、ご主人、喜ぶ」
何やら熱い展開を繰り広げていたらしいがくっ付いて飛び跳ねて体当たりしているのを見ていたこちらとしてはどう反応していけばいいのかリアクションに困ってしまう。とは言え一応自分達が勝てたようで一安心、そんな中ムニニは会話が終わるとスキルの捕食を使ったのか倒したスライムを呑み込んでいった。
元々どちらも無色透明だから今一分かりにくい物の全て平らげるとムニニは少しだけその大きさが増していた。膝よりも小さかったのに今は少し膝に届こうとする大きさだ。
「あるじさまー! ムニニやった! やったー!」
「ああ、ありがとな! ところであのスライム捕食したのか?」
「うんー、ほしょくしたけどいっしょー!
ムニニとスライムいっしょー!」
『スライムは確かに捕食しますがスライム同士の場合は少し違いまして
食べられても消化せずに混ざっている、つまりムニニに同居している形になります』
「って事は本当に今は一緒にいるってわけか? まぁ、同族殺す事にならなかったのは良かったな」
「ご主人、優しい、さすが」
ムニニは満足そうにしていて気遣うような言葉を与える賢にクーウルも目を輝かせながら尻尾を揺らしている。だがムニニをよく見ると思っていたよりもダメージを受けているようで、動きがぎこちない感じがした。魔の加護でステータス補正を受けているとは言っても完全に防げるような力ではないので、こればかりはどうしようもないのかもしれない。
しかし、そんな悩みも杖にはちゃんと伝わっていたみたいで賢に助言をしてあげた。
『マスター、傷付いた魔物はマスターの魔力を注げば忽ち回復します』
「魔力を注ぐ、ってどうやるんだよ?」
『スライムにこの杖で触れて魔力を送り込むようなイメージをする事でこれは成し得ます』
「……分かった、じゃあやってみるぞ? おいムニニ、ちょっと大人しくしろよ?」
「? ……はーい!」
魔力の込め方のイメージはさっき召喚をする時にやった同じやり方だろう。彼はスライムの前でイメージをしながら杖を触れさせる。そして魔力を送り込むようにしていけばぎこちなさそうな動きをしていたムニニはあっという間に何時もの元気を取り戻して飛び跳ねていた。
恐らく回復魔法みたいなものだろうけどそれにしては魔力の減りをそこまで感じなかった。どうしてか聞いてみると元々弱い魔物達な分消費する魔力もそんなに掛からないようだ。少しずつ魔力は減りつつはるが魔力を使うというのは逆に魔力のステータスが上がる可能性があるとも言える。ムニニも少しではあるが強くなっただろうからそう悪い始まりでもなかった。
「ご主人、森! 森!」
「分かってる分かってる、そんな急ぐなよー」
自分があまり役立てていないのを気にしているのか目的地が近付いてくると早く行きたそうに急かしてくるクーウル。賢も小腹が空いてきているのもあり、森に着いたら何か果物を見付けようと思いながら森へ向かって行った。
【ステータス】
魔族(名前なし)
レベル1
体力 14 [+2]
力 (-)198 [+2]
防 (-)148 [+2]
魔力 53 [+3]
魔防 27 [+2]
速さ 15 [+2]
運 23 [+2]
スキル 『魔物召喚』『魔の加護』
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【ステータス】
ムニニ(スライム)
レベル2
体力 29 [+13]
力 18 [+12]
防 15 [+11]
魔力 37 [+15]
魔防 27 [+12]
速さ 19 [+12]
運 43 [+12]
スキル 『捕食』
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【ステータス】
クーウル(コボルト)
レベル1
体力 42 [+10]
力 33 [+10]
防 27 [+10]
魔力 17 [+10]
魔防 19 [+10]
速さ 55 [+10]
運 31 [+10]
スキル 『三射打ち』