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この世界に来た者

 



――ん、んん?

なんだ? 風が吹いてて涼しい……俺昨日窓開けたつもりはないんだけど



 肌を撫でるような風の心地良さ、普段ならばふんわりと感じる柔らかい布団の包み込む感覚がない。違和感の正体を探るように閉じていた瞼を開けようとすると太陽の光が眩しく目に当たって、予想外の太陽光に眉間に皺を寄せてしまう。

 腕で太陽の光を遮るようにしながら今度こそ目を開けてみると、最初に目にするのは木漏れ日とその明かりを遮るような木の葉、微風が葉っぱを擦れていき吸い込む空気はいになくとても新鮮で美味い空気に感じる。

 いや、そもそも何故自分は部屋で寝ていた筈なのにこんな外にいるのか?



「あ、え? えぇ? な、なんだ……!?」



 体の怠さなど構っている暇もなく慌てて起き上がる。

 頭に最初に浮かんだのは自分は何処かに連れ去られて外に放置されたのかという考え。冷静な判断が出来ない為こんな事を浮かべてしまった彼は改めて自分の体に異常がないか確認してみる、とは言っても手で触って確認するというものだが。


 その目は切れ目で短い髪。イケメンかと言えばそうかもしれないが、それでも誰しも振り返るような惹かれる容姿ではないだろう。そんな彼の姿は自分がついさっき寝ていたというのもあってラフな緑のシャツと黒い半ズボン、二十三歳の社会人というのもあって背丈もそれなりにはある。


 自分の体に何も異常がないのを知って一安心して顔を上げる。

 目の前に広がっているその景色は自分が産まれた地球とは明らかに違う場所だった。風に揺れている草原、しかし様々な花が咲いていてその花のどれもが見た事がない物ばかりだった。極めつけには動物ではない何かが走っていたりするのも見える。一度深呼吸をしつつ記憶を辿って自分が何故こんな所に居るのかと考えるが、その答えが見えてくる自信は全くないと言っていいだろう。


 そもそも昨日は仕事でその日の内に一週間分の食料を買い込み、テレビを見ながらネットサーフィンとかをして夢を叶えられていない自分に絶望して寝たというのが自分の中にある最後の記憶だ。



(つまり、これってもしかしてネット小説とかでよくある異世界に飛んでたって話?

夢……ってわけでもないし、少なくとも俺が居た地球に空の雲がピンクなんて事なかった)



 空は青空ではあるがその漂う雲は淡いピンク色をしていて綿菓子を思わせるがそれが地球で存在するような雲なわけがないので嫌でも此処が地球ではない事を自覚させられた。


 念の為頬を引っ張ってみるが、痛みしかないのが現実感を与えてくれる。異世界、それは誰しも一度は憧れたり夢見たりする場所だろう。チートを使っての俺Tueeee!とか、魔王になったり勇者になったりはたまた彼等をも越える最強の男になってたり。そんな場所にこうして居るのならば当然魔法も使える世界というのがほぼ常識と言ってもいい。


 一先ず状況整理をしていくべきだ。自分が今誰もいない所にいるのならば、教えてくれる何者かもいないという事になる。魔法は使えるのか、そもそもこの世界はどういう所なのか、腕力とかは上がっているのか、今後自分はどうするべきかと問題は山積みされている。

 なので、最初は自分の頭で自分の性能とかは見れたりするのかという確認も兼ねてイメージをしてみた。



 すると脳内にイメージした自分の性能を確認する事が出来るに成功する。ふわっとしたあやふやな妄想のような物ではなくはっきりとしている自分の性能画面。まるでそれはゲームでよくあるステータス画面みたいだ。ある意味親しみやすいから細かい事はいいとして早速自分の性能を確認するようにしてみた。


 ――が、自分の頭に浮かんできた性能は彼の予想していたのとは違う物だった。

 別にめちゃくちゃ強くなりたいなんて願望があったわけではないが最低限何とかなる強さだったりしないかと思っていたのだ。そのステータスにマイナスなんて表示が出ておまけに種族が魔族と出てくるまでは。



はっ!? 待て待て、可笑しい可笑しい! 何か俺魔族になっちゃってるし……!

どの辺りが魔族になっちゃってるんだ!?

ってか力と防御がマイナスってどういう事だよ!?

しかもそれを抜きにしても俺のステータスで一番低いのが体力だし!

防御全くないから下手すれば一発食らったら即終了なんていうのもあり得るレベルだぞ!



 あまりにも酷いステータスに口を開いて絶句している。妄想でなければ自分はいつの間にか魔族になっており、その名前も空白という状態になっているのだ。それはまだ良くてもこれを信じるとしたら、自分はとんでもないくらい弱くて戦えないという事でそれは彼の命がかなり危機的だと告げられているような物だった。


 端から見れば胡座掻いて目を閉じている男が顔面蒼白で口をぽっかり開けて全身から汗を出しているというあまりにも酷い姿、下手すれば不審者か何かだと言われても文句は言えないだろう。だがそれだけ彼からすれば衝撃が走ってしまうわけで、例えるならば食パンくわえて走ってくる美少女に偶然曲がり角で激突した瞬間ポックリあの世に逝ってしまったという始まる前に終わる物語みたいな物だ。


 もしかしたら本当はステータスとかなくて自分が勝手に想像しただけでは、という淡い期待をして一度目を開けてイメージをやめてからもう一度目を閉じて自分の能力を浮かべてみる。結果、さっきと同じように攻撃も防御もマイナスで体力もマトモにない性能だと見せられた。唯一あるのは魔力と魔防くらいで残りはほとんどそれらしい数字が浮かんでいる。これが自分の妄想だったら取り消せるのだが生憎その様な素振りは全く見せないし消せないので期待は裏切られる。


 もしも自分が異世界だヤッフー!テンションではしゃいでいたらどうなっていたのか、ついさっき走り去っていったあの狼の魔物辺りにでも食い殺されるかタックルされて御陀仏だった可能性もある。想像するだけでも恐ろしいが考えなしに動くのは危険だと思い知らされたのでネガティブな思考は隅に置いておく。



(けど、これでステータスはいつでも確認出来るというのは分かった……

先ずは脳内に浮かぶこのスキルってやつも調べていくべきだな

妄想とかじゃないなら一応俺の技、ってわけだし)



 自分の身を守る為には情報は必要不可欠、勇者だったら自分は女神や可愛い女の子に色々教えられたかもしれないが頼りになるのは己自身なのだというのを心に刻んでおく必要がある。

 気になったのは唯一他よりも高い魔力の存在、そしてスキルにある魔物召喚というものだ。魔力については少なくともこの世界には魔法の概念が存在しているという事。この高さからで言えば自分は魔術に長けているのではないかと示唆出来る。異世界と言えば魔法!そんな考えが彼の内にある思いを熱くさせてくれて早く使ってみたいという気持ちが賢を急かしている。


 しかし、そこで彼にとって残念な知らせが届いてしまう。

 魔力はある、そのやり方もちゃんと頭に情報として表示されている。どうやるかと言うと使いたい魔法の呪文を唱えながら精神を集中させ意識が集中すると同時に放つというのが基本的なやり方らしい。だが、今自分が使える攻撃魔法はあるかと質問するようにイメージしてみたら現在使える攻撃魔法は一切なしという答えが出て心の底からガッカリしてしまった。




(い、いやまだだ! 確か魔物召喚って言うのがあった筈……!)



 ――そう、まだ諦めるには早すぎる。

 もう一つ気になっていたのはスキルにある『魔物召喚』という物。こっちはどうやら指定した魔物を杖を使って呼び出せるというやつだ。

 杖なんてあったか?と思ったがふと自分の手を見ると既に杖のような道具を握っていた。ファンタジーでよくある魔法使いの杖そのままで木で作られているが魔法を出す先の部分に赤い宝石の装飾品が埋められていた。


 この杖を使って魔物を召喚するようだ。しかもこの『魔物召喚』のスキルがあれば召喚された魔物は時間が経過しても消える事はなくいつまでも喚ばれた主に付き従うという物だった。喚び出す魔物はコストが掛かるらしく、そのコストで支払われるのが魔力になるとある。

 魔法が使えないという絶望的な状況になってしまっている以上最早最後の希望と言ってもいい魔物召喚、少なくとも現時点で一番突飛しているこの魔力は強い魔物に自分を助けてもらって生活する為にあるのだと理解する。



(よしっ! これで活路は開けたかもしれねぇ!

後はどんな魔物が喚び出せるのか……! ドラゴンなんてのは先ず無理なのは分かっている

だが、せめて序盤のボスみたいなオークくらいは欲しい!)



 贅沢は言わない物の最低限どうにかなる魔物である事を願い、喚び出せる魔物がどういうのか頭で浮かべ、出せる魔物を一体ずつ召喚させるという考えで召喚を始める為に立ち上がる。

 召喚のやり方についてはスキルの説明にあったので杖を翳しながら魔法陣をイメージして召喚呪文を唱えていく。青く光り始めると半信半疑だった自分の脳内に浮かんでいたステータスは紛れもなく本物だという事が立証されるがそれと同時に自分は貧弱なのだと認めるしかなくなったので非常に複雑でな気持ちではあった。

 しかし、それを振り切るように目の前の召喚に集中する。



「我が魔力に答え付き従う事に喜びを感じる魔の者よ

汝、如何なる時も我の為に尽くし我の手足となる事を受けよ――召喚っ!」




 自分の頭に召喚出来る魔物のイメージ映像みたいなのが送られてくるのが分かる。

 魔物の配下、それを得られる事を最初こそは喜んでいた彼だが送られてくるイメージ映像がはっきりしてくると徐々にその表情は笑顔ではなく、何とも言えない顔……所謂アホ面になってしまっていた。



…………………



 煙が晴れて魔法陣から現れたのは透明な色をしながら粒羅な瞳を浮かべているスライムと、小汚ない衣類を身に付けて目をパチパチと開いてこっちをじっと見つめているコボルトだった。どちらも周りを見渡しては状況を確認するかのように世話しなく動いていて、唖然としている賢を再び見るようにしてはゆっくりと近付いてくる。



「あるじさまー、あるじさまー」

「ご主人、今日からコボルト、ご主人の」

「俺の異世界物語終わったああああぁぁぁ!」



 今日、一番の叫びが草原で虚しく響いていたが強風によってその魂の叫びすらも掻き消されてしまうのだった。



「いきなり、どうした」

「あるじさま、へんー! へんー!」



 突然の大声に驚いたようで少し震えながら怯えるようにじっと見ているコボルトと楽しげに転げ回っているスライム。

自分達が何か気に障るような事をしてしまったのかと不安にさせてしまったようで我に返った賢は少し恥ずかしそうに顔を赤くさせながら正座をした。

 幾ら絶望をした所で状況が変化するわけでもないし見苦しく騒ぐのは大人としてどうかという疑問がある。おまけに彼等は自分を主と思って力になろうとしてくれる魔物達でもあるのだ、蔑ろにしてしまうのはあまりにも自分勝手でしかない。


 咳払いをしつつ目の前で興味津々な様子で見ているスライムとコボルトを見ながら彼等に自己紹介をしよう、と思ったのだが――



(そういや元の世界の名前とか使うべきなのか?

いや、でも夢じゃないなら不自然じゃないやつ後々決めておかないとなぁ)

「どーしたのぉー?」

「いや、取り敢えずお前等自己紹介してくれねぇか?」

「すらいむは、すらいむー! あるじさまがつくってくれたすらいむー!」

「コボルト、ご主人の命、絶対守る、弱いけど、頑張る」



 やる気は満々な彼等を見てついさっきまで雑魚しか召喚出来ない、と絶望していた数分前の自分を殴り飛ばしたくなった。弱くても彼等だって頑張ろうとしているのだと思うと胸が痛まずにはいられない。しかし、そんな自分の様子がよく分からないコボルト達からは純粋に心配されてしまった。



「俺はまだ名前はないが、魔族だ

こう見えてまだまだ弱いんだけど宜しくな」

「ご、ご主人頭、下げるな……! コボルト達、ちゃんと守る!」

「まもるー! まもるー!」



 頭を下げただけだと言うのに凄い慌てている。本当に自分の事を想っているのかと思うとこのまま土下座したくなってしまった。

【ステータス】

魔族(名前なし)

レベル1

体力    12

力   (-)200

防   (-)150

魔力    50

魔防    25

速さ    13

運     21


スキル 『魔物召喚』

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