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第66話

 微笑みを浮かべるイヴの声が後ろからした。

 常日頃から魔物の蔓延る森を闊歩していた俺の後ろをこうもあっさりと取られるとは、実はけっこう強いのかな。


「はい、ゴーレムに関する本を読み終えたので別の本を探そうと思ったのですが、何か面白い本はありますか?」


「そうですね、少々お待ちを」


 そしてまた例の分厚い本を取り出す。

 本を開きその中を見たイヴは目をぎょっと見開く。

 すると今度はペラペラではなくバーー!の効果音の似合う速さでページをめくっていく。

 最後のページまでめくり終わると、それまでとは違った微笑みに変わった。


「ふっ、ふふふっ、そうですか、あなたも神の名を冠する者でしたか」


 突然のイヴの発言に、俺は咄嗟に『覇王』でイヴのことを威圧し、箒を取りだし何時でも魔法を発動できる状態をとった。

 そして『神眼』の『鑑定眼』を発動したがやはり何も視ることはできなかった。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、私とあなたが争っても意味がないのですから」


「そんなことはわかっているが突然こちらの切り札を暴かれたんだ、これくらいは当然だろ『神書の持ち主』さん」


「ふふ、ご慧眼」


 慧眼でもなんでもない、ただ神級の称号を見抜くには同じく神級の称号が必要だ、そして彼女はあの本を見て俺が神級の称号を持っていることを知ったことからあの本が神級の物であることはわかる。まあ『神本』ではなく『神書』にしたのは響きがいいからと言うだけだったのだがあっててよかった。

 彼女の言った通り争う意味なんてないがこのままはいさようならとはならないだろう。


「それではついてきてください、本当ならあなたの趣味や今までに読んだことのある本を参考にして選びたかったのですがそういう訳にもいきませんし、とりあえず私のオススメの本を紹介しますね」


「へ?」


「面白い本を探しているのでしょう?」


「いや、確かにそうだけど」


 まあ俺の場合は神級の称号を持っていることを知られただけでそれがどんな物なのかは知られていない。だったらむこうが気にしてないならこのままスルーした方がいいだろう。


 それからイヴが向かったのは本棚ではなく関係者以外立ち入り禁止の紙の貼られた部屋だ。

 イヴはポケットから鍵を取りだし扉を開け、中に入っていった。

 その後に続いて部屋に入ると、中にはテーブルとベットに冷蔵庫もどき、それと壁に隙間なく本棚が置かれ本もまた隙間なく置かれている。


「委員長、ここは?」


「私の部屋ですが」


 私の部屋って、図書館に自分の部屋を作るってどんだけ本好きなんだよ。


「椅子に座って待っていてください、今お茶と本をお出ししますから」


 そんなお茶とお菓子みたいなノリで本を出さないでください。

 そういえば俺が女の子の部屋に入るのって初めてだよな、エミリーとは同じ部屋だったし。


「どうぞ」


 出されたのはアイスティーと三冊の本、それぞれ『アキト英雄譚』『雪原の青』『夏風に揺れる一輪の花』

『雪原の青』ってまさか……。


「私が読んだ中で特に面白かったのはこの三冊です。『アキト英雄譚』は有名なので読んだことがあるかもしれませんが、他の二冊はマイナーですので恐らく読んだことはないでしょう?」


「は、はい」


 オレ、シラナイ。『セツゲンノアオ』ワカンナイ。


「それは良かった、この三冊はお貸ししますのでどうぞ読んでみてください」


 俺はすすめられるがままに『夏風に揺れる一輪の花』を読み始めた。

 するとこれが面白く夢中で最後まで一気に読み終えてしまった。

 ページ数はだいたい4、500ページくらいでかなり長かったため相当な時間が経過しているだろう。


「この本とても面白かったです、それじゃあもういい時間ですのでお(いとま)させていただきますね」

 

 向かいで『神書』に何か書き込んでいるイヴに声をかける。


「う、もう少しくらいいいのではないですか?そうだ、お食事を食べていってはどうでしょう、私こう見えても料理は得意なのですよ」


 夕飯は食堂に行けばタダで食べれるのに何故自炊するんだ?

 まあせっかくの好意を蹴るのは角が立つしな、


「それなら是非ごちそうになります」


 俺がそう答えるとイヴはテキパキと行動しだした。

 程なくして料理が出てきた。

 メニューはバターロールのような形をした固めのパンとシチューとサラダだ。どこかで見覚えのある献立だがとりあえず気にしないことにしておこう。


「いただきます」


 シチューを一口、うん、悪くないけどそれほど美味しくもない、これは昼に食べたのと同じだな。

 だが好意で出してもらったものにけちをつけられるほど俺の神経は図太くない。


「委員長は食べないんですか?」


「ええ、私はそういう種族なので」


 ふーん、食事を摂らなくても生きていける種族か、いや俺も食事をしなくても死ぬことはないけど空腹は苦になるから別の方法で栄養を摂っているのだろう。


「あれ?」


 突然視界が揺れる。

 手足が痺れ手からスプーンが落ちた。

 俺は咄嗟に状態異常回復魔法『キュア』の上位の『ハイキュア』を使おうとしたが、


(魔法が発動しない!?)


「ふふ、流石は伝説のオリジンヴァンパイア、常人ならそのまま昏倒してもおかしくない毒なのに意識がこんなにもはっきりしているなんて」


「な…ぜだ」


 口の周りの筋肉も麻痺して上手くしゃべることができない。

 くそ、さっきから逃げようと『テレポート』を発動しようとしているのにできない、どうなっているんだ。


「何故か、それはあなたが神級の称号を持っているから、あ勘違いしないでくださいね、別に私はあなたを消そうとかそんな物騒な考えはしてないから」


 食事に毒を盛るのもだいぶ物騒な考えだと思うがな。


「あなたはあの『剣鬼』シリウスの子供として生まれたのにも関わらず何かを期にオリジンヴァンパイアに変わってしまった、それに『大賢者』リンの弟子にして『魔王』の称号を持ったエミリーさんの婚約者、あなたの歩んできた人生はどんな物語よりも奇妙でスリリングなはず、ただそんな素晴らしい物語も私のこの『神書』には記されていない、あなたのページを開いてもあるのはただの白紙の紙だけ、だったら私が新しく書き記せばいい!そのためにあなたをこの部屋に監禁してあなたのすべてをこの本に書き記させてもらいます」


 そう言うとイヴは椅子に座る俺を抱き上げベッドに寝かせる、そして両手をベッド縛り付けエプロンのポケットから首輪を取り出す。


「ふふ、この部屋には特殊な結界が張ってあってあなたは魔法が使えない、けどステータスはそのままなのでこの首輪を着けさせてもらいますね」


 首輪を着けられた途端全身から力が抜ける、この脱力感は魔力を大量に消費したときのそれに似ている。

 そしてそのまま意識がジョジョに遠退き視界が霞み始めた。


「ふふふ、これであなたは私のもの、あなたと言う最高の物語で私を楽しませてくださいね」


 イヴのとびっきりかわいい笑顔を最後に俺の意識は途切れた。


読んでいただきありがとうございました。

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