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見栄っ張りの魔族様  作者: ハケチマル
プロローグ
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この世界の日常への終止符

 



 いつもの日常――



 それは彼からすれば何ともない当たり前の事であり決められた動きであり敷かれたレールでもある。

 冒険をする、なんていうのは幼少時代の夢でこそあったが今ではそんな夢は捨てられ現実という社会に向き合っていた。

 毎日毎日やっているのは書類の作成やスケジュールにある仕事を終わらせる事。コミュニケーションなんて毎回緊張してしまい怒られないように自分の能力を必死に引き出していくしかない。


 取引先へのご機嫌取りなんて地獄でしかないしやりたくない仕事をやらなければいけない息苦しさに気持ち悪さは相当な物と言える。それでも社会で生きていく為には仕方ないのだと妥協し自分を納得させるしかなかった。生きていく為には例え嫌でもクビにされない為に食らい付くしかないのだと。



「お疲れ川村君」

「はい、お先失礼します!」



 部長へ挨拶をしつついつものように混雑している電車に乗り、閉店する前のスーパーに寄って行く。明日が休日の時はスーパーに寄って食材を買いだめしておき一週間買い物する時間を減らしておくのだ。

 これは彼、川村(かわむら) (まさる)の決めている事で休日をのんびりする為には欠かさない事だった。


 一週間分の食材を買い込みレジでの会計を済ませれば自分が暮らしているアパートにやっと帰ってくる。勿論直ぐに休む事はなく帰ったら先ずは買ってきた食材の肉類や魚類を冷凍する為に水で洗う、慣れた手付きで次々拭き取ってサランラップで包んだそれを保存袋に入れていく。それから冷蔵庫に食材を入れていくと同時に賞味期限大丈夫な先週の残り物を料理に使って飯を済ませる、という流れが当たり前となっていた。



「おっ、今日の味付けはまぁまぁマシかな」



 一人暮らしをしてから大分上達しており、最初の頃は焦げたりする事も多く大変だった。自分しかいない空間は意識すると少し寂しさが込み上げてくる。最近は実家の方からもたまに連絡が来る程度、携帯には友人と呼べる人間やネットで知り合った人の連絡先があるが今日は誰かと話したい気分にはなれずスマートフォンを充電器に差し込む。


 彼女、なんて言うのは当然いないしそこまで積極的に求める事もなかった。今を生きるのだけで精一杯、他の事に構うよりも老後に備えて貯金を貯めていくという夢も花もない生活だ。

 それでもいいと思うのは自分の限界を心から理解しているからかもしれない。


 食後に牛乳を飲みつつパソコンを起動してネットサーフィンをしていく。それが彼にとって唯一気楽になれる趣味なのだ。面白い話の一つや二つはないものか、とパソコンをスクロールして目に止まったのは誰かが趣味で書いているであろう小説のタイトルが目に入る。



【異世界物語】



 昔は賢も中学の頃に異世界小説にハマってしまい、自分も書いてしまうなんて事をしていた事がある。今にして思えばあまりにも中二病過ぎて思い出すのも恥ずかしいが、それでもその時は夢があり面白いからと気持ちを弾ませていた。



「……はぁ、いつからこうなっちまったんだかなー」



 夢があった。


 未来を楽しむように毎日生きていた。


 何もかもが眩しくて楽しかった。


 だが、今ではそんな輝かしい少年時代は年が上がっていくと同時に社会という掃除機に吸い上げられ、いつしか脱け殻となってただ生きていくのが普通であり、日常になっていた。


 生きる為に動き、生きる為に働き、生きる為に食べて、生きる為に寝る。


 組み込まれた機械の一部かのように決められた動きでそれを繰り返す毎日に、何を楽しみに生きていけばいいというのか。


 急にしんみりとしてしまいテレビもパソコンも消してとっとと寝る事にする。特にやりたい事があるわけではなく、目標もないからこうして流されるままに日常を送っている。当然変化を求める時もあったが、何の変化を求めるのかと聞かれたら首を傾げるしかない。


 ただ生きるだけの生活に幸せはない、頭では分かっていても行動出来ない。自分にはその行動をする勇気もないし希望を見出だせない、人生を流れるプールのようにゆらゆらと漂っていた。



「異世界物語、か……俺も異世界飛んでそこで生活してみたいなぁ……」



 勇者とまでは言わない、魔王だっていいし魔族でも商売人でも村人でもいい。もし、本当に異世界なんてあれば此処よりもずっと危険な分生きる目的を見つけられそうな気がした。

 そんな理由で行けるような場所なわけがないし夢物語なのだから誰かに話したら笑われるオチだろう。


 それでも、願うくらいはしてもいいだろう


 夢くらいでもいいから、異世界へ行きたいと――



 仕事の疲れからか賢はうとうとと瞼が重くなり、その目を閉ざしてゆっくり寝息を立てて意識を落としていく。彼が眠ったその夜、都会であまり見えない点々とした星々の一つがキラッと一際輝き流れ星となって消えた。

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