この世界の弱き者
【ステータス】
スライム(名前なし)
レベル1
体力 16
力 6
防 4
魔力 22
魔防 15
速さ 7
運 31
スキル 『捕食』
・捕食
ありとあらゆる物を食べられる。
その食べた生物や物を自分の力にする事が出来る。
死体や物なら捕食に時間は掛けないが、生きたままの捕食は相手のレベルが高い程時間が掛かってしまう。
この世界で最も弱い生き物。
人間達には雑魚と呼ばれ魔物達からは塵と言われている。
彼等は魔力から生まれる魔力の塊みたいなもので故に魔法にはちょっとだけ強い。
だがその程度なので物理で倒せばどうにでもなると言われていて、よくレベルを上げる為に大量のスライムが毎日殺されている。
それで絶滅しないのは殺されている分生まれているからなのだ。
スライムは何かしら捕食をする事で成長する。
スライム同士が合体した場合も同様だ。
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【ステータス】
コボルト(名前なし)
レベル1
体力 32
力 23
防 17
魔力 7
魔防 9
速さ 45
運 21
スキル 『三矢射ち』
・三矢射ち
弓の扱いに更けている者にしか使えない。
矢を同時に三本射つ事が出来て命中も上がるスキル。
スライムの次に弱い生き物と言われているのがコボルト。
その見た目の不潔さによって人間からは蔑まれ魔物達からもいい餌程度としか思われていないのがほとんどだ。
素早さが唯一の取り柄のようなもので動きの遅い敵ならば翻弄しながら集団で倒していく。
遠距離から弓での攻撃を得意としており大半のコボルトは弓を使っての攻撃を主にしている。
「……うーん、やっぱスライムだよなぁ」
「あるじさまー! あるじさまー!」
さっきから足元で跳ねているスライムのステータスを見ながらつい溜め息をしてしまう。
頭のイメージしているステータスは本当に使えるのかと思い試しに適当な石ころを呑み込んでみるように命令してみたら本当に『捕食』して体内に取り込んでいった。この技は強いかもしれないがスライムにはかなり厳しいのではないかと言う他ない。幾ら強いのを望んでいなかったとは言え自分の身を守るどころか一緒に消し飛びそうな魔物が召喚されてどう喜べと言うのか。寧ろこれでは一緒に死ぬ魔物を増やしただけでは?という不安が溢れそうになったが混乱するのはやめるべきだと思い自分の理性で必死に抑え込む。
捕食を終えたスライムを手で持ち上げてみるとその触れる感触は意外にも悪くはなく、マシュマロのような柔らかさがあり小さな目を動かしているスライムは近くで見ると案外可愛い生き物だというのが分かる。無邪気に跳ねているのが子供っぽくも見えてしまい、思わず抱き締めてしまうのは衝動の勢いに乗ったからだ。
決してこのほぼ詰んでいる状況に現実逃避をしているわけでは断じてない。断じて!
「なぁ、スライムって言うのはお前みたいに一つの意識があったりするのか?」
「……?」
「……分からなさそうだな、んじゃコボルトなら分かるか?」
「スライム、そういうのある、知らない……ご主人のスライム、喋れる凄いスライム」
「すごいすごーい」
どうやらスライムにはちゃんとした意識が存在する事はないらしい。元々魔力の塊が生き物になっているのだからまともに会話出来るのかまではそこまで期待はしていなかったが、珍しいスライムと言われてしまうと自分と同じ弱い生き物だとしても嬉しい物がある。彼は特別なんだと言われている気がするからだ。
本人は分かっていないのかきょとんとしながら主である彼を見つめているが賢はスライムの頭を撫でながら少しだけこの状況で自然に笑った。
そんな賢にふと突き刺されるような視線を感じて顔を向ければ、ついさっき自分が質問をしたコボルトからの寂しそうな目。構ってくれなくて耳を垂らしてじっと見つめてくるその姿は捨て犬のそれと通じる物がある。
「ど、どうしたよそんな顔させちゃって」
「ずるい、スライムばかり、ご主人構う……!
う、ううぅ……! コボルト、スライムみたいなむにむに、ない!
ご主人、コボルトも、むにむに! なりたい」
「むにーむにー」
「ちょ!?コボルト、お前そんな悔しがる必要ないから!
別にお前だけ除け者のしていたつもりとかないからさ!」
スライムばかり可愛がられるのが羨ましかったのか彼の言葉に尻尾を大きく振りながら目を輝かせているコボルト。スライムのように頭を撫でてみればそれはもう尻尾がさらに激しく揺れていき千切れてしまわないかと心配してしまった。近付かれると獣臭い臭いがしたがそこまで不快感はない、折角なのでこのままコボルトのステータスも確認してみようかと彼の能力の確認をしていく。
能力こそは同じく手放しに誉められるような物ではない。だがスライムや自分と比べればかなりマシではないかと思えるような力があるし速さもあるから撹乱するような戦闘スタイルにはかなり向いているのではと考える。おまけに技は複数の敵を同時に攻撃出来るような技を持っている『三矢射ち』今の自分にとっては救世主であり頼れる魔物でもあるのだ。
つい真剣な表情になってしまえば目の前のコボルトの両肩を掴むようにしてじっと彼を見つめる。その態度に驚いたのか体を跳ねさせたコボルトはこちらの様子を窺うようにじっと見上げていた。
「……コボルト」
「どうした、ご主人」
「俺が生きる為にはお前だけが頼りだ……!
期待しているからな」
「! ……頼り、嬉しい、でもコボルト、弱いぞ?」
お前が弱いと言うなら俺とスライムはなんだと言うのか
唯一この戦力の中ではまともに戦えるであろうコボルトは彼に誉められて嬉しいが自信がないのか様子を窺うように見ている。
だが賢からすれば仮に戦闘が起きても戦えるのはこのコボルトだけなわけで、不安そうにしている彼が自信なさそうにしているのは戴けない事だった。
「何を言ってるんだよ! お前は俺達の中で一番強い!
胸を張ってもいいくらいなんだぜ?」
「コボルトつよーい!」
「強い? 強いのか? コボルト、強いか?」
「ああ、お前にしかきっと俺達は守れない、頼りにしてるぜ!」
「……ありがとう、ご主人魔族なのに、優しい」
「やさしーい!」
魔族と言われて自分が人間ではなくなったのを改めて思い出した。
一応見た目こそ元の世界では変わらないとは自分なりに把握しているが目の前のコボルトは彼が魔族だとはっきり言っている。肌が妙な事になっているわけでも耳が尖っているわけでもない。ならば自分の何処が魔族なのか、というのをこの際はっきりさせてしまうべきだと賢は思い始めた。
「なぁ、俺自分が魔族だという認識が今一足りてないんだけどさ
お前から見たら俺は人間とどう違うんだ?」
「人間と魔族、臭いが違う、魔族は皆目が赤い
ご主人、目が赤くて魔族の臭い、強い」
「俺の目と臭いか……」
こればかりは水鏡みたいなのがなければどうしようもない。しかし自分からはその目が真っ赤なのと魔族の臭いがするというのが特徴らしく、これで自分は人間ではないというのを受け入れやすくはなった。大分状況の整理も出来たので当面の目的は決まる。このままブラブラとするのはあまりにも危険なので先ずは全員強くなるのを目指していく他ない。
少なくとも賢に至っては体力とか上げないと一発アウトなのだ。
まだ魔力もあるからもっとスライムやコボルトを召喚するというのも考えたが食料がないから多くは出したくないし、かと言って彼等を還すのは自分が危険でしかないのでこのまま一人と二匹で行くのが一番だという結論になった。そうなると、先ず始めにやっておく事がある。
「よし、先ずはお前等の名前だな……いつまでもコボルトとかスライムは酷いだろ」
「なまえー! いいのー?」
「え、え? 名前、俺達に付けてくれるのか?
名前付ける、部下になる、弱い俺達が部下、いいのか?」
「俺が一番弱いんだからいいんだよ! んじゃお前から……お前は今日からクーウルだ」
「……クーウル、クーウル……!」
「んで、スライムはムニニな」
「むににー!」
名前を彼等に授けるとそれはもう嬉しそうにスライム、ムニニは飛び跳ねていてクーウルは震えていた。それと同時に彼等の力が何故か少しだけ増しているような気がしたがその疑問に答えるかのように杖が反応する。
『スキル『魔の加護』が追加されました』
「うわっ!?しゃ、喋るのかよこの杖……! って、魔の加護?」
・魔の加護
魔族の加護で名前を付けた者に対してレベル×10の全ステータス補正が付く。尚レベルが上がると補正される数字も上がり魔物達の強さを高めてくれる。
どういうスキルなのかと思えばかなり美味しいスキルを覚えたみたいだった。どちらにしても今の自分達の戦力にこのスキルはとても助かる。当の名前を付けられた彼等は自分達の力が増えている事に気付いていないのか名前を付けられた喜びに浸っているようだった。
それはいいとして、ついさっき自分の持っている杖から声がしたのを思い出した。
これはつまり、天の声の杖バージョンみたいな物と考えるべきなのか。兎に角質問の受け答えをやれるのかどうか調べてみる価値は大いにあるかもしれない。賢は恐る恐るその杖に話し掛けてみた。
「えーっと……お前は俺の質問に答えてくれる存在か?」
『私は所有者であるマスターのサポートをします』
「ふむふむ、じゃあ俺はどうして異世界にいるのか分かるか?」
『その質問の答えは持ち合わせていません』
ある程度予想はしていたがこうもはっきりと言われてしまうと苦笑をせずにはいられない。
無機質な女性の声が杖から聞こえてきているがこの杖が言うにはついさっきまで自分がステータスや頭に様々な事を見せたのはこの杖の力によるものだったらしく、杖がなければステータスを確認したりは出来なくなると聞かされた。杖がなくなれば魔物を召喚する事も助言も受けられない、絶対死守すべき装備だというのが賢の中で決まる。
「次の質問、このレベルってのが上がるのは戦って勝つ以外にはないのか?」
『この世界ではそれ以外にもステータスを伸ばせる方法はあります
例えば走る事で速さは上がり、腕立てをする事で力を上げられますが戦闘と比べると地道になります
よって、戦闘によるステータスアップを推奨します』
「一応トレーニングでも効果は出る、というわけか」
ステータスを上げるには経験値を稼いでいくしかない、そう考えるとやるべき事はもう決まったようなものだった。漸く自分の世界から帰ってきたらしいクーウルとムニニは俺の様子に気付くと首を傾げている。彼は満面の笑みを見せると二匹に向かってこう言った。
「お前等! 強くなる為に特訓するぞ!」
「特訓?」
「とっくん! とっくん!」
ついさっき杖に戦闘するよう言われたがそんなの無視とばかりに特訓を口にした。特訓の意味を理解していない二匹はお互い顔を見るようにして疑問を浮かべる。その意味も深く理解していないがそれでも賢の言葉に乗せられるように彼等も特訓!とやる気を出していくのだった。
しかし特訓をしようにもこんな目立つ場所でやるのは怖い。況してや人間に見つかってしまうのではないかという考えも浮かんでくるくらいだ。
思い切ってここはサポートしてくれると言う杖に助言を乞うべきだろう。
「あのさ、この辺りに特訓するのに良さそうな場所って分かるか?」
『この付近だとリージルの森が最適と判断します
そこでならば武器がないコボルトの助けになる可能性は高いです』
「あ、クーウルは武器ないんだったな……」
「ごめん、クーウル、武器ない、役立たず」
「いやそうは言ってないから、じゃあそのリージルの森って所に行くか」
「もりー! もりー! りーじる! りーじる!」
善は急げ、ムニニも賛成のようでクーウルの事を慰めつつ早速出発する賢一行。
途中で自分が寝ていたのもあって裸足だったのを思い出すが土を踏んでもそこまで痛みはなく、草が柔らかいクッションの役割にもなっていた為そこまで歩くのはキツく感じる事はなかった。