第71話
やっぱりシックスパックのために鍛えるなら腹筋だろうか、と考えながらバトル漫画の主人公のように凛々しい表情でイヴのもとに向かう。
しばらく歩くとそこには100人ほどの集団が立っていた。
その種族はバラバラで人族や獣人、悪魔に妖精エトセトラエトセトラ。
きっとここにいる全員が歴史上の猛者たちなのだろう、まさにドリームチームだ。
『サーチ』を発動しているからわかるがこの集団の後ろにイヴが立っている。
『ストーンハリケーン』が止み、暫しの静寂が訪れる。
そしてその静寂を破ったのはイヴだった。
「総員、ケイト・パルティナを捕らえなさい!」
イヴの掛け声に応えるかのように半分くらいが武器を抜き俺に向かって来る、そして残りはその場で魔法を発動する。
お互いの距離は500M程、武器を持った相手より先に魔法が俺に降り注ぐ、全員が無詠唱とか半端ないな。
「『マジック・アウト』」
だが炎や風は形を保てなくなり、水や岩は自然落下し武器を持つ相手に降り注ぐ、四大属性の魔法では俺にかすり傷一つつけられない。
武器を持つ相手が近づいたからか意味がないことに気がついたからか魔法は飛んで来なくなった。
相手との距離はすでに50M程。
さあ来い、魔法使いに接近戦を挑むのはセオリーだが、俺を相手にするならそれは悪手だ。
相手との距離が10Mになったとたん、彼らは爆発した。
彼らは『神書』によって作り出されたレプリカだから殺されても光の粒子になるが、もしこれを生身の相手に使用したら鮮血に染められた真紅の華が咲き誇っていたことだろう。
「な!」
声を出したのはイヴのみで他の連中は弾けた仲間を見ていなかったかのように未だに俺にに突進する。
今度は俺自ら敵に突っ込み敵を爆ぜさせる。
5秒と掛からずに接近していた連中を屠ると、今度は魔法使いの方に『テレポート』する。
こちらもまた即座に光の粒子に変わる。
「な、なんですかそれは…?」
イヴは青い顔で問いかけてくる。
まあ自分の生み出した精鋭を1分と掛からずに全滅させられたのだからこうもなるか。
「いいだろう冥土の土産に教えてやる、さっき使ったのは『絶対領域』、約半径10M以内にいる相手の体内で爆発を起こす俺の『神爆』の力」
「『神爆』?」
もちろん嘘だけどな、そんな観客のいるところで自分の手札をホイホイ見せるほど俺は優しくないからな。
俺は地面に落ちている石を拾い上げ振りをして土属性でちょっと細工をした石を作り、上に投げる。
パァンと心地いい音と共にそれは砕け散る。
それを合図に俺はイヴのもとに『テレポート』する、がイヴも接近されたらまずいと理解して転移する。
「『羽ばたく聖磑』!」
『神書』が光輝くとイヴは某ランドセルのような純白の羽の生えた鎧を身に付けていた。
イヴが屈伸運動をするようにジャンプするとそのまま上空に上がっていく。
戦闘において上と下なら上の方が有利に決まっている。
「『聖槍ロンギヌス』!」
聖槍ロンギヌス、見た目こそ質素ではあるが、その強さはまさに矛盾の矛のように万物を貫く最強の槍。
それをイヴは力一杯投げる。
最強の槍とは言え投げているのは素人の少女、ロンギヌスには追尾機能は付いていないようだし普通に避ければいい、しかし、
「『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』『ロンギヌス』……!!」
雨が降ろうが槍が降ろうが、これはどんな困難があってもやりとげるという強い決意の例え、そうあくまで例えだ、現実に起きていいことではない。
しかし今、それが世界最強の槍で行われている。
ついさっきまで俺は少し落胆していた、何故ならイヴの出したドリームチームは1分と掛からずに全滅し、イヴ本人も青い顔で俺を恐れていた。
ああ、せっかく期待したのに今回もダメか、そんな風に諦めかけていた矢先、非現実的な理不尽が俺に降りかかってきた。
アダマンタイトすら貫く最強の槍が雨霰と俺に襲いかかる。
相手は伝説の武器、もしかしたらオリジンヴァンパイアである俺を死に至らしめることもできるかもしれない。
時間が何倍にも引き延ばされ槍はゆっくりと降りてくる。
これは2年前の死んだときの感覚に似ている。
あのときは為すすべもなくミヤビの『手槍』に貫かれたが今は違う、
降りしきる槍の軌道を予測し、槍の側面に『ホーミングバレット』をぶつけ軌道を無理矢理変更、これによりイヴと俺の直線上にロンギヌスがなくなる。
地面を蹴って飛び上がる、そして勢いがなくなれば空中に『シールド』を張りそれを踏み台にしてさらに跳躍、しかしイヴは俺を近づけさせない。
「『ウォーターウォール』」
『ウォーターウォール』は水属性の早い段階から使える魔法だがそれの有用性は水属性の中でも屈指の物だ。
高いところから水面に落ちるとコンクリート並の硬さになるということは誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。
そんな衝撃に強い水に魔法というファンタジーな力が加わればそれはコンクリートのようなちゃっちな物とは比べ物にならないほどの硬度を有することになる。
だが四大属性である以上俺の前では意味をなさない。
「『マジック・アウト』」
『水の壁』は『滝』となって俺に降り注ぐ。
悪手だったなと思ったがこれが最悪の悪手だった。
俺は円錐形の『シールド』を前に張り水を突破しようと呼吸を止め水に突っ込む、そのとき、
「『落雷』」
俺の全身に電流が走る。
俺は忘れていた、『神書』で具現化できるのは魔法ではなく存在であることを。
水属性の魔法には『ライトニング』などの雷魔法はあるがそれらを発動するには膨大な時間がかかる。それは例え『神書』でも例外ではない。
しかし自然現象ならどうだ、
『神書』は記されている全ての存在を具現化することができる、これは魔法なら魔法を発動するプロセスまで具現化するが、自然現象ならばそのプロセスを無視して現象を即座に具現化することができる。
地面に強く背中を打ち付ける、全身の火傷と背中の打撲は即座に回復したが、体が痺れてすぐに動くことができない。
そんな動けない俺に聖槍ロンギヌスは容赦なく突き刺さる。
腕に刺さり足を断ち切り腹を破る。
右目に刺さり肩を抉り肺に穴を開ける。
痛みで絶叫しなかったのは『不動の精神』のお陰か、それとも日頃のエミリーからを虐待のお陰か。
「ふふふ、驚かされましたよ、あなたが倒した人たちはどなたも一騎当千の強者たち、それを一瞬で倒すだなんて神級の称号はやはり別格」
イヴが空から降りてきた。
「なかなかスリルがあってよかったですよ、またあなたを監禁してからも時々やってみたいくらいです」
イヴは俺の前に立ちロンギヌスを振りかぶりながらとびっきりかわいい笑顔で言う。
「いくらオリジンヴァンパイアといえど心臓を潰せば再生にはある程度時間がかかります、その間にもっと安全なところに行って誰にも邪魔をされずあなたの物語をこの本に書き記しましょう!」
イヴの手からロンギヌスが放たれ俺の心臓に吸い込まれていく。
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